プロローグ 桜色前奏曲 -side:西崎-
この世界は、今も昔もあまり変わらない。
いつだって上を見上げれば、どこまでも広がる空がそこにある。
いつだってこの街を見渡せば、人が急ぎ足になり右往左往している。
風が吹く。木々が揺れる。花が舞い散る。鳥が鳴く。
いつもと変わらない、ごくごく普通の在り来たりな光景。何の変哲もない、平凡な日常。
…僕は、こんなつまらない世界が『大嫌い』だった。
こんな在り来たりな日常を変えたくて、常識はずれな生活を送りたくて、僕は世界に一つしかない『魔法学園』に入学することにした。
世界に一つしかない学園生活がどんなものなのか、そんなことに興味を惹かれた僕の頭も、なんだかんだ言いながら随分在り来たりなものだと思う。
『魔法』。かつてこの世界には無かったもの。世界を変えた、大きな力。
……この国が禁じたはずの戦争を起こし、国が半壊した一番の元凶。
そんな力が学べるということに興味を持つ人なんて、僕以外にもたくさんいるはずだ。
そんなことを考え歩いていると、いきなりビュッと風が吹いた。木の葉が擦れ合う音が耳を撫で、桜吹雪が空を舞う。僕はそれまで耳に掛けていたヘッドフォンを首に掛け直し、不意に空を見上げれば、雲ひとつ無い晴天が、そこには広がっていた。
…今日から、新しい学園生活が始まるのだ。
__それが、これから始まる長い物語の前奏曲だということに、その時の僕は気づかなかった。