第二話 ~昔話~
昔話をしようと思う。
俺がまだ高校生の時、部活でバレーボールをやっていた。
うちの高校のバレー部はそれほど結果も挙げていない、所謂学校の底辺部だった。
高校に入学したばかりの俺は何かしら運動部に入っておけばいいという思考の元、楽そうなバレー部を選び入部した。
中学の時はこれまた楽そうだという理由で卓球をやっていた。実力はまあまあだった。
この部の中には俺と同じ思考回路の奴が結構いて、そういう奴は入部してすぐ俗に言うユーレイ部員になったり、顧問の来ない日だけ来たりとそんな奴ばかりだった。
そんな訳でバレーを始めた俺だったが、入部するとなんとバレーの才能が開花してしまい高校1年生でスタメンの座を勝ち取った。
まあ先輩の実力があんまりだったってこともあるだろうけど…
何かができるということはは楽しいもので俺はすぐにバレーにハマっていった。
そんなこんなだった部活の顧問こそが”平井励”だった。
そして今俺の目の前にいる男と同一人物であろう男だ。
「平井、励ですか...?」
「ああ」
同姓同名なんて中々の確立だぞ。平井って苗字も励なんて名前も結構いそうだけど…
俺が高校を卒業した時、歳は確か29ぐらいだったから、30半ばぐらいってのも当たってる。
顔もどことなく、いやかなり似ている気がする。どうして気づかなかった?
...外が暗かったからか。
「そうなんですか」
これはストレートに言うべきか?もしかして平井先生ですかって。
「仕事は...何してるんですか?」
ここは焦らず一旦職業を聞くのが先決。俺の思い違いの可能性もある。正直そうあってほしい。
「高校で理科を教えてる」
はい。俺の推理は当たってました。
正直この人は一番会いたくて、一番会いたくない人だった。
昔話の続きをしようと思う。
俺がバレー部に入部して約一年半。
俺らの代は高校二年に上がり、夏の大会を機に高三の先輩達は受験勉強のために引退した。
それと同時に俺ら高二の代が本格的に始まった。
俺は高一からスタメンだったから何ともなかったが、ほかの奴は初めてのスタメン、初めての試合とみんな緊張していたのは俺でも分かった。
そんな訳で俺らの代が始まって初めの内はあまり連携が図れずグダグダだった。
まあ最初はこんなもんだと俺も思っていた。が、それは俺の、そして顧問の”そいつ”との二人の計算違いだったのだろう。
結果から言うと、ある一人を除いていつまで経っても誰一人として上達しなかった。
ろくにプレーできるのは俺と久乃って奴だけだった。つまり”俺ら頼み”だった。
そして気づいた。他の奴らは連携が図れないんじゃなく、それができない程にみんなが下手だった。
それも当然だと思った。そもそもこの部は底辺部。
俺と同じ理由で入部した奴が多い部で俺ほどとはいかなくとも、普通レベルのプレーを求めるなんてまず不可能。
ここで言えばある意味ではたまたまセンスがあった俺が異端な存在とまで言える。
そんな俺がスタメンに選ばれているのもまた可笑しいことで、中には周りに流されず高一の時から真面目に練習をしていたのに、俺なんかよりも何百倍も真面目に練習していたのにスタメンになれなかった奴もいた。
可哀そうだと思ったが、こんな底辺部でならスタメンをとれるという甘い考えをそいつも持っていたんだとも思った。
プレーのできた俺と久乃。
俺はレフトポジションで久乃はセッターだった。
久乃が他と違って上達したのは、スタメンが発表され久乃がセッターに選ばれてから、俺が自分好みのトスを上げてもらえるよう久乃を特訓したからだ。
そういう観点で見ると、久乃は普通にプレーできたというより、俺との間でだけプレーできたということになる。
「平井先生、ですよね?」
聞いてしまった。
「...緒方だよな?」
「はい」
向こうもやっぱ気づくよな、そりゃ。
「言いたいこと、話したいことはたくさんあるけど今は寝よう。明日話そう」
時間は気づけば11時半。会ったのが10時くらいだからそれからまだ1時間半しか経ってない。
まあ言ったって教師だし学校にも早く着かないといけない感じか。
「はい。...飯、食わないんですか?」
寝るといってもまだ夕飯、この時間帯で言ったら夜食を食べてない。
「飯は学校で食べてきた」
「そうですか」
俺は飯食ってないんだけどな。
まあ教師って仕事も大変だって聞くしな。
飯すらも学校で食うのか。流石ブラックって言ったところか。
「お前何処で寝る?」
「泊まらせてもらってるしソファーでいいですよ」
「わかった」
「電気消すぞ」
「はい」
飯も食わず、風呂にも入らず、歯も磨かずただ寝る。それだけ。
人の家で寝るのは地味に初めてだ。それに俺、寝相悪いからソファーから落ちそうで怖い。
「...」
寝るか。