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いらっしゃいませー。

屋敷の前でリリーナとプリム、そしてクラウスさんが一列に並び、こちらを寂しそうな目で見ている。手には多くの荷物を抱え、どこか旅行にでも行くような格好だった。


「雄太さん、ユイ。おめでとう。幸せになってくださいね。」


「ボクが雄太をお婿さんにしてあげるって言ったのに・・・。」


リリーナは笑顔で祝福の言葉を述べ、プリムは下を向いて残念そうに言った。


「プリム、あなたには素敵な人が現れますよ。大人になったら、ね。」


「でも、ボク、雄太がいい。」


「わがままを言ってはいけません。」


「・・・リリーナ様、そろそろお時間です。」


「すみませんクラウス。もう大丈夫です。では、戻りましょう、私たちの元いた世界へ。・・・雄太さん、ユイのこと頼みましたよ。」


「・・・バイバイ。」


「お世話になりました。」


3人はそれぞれに頭を下げ、振り返ると闇の中へと歩き始めた。





ちょ、ちょっと・・・


どこに行くんだよ。リリーナ! プリム! クラウスさん!







みんな、待って! 行かないでくれ!!


俺は必死に手を伸ばした。


そして・・・






――――――


「うぅっ、待って、行かないで・・・。」


暗闇をかき分けるように手を動かしていた。すると。




ジョリッ。




非常にザラザラとした感触が手の平に伝わる。


「い、いやん。」


さらに、何とも艶めかしい男の声と鼻息が顔へと降って来た。


な、なんだ・・・?


俺はその正体を確かめようと恐る恐る目を開ける。


「雄ちゃん。いくら私が素敵だからって、乙女の顔をいきなりまさぐるのはやめて。恥ずかしいから。」


「ヒ、ヒデちゃん。顔! 顔、近い。それと頭の後ろに何か温かくて柔らかいものが当ってるんだけど・・・。」


うっかり起き上がろうなものなら俺の口とヒデちゃんの口が合体するし、頭の下にあるものについては絶対に考えちゃいけないと脳が警報を鳴らしていた。


「雄ちゃん。大丈夫? ちゃんと私のことわかる?」


これ以上ないってくらい君のことを認識できているよ。だからやめて。近付いて来ないで。こ、来ないでったら。


「ヒ、ヒデちゃん!? それ以上はやばい。教育上よくない状態になっちゃう。」


俺がムキムキマッチョで見事な青ひげの男と接吻する場面なんて、プリムには見せられない。それに、もしヒデちゃんの乙女キッスを受けたら、俺はもうこっち側に戻って来られない予感がする。


俺は口を最小限に動かしてヒデちゃんに離れるよう必死にお願いした。


「・・・あら、ごめんなさい。私ったら雄ちゃんのことが心配で心配で。」


どうにか気づいてもらえ、ヒデちゃんはモジモジしながら背中を伸ばす。俺はその瞬間を逃がさず亀のように頭を体の方に引っ込めながらその場を脱出した。




「こ、ここは、店の事務所?」


改めて周囲の状況を確認する。見たことのある机と椅子、毎日使っているラベルの発行機やパソコンなどなど。


そうだ、何となく思い出してきた。俺はヒデちゃんにプロレス技をかけられたんだった。そして、すぐに気持ちよくなった。


「でも、あの女の子も悪いのよ。雄ちゃんのお嫁さんになるとか叫ぶから、私ビックリしちゃって。思わず手が出ちゃった。」


そういえばプリムの姿が事務所に見えない。あいつ、どこいったんだ?


「ヒ、ヒデちゃん? その女の子がいないみたいなんだけど・・・。」


イタズラ好きのあいつのことだ。目を離すと何をしでかすかわからない。


「オロオロしないの。まるでお父さんみたいよ。そんなに心配しなくても大丈夫。そこのドアを少し開けて売り場を見てごらんなさい。」


「へ? それってどういう・・・。」


「いいから。」


ヒデちゃんはそれ以上何も言おうとしない。俺は『もしかして、プリムが売り場に迷惑をかけているんじゃ・・・。』という不安を覚えながらドアをそっと開けた。


――――――


「いらっしゃいませー。」


目に飛び込んできたのは三角頭巾、エプロンを付けて売り場を忙しそうに走り回るプリムの姿だった。


何? あの愛らしい動き。


あ、お婆さんに話しかけた。・・・え!? お前がその重そうなカボチャ持ってあげるの?


「うんしょっ。うんしょっ。はい、お婆ちゃん。ここに置くね。」


プリムは精一杯背伸びをしながらレジのあるテーブルにカボチャを載せた。


「ありがとうお嬢ちゃん。まだ小さいのに働いて偉いのねぇ。」


「うん。ボク、働いて大人の女になるんだ。ヒデがね、『この国で大人と認められるには働かないといけない。』って教えてくれたから。」


「そう、お嬢ちゃんは早く大人になりたいのね。」


「大人になって雄太のお嫁さんになるんだ!」


「あらやだ。まぁ~。好きな子のためなのね。素敵、応援してるからね。」


「うん! お婆ちゃんもまた買い物に来てね。今日はありがとうございました。」


プリムはエプロンの裾をつかんでお婆さんにお辞儀をした。


――――――


「ヒヒヒ、ヒデさん? これは一体どういうことでしょうか?」


イタズラ好きで家の仕事はロクに手伝わないプリムが、あのプリムが健気に一生懸命働く女の子になってる。


「ふふっ。恋の力って偉大でしょ? 雄ちゃんが寝ている間にいろいろとお話ししたの。いろいろとね。それに、あの子のおかげで今の状況が大分理解できたわ。」


うう、プリムに何て言ったんだよ。それにあいつからどんな話を聞いたんだか・・・。


「雄ちゃん。」


突然、ヒデちゃんはそれまでの笑顔から一転して真剣な目つきでこちらを見る。


「な、何かな・・・。」


その顔はこの店の責任者としてのものではなく、以前自分が営んでいたスナックのカウンターの向こう側に立っていた時のものだった。


「もう一度、必要でしょ? 人生相談。3人の女の子について・・・ね。」

すみません、更新大幅に遅れております。


7月1日から更新再開予定です。


まことに申し訳ありません。

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