表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真眼と翡翠  作者: 島りすた
接近遭遇
8/10

蓮、或いはキースと扉の向こう

ちょっと長くなりました。


呼び名を統一する為修正しました。(7/4)

 教育実習は特に問題もなく、1週間が終わった。

 ポポの宿る指輪は鎖を通して首にかけ、他の人からは分からないように服の中に入れている。

 ポポは家では護石から出てくる。彼女は結構自由人というか、自由妖精?で、家にいる限りはあっちへふらふらこっちへふらふらと好きに過ごしている。ポポ曰く、家は完璧な結界があるから外に出ない限りは自由にしてても良いのだそうだ。何時誰がどうやってその結界を張ったのかは「よくわからないですぅ!」と言われてしまい、シンガンを使ってみてもうまくいかなかった事から知らない方が良さそうだと判断した。

 そして本日、日曜日。谷崎家にお邪魔する。

 何でも話せる親友(能力の事も知っている)からは「お家デート!?」などと言われたが違う。断じて違う。だからオシャレなんてしない。しない…が、一応、例え相手が変態でも、弟さんもいるらしいしダサいとは思われたくない。等々言い訳的に考えながら、それなりに見栄えのする服を選んだ。

 朝9時に家を出て、谷崎家までの道はポポが案内してくれている。

 護石からは出ているが香緒里の右肩にちょこんと座り、綿毛を振りながら「こっちですぅ!」「ここはまっすぐですぅ!」等と言われるままに歩く。香緒里には見えるし聞こえるが他の人にはポポが見えないし声も聞こえないようになっているという。

 不思議だな、と思いながら歩く事30分。ポポから「ここですぅ!」と言われた家は庭付きのオシャレな二階建ての一軒家。谷崎は弟と2人暮しだと言っていたが、2人暮しには大きな家だなと思う。

「それではポポは1度護石に戻りますぅ。御用があったら呼んでくださいねぇ!」

 案内が終わったポポは直ぐに護石に戻ってしまった。少し寂しく思いつつ、家を見上げる。本当にここで良いんだよね?

 少し戸惑いながらチャイムを押すと、直ぐに玄関が開いた。そこに居たのは谷崎ではなく、似た顔をした高校生くらいの少年、というか青年というか。おそらく弟さんだろうと思われるが、何故か執事のような格好をしている。

「いらっしゃいませ。直ぐにまた出ますが、1度玄関に」

 彼はそう言うと香緒里の手を引き玄関へと引き入れ、玄関の扉を閉める。そして香緒里にその場でそのまま待って欲しいと言って、閉まったままの玄関に触れる。

 彼が触れた所を中心にして光が円を描いていく。ファンタジーでよくある魔法陣に見えるそれが一瞬強く輝いたと同時に、扉が勝手に開いた。そこから見えた景色はさっき歩いて来た道ではなく、廊下。大理石っぽい床や柱に何の石か香緒里にはわからないが薄紫色の石の壁、どこか高級感漂う宮殿かと思うような廊下だった。



 扉の向こうを見た香緒里は驚きのあまりそのまま思考停止してしまっていた。

 扉が開いた後、香緒里を見た執事服の彼は、「あっ」と言った後に綺麗なお辞儀をする。

「ご挨拶が遅れてしまいました。初めまして。俺は柊の弟、(れん)といいます。御堂守学園(みどうもりがくえん)高等部2年に在籍中です。そして…」

 そこで1度言葉を切った蓮は扉の方へ歩きだし、扉の向こうへ行った瞬間、少しだけ姿が変わった。元々高めの身長だったがもう少し伸び、黒かった髪の毛先が緑色に。振り返ったその顔は少し大人びて、香緒里と変わらない年齢に見える。そして黒かった目はエメラルドグリーンへと変わっていた。

「本来の俺は闇の地龍神(ちりゅうじん)と呼ばれる者。蓮というのは人としての仮の姿と名で、本当の名はキース・ローレンス。香緒里さんに力の制御を指南せよ、と主より命ぜられた者です」

 そう言ってまたお辞儀をする蓮、或いはキース。

 疑問が次から次へと湧いてくる。

 扉の向こうは何処なのか。

 何故一瞬で成長したのか。

 力の制御指南とは。

 というか主って誰。

 そもそも闇の地龍神って何。

 そして蓮なのかキースなのかどっちで呼べば。

「…谷崎先生は、何処に?」

 色々と聞きたい事があるのに、口から出たのはそれだった。

 最初に直ぐにまた出ると言っていたのは謎の扉の向こうへ付いてこいという事だろう。だが正直初対面の変身(?)とかするよくわからない人について行くのはちょっと怖い。そもそも自分を呼んだのは谷崎なのに、本人が居ないとはどういう事だ。と思った結果、出た言葉である。

「柊ちゃんは、ちょっとお仕置き中」

 そう声が響いて、廊下の右手側にあった扉が開く。

 そこから出てきたのは香緒里も知っている人物、木島美咲。

 にっこりと微笑み、おはようございますと挨拶をしてくる。いつもと変わらぬ笑みに少しほっとする。

「お仕置き?」

「そう。今日は柊ちゃんにお菓子や食事を用意してもらってるんだけど、柊ちゃんて自分の作った料理やお菓子食べて美味しいって喜んでる顔を見るのが大好きなの。それを見せてあげないっていうお仕置き。かなり堪えるらしいのよね」

 そう言った美咲はスマホを取り出し傍らの執事服の彼に渡すと、軽やかに香緒里の元にやって来た。そして香緒里の腕に自身の腕を絡めてくる。


 パシャリ。


「何故写真を」

「もちろん柊ちゃんに自慢するためよ」

 そう言って困惑する香緒里の腕を引いて扉の向こうへ歩いていき、スマホを受け取る。

「ありがとうキース。でもね、色々と飛ばしすぎよ。オリちゃんが混乱しちゃうじゃないの」

「…自己紹介したつもりだったのですが…」

「貴方、真面目で優秀だけど言葉が足らないわ。それに今は要らない情報が多い。オリちゃんは私達のこと何も知らないのに龍神とか言われても何それ…ってなるでしょ」

 美咲はキースを窘めるように言いながらスマホを操作する。普通の自己紹介のつもりだったらしいキースは困り顔で肩を落としていた。因みにオリちゃんとは香緒里の事だ。何故か谷崎が呼び始め、あっという間に学校中に広まった為美咲からもそう呼ばれている。

 美咲が言葉を終えると同時にそのスマホからLINE通話の着信音が鳴りはじめた。「素早い反応だ事」と楽しそうに画面を少し眺めてから、スピーカー通話をはじめる。

『ひどい!ずるい!横暴!』

 ガッシャガッシャと金属がぶつかるような音と共に谷崎の声が響いてきた。

「心外だわ。わざわざ私服のオリちゃんを見せてあげたのに」

『本人ここに連れてきてよーぅ!写真より動く本人がいい!ていうか写真撮るならオリちゃんだけにしてよ!美咲だけツーショ撮るとか羨ましい妬ましいずるい!』

「うるさいわね。厨房には連れていかないしこれから大事な話するんだから切るわね」

 そう言って容赦なく通話切ると、直ぐに電源まで切る。

「お仕置きなんだから、このくらいしないとね」

 呟きと共にとても楽しそうに笑う。

「…色々と、質問してもいい?」

 なりゆきを見守っていた、というかどうしたらいいかわからなかった香緒里がおずおずと尋ねると、もちろん、の答えが返ってくる。

「今日は腰を据えて出来る限り説明するわ。柊ちゃんは言いたくない事もあるみたいだけど、それも話した方が良いらしいから。ただ、最初に一つ、こちらからも質問させて欲しい」

 美咲はそう言うと真剣な顔つきになり、香緒里の両手を取る。

「聞けば、危険を伴う情報もある。酷く悲しい話もある。本当なら知らずに過ごした方が幸せに暮らせる話ばかりよ。それでも、私達の話を聞いてくれますか?」

 真剣な美咲の言葉に、踏み込んでは行けない領域に来てしまった気がして、心臓が早鐘を打つ。心の何処かで聞かずにいた方がいいと警鐘を鳴らす声がする。でも、と香緒里は思う。

 生来、香緒里は好奇心旺盛で知りたがりだ。

 この1週間、傍で見てきた谷崎に、興味が湧いている。

 変態ぶりに引く事も多いが、時々見せるふにゃっとした笑顔と1度見た悲しげな顔が忘れられない。何だか気になる。知らない方がいいなら、とは思うものの、知らずにいたら後悔するとも思うのだ。

 正直、否定したい。

 けど、惹かれている。

 だから、知りたい。

 そんな理由で?と思わないでもないが。

「正直、少し怖い。でも、聞きたい。私、知りたがりなんだ」

 真剣に伝えた声は少し震えていた。その言葉を聞いた美咲はとても嬉しそうに笑った。

変態だし、いやでも、まさかそんな、くらいの気持ちでいる香緒里はもう少し彼の情報欲しいなって気持ち。

知りたがりさんなのです。

それで失恋した事もある香緒里です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ