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真眼と翡翠  作者: 島りすた
接近遭遇
4/10

予期せぬ事態

だんだん長くなってきました。

 正直、あの変態が担当教師で本当に大丈夫なのか不安だったが、教師としては優秀な人物なのだと思えた。

 見ていてわかりやすく、ユーモアを交えて楽しい実験化学。だが危険のないよう細心の注意を払っているのもよく分かった。

 生徒からも慕われているようで、休み時間には「柊ちゃん先生」と寄ってきてお喋りしていく子が多かった。

 その流れで香緒里にも様々な質問が飛んでくる。

 彼氏はいるの?とか、先生になるの?きっかけとかある?とか一人暮らし?とか。

 一つ一つ丁寧に答えながら、顔の傷には触れないんだな、と思う。聞きたいけどなんとなく聞けない、と思っているのはわかったがあえてこちらから言うのも違う気がした。


 昼休みには職員室で他の先生方と持参のお弁当を食べ、会話を楽しむ。

 谷崎は相変わらず名前で呼べと強要してくるが、無視だ。

 ひどい!でもその目がシビれる!と言ってくねくねしている。

 気色悪い動きはやめてくださいとお願いするがまだくねくねしている。

 本当にこの変態どうしてくれようかと考えていると、職員室に1人の生徒が「失礼します」と言って颯爽と入ってきた。

 谷崎が担任をしている2年1組の生徒で、生徒会長だと聞いている。

 名前は木島美咲(きじまみさき)。ボブカットのお人形さんのような大変な美少女で、可愛らしい顔なのだが意志の強そうな眼をしているせいか、可愛い、というより美しい。

 彼女は入ってくるなりニッコリと笑み、「柊ちゃん、ちょっといいかしら?」と谷崎を呼ぶ。

 美咲の表情を見た谷崎は一瞬で青ざめ、冷や汗を流した。

 彼には美咲の表情は笑顔とは映っていないらしい。

「あの、えっと、美咲さん?ちょっと、落ち着こう?」

「落ち着いてるわ。私が何を言いたいのか、わかるわよね?」

「わかってる!わかってるから!」

「一応、そっちから言うまで待とうかとも思ったのよ?でもそんな気配がないから来たの。じゃあ、どういうことか説明してくれる?バレないとでも?」

「樹が夕飯前にジャンクフード食べるの美咲が嫌がるのは知ってたけど俺が食べたくて無理矢理付き合ってもらったっていうか本当に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」

 土下座した。

 座っていた椅子から飛び跳ねるように降りてそのまま流れるように土下座した。

 正直他の全員が置いてけぼりだ。何が起きているのかわからない。

「先生方、お騒がせして申し訳ございません。柊ちゃんとウチの弟が仲が良いみたいで、ちょっと。ちゃんとバランスを考えて食事を作っている私としては許せない事態でしたので」

 土下座している谷崎をチラリとも見ずに、香緒里を含めたその場にいる呆気に取られている全員に頭を下げる美咲。

 なんだろう。この2人は付き合ってるのだろうかと疑ってしまう状況だ。教師と生徒なのに。

「あ、私と柊ちゃんは別に付き合ってるとかそういうのはありませんよ、香緒里先生。誤解なきよう」

 こちらの心を読んだようなタイミングで訂正される。

 女王様と下僕だものねぇ、という小さな呟きが先生方の誰かから発せられたのがかろうじて聞こえた。

 そういえば美咲は女王様とか女帝とか言われていると、生徒達がお喋りして行ったような覚えがある。

 それにしたって上下関係おかしくないかと思うのだが、美咲を見ていると納得してしまった。


「もう1つ、あるわよね?」

 美咲がニッコリ笑顔で谷崎を見て言った時、わかってしまった。

 谷崎が青ざめたこの笑顔はとても怖い怒りのオーラを纏っている。見ているこちらまで震えが来るようだ。というか実際に震えている先生もいる。

「それについては、今はまだ…予期せぬ事態だったとしか」

 谷崎は土下座したままボソボソと答えた。

「まあいいわ。後できっちり聞かせてもらいます。では先生方、お騒がせしました」

 そう言うと美咲は颯爽と去っていった。

 土下座したままだった谷崎はゆっくりと身を起こし、疲れた顔をしている。

「嵐が去った…本当に…カンが良すぎて困る」

 ボソリと呟いて椅子に座り直し、頭を抱えた。

 何が何だかよく分からないが、微妙な空気を払拭しようと他の先生方がお喋りを再開しはじめる。

 香緒里は先生方の話を聞きながら、考える。

 美咲は不思議な少女だった。

 妙に迫力があり、時に年上のような気さえする。

 先生方は美咲と谷崎を『女王様と下僕』と言っていたが、本当にどういう関係なのか興味が沸いた。


『知りたい』かもしれない。


 能力が発動する前に1人にならなければと思い、トイレに入るが眼に熱が集まりそうな感覚はくるのに、そのまま熱が霧散していく。

 こんな風に能力が発動しそうなのに発動しない、というのは初めてだった。何故発動しないのかもわからない。

『知りたい』事が『わからない』という初めての事態に、混乱した。

 朝、暴走しかけたのからして訳が分からない。

『わからない』事が、多すぎる。

 何が起きているのだろうか、と。不安な気持ちが、胸に広がっていた。




 放課後の屋上で、柊は寝転がって空を見ていた。

「本当に、予期せぬ事態だったんだ」

 ポツリと、何処か悲しそうな表情で呟く。

「それを説明して、と言っているの。貴方でも『予期』出来ない事があるとは知らなかったわ」

 柊の横で座る美咲も空を見上げながら言う。

 そこまで万能じゃないよ、と柊は苦笑する。

「そもそも、全てを『予期』出来るようなら、俺達は『ここ』には居なかっただろう?」

 柊の言葉に「それもそうね…」と言って目をつぶる美咲も、とても悲しそうな表情になった。

「シンガン持ちって皆、厄介な事情抱えてるわねぇ」

「シンガン持ちだから、厄介な事になっちまうんだよ。特に、人間は」

「人間なのは関係あるの?私は貴方以上に厄介で難解な事情抱えたシンガン持ちなんて知らないわよ?」

「俺の場合は特殊すぎてシンガン持ちだからってのは関係ないな。人間の場合は…まあ、一言で言うとバランスが悪いんだ」

「バランス、ねぇ。それで?私が聞きたいのはそこじゃないんだけど?」

 悲しそうな表情のまま、話を進めていた2人だったが不意に美咲の表情が変わる。少々怒りが混じっていた。

「何故、香緒里先生に中途半端な封印をしたの?」

 数秒、沈黙が落ちる。

 柊はゆっくりと起き上がると自分の右の手のひらをじっと見つめて、口を開く。

「本当はさ、会うはずはなかったんだ。 彼女の兄に頼んで、会わないように注意してた。俺達と会ってしまったら、彼女のシンガンが暴走するって、知ってたから。でも、彼女がここに、来てしまった。最近忙しくて、彼女の兄から情報を聞き出してなかったから」

「彼女がここに教育実習生として来るのは聞いていなかった、知らなかった、と?」

「そうだ。知らなかったんだ。…本当に…いつも肝心な時に俺は抜けてる。…香緒里ちゃんを守りたかったのに。ずっと後悔してたんだ。初めてあの娘に会った時、ちゃんと守れなかった事」

 そこまで言って、一度深呼吸をする。新鮮な空気で肺を満たし、心を落ちつける。そして主の質問の答えを言うべく、美咲を見る。

「今朝、香緒里ちゃんと目が合った。そして同じ能力を持つもの同士の共鳴が起こり、俺自身には大した影響は起きないけれど彼女のシンガンは暴走を始めた。だから、封印を施した。言い訳にしかならないけど、中途半端なのは突然だったからとしか言い様がない。彼女にとってキャパオーバーする情報だけを、流れ込まずに霧散するようにしか出来なかった」

「そうして、私達の正体は知られないようにした、と?」

「ああ。シンガンで得る我らの情報、知識は人の身には荷が重い。制御の修行をする家系以外のシンガン持ちは、確実に精神が壊れる。それだけは、避けたかった」

 美咲は柊の言葉を聞き、暫く押し黙って難しい顔をしていた。

「今は、色んな事が重なりすぎているものね」

 漸く、小さな声で呟く。

 そして立ち上がると柊に『命令』する。

「今の所、封印はこのままで。おそらく彼女も暴走しかけた事は『何が起こったのか』知りたいはず。シンガンによる知識ではなく、貴方からの言葉で知るのであれば彼女は無事よね?であれば説明はきちんとする事。内容は任せる。それから…今の彼女は貴方の魔力の痕跡がハッキリわかる。『敵』に襲われる可能性もあるので責任持って守りなさい。出来るわね?我らが剣」

「必ずや。我が君」

 柊は片膝をつき、右手を胸に当てて礼をする。

 それから立ち上がると足元に大きな花が咲き、淡い光を放ちながらその薄紅色の大きな花弁が柊を包み込むと、すうっと消えていった。

最後あたりを入れるか迷って、結局入れましたが謎だけ増やした気がして申し訳ない気持ち。

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