翡翠宮
わかりづらい所があったので加筆修正しました。(7/4)
まず見て欲しものがある、と言う美咲とキースの後をついていく。歩きながらこの場所について軽く教えてもらった。
ここは翡翠宮という宮殿で、香緒里の住む世界とはは別の世界にあるという。
世界と世界の狭間にある世界で神と呼ばれるもの達の住む世界であり、仕事場であるとか。この翡翠宮は大地を司る神々の宮殿だということだが、正直、ちょっと意味がわからない。
そういえばキースが龍神だと名乗っていた気がするが本当に神様なのだろうか。では兄である谷崎はどうなのだろう。
「着いたわ」
ある扉の前で美咲が止まる。その扉は今までの道のりでみかけたものと少しだけ意匠が違うようだった。
「ここはギャラリーのようなものね。この翡翠宮を作った3代前からの大地神及びその配下の地龍神の絵が飾られているわ。他にも色々と、まあ宝物的なものがあったりもするんだけど」
「神様は代替わりするものなの?」
「そうよ。神と呼ばれてるけど、様々な種族がいるわ。大地神は精霊人族という種族から、地龍神は龍人族という種族からそれぞれ2人ずつ選ばれる。寿命もその種族と同じなの。因みに御堂市あたりを護る神は、人間の一族だから代替わりも早いわね」
「そ、そうなんだ…」
美咲の口からポンポン放たれる情報になかなか理解が追いつかないでいると、キースが恭しく扉を開いていく。
中は暗かったが美咲が入っていくのと同時に明かりが灯る。香緒里がついて行くと、入って右手に飾られている絵の前で止まる。
「この座っているお爺さん2人が3代前の大地神。左右に控えているお爺さん2人が3代前の地龍神。この宮殿を作った方々ね」
言われて見るが普通のお爺さん達にしか見えない。強いて言えば身に付けている衣装がそれっぽい、くらいだ。
「次はこっち。今度は全員お婆さんだけど構図は同じね。2代前の大地神と地龍神よ。案外見た目は普通でしょ」
そう言われて左隣に飾られている絵を見ると、お婆さん達が微笑んでいる。2人が椅子に座り、左右に2人立っている。
「問題は次。先代の絵よ」
そう言われてまた更に左隣の絵を見ると、今度は少年少女の絵だった。15歳くらいだろうか。さっきまでのお爺さんお婆さん達は白髪に緑色の瞳だったが、彼等の髪色と瞳はキースと同じだ。向かって左側に座る少年は美咲と面差しが似ている。そして、その彼の横に立つ少年は、キースに似ている。否、これはキースというより、少年時代の谷崎という感じだ。
「気付いたわね。向かって左に座っているのは私の兄。立っているのは柊ちゃん」
驚いて美咲を見ると悲しそうな、寂しそうな顔をしていた。
「これ、大地神と地龍神の絵だって…」
「そう。先代のね。こっちに来て」
そう言われて手を引かれ、また少し左にずれる。そこに飾られている絵には同世代くらいの4人の男女。
「眼帯をしている人…髪と瞳の色がちがうけど、谷崎先生…。反対側に立ってるのはキースさんだし、この、座っている女性は」
「そう、私」
言われて美咲を見ると、姿が変わる。少し背が伸び、ボブカットだった髪は背中まで伸びて毛先にむかってだんだん緑色になり、瞳はエメラルドグリーンへと変わっていた。その姿は絵の中で座っている女性そのものだ。
「美咲さんが、大地神、なの?」
「ええ。私は闇の大地神。ほかにも色々呼び名があるけど、闇緑神と呼ばれる事が多いわ。四大元素の神は光と闇にわかれて存在してる。だから光と闇の大地神、同じく光と闇の地龍神がいるの。…この絵の中で私の隣に座っているのは光の大地神。彼は私の弟よ。人間としては年子という事になってるけど、本当は双子」
微笑んで説明され、もう一度絵を見る。美咲の隣に座る男性は性別が違うだけで彼女と瓜二つだ。双子だと言われて納得する。
「じゃあ、キースさんは」
「大地神の配下、闇の地龍神です。大地神の側近であり、護衛騎士のようなものですね。大地神を護る盾でもある事から緑盾とも呼ばれています」
キースにも聞いてみると優雅に一礼してから答えてくれた。
また、絵を見る。残りの1人、眼帯をした彼。髪と瞳の色は違うがどう見ても谷崎だ。
「香緒里さんも気付かれた通り、その人は兄です。光の地龍神。大地神を護る剣、緑剣とも呼ばれる者です」
香緒里の視線に気付いたのか、キースが説明をしてくれる。そこまで言ったあと、右側にある先代の絵の方を見て、表情を曇らせた。
「本来大地神と地龍神は代替わりが同時な為、仕えるのは1代のみなのです。ただ、兄は訳あって2代にわたり仕えています。非常に稀なことですが…」
ハキハキと喋っていたキースだったが、表情と共に声も少し沈んだ気がする。美咲を見ると彼女の表情も曇っていた。
先代の絵が全員少年少女と言える年代なのも理由があるのだろう。2人の表情を曇らせる理由が。
それを聞いても良いのかと迷っていると、バン!という音が室内に響いた。
音がした方を見てみると、扉の所でぜえぜえと息をきらす谷崎の姿。
「見つけた…!!!なんで!スマホ!電源!切るの!」
ご立腹である。というか地団駄踏んでる。
「料理とお菓子は?」
「ひと段落ついた!てかつけた!一旦休憩!」
「あ、そ。まあ良いわ。思ったより早く来たわね」
呆れ顔で美咲が言うと「ダッシュで探したし!」と言って谷崎が近づいて来た。
「何を、てか何処まで話したの」
「私達の正体を話しただけよ。多分ジェイが1番知られたくない話をこれからする所だったのに」
「それ話す必要ある!?間に合って良かった!」
ため息をついて、頭を抱えてしゃがみ込む谷崎。
香緒里はそんな彼に近付いた。髪が絵と同じ緑色であるのを見て瞳も見たくなり、しゃがみ込んでそっと顔を覗き込んでみた。
「え?」と言って谷崎が香緒里を見返し、目が合った。
「やっぱり緑色…。違和感が消えてる」
絵と同じ色をした瞳を確認して呟く。右目は眼帯で隠れているせいか、いつも感じていた違和感がなかった。
じっくりとそのエメラルドグリーンの左目を見た。見とれた。
近くで見るその瞳の奥に不思議な光が宿っていて、とても綺麗だな、と思う。
瞳に見とれている香緒里は気付いていなかったが距離が近い。30センチも離れていないのではないだろうか。
谷崎はそのあまりの近さに固まってしまっていた。そのまま誰も喋らず、時間が過ぎる。
「…一旦移動してお茶にしない?続きの話は座ってゆっくり話したいわ」
美咲がいつまでそうしてるつもり?と言いたいのをぐっと堪えて提案する。その声を聞いてあまりにも顔が近い事に気がついた香緒里の口から奇声が出て、飛び跳ねるように離れた。
急激に高まった心臓の鼓動を抑えるように胸元で両手を握り、真っ赤になった顔を谷崎に見られたくなくて美咲の立っている方を向いて「お茶します!」と叫ぶように言う。
羞恥心から涙目になっている香緒里を見た美咲は、微笑んで香緒里の手を取って歩き出す。
これは嬉しい予感がする、と考えた美咲は珍しく反応に困ってオロオロしているキースを手招きする。
「ジェイに調理に戻れと伝えて、お茶の準備お願いね」
それだけ言うと嬉しそうに香緒里を連れて部屋を出る。
「…全部、良い方向に向かえばいいんだがな…」
残されたキースは兄には聞こえないように小さく呟き、ちらりと視線を動かす。しゃがんだまま顔を手で覆ってプルプルしている兄を見て溜息をつくと、近づいていく。
そして。
「仕事に戻れクソ兄貴!!!」
そう叫んで蹴り飛ばした。
本当は今回入れようと思ったけど、柊と美咲の本名は次回で。って柊はチラリズムしてますね…。