魔王軍、最高魔導士イヴァン
魔王軍、最高の魔導士と呼ばれるイヴァン。
その透き通るような白い肌に
堀の深い顔立ち、
まさしく絶世の美女であり、
別称『麗しき魔女』とも呼ばれている。
魔王軍の魔道士はみな魔族の者であり、
現在魔王軍に人間は一切いない。
彼女もまた魔族であり、
尖った牙と鋭い爪を隠し持つ。
そして匂い立つような
妖艶な魔性を併せ持っている、
それが魔導師イヴァン。
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激化する四魔将による内部抗争、
この魔導師イヴァンを味方に付けた者が
この内紛を制すると噂される程
魔法に関して圧倒的な力を持ち
比類する者がいない、唯一無二。
「イヴァン、頼む。
魔王様のいない今、
我が軍をまとめて行くには
お前の力がどうしても必要なのだ」
今イヴァンの目の前で、
そう協力を求めているのは
魔王代行筆頭であるアイン。
「お主達も、
魔王様がいない間に権力争いとは
随分と偉くなったものだな、アインよ」
イヴァンは四魔将とほぼ対等の存在、
アインとて無下な扱いは出来ない。
「我は魔王様のご不在を
お守りしたいだけなのだ」
冷ややかな微笑を浮かべる。
「その言葉、
どこまで信じてよいのやら」
今まさに魔王軍内部は
疑心暗鬼、不協和音、
誰のどの言葉も信じられぬ状況。
アインもまた本心は見せず、
イヴァンもまたそれを見透かす。
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話は平行線のまま終わり、
アインは部屋を去って行くが
イヴァンは一人部屋に残った。
次の瞬間、眉間に皺を寄せ、
険しい顔を見せる。
「何奴っ!?」
右指先から
魔力で生成された
アローを放つイヴァン。
何もない空間に
一筋の傷が出来ると
そこから一雫の血が滴る。
透明化能力で身を隠し、
ずっと部屋に潜伏していた勇者。
姿ばかりではなく
匂いや気配まで完璧に消し
今まで四魔将にすら
見破られなかった
勇者のインビジブル能力を
完全に気づかれた。
『やはりな、
こういうのがあるから、
魔法についてはいろいろと
聞いておかなくてはならんな』
イヴァンの次の攻撃より
一瞬早く時を止めた勇者、
その姿を現すと
すぐさまイヴァンの目を見つめ
催眠を掛けた。
時が動き出し、
その場に倒れそうになるイヴァンを
勇者はその腕で抱き止める。
とりあえず大人しくしてもらうために
勇者はイヴァンを催眠で
眠らせていたのだった。
そのままイヴァンを肩に担ぐと
勇者は転移でその場から姿を消す。
こうして魔王軍最高の魔導師
イヴァンを拉致した勇者、
いくらなんでも勇者が
不意打ちで敵の女を攫うまで、
そこまで落ちぶれようとは
思わなかったと言いたいところなのだが、
ここまでの勇者を顧みると
日常茶飯事、割といつものことだった。




