-only you-
頑張ってみてください。
俺も理解できてません。
Little collapse
暖かい日差しが瞼越しに照らされ、眩しさを感じながら目を覚ます。
まだ頭がぼーっとするな。
軽く伸びをし、体を動かす。
ほかの仲間たちはまだ寝ているのだろうか?
ノアはいつも早起きだから、もうすでに起きているかもしれないが、メフィあたりはまだグースカ寝てそうだな。
俺もまだ寝ていたいが、朝食ができていないとドラスのやつ、すぐに怒るからな。
ほかのやつを起こして、朝食を作りはじめるか。
そう思いつつ体を起こしたが、
「ああ...そうだった。」
と、ため息とともに、つぶやきが漏れてしまった。
周りに広がるのはつい最近までの生活とは全く異なる景色。
毎朝感じていた、草原の香りや、獣の鳴き声、様々な人々の楽しげな話し声。
そんなものはもうなくて。
ただひたすらに感じるのは、心の空洞、虚無感。
仲間を失った、心の痛み。
それだけだが。
それでも。
まだ仲間を助けられる可能性があるから。
そんな負の感情は心の隅に寄せておいて。
動かしたくない体を無理やり奮い立たせ、動き始める。
第 章
結局、昨日はあてもなくひたすら彷徨い、無駄に魔力を消費してしまった。
自責の念に駆られ、ただただ空間制御を発動しまくって、魂の反応を探した。
が。
結果としては、魂の反応どころか、残滓さえ見つけられなかった。
途方にくれてしまい、イブさんを頼りたいと思ったが、あの会話の後からは一切話すことができなかった。
一時的に干渉しているだの何だのと言っていたから、そんなに何回も話すことが出来ないのだろう。
しょうがないので、今度は頭を使って探索を進めることにした。
...最初からそっちの方が良かったのかも知れないが。
ちなみに、俺は一晩を町外れの廃墟で過ごした。
65年前の知識ではあるが、こんな見た目幼女が夜中に出歩いていたら通報されかねないしな。
と言うわけで、寝床を探していた俺はここを見つけ、とりあえずは雨風から避難していた。
初めは翌日のことについて考えていた。
そのあとで雨が止んだらもっといい場所を探そうかと思っていたのだけれども。
大量の魔力を消費してしまったためか、疲れがどっと体に来てしまい、そのまま寝てしまった。
廃墟自体が奥まったところにあるのと、奥の部屋で寝ていたことから、通行人に見られるようなことがなかったのは幸いだった。
今後もここを拠点とした方が活動しやすいかもしれないが、全国を探す可能性が出てくるとなると、そうも言ってはいられない。
だとすると、一つの場所を拠点とするのは悪手か...。
寝起き直後の曖昧な思考をフル回転させて、いろいろ考える。
そうして物思いにふけっていた時。
「ぐぅ」
と、お腹がなった。
誰かが聞いているわけではないのに少し恥ずかしくなってしまった。
考えてみれば、昨日は何も食べていない。
その上たくさん歩き回り、魔力消費量がダントツで激しいクラス5の魔法を多用したのだ。
昨日は感情的になり過ぎていて全然空腹に気がつかなかった。
何か食べないと死にそうだ...。
とりあえず、今日はまずは食料の確保からだな。
別に無人島にいるわけではないから、そこら辺のスーパーやらで買えば済む話なのだろうけど...。
「物質生成に登録していたものが全てリセットされているから、服どころかお金さえも作れないんだよな...。」
以前の世界で魔法に登録しておいたものはすべて転生の時にリセットされていた。
空間制御の位置情報や、物質生成の鎧や服。
それら全てがリセットされ、初期状態となってしまっていた。
というわけで、今の俺はいわゆる一文無しだ。
店での買い物なんてできるわけがない。
あちらの世界では、働けばすぐに働いた分だけの飯がもらえた。
その上、面接や履歴書、戸籍なんてものがいらないから、転生したその日でも飯と住処にありつけた。
だが、こちらの世界はそんな生温いものではない。
保険証や免許証、ましては戸籍さえないような幼女を雇ってくれるところがあるとは到底思えない。
...まぁノアは実年齢30歳だけど。人間換算したら10歳ではあるが。
結局のところ、このまま街に出るのは悪手。
今後一切まともなところでは働けないのは確定として、最優先で考えなければならないのはお金だ。
それがなくては最低限の生活もできない。
物質生成に一度登録すれば魔力が続く限り無限に生成できるから、とりあえずはお金の登録が最優先だな。
ただお金ねぇ...。
落ちているものを拾うのも良いのだろうが、そんなにホイホイ落ちてはいないだろうし。
しかも10円玉や50円玉ごときだったら登録してもあまり意味はないし。
どうせなら魔力コストが低そうな紙幣あたりがいいんだけど...そっちの方が尚更落ちてなんかいないだろうな。
そもそも、この世界にまだお金ってあるのかな?
俺がいた時は電子マネーとかが普及し始めてたし、この時代になるとお金は全て電子化されてしまっていても不思議ではない。
そうなると詰んでしまうのだが。
まぁ何にせよ、まずはお金の存在を確かめなければいけない。
コンビニなら少し探せば見つかるだろうから、そこでお金がどんなものになっているのか確かめよう。
最悪、時間停止で時間を止めている間に登録するのもありだけど。
昨日使ってしまったから、クールタイムが明日のお昼くらいまでなんだよなぁ...。
ま、やりようはいくらでもあるから、とりあえずはコンビニに向かうか。
長時間座っていてお尻についてしまった砂を払い落とし、昨日入った壁の割れ目から外に出る。
65年経ってしまったとはいえ、住宅街の景色はそんなに変わっていなかった。
ただ、電柱がなくなっていたり、信号機がホログラムだったり、看板が空中に浮いていたりと、やはり昔との相違を感じる風景が至るところにあった。
そんなこんなで景色を見ながら進んでいると、自動販売機を見つけた。
これまたディスプレイがついていたり、何かのスキャンに使うであろうカメラが付いていたりと、やはり未来を感じるな。
よく見ると自動販売機にはコイン投入口がついていた。
この世界でも貨幣がまだある可能性が高くなってきたな。
空間制御でさっさと移動するのもいいが、こんな感じで風景や物を見ながら移動するのも収穫があっていいな。
そしてそのあともコンビニを探して歩き続けていた時。
ふと入った路地の横に、薄暗い、少し大きめの林を見つけた。
さっきまでの住宅街とは違って、全く電子感がない、古ぼけた鳥居が奥に見える。
時間がないわけではないので、興味本位で神社へと続く道を進む。
少し暑いくらいの日差しが遮られ、涼しい風が足元を通り過ぎる。
石畳を進み、40段くらいの階段を登りきると、小さな神社が見えて来た。
鳥居のすぐ横には狐の像が二体、ちょこんと柱の上に座っている。
長らく人が来ていないようで、雑草がそこら中に生えている。
少し疲れたので、神社の横にある椅子に座って一休み。
何だか、心地がいいな。
あちらの世界での草の香りも心地よかったが、これはこれで、また別の心地よさがある。
都会生まれ都会育ちの俺は、神社には全く興味がなかったため、こういった場所に訪れたことがほとんどなかった。
だけど何でだろうか。
何だか、何度も来たことがあるような感じがするな。
おばあちゃん家とか思い出すなぁ。
「お。お賽銭箱あるじゃん。」
鬱蒼と木が生茂る周りの景色を見渡していると、神社のすぐ目の前にお賽銭箱を見つけた。
期待をかけつつお賽銭箱を覗きに行く。
ビンゴ。
思った通り、塗装が剥げ落ち、鉄の部分が錆落ちたいかにも古そうな御賽銭箱の中に、数枚の紙幣と硬貨を見つけた。
紙幣は全て1000円札だが、これはラッキーだ。
これで目下の課題であるお金の登録は完了したな。
あとは普通に買い物するだけだ。
とゆうか今の紙幣ってこんな感じのデザインなんだな。
「俺はこの世界で生きて行かなきゃいけないんで、神様お許しくださいねっと。...まあ神様なんているのか知らんが。」
と、変な独り言を喋りつつ、木の枝で紙幣を取り出そうと突っつく。
お賽銭箱は大抵、盗まれないように構造が複雑になっていることが多い。
そのため紙幣がなかなか取れず、苦戦してしまっていた。
集中していたため、俺は接近してくる存在の気配に気づかなかった。
やっと紙幣を取り出すことができたと思ったら。
「...盗人め。それはわしのものじゃ。戯言を申す前に、死すがよい。」
と、背後から声をかけられ、
「クラス5魔法...次元断裂結界生成。」
特殊な空間に閉じ込められてしまった。
『警告:上位結界の発動を確認。クラス5魔法:空間制御の発動を妨害されました。今後の発動は困難です。』
と、頭の中で『魔法の理』の警告が響く。
しまった。
こちらの世界には魔法を使えるやつがいないと思って慢心し切ってしまっていた。
イブさんが、完全にはいないと言い切れないと言っていたのを忘れていた...。
前の世界にいた俺なら、魔力の発生を感知して事前に妨害できたはずだが...っ!
過ぎてしまったことを嘆いてもしょうがない。
バックステップで距離を取りつつ、空間制御で索敵をする。
姿は見えないが、魔力の流れである程度の位置を把握。
「クラス5魔法物質生成!」
魔法を発動しつつ、剣を呼び出そうとする。
が、いくら待っても生成が始まる気配はない。
...しまった、登録が解除されてしまっているのを忘れていた。
そして俺は、数秒だけ動きを止めてしまった。
(マズい!!このままだと攻撃をモロに喰らっちまう!!)
この世界にいて、魔法を行使してくる以上、相手は相当なやり手だろう。
そんな相手に、これ見よがしに攻撃の隙を作ってしまった。
それすなわち、死。
回避できるとは思えないが、望みをかけて後ろに転がる。
結果として。
攻撃はこなかった。
その代わり、相手が能力を解除し、姿を現した。
青髪で、見た目は30歳くらいの女性で、巫女服を着ていた。
そして。
狐耳が、ついていた。
獣人族...なのか?
「...。」
その女性は何も言わずに、じっと俺のことを見つめている。
...何だ?何かを待っているのか?というか何故わざわざ姿を表したんだ?
先ほどのタイミングは俺に攻撃を加える絶好のチャンスだったのにも限らず、相手は全く攻撃をしてこなかった。
そんな相手の思考を読み取ろうとするが...できるわけがない。
そもそも、相手が何者なのかもわからないのだ。
情報量が圧倒的に少ない中で、相手の思考を読み取れるわけがなかった。
「...。」
「...。」
両者とも、見つめあったまま、時間がすぎる。
正直、気まずい。
目をそらしたいが、そらした瞬間に仕掛けてくるかもしれない。
魔力の流れがないから、魔法の発動を狙っているわけではなさそうだが...。
やはり気まずい。
そろそろ何かアクションを起こして欲しい。
そして睨み合いが5分くらい経った時、突如目の前の女性がやっと口を開いた。
「お主...先、クラス5魔法と叫んだかの?わしの聞き間違えではないと思うのじゃが...。もしやお主、転生者か何かか?」
と、喋りかけて来た。
先ほど俺が発動させようと叫んだ詠唱についての質問のようだ。
なるほど、この世界で魔法を使える存在は希少だから、様子を伺いつつ、探りを入れようということだな。
もしかしたら敵意があるわけではないのかもしれないな。
ここは素直に話したほうがよさそうだな。
一応警戒をしつつ、空間制御による魔力の流れの把握も同時並行で行う。
「ああ。俺は転生してきたものだ。あちらの世界で死んで、こちらの世界へと転生してきた。あなたの考えている通り、『魔法の理』の存在を知っているよ。」
とりあえず、相手に流しても支障がない情報を喋りつつ、相手の出方を伺う。
女性は何か考えているらしく、黙ったままだ。
何回か俺の方を見て、また考え込む。
「そうか...『魔法の理』を知るものか...。じゃが一つだけ質問させて欲しい。そなた...魂の色が体と違うのは、何故じゃ?その体の主を殺して、乗っ取ったりでもしたのかのう?」
「魂の色...だと?」
どうやってなのかは知らないが、相手は俺の魂がノアの体に入っているという現状を察したらしい。
まずいな。
もし相手が高位の情報搾取系の魔法を持っているのなら危ないかもしれない。
この間にも俺が一方的に情報を搾取されてしまっているのかもしれない。
ここは空間制御で逃げるのが吉か。
いや、今は空間を断裂されてしまっているから、いくらクラス5の空間制御でもこの空間から逃げ出すのは厳しい。
だとしたら...相手を倒してからさっさと離脱するほうが賢明か。
一瞬で頭を整理し、行動を始めようと動く。
しかし女性は、穏やかな雰囲気になって、突然空間断裂結界生成を解除した。
「すまぬの。わしはお主に敵意はない。とりあえず魔法は解除した故、お主も落ち着いて、話をさせてくれんかの?」
そう言って、先ほどまで俺が座っていたベンチに腰をかける。
何もない空間から急須を取り出し、お茶を入れ始めた。しっかり二人分。
急に態度が変わって混乱するが、とりあえず俺も警戒を緩め、ベンチに座る。
ただある程度の警戒は怠らないようにする。
「わかった。ただその前に一つだけ。魂の色とやらで俺の魂と体の持ち主が違うということを察したようだが...どういうことなんだ?高位の魔法か何かなのか?」
そう質問しながら、女性が座ったベンチの反対側に腰を下ろす。
女性がお茶を進めてきたので、遠慮なく飲ませてもらう。
毒やらその類はノアの体はもともと抵抗があるので気にしない。
まあ心配するまでもなくそんなことはなかったが。
両者ともお茶を飲み、一息ついたところで口を開く。
「そなたの質問じゃが...。わしが見ている魂の色というのは、魔法の類ではなく、種族特有の能力故のものじゃ。じゃから、そんなに警戒せんでもお主の情報を全て見ている、ということはないから安心せい。」
「種族特有...あなたは獣人族じゃないのか?てっきりその耳があるから獣人族だと思っていたんだが。」
「獣人族ではないが、限りなく近いの。わしの種族は...獣神族じゃ。お主、聞いたことないじゃろ?」
少しにやけ気味にそう質問された。
大人な感じがするが、どこかあどけなさが残っているな。
「あ、ああ...獣神族なんて聞いたことないな。ただ、六神柱種族という伝説は聞いたことがある。もしかしてそのうちの一つだったりするのか?」
六神柱種族については昔、王都で生活していた時に魔法図書館で読んだことがあった。
六神柱種族は太古の時代、この世界が創造された時に、大地の平定を図るために創り出されたとされる種族で、のちにそれが分岐し、今の種族形態になったとされる始まりの六種族だ。
しかし俺が書物を見た当時も謎が多く残されており、竜神族だけが分岐しないまま定着していること。
そして竜神族以外に、爬神族、人神族がいたことだけがわかっていた。
だがそれ以外にはどんな種族がいたのかは分かっておらず、そもそも六種族もいるのかさえ疑問視されていた。
まあ現存する六神柱種族は竜神族以外にいないから、昔の文献とかから推測しなくてはいけないので、その情報量の少なさも頷けるが。
つまり俺は、その貴重な六神柱種族の一人を対面させていただいてるということかな?
「ほう。よく知っておるの。お主の推測通り、わしの種族は六神柱種族のうちの一柱じゃ。」
「で、獣人族に近いって言ったのは、獣人族自体があんたの種族から派生したから、っていうことか。」
「その通りじゃが、わしのことをあんた呼ばわりするでない。わしにはしっかりとウメという名前がある。呼ぶ時はそう呼ぶが良い。」
「へいへい。」
「なんじゃそのやる気のない返事は。わしはお主よりも20000年近く生きておるのじゃぞ。敬わんか。」
「考え事してるんで。」
「そういえば、お主の名を聞いておらんかったな。ほれ、教えんか。」
「アリガ トウだ。」
「陳腐な名前じゃのう、お主。」
適当にウメの話に返事しつつ、考えを整理していく。
今ウメから聞いた話を順序よく組み立てていき、一つの塊にする。
「ちなみになんであんた...ウメはこの世界にいるんだ?『魔法の理』を知っているということは、俺が前にいた世界で活動したことがあるって言うことだよな?でも、こちらの世界に転生してきたのは俺が初めてらしいしんだが。」
あんたと言った瞬間睨まれた。怖え。
「それに関しては少しばかり話が複雑なんじゃが...それよりお主、何故自分が最初の転生者だとわかるのじゃ?」
こいつ、質問を質問で返してきやがった。
反論したいが、さっきの睨みが怖かったのでここは素直にウメの質問に答える。
「ああ、それに関してはだな...」
前の世界で死ぬ直前に起きた出来事。そして『魔法の理』の一部が俺に力を貸してくれて、この世界に転生してきたこと。
それら全てを手短に話す。
本当に要点だけを話しただけなのだが、さすが20000年生きてきただけあって、理解が早かった。
全て話すまでもなく、現象についての全体像を把握したようだ。
話を聞いたウメは、そのまま物思いにふける。
「『魔法の理』が直接手を下すとは...珍しいのう。こやつに何か特別なものがあるとは思えんが...。『魔法の理』が自ら動くなぞ、あの時以来じゃろうか。」
なんかボソボソ喋ってるな。
まぁ何か考えているんだろうけど。
聞き取れないから、特に気にせずお茶を飲む。
このお茶うめぇな。
どこかで売ってるのかな?
「なにを人ごとのように茶を飲んでおるのじゃ。...まあ良い。わしもこの世界全ての事象を把握してるわけではないからの。話を戻すとするかのう。...して、お主の先ほどの質問についてじゃが、」
長台詞を噛むことなく言い終えたウメはそう言って立ち上がり、伸びをする。
「そもそもこの次元には始め、三つの世界があった。...わしらが今いる世界、そして以前いた世界。最後にわしら神柱種族が生み出された場所、黄泉の国。何千年もの間、これらが相互に干渉しあい、そして今も均衡を保っているというのが現状じゃ。一度だけ、崩れたことがあったがのう。それぞれの世界には特有の現象があり、わしらが前にいた世界は魔法、この世界は科学、そして黄泉の国が神力じゃ。しかも、それぞれの世界で二種族ずつが世界の管理者として創造されたのじゃ。それがお主の知っておる通り、六神柱種族の実態じゃ。昔はそれぞれの世界で管理をしていた二種族は、世界を移動する力を持っておった。それ故、人間共の文献にもほかの世界の六神柱種族が書かれておることがある。身に覚えがあるのではないか?」
と、長々と説明してくれた。
なるほど、もともとはそれぞれに役割のようなものがあったんだな。
まぁそっちの方が明らかに管理するには効率がいいし、何より、種族が互いに干渉しあうおかげで均衡も保たれていたんだろうな。
うなずいて、ウメの質問に肯定しつつ、こちらからも質問を投げかける。
「で、なんでその絶対的強者の六神柱種族様は、いなくなっちゃったんですかね?」
ちょっと嫌味ったらしく言ってやった。
さっき睨まれたお返しだ。
「別にいなくなっておるわけではない。確かに初めはそれぞれの種族に10人ほどいたが、今活動しておるものはわし含めても5人もいないじゃろうな。竜神族に関してはイレギュラーじゃから、カウントはせんぞ。」
また睨まれた。
そのままウメは話を続ける。
「わしらは昔、世界を移動する力を持っておった。これに関してはさっきも言ったが、過去形なのじゃ。」
お茶を飲み、息を整える。
夕陽に照らされているウメの顔が、少し悲しくなった気がした。
「...3000年ほど前、わしら六神柱種族が100年に一度開催する頂点会議で、とある事件が起こった。無論、わしもその場におった。そして、その事件によって何十人もの神柱種族が息絶え、力を失った。最後に力を振り絞り、安全圏まで移動したわしは世界を移動するだけの魔力と力を失い、そのまま帰るすべもなくこの世界にとどまっておる、と言うわけじゃ。」
話を終えたウメはベンチに座り直し、そのまま黙る。
辛い過去を話させてしまったのかもしれない。
再び、沈黙が訪れる。
若干居心地が悪いが、今更だと割り切って、平然とした顔でやり過ごす。
ただ、これだけはとりあえず確認しておきたい。
「つまり...今ウメは世界を移動することはできないんだな?」
少し遠慮がちに聞くと、ウメは静かにうなずいた。
そして俺も考え事をするために黙る。
そのまま時間が過ぎ、陽が沈んであたりが薄暗くになるまで、俺たち二人は黙って座っていた。
陽が完全に沈んだところで、俺はベンチから立ち上がる。
そしてウメの方を向いて、告げる。
「お茶ご馳走様。いろいろ聞かせてくれてありがとうな。役に立つかはわからんけど、俺の目的の手助けになるかもしれないからな。」
「なに、わしも久しぶりに同郷の者に出会えて満足じゃ。こちらからも礼を言わせてもらうぞ。」
と、そこでウメは立ち上がったまま、こちらを向いて問いかけて来た。
「ところで、お主がこの世界で果たしたいと言う目的はなんなのじゃ?一切聞いておらんかったのじゃが。」
あ、そういえば話してなかったな。
まぁ何か情報教えてくれたらラッキーくらいで話してみるか。
「俺の目的は、前の世界で救えなかった仲間を救うことだよ。『魔法の理』が教えてくれたんだけど、どうやら魂が分裂して、この次元のどこかに散らばってしまっているらしいんだ。昨日はとりあえずあてもなく探し回ったけど見つからなかった。反応も感知できなかったよ。魂って、どんな場所にあるか知ってるか?」
冷たい風が足元を通り過ぎる。
少し肌寒い。
「魂...か。そうじゃのう...まず魂というのがどういうものなのか知っておるか?」
「いや。それについてはほとんど解明されていなかったから、何も知らないな。」
特に隠すこともないので素直に話す。
「まずはそこからじゃな。そもそも魂というのは、その者の記憶や身体、ほかには魔法などを刻み込んだ、この世界の記録媒体のようなものじゃ。無論、この世界にもあるぞ。解明されておらんだけじゃが。...まあそれはいいとして、次は魂が体から離れた場合のことじゃ。体から離れてしまった魂は通常、そのまま黄泉の国へと行き、そこで情報単体に分解され、新たな魂の生成の基礎となる。じゃが、これはあくまで常人の場合じゃ。わしやお主、あとその体の持ち主などの、特別魂が強いものは魂が体から離れても、その魂が魔力などによって保護され、単体で生きることができる。ただし魂の状態の記憶は継承できないがの。あくまで生きているだけ、じゃ。そしてその保護された魂じゃが、普通はその者の思い入れが強いものだったり、愛人の体だったりに入り込み、魂と体の合成を待ち続けるのが普通じゃ。お主の探し人のように分裂してしまっている場合は、複数の場所を探さないといけない必要があるのう。まあ、お主の場合、すでに魂の一部を体に持っているようだしの。簡単とはいかないだろうが、不可能ではないじゃろう。困ったことがあったら、わしの元へ来るが良い。いつでも力になるぞ。」
と話してくれた。
そしてもう用はないとばかりに茶道具を片付け始めた。
そんなウメに聞く。
「ノアの体の中に...魂の一部が残っている、だと?何故分かるんだ!?」
「わ、びっくりした。」
突然大声で話しかけられたウメは尻尾と体をびくりとさせた。
「あ、す、すまん...つい感情的になってしまった。質問の答えを教えてくれると嬉しい。」
「ふふ。お主、よほどその者を大切にしておるのじゃな。自分の大切な人はそう簡単には見つかりはせん。行き過ぎた愛情は身を滅しかねないが、その気持ちは大切にするが良いぞ。」
口に手を当てながら笑い、こちらをしっかりと見据え、口を開く。
「先ほどわしは、魂の色が見えると言ったじゃろ?...それは別に男か女かを判別するだけではない。個人個人で違う色をしておるからの。そして今、お主の体には二種類の魂がある。一つは完全体の、お主の魂。もう一つは...お主の探し人かどうかは知らんが、今お主が入っている体の持ち主の魂じゃ。」
あ、ちなみに魂は完全体じゃないと体と合成しても意味ないからの。と、最後に付け加えた。
「ウメの言うことだからある程度は信用するが...俺はこの世界に来た時、初めに空間制御という魔法でノア...この体の持ち主の魂を探したんだが、反応はなかったんだ。もし今も俺の体の中にノアの魂があるならば、反応するはずじゃないのか?」
そう。
はじめに調べたとき、効果範囲内には一切の反応がなかった。
仮に中にあるとしたら、すぐにわかりそうなものなんだが...。
ちなみに今も絶賛発動中。
だが、いくら索敵範囲を広げても、精度を高めても、魂の反応はやはりない。
「お主それ、体の外だけを範囲にしておらぬか?索敵魔法は全て、体の外と内で作動範囲が分けられているのじゃぞ。体の中に魂があるのに、体の外を範囲として索敵したら、反応がないのは当たり前じゃ。」
なんだそれ。
この魔法を取得してから初めてそんなこと知ったぞ。
内側に範囲を指定して索敵するのか...。
「内側に索敵範囲を指定して索敵すると、心理操作系や、魂への直接の呪いなども発見できる。覚えておいて損はないからの。」
と、助言をしてくれた。
「そうか...いろいろありがとうな。また来る。」
そう言って林の入り口へと続く道を戻る。
紙幣を握り締めながら。
「お主、本当に殺すぞ?」
めちゃくちゃ殺気立った声で後ろから声かけられた。
洒落にならん。
「別にいいじゃないか。少しくらい。ケチだな。」
「うるさい。わしだってこの世界で生きるのに精一杯なんじゃ。」
「せめて魔法に紙幣登録だけさせてくれ」
「よかろう」
と、そんな感じで、ゆるーい空気で会話していたとき、石畳の奥の方に一人の男の人が立っているのが見えた。
角度的に、ウメは俺が邪魔で見えないかな?
こちらを向いてゆっくりと歩いてきているし、参拝客だろうか。
「おい、人くるけどお前姿消さなくて大丈夫なのか?」
なんてウメに話しかけた瞬間。
ウメの腕が、肩から弾け飛んだ。
戦慄
こちらでの生活になれてきた頃。
ウメはふと、昔の記憶に馳せる。
3000年前...忘れもしない、あの光景。
生涯の愛を誓った男が目の前で爆ぜた光景。
愛娘があらゆる方向に引っ張られ、血みどろになった光景。
今も鮮明に覚えている。
忘れようとするが、定期的にフラッシュバックする。
そのたびに涙を流し、自責の念に駆られる。
死にたいと思う。
助けてほしいと思う。
でもこの世界に仲間なんていない。
この感情を共有できる者なんていない。
だから。
わたしは一人で乗り越えなければならない。
決して屈しないと心に誓い、一人で生きてきた。
ーその男が、現れるまでは。
ありがとうございました。




