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紅⇔黒

作者: 傘

―≪零≫―


瀬戸紅葉と言う名前の16歳の少女が、4年以上続いた地獄から解放されたのは初雪の降る日の事だった。

通報を受けてやってきた3人の刑事によって助け出された瀬戸紅葉は、全身怪我だらけだった。

しかし彼女は地獄から助け出されたのだ。

4年以上耐え続けた痛みから解放されたのだ。

瀬戸紅葉はそれを幸せだと思っていた。

身寄りのいなかった彼女は、病院を退院後、西条百合子という刑事の元に引き取られた。

西条百合子は瀬戸紅葉を助け出した刑事の一人だった。

瀬戸紅葉は、男性恐怖症を地獄で植えつけられた。

未婚で一人暮らしの西条百合子の家は、瀬戸紅葉にとってとてもいい家だった。


しかし西条百合子の家には、一匹の鬼がいた。



―≪壹≫―


瀬戸紅葉は学校に入っていない。

だから平日の日中は部屋の掃除や読書などをして過ごしていた。

今日も一通りの掃除をして、西条百合子が作って置いてくれた昼食をとった。

昼食の後、瀬戸紅葉は二階に上がって行った。

西条紅葉の家には『開かずの間』がある。

開けるなと言われているだけなのだが。

瀬戸紅葉は『開かずの間』の前に来て中に向かって話しかけた。

「こんにち『黒』さん」

「ん。紅葉か」

中から返事が返ってきた。

彼は瀬戸紅葉に向かって『黒』と名乗った。

瀬戸紅葉にとって『黒』は唯一会話ができる男性だろう。

姿が見えないから大丈夫なのかもしれないが、しかし彼の声は安心する。

細い声なのに弱くはない、強いのに儚げな彼の声は、瀬戸紅葉を安心させるのだった。

「掃除は終わったのか?」

「はい。隅々までできました」

「昼食はとったのか?」

「はい。とてもおいしかったです」

「今日は何がしたい?」

「今日は漢字がいいです」

「わかった」

『開かずの間』の扉の下にある隙間から、一枚の紙が出てきた。

漢字の教材のプリント。

『黒』は瀬戸紅葉の先生だった。

何でも知っていて、とても優しい先生だった。

「糸へんにカタカナの『エ』というこの漢字。どこかで見たことがあります」

「それは君の名前に入っている『紅』という漢字だ。意味は濃い赤」

『開かずの間』の前での勉強会は、学校に行って無い瀬戸紅葉にとってはとても嬉しい物だった。



「ただいまー」

家主である西条百合子が家に帰ったのは、午後7時を少し過ぎた頃だった。

「お帰りなさい。百合子さん」

出迎えてくれた瀬戸紅葉の手に、ビニール袋を手渡す。

「これはなんですか?」

「本だよ。ラノベだけど。貰い物だから」

瀬戸紅葉の顔が明るくなった。

この子はとても可愛いと、西条百合子は思った。


リビングのテーブルに座った西条百合子の正面に、瀬戸紅葉が座って夕飯を食べる。

瀬戸紅葉はさっきから、読んだ本の話をしてくる。

とても生き生きと語っている瀬戸紅葉は、とても可愛いと思う。

最近はほのぼのとした異世界物を呼んでいるらしい。

こうしていると、瀬戸紅葉が普通の女の子に見える。

西条百合子にとって瀬戸紅葉は、たとえ嫌われていようとも、大切な家族になっている。

彼女のためなら何でもする。

でも西条百合子は隠し事をしている。

瀬戸紅葉に隠し事をしている。

打ち明けるのが長引けば長引くほど、打ち明けた時の状況は悪くなる。

でも、瀬戸紅葉のこんな笑顔を見せられると、打ち明けられなくなる。

この笑顔を、二度と泣き顔にしたくない。

だから、守り続ける。

守り続けてやる。



瀬戸紅葉は風呂から上がって、今日は寝ようと部屋に向かった。

瀬戸紅葉の部屋は二階の『開かずの間』の正面にある。

「おやすみなさい。『黒』さん」

少しふざけて、冗談のつもりで言ったそのセリフに、

「おやすみ。紅葉」

という答えが、『開かずの間』から聞こえてきた。

彼と向かい合って話してみたい。

もし会えるのなら、会ってみたい。

『黒』さん。

彼はどんな人なのだろう。

少なくとも『あの人』のような人間ではないだろうな。



―≪貮≫―


翌日。

西条百合子の出勤後、瀬戸紅葉は外出しなければいけなくなった。

家の外に洗濯物が飛んで行ってしまったのだ。

立った家から数mなのに、とても怖い。

外には男性がいる。

『あの人』はいない。そしてほかの男性は何も悪くない。

なのに怖い。

でも速く行かなければまた遠くに飛んで行ってしまう。

『黒』さんに頼ろうか。

でもあの人は外に出てこない。

なら私が行くしかない。

勇気を振り絞って玄関を開けると、玄関の前に飛んで行った洗濯物が置いてあった。

丁寧に重しがしてあった。


少し不思議に思った瀬戸紅葉は、『黒』に相談をしに行った。

話を聞いた『黒』さんは、

「誰かが置いておいてくれたんだろう。なかなか取りに来ないから、留守だともってチャイムを押さなかったんじゃないのか?」

と説明した。

瀬戸紅葉は納得してしまった。

やはり彼は何でも知っている。


その日の夜。瀬戸紅葉は不思議な夢を見た。

歩こうとしても歩けない。足が動かないのだ。

そうこうしてるうちに後ろから『あの人』がやってくる。

必死になって逃げようとしても、一歩も動けない。

「助けて」と、必死に叫んでしまった。

するとどこからか伸びてきた手が瀬戸紅葉がの頭を撫でた。

とても安心した。

安心した気持ちのまま、瀬戸紅葉は目が覚めた。

夢の内容は覚えていなかった。



―≪參≫―


今日は休日だった。

その日の朝に西条百合子に

「服を買おうか」

と言われて、今日こそ本当に外出することになった。

昨日はあんなに怖かったのに、今日は不思議と楽しみだった。

出かける前に『開かずの間』の前に来た。

「『黒』さん。今日は服を買いに行くことになりました」

「嬉しそうだな」

ばれていた。

「可愛い服を選んでもらえ。紅葉は可愛いから、何来ても似合うとは思うけど」

「えっ、あ、うぅ。行ってきます」

「いってらっしゃい」

いきなり褒められて戸惑ってしまい、逃げるようにその場を離れてしまった。



西条百合子に連れられて行った店は、とても高級そうなお店だった。

西条百合子がいろんな服を見ながら嬉しそうに悩んでいる。

瀬戸紅葉も色々な服を試着することができた。

やっぱりこういうのは嬉しい。

結局かなりの量の服を買うことになったが、西条百合子は買う服が一着増えていくごとにとても嬉しそうだった。


家に帰って夕飯を食べていると、

「明日はどこかに遊びに行ってみようか」

と言われた。

「じゃあ動物園に行きたいです」

反射でそう答えていた。

よっぽど私が真剣だったのか、西条さんは笑ってしまった。

この幸せが好きだった。



―≪肆≫―


翌日。

朝から動物園に行った。

16歳になって動物園にはしゃぐのは少し恥ずかしいけれど、とても楽しい。

いろんな動物が見れるのは楽しい。

久しぶり過ぎて、初めてと感覚が同じだった。


動物園のレストランで食事をしてる最中に、

「『黒』さんも来れば」

とつぶやいてしまった。

「え?」

と、西条さんに聞き返された。

「紅葉ちゃん、ににと話したの?」

「にに?」

田土亖たづちにに。『開かずの間』の住人だよ。『黒』って言ってるかもしれないけど」

「『黒』さんとは話しました」

「亖が男子って知ってた?」

「はい。知ってます」

西条百合子が驚いてる。

「何で驚いてるんですか?」

「紅葉ちゃんが男子と話したんだもの。それに亖は女子と話したんだもの」

「え?」

『黒』さんが女子と話すと驚くのだろうか?

「亖は紅葉ちゃんと反対で、女性恐怖症なんだよ」

『黒』さん、亖さんが女性恐怖症。

私と反対。


家に帰って、『開かずの間』の前に行く。

「聞きました。百合子さんに」

「そうか」

それだけで伝わったらしい。

「‥‥‥」

「‥‥‥」

だからって、伝わっただけじゃ何も変わらない。

変えられない。

「入って、いいですか?」

勇気を振り絞って、消えそうな声でそう言えた。

「どうぞ」

そう返事が返ってきて、扉の鍵が音を上げて開いた。

ドアが開いていく。

「はじめまして」

中から出てきたのは、名乗った名前の正反対な白い肌の、同い年くらいの男子だった。



―≪伍≫―


部屋の中に入れてもらって床に座って向かい合う。

「‥‥‥」

「‥‥‥」

会えた。会うだけなら大丈夫だった。

でも話す内容が出てこない。

「おかえり紅葉。動物園はどうだった?」

亖さんが口を開いた。

「楽しかったです。とっても」

眼を見て話せた。

男性は苦手だ。だけど亖さんは何故か大丈夫だ。

「髪にゴミが付いてる」

「え?どこですか?」

「ここだよ」

亖さんが手を伸ばしてきた。

次の瞬間体が反応していた。

後ろの壁まで後ずさって、ビクビクと脅えている。

「あ、」

ににさんは指をさすためか、ごみを取ってくれようとしたのだ。

分かってる。分かっている。

なのに何で?

亖さんが戸惑ったような顔をしている。

亖さんを傷つけてしまった。

亖さんは『あの人』じゃないのに。

「ごめんなさい」

「いや。こっちも悪かった」

分かっていたはずなのに。と亖さんは言った。

「じゃあ紅葉」

「あ、なんですか?」

「今から頭に触る」

そう言った。

分かっていれば大丈夫だろうか。

亖さんの手が、頭に向かって伸びてくる。

大丈夫。亖さんは悪い人じゃない。

亖さんの手が私の頭に触れた。

あれ?

大丈夫だ。

安心する。

でもこの感覚は二回目だ。


ににさんの手が、私の頭から離れそうになる。

「あのっ!」

「ん?」

「もう少しだけ、」

これは恥ずかしかった。

でも亖さんは嫌な顔一つせず、優しい顔で頭を撫でてくれた。

私は、世界一幸せだ。



―≪転≫―


「ぎゃぁぁあああああああああ!!!!」

体に走った激痛で無理矢理目を覚まされた。

「おい。何勝手に寝てんだぁ?」

『あの人』が、手にスタンガンを持っている。

私はあれで起こされたのか。

痛い。体中が痛い。

「おい!さっさと立てよぉ!!」

「ぐわあっ!!」

鳩尾を蹴られた。

口からどろどろとした何かが出てきた。

夢じゃないんだ。これは。

百合子さんは?亖さんは?

ここにはいないの?

「立っつってんだろぉ!!」

「ああああああああ!!!!!」

頭をぐりぐりと踏まれる。

「ごめんなさいごめんなさい!やめてください!!」

「じゃあ立よぉ!」

思いっきり蹴飛ばされた。

痛いのを我慢しながら、よろよろと立ちあがる。

「ふんっ」

「があぁあ!!??」

膝をバットで、思いっきり殴られた。

ボキッという音が自分の足から聞こえる。

もう嫌だ。

助けて。

だれか。

「‥に‥にさん‥‥」

「紅葉?」

いつの間にか目の前に『あの人』が白目をむいて倒れている。

その上には真っ白な肌の、同い年ぐらいの男子がいた。

その男子は手を伸ばして、私の頭をぎこちなく撫でる。


この感触は、三回目になるな。

私は、幸せです。

今回は[紅⇔黒]を読んでいただきありがとうございました。

20%本命で80%後付の短短編でした。

ツイッタ―でフォロアーさんがアップした絵のシーンを使いたくて書いた短短編です。

かなり不必要な部分がありましたが、別の題名で続きを書くつもりなのでそちらも読んでくれると嬉しいです。

傘として本気でアップするのは初めてなので、コメントぜひお願いします。「面白くなかった」でも構いませんが、できれば改善点などを書き添えてくれると嬉しいです。


分かりにくいかもしれないんですが、田と土と亖を合わせて黒です。

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