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十章 ネクロマンサーVS散りゆく者

ラスボス戦!

ネクロマンサー・フェイユ 対 夕暮れの太陽王・ルディル

               無常の風、司書・ビ・ウジ

               無常の風、門番・シャ・ファン

 夕暮れの太陽王・ルディルは居城の扉を開き、城門内庭園に姿を現した。

「ルディル様」

「おう、ビ・ウジ。……おまえ、シェラの話信じられるか?」

「小生が、ネクロマンサーの印によって命を落とし、その魂が捕らえられる前に、フツノミタマによって剣狼に転生したと、その話で?」

白い顔に落ちくぼんだ瞳、こけた頬と、相変わらず不健康そうな面立ちの無常の風、司書・ビ・ウジが、困ったような笑みを浮かべた。彼の後ろには、老体ながら、漲る力を発する無常の風、門番・シャ・ファンが、笑っていた。

「こやつの性格を思えば、しっくりくるがのう。狂って自害なんぞ、なんでじゃ!とこちらで再会したとき罵倒したものよ」

「そして、ネクロマンシーを使ったのが、ラジュールの契約者だったフェイユとはねぇ。シェラのヤツ、大層なシナリオを書いたもんだ」

ルディルはややこしすぎて、オレにはわからんと首の後ろを掻いた。

「リティル殿たちを欺き、我らとも繋がり。ルディル様、あなた様が軽率なことをおっしゃるから、奥方は単独で戦う道を選ばれたのです。守り抜いてくださりませ」

ビ・ウジの苦言に、わかってると、ルディルは豪快に笑った。

「ネクロマンサーの印をつけられた者の寿命は、だいたい一年。シェラが聞いてきやがったんだ。隠しててもしょうがねぇわ。しかしなぁ、ティルフィングに、シェラの夢に出てくる場所を教えやがったのは、いったい誰だ?」

「カーテンの奥に棚があり、その棚には、小箱に収められた何かが並んでおる。あまりに断片的じゃ。剣狼は夢を見ぬ。ティルフィングは、何者かに精神にアクセスされたのじゃ」

「ミストルティン殿が、ティルフィング殿と奥方と繋がっておられて、幸いで」

言付けを頼まれた小烏丸に続き、飛び込んできたミストルティンが、煌めきの庭がシェラの夢の場所だと教えてくれた。ノインに後を追わせたシェラは、すぐさまルディルの所へ飛び、こう言った。

――リティルの為に、死んでください

いやいや、ネクロマンサーごときで死なないからな?とルディルは、倒れそうなほど血相を変えたシェラを宥め、彼女と共に無常の風を尋ねた。シェラからすでに、フェイユがネクロマンサーかもしれないことは、伝えられていた。そして彼女はズバリ聞いてきた。

――シャビ、あなたは共犯ですか?

いいえ!小生はリティル殿の味方です!と、驚いたビ・ウジは、いつもより饒舌にリティルにいかに忠誠を誓っているかを、必死にシェラに語った。そんなおまえ、初めて見るわ、と、ルディルは豪快に笑った。


 シェラに詰め寄られ、本当にビ・ウジは驚いた。

錯乱して、自害してしまったが、ビ・ウジ――シャビに未練はなかった。

シャビは剣狼に転生を果たし、しばらくはかつての上司であり、友であり、義父になるはずだったシャ・ファン――ファウジと共に、干将・莫耶という名の対の剣として、フツノミタマに仕えていた。

穏やかだった。争いもなく穏やかだった。仲間の剣狼が、たまにグロウタースの民であるウルフ族の心に同調して、彼の世界に赴くのを見送りながら、本当に、ゆっくりとした時の中で過ごしていた。

 剣狼の谷で、オオカミの姿でシャビは木陰で微睡んでいた。そこに、ファウジが駆け戻ってきた。

『大変じゃ!フェイユの魂が――』

穏やかな日々は、唐突に終わりを迎えてしまった。ファウジはルディルに掛け合い、当時、空席だった無常の風に収まった。

フェイユ――懐かしい名だった。かつての婚約者。確かに愛していたはずの人だったが、それがどんな感情だったのか、思い出すことはできなかった。小生はこんなに薄情者だったのだと、シャビは思った。

ファウジと共に無常の風となり、鬼籍の書庫の司書となったシャビ達は、私的なことに精霊の力を使う戒めとして、名を分け、風の王に仕える者であるのに、身内から迷魂を出してしまったことを罪として暗闇に潜むことにした。

このとき、無常の風、門番・シャ・ファンと、司書・ビ・ウジは誕生した。

 月日は流れ、風の王は多く代替わりした。元々、軍人にしては優しかったビ・ウジは、そんな王達を見送りながら、徐々に哀しみを募らせていた。

『ビ・ウジ、辛いなら降りてもよいのじゃぞ?』

シャ・ファンが、闇の中で黙祷するビ・ウジを案じ、そんな提案をしてきたことがあった。だが、すでに、ビ・ウジは身も心も無常の風になっていた。

『小生の哀しみは、仕える主君を守れぬことです……』

『うむ。体がないとは、歯痒いものじゃのう』

強力な力を持ちながら、強力すぎるが故に体を持たない彼等は、死に逝く王を守って飛べなかった。それが、罪に対する罰のような気が、二人はしていた。

 そして、二人は運命の王と出会った。

十五代目風の王・リティル。

挨拶にきた彼を一目見て、シャ・ファンは、ビ・ウジが一目惚れしたのを感じた。この人を、終生の主君としたい!そんな願いを感じた。

歴代の王の中ですべてに劣る、頼りない王。なのに、葬送の力は一番強く、生きる力に溢れていた。そして、明るい笑顔。この冷たい書庫に、春のような風を吹き込んでくれた。

 体のないビ・ウジは、大きな事案からリティルが帰って来ると、用もないのに彼に話しかけては、足を運ばせた。それをリティルは、疎ましく思っている素振りなく訪れて、過保護に案ずるビ・ウジに「オレ、死なねーよ?」と明るく笑っていた。

彼の笑顔と、おまえらを忘れてねーよ?という優しさが、やがて、フェイユに償わせることにしか興味のなかった、シャ・ファンの心までも揺さぶっていた。

もう、誰にも仕える気のなかったシャ・ファンは、フェイユの魂を見つけたら、自分も輪廻の輪に乗るつもりだった。そんな彼に付き合って、共に逝くことを決めていたビ・ウジには、おまえはリティルに仕えていろ!と再三突き放したのだが、フェイユは小生の婚約者でもあったからと、自分の願いに蓋をして、頑なに共に逝くと言い張っていた。

 そして、フェイユの魂は見つかった。リティルに忠誠を誓う、無常の風にとって、最悪な形で。

ビ・ウジは、無常の風となって初めて泣いていた。それを、鉄の扉であるシャ・ファンは、背中で聞いていた。口にはしなかったが、ビ・ウジは、フェイユを恨んだろう。終生の主君を奪おうとする宿敵が、自分のかつての婚約者であるなどと、リティルに感化されてずいぶん優しくなってしまったビ・ウジには、耐えられなかった。このまま、存在を保てずに消えてしまうのではないか?そう思われた時だった。

ネクロマンサーの印を、刻みつけられたリティルが、尋ねてきた。来てくれるとは、シャ・ファンも思っていなかった。ビ・ウジは、本当に驚いていた。思わず、脱兎のごとく書庫の奥底へ逃げてしまうほどには。

「ミスったぜ」

リティルは、心身共に辛いだろうに、そう言って何でもないように笑った。

『リティル殿!もう、ここへ来てはなりませぬ!我らの罪が……あなた様を――』

書庫の中は、無限に広がる本棚の迷路だ。袋小路も数々存在し、司書でなければ歩くことはままならない。そんな闇の中、リティルは気配を頼りに、迷いながらも逃げたビ・ウジにたどり着いた。

「ビ・ウジ、シャ・ファン、フェイユはおまえ達の身内だったかもしれねーけどな、他人だぜ?自分が背負えるものなんて、自分の身一つだけだぜ?ビ・ウジ、おまえは風だろ?フェイユの生き様、最後まで見てやれよ。それが風の精霊だぜ?」

十四代目風の王・インという、偉大な風の王を父に持つ彼は、歴代の誰よりも正しく風の王だ。時には厳しく断罪し、生きることを許されると判断すれば、自分の身を削ってでも未来を繋いでしまう。

ビ・ウジは「あなた様は、自分以外の者を背負っているではありませぬか!」と叫びたかったが、言えなかった。ビ・ウジは、ビ・ウジというこの精霊のことも、リティルが背負っていることを知っていた。背負われているビ・ウジには、リティルのその優しさを、否定することができなかった。

「フェイユは助けてやれねーけど、ちゃんと送ってやろうな!」

あり得ないくらい酷い目に遭っているというのに、リティルは怒りすら持っていない様子だった。「少しは怒ってくださりませ!」とビ・ウジが叱ると、リティルは「オレ以外の誰かがこんな目に遭ってたら、さすがに怒ってたぜ?」と言って、明るく笑っていた。

これには、リティルに甘いビ・ウジも、さすがに呆れていた。

オレは、死なねーからいいんだよ!と言い放つリティルには、誰も逆らえなかった。

 そして、フェイユは姿を現した。

知らせを持ってきたのは、ルディルとシェラだった。ルディルは強制的に代理の風の王の権限を行使して、無常の風にかりそめの体を与えた。

シェラは、怒りのこもった瞳で、ビ・ウジを睨んだ。そんな奥方の瞳に、ビ・ウジはえ?と戸惑った。

「シャビ、あなたは共犯ですか?」

シャ・ファンは、相棒のあんな間抜けな顔は初めて見た。

「共――犯……でありまするか?……………………冗談ではありませぬ!小生はリティル殿に身も心も捧げておりまする!あの方の為ならば例え火の中水の中嵐の中海の中宇宙であろうと飛ぶ所存でありまする!」

病的に細いビ・ウジは、あ、こんな大声が出せたのかと思えるほどの剣幕で、シェラに詰め寄っていた。そんなビ・ウジを、シェラはジッと見上げていた。

「ならば、示して。夫を救ってください」

「奥方……このビ・ウジ、命に代えても、リティル殿をお救いいたしまする」

こうして、ビ・ウジはなんとかシェラの信用を勝ち取った。

「ガハハハハ!そんなおまえ、初めて見たわ。んじゃまあ、手筈通りにな。シェラ、太陽の城の庭園、座標指定終わっていやがるな?待っているぞ?」

頷いたシェラは、太陽の城の庭園にゲートを開くと、自分は、幻夢帝の名を呼び、現れた扉を潜って行ってしまった。

 

 シェラの開いたゲートを通り、城の者に気がつかれることなく、無常の風と、太陽の城の庭園に戻ってきたルディルは、大規模な戦闘を予想して、城を護ってくると言って、一度席を外した。

こうして再び合流し、改めて無常の風の様子を窺うと、二人とも、なんとも穏やかだった。

「おまえら、相手はフェイユだぞ?余裕じゃねぇ?」

二人は、ルディルを見つめて、我らは無常の風ですと声を揃えた。そんな簡単に割り切れるもんかねぇと、ルディルのほうが気が進まない様子だった。

シャ・ファンは、ルディルに我らに気を使う必要なないと、笑って見せた。

「娘の不始末、親のワシが責任を取る所存じゃ」

「リティル殿に、謝罪の言葉を伝えてくだされ。……ルディル様、リティル殿は健在で?小生、あの方が心配でありまする」

ビ・ウジは、リティルの無事を信じたいが、事態が事態であるだけにソワソワとし始めた。

「副官と補佐官がついていやがるぞ?あとは、ビザマの相棒だったティルフィングだ。あとなぁ、二人とも、リティルの事好きか?」

「可愛い主君じゃ」

「永劫に見守りとうございます」

二人は即答だった。ルディルは、シャ・ファンも当然の様に即答だったことを受けて、あいつ、相変わらずタラシだなと苦笑した。

「ならなぁ、リティルを選んでやれ。おまえ達はグロウタースの魂だ。輪廻の輪に乗る権利がある。だがなぁ、責任とか謝罪とかそんな理由なら、あいつを捨ててやるな。フェイユの最後にあいつが関われるなら、あいつはきっと心を砕いたぞ?狩りとって仕舞いにゃ、絶対にしねぇわ。まあ、今回は出てこれんだろうからなぁ。フェイユには、苦痛しか与えてやれんがなぁ」

オレじゃぁ、真っ二つだと、ルディルは自嘲気味に笑った。

「知って……おりまする……あのお方はお優しい。だからこそ、もうこれ以上、おそばには……」

目を閉じれば、リティルの明るい笑顔が見える。彼が風の王となり、風の城には春風のような、柔らかく温かい風が巡るようになった。鬼籍の書庫にも、その風は届いている。風の城が賑やかになるのを感じて、ビ・ウジも、嬉しかった。会うことも、共にいることもできない家族のことが、彼等がリティルと共に飛んでくれていることが、羨ましいと同時に、王を一人にしない彼等に感謝していた。

 おこがましく、リティルをこの世に繋ぎ止めたくて、城に帰って来る王を呼び出しては、ビ・ウジは、抱きしめてきた。そばにいられなくなっても、この城の誰かが、リティルをそうやって繋ぎ止めてくれる。ビ・ウジは、リティルを子供扱いしているわけではなかった。ただ、生きてほしいが為に、抱きしめていたのだった。完璧な死である無常の風なのに、なんとも馬鹿げたことだった。

この城に帰って来るリティルを、この世に繋ぎ止める重荷となりながら、見守って生きていきたい。それが、無常の風、司書・ビ・ウジの願いだった。

今、その小さな願いが絶たれるとしても、彼等がいればと、リティルを託すことができる。

 寂しそうなビ・ウジの様子に、シャ・ファンは、迷っていた事を打ち明けることにした。

ビ・ウジは、ずっとシャ・ファンの我が儘に付き合ってくれた。今、彼に恩を返すときではないのか?シャ・ファンは、ビ・ウジの肩を叩いた。

「……のう、ビ・ウジ、狡いことかもしれぬが、わしはこれが終わったら、リティルに一つ提案をしようと思うとる。リティルが、わしらを手放さぬと言うなればじゃが」

 それは?と問おうとしたとき、突如空間が歪み、ルキルースの扉が開いた。そして、陶器の人形が飛び出してきた。人形は空へ軽々と舞い上がると、大鎌を作り出した。それを追うようにルキルースの扉から現れたシェラは、華奢な蝶の羽根を羽ばたき、力尽きたかのように、皆の前に落ちてきた。

膝を折り、両手を芝生の地面につき、はあ、はあと息が切れていた。

「奥方様、ご無事で」

「シャビ……いいえ、ビ・ウジ、あの人形の体の中に、フェイユがいます。やってくれますか?」

手を貸したビ・ウジの腕を掴み、シェラは切れた息で、それでも気丈にビ・ウジを見返した。その瞳が、今にも決壊しそうだった。

「御意。主君の為、このビ・ウジ敵を討ち取りましょう」

敵――そんな風に、かつての婚約者のことを言わせてしまうことに、シェラの心は痛かった。けれども、シェラには、リティルしか選べなかった。

「ごめ――んなさい……!」

ビ・ウジは憂いのある、優しい切れ長の金色の瞳で、シェラの肩を支え、首をゆっくりと横に振った。そして「小生は、リティル殿しか選べませぬ」と言ってくれた。

「奥方、気にすることはないのじゃ。あれは最早、我が娘にあらず。キチンと輪廻の輪に乗せる故、そこで休んでいるのじゃ」

「まあ、待て、ここはオレからじゃねぇ?」

シェラを労る二人を見守っていたルディルが、ニヤリと笑いながら進み出た。

「ルディル……」

「リティルのヤツ、思わしくねぇんだろう?あいつは、あんなだが、無償の愛っつう、自虐固有魔法持っていやがる。ネクロマンサーの精神攻撃とは、相性が悪い。行ってやれ。ああ、ごめんはいらん。言われすぎちまって、嫌いなんだよ」

「ありがとう……」

シェラの瞳から、涙が流れて頬に筋を作った。シェラは祈りの形に手を組むと、瞳を閉じた。


 ずっと感じていた。

早く、彼の元へ行きたかった。けれども、動けなくなるだろうリティルに代わり、わたしが決着をつけると、シェラは心に決めていた。

シェラの力を持ってしても、自ら命を絶ちたい衝動を抑えることはできない。

ネクロマンサーの印を刻みつけられたことを知って、打ちひしがれていたインファには、彼が副官だと知っていても話せなかった。リティルの父の、生まれ変わりだというノインは、信用できると思った。

他に、誰を信じていいのか、記憶を失ってしまったシェラにはわからなかった。

夕暮れの太陽王・ルディルが、あの隠さない優しいレイシの師匠だと知り、彼を頼った。そして、猶予は約一年だと聞かされた。

心優しいリティルは、ネクロマンサーの精神攻撃に耐えられないだろうと、ルディルは言った。

リティルの優しさは、後悔と哀しみでできている。それらに襲われれば、自分が傷つくことに無頓着なリティルは、ネクロマンサーの見えざる手に導かれて、簡単に刃を握ってしまう。と

命を自ら絶てない風の精霊でも?と尋ねると、ルディルは苦笑した。あれは呪いで、対象者の手を操って殺すんだ、自殺じゃないと言われてしまった。

――風の王に向かねぇんだわ。あいつ。そして、歴代の誰よりも風の王に向いていやがる

ルディルは困ったと言って、笑った。

――シェラ、ネクロマンサーを許すな。あいつらだけは、許さんでいい。救い続けるリティルを踏みにじるあいつらは、許さんでいい

フェイユの憎しみの対象は、あなたかもしれないと告げると、ルディルは上等だと言って、凶悪に笑った。そして、いつでも矢面に立ってやると言ってくれた。

 今、リティルは、後悔と哀しみで自ら死に向かっていた。

彼が煌めきの庭へ行ってしまってから、ずっと感じていた。抗おうとしながら、抗えずに、リティルはその翼をもがれていった。自分が何に攻撃されているのか、それすらわからずに、ただ苦痛に苛まれるリティルの痛みが、シェラには感じられていた。

彼の、声にならない苦痛の叫びが聞こえていた。終わらせて!と叫ぶ、苦しみの叫びを。

早く、彼の元へ行きたかった。セリアが隠れていたフェイユを暴き、インファとティルフィングが時間を稼いでくれた。シェラは心に捕らえていた、フェイユの欠片を戻し、手筈通りに太陽の城の城門内の広大な庭園へ導いた。

 今行くわ。

リティルには、なくした思い出を、教えてもらわなければならない。

笑って、たわいなく、あれを見て君は――と過去を語ってほしい。たくさんたくさん、言葉を交わして、これからもずっと、ずっと未来へ時計の針を動かし続ける。いつか、なくしてしまったことさえ、笑い話になる遠い未来まで、一緒に行く為に。

 シェラは、一心同体ゲートを全開にした。

そして、リティルを苦しめる感情のすべてを引き受けた。


けれども、ごめんなさい……また、もう一度、わたしに教えて?もう一度、あなたが、わたしを好きなことを教えてあげてね?また同じ、”シェラ”の名で、目覚めるから。待っているわ……リティル……愛して――いるわ……


 魂と心が、為す術なく引き裂かれていった。

どう抗ったらいいのか、わからないまま、すべてが蹂躙されていった。

痛みに、何も見えなくなった。自分が何を叫んでいるのか、叫んでいないのか、それすら、わからなかった。

 その痛みが、唐突に消え失せた。一秒前、どんな拷問を受けていたのか、どんな痛みだったのかも思い出せないくらい、唐突に、痛みが消失した。

「父さん!オレが、わかりますか?」

急に焦点を結んだ瞳の中に、必死な顔のインファが映った。

「…………インファ?ノイン?どうして……?」

体を起こしたリティルの顎を、汗が伝い落ちた。全身が気持ち悪いほど、汗だくだった。

「リティル、苦痛を取り払ったのはシェラか?」

体を支えてくれていたノインの手を借りて、リティルは自分で座った。

「シェラ……?」

ここで何をしていたのか?それすらも、ボンヤリして思い出せなかった。けれども、ゾクッと汗に濡れた背中を、新たな冷たい汗が伝った。

シェラを、捜さなければならないと思った。体のことなど関係ない。今すぐ、シェラのもとへ行かなければと思った。

「どこだ……?シェラは、どこだ!」

答えてくれたのは、ここにいないはずの、幻夢帝・ルキだった。

「太陽の城だよ。今、ネクロマンサーと交戦中。扉開いてあげるから、急ぎなよね。シェラがまだ、生きてるうちにね」

リティルの目の前の空間が歪み、ルキが姿を現した。ヨロリと立ち上がったリティルに向かって指をさすと、ルキとリティルの間の空間が渦を巻くように歪んで、扉が開いた。

リティルは、脇目も振らず中へ飛び込んで行った。

「皆はここで休んでく?リティルの精神を守る為に、霊力、ほとんど使ってしまったよね?でも、リティルを救ったのは、シェラだったね」

「苦痛のすべてを、ゲートで肩代わりしてしまうとは、止める間もなかった。だが、まだ、できることがきっとある」

立ち上がることも億劫そうだったが、ノインは立ち上がると扉を越えていった。

「父さんのこととなると、躊躇いないんですよ。本当に記憶がないんでしょうか?動けますか?ティルフィング、セリア」

ティルフィングは頷いた。その隣で、肩で息をしていたセリアがキッと顔を上げた。

「い、行くわよ!わたしは不死身なんですからね!」

強がるセリアにインファはニッコリ笑うと、手を貸して立たせた。そして、ティルフィングに目配せして扉を越えていった。

「シェラ、君は、君が思う以上に、皆に好かれてるよ。そのことも、リティルに教えてもらってね」

さてと、ルキは扉を閉ざすと、部屋の中心に向かって歩みを進めた。

 ルキは、部屋の中心に立つと、両手を前へ突き出した。ガタガタと部屋のすべてが地震のように揺れ始めた。

「ラジュール、君も風に救われたね。まさか、契約者に乗っ取られるなんて、考えもつかなかったんじゃないかな?」

震える部屋全体から、彼女の声がした。

『そうね』

「フェイユの本当の目的は、何だったのかな?」

『そうね……ルディルの暗殺じゃないかしら?』

「何の為に?」

『父を殺した、あの男ー。ですもの。フェイユに出会ったのは、婚約者のあの子、シャビに父を殺した人殺しと罵って、家を出た後だったわね。教えてあげたわ。ファウジがルディルの契約者で、それが元で命を落としたことをね』

「悪意を感じるね。君、ルディルの協力者じゃなかったのかな?」

『研究対象よ。わたしは、心と感情にしか興味ないの。フェイユは興味深かったわ。あんなに愛していたのに、簡単に、愛は憎しみに変わったわ。だのに、殺したのはシャビじゃないと教えてあげたら……ホホホホ!仇を取りたいと言い出した。だから、契約してあげたのよ』

「君と契約して、受けられる恩恵って何だったのかな?」

『わたしと体を入れ替えられる。ただそれだけ。これでも、皆で上手くやってたのよ?』

「うまく?契約者を、ダイヤモンドに閉じ込めて保管しておいて?でも、風の精霊を欺くなんて凄いよね」

『何事も穴があるのよ。命は日々生まれ日々死ぬ。産まれた者は、やがて死ぬっていう理からは、逃れられない。だから、ユグラも送り出した魂の数を把握してない。風の王も、戻った魂の数を把握してないわ』

こいつ、本当にスレスレだなとルキは呆れた。あまり世界に干渉すると、この世界から消去されかねないというのに、それすらも恐れず自分に忠実だった。

けれども、大地の王と風の王に落ち度があったことも確かだ。理を過信し、こんな基本的な、産まれた魂の数と、死した魂の数を把握する術を持っていないなんて、思いもよらなかった。まあ、初代があのルディルじゃ仕方ないかと、ルキは思った。

「ねえ、どうしてフェイユは鬼籍に載ったのかな?ここにいたのにね」

『知らないわ。そうなるように、あの子が何かしたんでしょうよ。あの子は特別なのよ。わたしとあの子はよく似てたわね。他の契約者達は、自分の中に強く残った想いだけを残して、だんだん正体を失っていったけれど、あの子だけは、自分を保ち続けた。シャビにネクロマンシーを使ったのは、フェイユじゃないわよ?救えなかったけれど、あのネクロマンサーを殺したのはフェイユよ。その時、ネクロマンシーを使えるようになったのね』

「ふーん。十五代目風の王に固執した理由は何?」

『花の姫と風の王に、興味があったのはわたし。過剰に仲を裂こうとしたのは、あの子。リティルちゃんが王になってからかしらね?あの子がおかしくなっていったのは。ルキちゃん、セリアを開放してくれて、ありがとう。ああでもしなくちゃ、セリア化け物にされちゃってたわ』

わたしから奪った宝石の母の証、役に立ったわねと、ラジュールは笑った。

「ボクに喧嘩売ったのは、わざとだったって言いたいの?」

『ホホホホ、わたし、これでも母親なのよ。フェイユ、もう諦めると思うわよ?だって、完敗だもの。シェラちゃんの想いは揺るがなかった。リティルちゃんを、守り通しちゃったわね。あの子が一矢報いるとしたら、リティルちゃんに憎しみを向けられることだけね』

「……どうして、あの二人を引き離そうとするの?ただ、一緒にいたいだけじゃないか」

ルキの言葉に「青いわね」と、ラジュールは笑った。そして「リティルちゃんはたぶん、憎しみを向けられる理由、理解してるわよ?」と言った。

『みんな、そうなのよ。フェイユもそうだった。そうだったのに、死が、分かつ。風の王は死神ね。その王が、手を繋ぎ続ける姿は、恨みしか産まないわね。さて、リティルちゃん、どうするかしらね?』

「そんな、そんな理由?リティルが殺してるわけじゃないのに!」

『そんなものよ。人の感情なんて』

ラジュールの最後の声は、感情なくただただ冷えていた。


 なぜ、そこまで一人の人を想えるの?

憎しみの記憶で、この絆も終わると思ったのに。シェラは抗い続けた。

そして、愛を取り戻して、愛しきってしまった。

シャビ……わたしは、もうあなたを好きだったころの気持ちを思い出せない。

お父さん……誇れる仕事だったのね?風の王・ルディルは仇じゃなかった。何も知らずに、わたしはシャビに、酷いことを言ってしまった。

そんな後悔も、薄れてしまったわ。

他の契約者達も同じだった。どんどんなくしていった。

セリアに、どんなに強く想いを込めても、定着した想いはなかった。今セリアの記憶を消したら、インファへの想いはなくなる。断言できる。あの娘は、脆い蛍石だから。

風の王・リティル。偽善の王。

死で、わたし達を引き離す暴君。そんなおまえが、おまえだけが永遠に手を繋げるなんて、不公平だ。

なのに、なのに!なぜ、引き離せない?なぜ、シェラに愛されるの?

健気で美しいシェラ……奪い続けるおまえから、一番大事なものを奪ってやる!

――わたしを――止めて――お願い――風の王――!もう――わたしは――……


 リティルから、哀しみと憎しみを引き受けたシェラの意識は、すでになかった。

一心同体ゲートも固く閉ざされて、リティルにはこじ開ける術がなかった。

リティルの腕の中で、シェラは苦しげに声を上げていた。

リティルにできる、シェラを救う方法は一つだった。ネクロマンサーを討つこと。それが、唯一印を消せる方法だった。リティルに刻みつけられた印が消えれば、シェラの引き受けた哀しみと憎しみも消える。

死の呪いを、リティルの代わりに、引き受けてしまったシェラを救える。

どうしてシェラが、こんな目に遭わなければならないのか。リティルは、一度強くシェラを抱きしめた。

「リ、ティ――ル……」

切れ切れに、意識のないシェラが名を呼んだ。その声に、リティルの中に、鎖で幾重にも封じられていた何かが目を覚ました。瞳を開いたリティルの視界が、真っ赤に染まる。心の鎖を断ち切り、揺らめき立つオオカミが四肢を張り、オオタカが翼を広げた。

――許さなくていい……おまえは所詮、殺戮の翼持つ獣。案ずるな……相手は世界に仇なす敵だ。敵だ。敵だ!おまえはそれを狩る、正義だ!

リティルの心に背後から、よだれを滴らせたオオカミが耳元で囁いた。その肩に、飢えた瞳のオオタカが舞い降りた。

リティルは、上空で大鎌を振るう、妖艶な陶器の人形を見据えた。

「う・ああああああああああああ!」

シェラを草の上に寝かせたリティルの瞳に、怒りと憎しみが灯っていた。


 無常の風とルディルを相手に、フェイユは引けを取らなかった。大鎌と無数の宝石を操り、攻撃が通らないのだ。

「やるねぇ。ラジュールの戦法すべてを奪っていやがる」

ルディルの燃える大剣が、空気を焼きながらフェイユを薙ぐが、彼女は避けもせず宝石と大鎌で、太陽王の力に競り勝った。

「裏の仕事とはいえ、城の者に助力を願った方が、よかったのではありませぬか?彼等なら、戦えまする!」

「いや。リティルの命なく、巻き込めぬ!それに、なんの訓練もなく、ネクロマンサーとは戦えぬよ」

この、霊力を奪われながらの戦など!と、シャ・ファンは襲ってきた大鎌を剣で弾いた。

「しかし、このままでは、奥方が保ちませぬ!」

ビ・ウジの風が、宝石たちを砕いたが、すぐにその穴は埋められてしまった。

「そこをどけええええええ!」

ルディルでさえ、その咆哮に一瞬怯んだ。刃の様な風を纏い、戦場へ切り込んできたのは、リティルだった。その瞳を見た三人は、息を飲んだ。憎しみに染まったその瞳。彼の纏う風が、彼自身も傷つけて赤く染まっていた。

「リティル――殿……?」

「キレていやがる。おい!あいつ止めるぞ!」

「え?」

ルディルは、戸惑う無常の風を置き去りに、狙いを、フェイユからリティルに変えた。

 一年と少し前、リティルがシェラに刺され、一日寝込んでいたとき、ルディルは風の城に約束通りに行った。そして、インファから、リティルの目が覚めないので、今日は城を閉じると言われた。帰ってほしいと言うインファに食い下がって、口を割らせ、ルディルは、リティルが目覚めるまで、代理でいてやると言って、城へ居座った。

 その時、インとビザマに会った。

インはリティルの事を知らなかったが、気にしていた。物静かで寡黙な彼は、何も言わなかったが、ビザマの隣に立っていた。

ビザマはハッキリしていて、一度会っただけだというのに、こう言ってきた。

――ルディル、オレ達は、そんなに長くリティルのそばにはいてやれん。明日消えるかもしれないが、あのバカのこと、頼まれてくれるか?

そんな心配しなくても、あいつは立派に風の王だぞ?と教えてやると、ビザマはハンッと鼻で笑った。

――だったらなぜ、あなたはここにいるんだ?あのバカが、不甲斐ないからだろう?

不甲斐ないというか、元風の王のよしみだと答えると、ビザマはソファーで忙しなくしている、インファをチラリと見た。

――インファ、そのうち禿げるな。なら、ルディル、一つだけ頼まれてくれ。あのバカに、らしくない戦いだけはさせないでやってくれ。インファじゃ、止められないだろうからな!

そう言って、ビザマは父親の顔をして笑っていた。それが、ビザマとインを見た、最後だった。

「らしくない戦いはさせるなと、あいつの親父ィズと約束したんでな。面倒見れるときは見てやる!」

ルディルはリティルの背に向かって、大剣を振るった。リティルは炎を纏った剣を、素手で止めていた。炎に腕が焼かれるのも気にせず、ルディルの刃は赤い風に切り刻まれて砕けた。

「エグい攻撃力だな。命を削っていやがるのか?」

憎しみを滾らせた座った瞳で、自身の血でその身を穢しながら、リティルはルディルを睨んでいた。炎に焼かれた腕が癒やされない。ダラリと下がった腕から、黒い血が滴り彼の纏う風に溶けた。

「シェラの影響は凄まじいねぇ。おい!リティル!おまえが暴走してると、間に合うものも間に合わなくなるぞ!おまえのそんな姿、シェラが喜ぶか?」

「シェラ……シェラああああああああ!」

「あ、逆効果だったわ」

赤い風がリティルの咆哮で膨れ上がり、すべてを切り刻んだ。ルディルは壁際まで追い詰められ、無常の風は翼を砕かれて舞い降りるしかなかった。翼はすぐに再生できるが、リティルがフェイユを討つのに間に合わない。それは、壁際まで弾かれてしまったルディルも同じだった。

「リティル殿!なりませぬ!」

ビ・ウジの声は、赤い風に阻まれて届かなかった。リティルの攻撃を凌ぐため、風の障壁に、かなりの霊力を費やしてしまった。辛うじて凌いだものの、盾も翼も砕かれ、霊力の回復を待たなければ、翼を再生できなかった。

 ルディルが言うように、止めなければと思った。

リティルは完全に我を失っている。あんな状態で敵を討てば、彼の優しい魂に傷がつくと、ビ・ウジは焦った。

リティルは、怒りも憎しみも哀しみも、その優しさで切り裂く。故に、リティルに引導を渡された魂は、心安らかに逝けるのだ。しかし、それは諸刃でもあった。魂を救う代わりに、リティルは心に、いくらか痛みを引き受けていた。それが、リティルが気がついていない固有魔法・無償の愛を、ルディルが自虐だという理由だった。

何とかして、彷徨う魂が心安らかに逝けるように救いたくて、リティルは、いつの間にか無意識に、そんな固有魔法を編み出してしまった。リティルは、そんな王だ。

そんなリティルに、憎しみに駆られた、あんな心で戦わせてはいけない!

「リティル殿!」

悲痛に名を呼ぶビ・ウジの瞳の中で、リティルは、赤い風を纏った死神の大鎌を抜いた。


 邪魔者を退け、リティルはユラリと、フェイユに視線を合わせた。彼女を守っていた宝石たちのほとんどが砕かれて、彼女は盾を失っていた。

「殺してやる……」

リティルの右手に、赤い風を纏った死神の鎌が握られていた。フェイユは微笑みを浮かべて、襲いかかってきたリティルの鎌を、手にした同型の鎌で受けた。

フェイユの鎌は易々と砕かれ、その切っ先がフェイユの体を捉えた。


――――……


リティルの刃が、フェイユを切り裂く寸前で止まっていた。

──心に 風を 魂に 歌を 君といられるなら 怖いモノなど 何もない

──花の香りが この身を包む 叫べ 風に攫われぬうちに

──痛みと 涙が 君を曇らせても 歌え この旋律を 心のままに――……

優しい歌声だった。

心を支配していた、オオカミとオオタカがもう少しだったのに……と呟いて、歌声に押し戻されて、鎖に繋がれ瞳を閉じた。

リティルの瞳に、生き生きとした、金色の立ち上る光が戻ってくる。

「――せって、許せって言うのかよ!君は……オレに――オレのまま生きろっていうのかよ……!シェラ!君と、いきたいよ……!」

リティルを包んでいた赤い風が、やんでいた。手の中にあった、死神の鎌が砕けて消えていった。

「君は許さねーよな?オレが一緒にいくことを……シェラ……!」

リティルは、泣きながら、目の前のフェイユを抱きしめた。

シェラが何をしろと言っているのか、わかりたくなくても、わかってしまった。最近は、怒った顔しか思い出せない。彼女の優しい微笑みが、記憶の彼方から、歌声に乗って呼び覚まされた。

君の手を取れる、血に濡れても誇れる自分でいよう。

例え、君がいなくなっても。

例え、対峙した者が君を殺した、仇だったとしても!

君が望むなら、オレは、君の愛したオレでいるよ……!

「ネクロマンサー・フェイユ。世界の理に乗っ取り、おまえの魂を滅する」

リティルの手に、ナイフが握られていた。

「フェイユ、君を許す。いつかまた、君の欠片が輪廻の輪を巡ることを、祈るよ」

リティルは、フェイユの人形の体の中にある、彼女の魂に向かって、ナイフを突き刺した。

魂が、その人形の体ごと消滅する。その最後の残滓を、リティルは捕まえた。儚げな輝きに、リティルは口づけして、そして、放った。

 歌は、もう聞こえなかった。

覚えているはずのない歌。風だけが歌えるその特殊な歌――風の奏でる歌を、確かにあった、特別な繋がりの記憶を、失ったはずのシェラは、歌ってくれた。

最後の力を使って、リティルの心を守ってくれた。

 遠い遠い過去。夜に沈むクエイサラーで、リティルはシェラにプロポーズした。

「花の姫、オレは君から奪うだけで、何も与えてやれねーかもしれない。それでも、誰よりも君が好きだ。君を手放すなんて、考えられねーよ。シェラ・アクアマリン姫、永遠の時間を、オレと一緒に生きてくれねーか?」

シェラが選んでくれている事は、わかっていた。けれども、リティルよりも背が高くて、綺麗で可愛いお姫様が、本当に選んでくれるのか、リティルはどこか自信がなかった。

だが、シェラは揺るがなかった。

リティルの自信のなさを打ち砕くくらい嬉しそうに、笑って抱きついてきてくれた。

「ずっと前から、わたしの答えは決まっているわ。風の王、あなたと生きます。あなたの傍らで、あなたのすべてを守ってみせます」

そう言われて、リティルはシェラに捕まった。そして今まで、シェラは宣言通り、リティルを護り続けた。


もう……君の気配を感じられない

風の王の血塗られた手が、君を穢したせいで、君を殺してしまったなら、オレはもう、君を捜さない

望まれても、君ともう、手を繋げない

オレの中にある、君への想いが変わらなくても、オレはもう、君を抱きしめない

シェラ……オレは君を、好きだったよ……


リティルの、半端な長さの髪を縛っていた黒いリボンが、淡い、白い光となって、消滅した。


乱入の、ブチ切れ風の王・リティル、花の姫・シェラの犠牲により、勝利!

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