勇者の携帯
TRRRRRR……
TRRRRRR……
勇者の携帯が鳴った。
携帯を取り出し電話に出ると、
相手は人間の居住エリアにいた
見習い魔道士の少年、テトだった。
「勇者様、大変です」
「魔王軍が
こっちに向かって
進軍をはじめました」
「よし、わかった」
「ちゃんと、
準備はしてあるだろうな?」
「も、もちろんです!」
何故、こんな異世界なのに
携帯で会話などをしているかと言うと。
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大陸の東側、人間が住むエリア、
そこにはほとんど
子供と年寄りしかいない。
それでも見習い魔道士であるテトは
新しい勇者がやって来てから、
なんとか勇者の力になろうと
同じ年代の見習い魔道士を集め、
少年少女魔道士団なるものを結成する。
見習い魔道士と言っても、
この世界でロクに
魔法を指導出来るような人材は
すべて魔王軍との戦いで戦死しており、
子供達が互いに教えあったり
ほぼ独学で魔法の訓練をしている
子供達ばかりであったが。
魔道士と言えば、
老人というイメージもあるが、
そういう戦力として
役に立つような年寄りは
みんな既に死んでいた。
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たまたま人間エリアに戻った際に
そのことを知った勇者も
ちょうど雑用の手が欲しい
と思っていたので、
とりあえず連絡が取れるように
転移強奪して携帯をメンバー全員に配布。
もちろん携帯だけあっても
電気やアンテナ基地局がなければ
使る筈もない。
電気に関しては自家発電機を転移強奪、
と言っても自転車を漕いで
発電させるタイプなのだが。
何の役にも立たない年寄りには、
交代で自転車を漕ぐ係りをやらせ、
常に蓄電させている。
勇者が言うには
「爺と婆の健康のためには丁度いい」
とのこと。
さすがにアンテナ基地局だけは
どうにもならないので、
そこは魔法と勇者の能力を使っており、
携帯じゃなくても別によくないか?
というぐらいの、ゆるい
形式ばかりの携帯通話ではあった。
ちなみにスマホは電池を食い過ぎるので、
選択の余地無くガラケー一択。
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以前の奇襲で敵の通信網が
ほぼザルであることを知った勇者、
もし他の人間達と連携するのであれば
通信網の優位性が役に立つであろうと
ずっと考えていた。
人間世界の現代兵器を使った戦争でも
一番先に叩くのは通信施設であり、
本来であればそれ程重要な役割の筈なのだ。
そして、勇者は
最初の電撃作戦で敵の拠点を叩き
最前線のラインを後退させて
出来上がったフリースペース、
そこを少女魔道士達に千里眼で
四六時中監視させ
魔王軍が進軍して来たら
携帯に電話をよこせと伝えておいた。
限られたスペースであれば、
子供達であっても昼夜を問わず
監視することも出来なくはない。
勇者のやり方に腹を立て、
報復として人間エリアに
魔王軍を侵攻させるであろうことは
勇者も予測していたし、
あのフリースペースこそは
敵軍を迎え撃つための
迎撃ポイントでもあるのだ。
それとは他に勇者は
迎撃のための準備を
少年少女魔道士団に命じており、
その成果が試される時でもあった。




