不良遊戯
初めての作品です。変なとこや間違ってると所は教えてもらえると嬉しいです。
桂木桂はイライラしていた。今日は朝から体育祭の練習が二時間続きだった、ただでさえ体育会系ではないのに元々少ない体力はすずめの涙と同じ量だろう。
そして三時間目は情報でムカつくことに情報を担当する黒屋の授業だった。(イライラの八割はこいつだ。)何がムカつくって黒屋は人を良く小馬鹿にするのだ。だから俺はこいつが嫌いだ。というか、ちょくちょく争いになる。だが今日は疲れた。非常に疲れてるので何もせずにいた。
PCは生徒も使うのでいつもPC室でやるのだ。PC室はエアコンが効いており、二時間も校庭という砂漠にいた俺たち生徒にとってはオアシスどころじゃない天国だ。なので皆PCをやる振りしながら寝ている。いや、咲真依音は起きて課題に取り組んでいる。真面目な奴だ。依音は見た目こそチャラオって感じだが真面目なんだよな。さてと、俺もPCの電源は入れたが、俺に取ってはこんな授業簡単だからな。授業終わるまで寝ようと決めた時だった。
「おいおい君達、さっき言った文がまだ誰も出来ていないぞ。体育で疲れたなんて小学生みたいな言い訳はするなよ? 咲真みたく見た目チャラくても真面目にやれ」
そう言って黒屋は立ちながら顔をニヤニヤさせながらまるでワイングラスを人差し指と中指で挟むような感じで手のひらを顔の近くにやって溜息をついた。まあ、こんなのいつものことなので皆聞き流すのだが、疲れている奴らにそんな挑発をするのはいつもの事とはいえ、イラっとくるのは火を見るより明らかだろう。それに去年の体育祭で教師対抗リレーの時バトン渡されるまで立っていただけで熱中症になった奴に言われたくない。後、黒屋でも依音が真面目なのにチャライとは思ってたんだな。
そんなことを考えながら眠りに就こうとしていた。
「ああ、それと桂木ぃ、教師側からは生徒の画面の中が見えるんだがな。自分からは何もしてないのが丸見えなんだよ!」
……なんか、騒いでるけどとりあえずスルーだな。
「だからお前の授業課題増やすだけじゃあ少ないと思ったんで自分特製のセキュリティ掛けといたから。それ外してから取り掛かってくれ」
「はあ!?」
俺は直ぐにPCから課題をやろうとすると案の定セキュリティが掛かっていた。あの野郎……! 俺はキッと黒屋を睨んだ。黒屋はひぃと少し怯えながら、
「じ、自分を睨む暇があるなら早くやったほうがい、良いんじゃないか?」
チッ、今あいつと言い合っても疲れるだけ、か。分かったの代わりにとびきりのスマイルを送ってやった。
「ひいいい!」
黒屋は驚いて尻餅をついてしまった。はぁ、笑っただけなのに情けねえな。とはいえクラスの奴らも一人以外は俺がフレンドリーに笑っても青ざめるしあいつらマジ訳分かんねえよ。
しかしどうするかな、このセキュリティ解除無理だろ。
情報の教師である黒屋要は学園セキュリティシステム制作者の一人だ。まあそんな奴が作ったセキュリティを理系が得意とはいえ一般の高校生ができるか?決まっている、答えはノーだ。とはいえまた寝ようものならいじめっ子のようにまた何かしてくるのだろう。ガキ臭いことだ。
俺は仕方なくセキュリティ解除しようと試みたが出来なかった。インターネットネットは見れたので2ちゃんを見ることにした。
2ちゃんねる。日本最大の掲示板サイト。ニート、フリーター、自宅警備員、犯罪者予備軍、後は俺のような常識人が話したりする場所だ。
昼間だからかあまり興味のそそられるスレは見当たらなかった。仕方なくあちこち検索してみていた。
「ん?」
俺はふと「この洋館ガチの幽霊が出るんだけどwwww」という項目に目が止まった。別に興味はなかったがうちの近くだったのだ。何でも窓から若い青年の顔がこちらを睨んでいたらしい。釣り、かな? ほんとにいるわけがないからな。興味ないので他のスレを探そうとした。
「桂ぁ木ぃいいい!」
チッ、バレたか。おお、髪の青白さと対照的に顔が真っ赤じゃねぇか。やべえ、ミスマッチでスゲェ笑える。あんな真っ赤に怒っててもなあ。
「黒屋、てめぇが大人気もなくあんなセキュリティ掛けっから悪いんだろ」
疲れてるせいか、あいつと争うのが怠いと思ってるので出来るだけキレないようにしている。解除出来ないと分かって嬉しいのか、黒屋は小馬鹿にした顔で言った。
「ふん、自分が作ったのだから当たり前だ。お前ごときには無理だろう。」
そう言うと思ったよ、クソ屋が。だが、俺も2ちゃんをずっとみていたわけではないーーくくくっ。
「ところで黒屋、あんたまた学校のセキュリティ破ったろ」
「桂木、先生を付けろ」
ーー今更だろうが。
「……黒屋先生、またセキュリティ破ったろ」
「それが? 自分も関わってるのだから問題ないだろう?」
俺は笑いそうになるのを堪えながらある人物を待つ。
「本当にそんなこと良いと思ってんのか? しかも治してないだろ?」
「別にお前には関係ないだろう。さっきから何が言いたいんだ」
そろそろかな。
「いや、悪いことをしたらさぁーーチクらなきゃ駄目だよなって思っただけだが?」
俺は最高の笑顔で言った。
『黒屋先生―! またセキュリティ破りましたねー!』
俺の声と教頭の声が被った。そう、俺は2ちゃんを見ながら黒屋の天敵もしくは黒屋の教育係と言ったところか。その教頭にメールを送っといたのだ。
教頭はPC室の扉を思い切りガラララッと開き、
「君は教師でありながら子供のように何度も何度も言っているのにまたやって、学園長が優しくても私はそうはいかんからな」
言いながら前にいる黒屋の所まで歩いていく。黒屋は、みるみる内にさっきまで生き生きと血が通ってた顔が今はまた血の気のない顔になり、小さく悲鳴をあげてなんかゾンビみたいだな。
「さて、とりあえずセキュリティを早速治直してもらおうか」
「ま、まだ授業中なので――」
抵抗しようと黒屋はするが、空かさず教頭が口を挟む。
「では皆さん、自習でお願いします」
言い終わるとそそくさと黒屋を連れて行く。
ふう、良い事してスッキリした。
さてと、皆はPCの前で寝ているし、俺も寝たいが……。皆と一緒におネンネって感じがガキ臭くて気に入らないな。屋上でまた寝るか。あそこなら風通しも良いし何よりエアコンの風のように体に当たらないから体に悪くないしな。俺は席を立って当たり前のように出ていこうとした。
「おいおい桂ちゃん、俺も付き合おうか?」
すると爽やかに笑いながら依音は話しかけてきた。身長は百八十五センチとうちのクラスで一番だ。更にイケメンでメガネでそして成績優秀。おまけに彼女もちのリア充ときたもんだ。だが、色々あり友達、いや腐れ縁だ。
「なんだ? 言っとくがトイレじゃないぞ。それに授業課題やんなくて良いのかよ」
「そんなのは分かってる。あそこに行くんだろ?課題はもう終わったよ」
皆がいるので屋上とは言わない、ちゃんと言って良いことと悪いことが分かっている、流石優等生。
「授業サボるとかお前らしくないな」
「先生いなくて自習課題も終わってるし、暇だからついて行きたくなっただけさ」
なるほどな。俺は内心理由を聞いてもちょっと驚いた。そのくらい依音は真面目だ。
「あーそうかよ、こちとら黒屋のせいで終わってないがな」
少し皮肉を言ってみるが、
「それは桂ちゃんが悪いでしょー」
正論が返ってくる。
「チッああ俺が悪いよ!」
「あ、待てよ、桂ちゃんそうグレるなって」
「グレてねぇよ!」
軽い言い合いをしながら俺たちは屋上に向かった。
*********
俺たちは屋上のドアの前まで来て止まった。だが屋上は自殺対策かいじめ対策か分からないが鍵が掛かってる。今時の電子ロックというやつだ。普通は入れない。なので電子ロックにマイPCを繋ぎ、強制解除する。
「……桂ちゃん、黒屋のこと言えなかったような気がするんだけど」
「気のせいだろ」
俺は依音を軽くあしらいながらドアを開き屋上に出た。
「いつ来ても良い眺めだな」
「確かに良い眺めだな」
「こうして上から蟻の様に小さい生徒たちが体育してるの見ると気分が良くなるんだよな」
「おい、それ聞いてからなんか下見にくくなっちゃったじゃん! しかもそれム○カのセリフじゃん‼︎」
「わりぃー」
俺はふとさっきの洋館のことを思い出した。
「なあ、依音」
「なんだ?」
「お前幽霊って信じる?」
「幽霊? テレビから出てくる奴か?」
「それ貞子な。ほら足とかが無くて触れないやつだ」
「あー。いないんじゃね? テレビとかじゃあ特集とかやってるけど偽者だろ」
依音は話しながら屋上の柵に寄りかかった。
「何でそんなこと聞くんだ?」
不思議に思うのも可笑しくはない。うちの学園は体育祭を十月にやる。そして今は九月で肝試しとかやるわけでもないのに幽霊なんて単語が出て来たら不思議だろう。
「なんか学園の近くに古い洋館があってそこで幽霊を見た人がいるらしいんで聞いてみただけだ」
「それだけか?」
「ああ、後は特に何にもな――」
「ちょーっと待ったぁ!」
俺が話してる時に後ろからドスのきいた声が聞こえて俺は話を遮られたことより、その声の、男か女か分からないようなちょっと低めのアルトに戦慄した。瞬時に俺の背中からは汗が滲んできた。
「その話、面白そうじゃねえか、っと」
「!?」
空から降って来て俺に着地しようとしたのはやはり雛御和月先輩だったー-ってあぶねっ!オレは横に跳びギリギリで避ける。
先輩は顔は男よりなので制服で女と判断がやっと出来るようなひとだ。……何故説明したんだ、俺は。つか凄い危なかったんだが!
「チッ悪い、桂木。次は外さねぇから」
どうやら屋上についてる貯水タンクのとこから降りてきたようだ。
「いや、当てようとしたことに謝罪しようという気はないんですか?」
彼女は先輩であると共に俺にとって畏怖の存在なので敬語を雛御先輩に使っている。
「うるせえ! お前見てるとイライラすんだよ」
俺はこの理不尽さのせいで畏怖している。もうアレをされるのはごめんだ。柵に寄りかかった依音が聞いた。
「ここ電子ロックだけどどうやってはいったんだ?」
それは俺も聞きたかったことだった。流石優等生。
「ああ、それなら三年は最上階だろ? 楽だったよ」
この答えが何をどうしたのか物語っていたので俺には一瞬で分かった。だが依音は良く分からなかったらしく、
「何が楽だったんだ?」
「壁に打ち付けられてる梯子だよ、知らないのかよ」
「はあ? あんた壁登ってきたんじゃねえのかよ!」
てっきり俺はキングコングのように壁に指を突き刺してきたと思っていたが意外だ。いや梯子登るのも可笑しいし、そもそもあるのも可笑しい。驚いて敬語じゃなくなったが、だ、大丈夫だろうか。
「壁なんか登れるわけないだろ?」
馬鹿か? みたいな顔が腹立つが怖いので何も言わない。
でもムカつく以外は大丈夫そうで良かった。梯子のことは気になるが置いとこう。
「それじゃあ俺はこれで」
ドアの方にクルリと右足を軸に鮮やかに片足でターンをし、手のひらをヒラヒラさせて帰ろうとするが襟首を引っ張られ、カエルの様な声が口から漏れる。
「グエッ」
「幽霊の話だよ、お前知ってんだろ連れてけよ」
「い、行く理由はなんですか?」
ニヤッと笑いながら雛御先輩は言った。
「そんなの面白そうだからに決まってんだろ」
どうやら雛御先輩の中では決まっていたらしい。確認をしたが聞き間違いではなかった。
「俺もバイト今日ないからいけるよ、桂ちゃん!」
数少ないこの俺の友人からの言葉は俺を庇うどころかとどめを刺しに来た。だが、
「でもこれ掲示板の情報で後ろにたまたま写った電車で判断したから場所が……」
「調べろ」
「は?」
「は? じゃねえ、調 べ ろ。お前腕にいいの抱えてんだから、やれ」
俺のPCを見ながら雛御先輩は言った。
ちょうどその時、授業終了の鐘が鳴った。
「お、やっと終わったか。そんじゃ頼むわ」
と言い、屋上の扉から帰っていった。梯子使わねえのかよ。はあ、面倒くさっ。でもやるしかないか。溜息をつきながら俺は四時間目の鐘がなる前には席着かないと教室に走る依音に真面目だよなと思いながら歩いてその後を追いかけた。走るのは体育祭の時だけで十分だ。
*********
四時間目が終わると俺は飯を食いながら雛御先輩に言われた通り調べておいた。屋上では出来ないって言ったけど、やろうと思えば出来る。だが、すぐ「はい」というのは嫌だった。別に怖くなきゃあんな男女の言うことなんて俺が聞くはずがない。後はゆっくり放課後を待つだけだ。
それにしても、幽霊ねえ。俺は洋館を調べて分かったが、あの建物には持ち主がいた。それも洋館を建てた人の孫にあたる言わば正統後継者だ。他に家を持っていてそっちに住んでいるらしい。何が言いたいかだが、つまり持ち主が死んでるいわく付きではないのだ。ま、そもそも俺は信じてないけどな。
*********
放課後、俺は二年生のいる二階から一階に階段を急いでいたので一段飛ばしで降りていた。早くしないと雛御先輩をイライラさせてしまうかもしれないからだ。そして踊り場に差し掛かったときだ。俺は後ろから話しかけられた。
「あ~桂木君だ〜。そんなに急いでどこに行くの~?」
俺は踊り場の下に続く階段に足を降ろしかけていた。だが、俺は急いでるにも関わらず止まって声の主の方を振り返った。
「なんだよ、別に俺急いでないんだが」
そう言って真野水晶を見た。真野は深緑色の髪をストレートヘアにしていて、伸ばした髪の三分の一を髪と同じ色の深緑色のゴムと玉? みたいので髪を束ねている。体型は俺はそんな太ってるとは思わないんだが、本人はくびれがあまりないと言われるらしく気にしている。ホンワカする様な声にはあのゴリラとは違い癒される。
俺はある一件以来、気になっている。なんで気になるか分からないが気になるのだ。おっとりしている性格で俺が警戒心を緩められるから絡みやすいのもあるかもしれない。そんなことを真野を見ながら考えていた。
「でも和月君も今日はどっかに行くって言ってたし~それと何か関係あるのかなって思ったの~」
……真野はわりと勘が良い。本人は『天然ってよく言われるけど〜?』なんて言ってるが絶対に勘が良いのだと思っている。俺は話を切り替えることにした。
「ち、違う違う、ていうか何で雛御先輩と知り合いなんだ?」
学年も違うのだから知りあわないはずだが。
「私と和月君は~従妹なんだよ~」
マジかよ。あのジャイアン系女子と真野がか、全然似てないな。あっちの方は河川敷で拾われたのかもしれない。いや、違いない。
「全然似てないな」
「そんなことないよ~えっと目とか?」
目、か。でも目は雛御先輩はキリッとしてるが真野はパッチリしている。あんま似てない。
「つか、従妹なんだからそんなに似てなくて良いんだよ」
「あ~そっか」
と話しているうちにケータイが鳴った。誰だ俺に話しかける数少ない人との会話を邪魔するのは。見ると依音からだった。雛御先輩が掛けさせたのかもしれない。雛御先輩を怒らせると怖いし、行くか。
「悪い、俺行くわ。それと雛御先輩女なんだから止めてやったらどうだ? 確かに胸とか胸板って感じで男っぽいけどな」
俺はそれだけ言うと上から降りてきたときと同じ様に一段飛ばしで降りていった。後ろの方で真野が何か言っていたが、もう声が小さくてよく聞こえなかったので聞こえないふりをした。
「桂木、また水晶と……!」
俺は、後ろから聞こえた声には気付かなかった。
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下駄箱を出て疲れたので歩いていくと校門にいる依音を見つけ声を掛けた。
「悪い、遅れた」
体力がないのに一段飛ばしなんてしたから途中力尽き、歩いてきてしまった。雛御先輩になにか言われると思ったがいなく、後ろを見るとゆっくりと歩いてくる雛御先輩を見つけた。こっち睨んでる理由が分からないんだが。雛御先輩は近くまで来ると低い声で話しかけてきた。
「お前さっき、水晶と何話していた?」
水晶? ああ、真野のことか。
「別に、特には何も話しませんでしたが? あ! そういえば従妹なんですよね? 妹が好きで男近づけさせたくないとか考えてます? そんなのゲームだけにしてくださいよ? マジでキモイですから。ちゃんと現実見た方ががいいですよ」
そう言うと雛御先輩は顔を赤くして声を荒げて言った。
「ん、んなことは分かってんだよ! 俺が言いたいのはお前みたいな腐った目の人間と話してるの見たからなにか変なことされたんじゃねえかと思っただけだ」
生まれつき目が生意気なのは知っていたが失礼な人だ。
「それと」
と言いこちらをさっきよりキツく睨みながら言った。
「あいつを泣かしたら、全裸に剥いて屋上から吊るすからな」
すごいリアルで怖いんだが。俺は何か言い返そうと口を開いたが後ろにいた依音が口を挟んだ。
「二人とも、早くしないと日が暮れるぞ?」
と言われ、仕方ないのでその言葉を皮切りに一旦言い合うのを辞め、掲示板に載っていた話の洋館に向かうことにした。
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けっ、結構遠いな……。近いとか思ってたが徒歩で二十分も掛かった。九月の上旬で夕日がまだ凄いギラついていて死にそうだ。さて着いたわけだが、やはり写真よりも実物のほうが迫力あるな。
庭があり、洋館はシャンポール城を模してるらしく真ん中には円錐の屋根に四角い二階建ての建物、左にはこれまた同じ円錐の屋根で円柱の形をした二階建て建物でありみぎにも同じ建物がある。そして左右の円柱型と四角い建物の間には長方形の通路がありこちら側からは窓しかハッキリと分からないが、奥にはドアらしきものが見える。
「結構、でかいな。昔の木造校舎ぐらいありそうだな。」
「昔は使用人とかが居たからじゃない?」
なるほど、依音の言うとりかもしれない。
「ところでさ、桂ちゃん」
「何だよ? 今更帰るとか言うなら俺も連れてけよ?」
「そこは止めようぜ。そうじゃなくてさこの家、所有者いるんだよね?」
「いるが?」
「不法侵入じゃない?」
「良いんだよ、そんなの気にすんなよ、住んでもねえのに建てとくのが悪いんだ」
それに今逃げたら雛御先輩に何されるか分からないしな。
「お前らー早く来いよー」
話していたらどうやら庭を抜けて玄関の前に着いていた。
「行こうぜ依音、今日空いてるって言ったお前も悪いんだぞ」
「はあ〜むちゃくちゃな言い訳だね、それ言うなら桂ちゃんが洋館の話するからいけないんだぜ?」
俺は聞こえないふりをして雛御先輩のいる玄関のドアに向かう。
「ドア開いてるんだよな。桂木、ここ人いないのか?」
所有者はいるはずだが……。
「ガキが探検に来たのかもしれません」
「あ〜確かにガキが来そうだな」
そのガキ達と俺たち同じことしようとしているんですけどねー、とは言えなかった。
雛御先輩がドアを開けて入り俺が続いて中に入った。中は中央に大きな階段があり、階段は途中でYの字になり左右に分かれていた。ここはたぶんホールなのだろう。二階がなく吹き抜けになっている。
一階はどうやら左右の通路を通った場所にしか部屋がないんだろう。二階もそんな感じのようだ。そう考えた俺は一階のどっちから調べるか考えていると雛御先輩が先に決めたらしく口を開けた。
「じゃ、俺右から調べるから」
と言い雛御先輩は目をキラキラさせながら走って行ってしまった。
「ちょ、一応女なんだから俺たちもーー」
「いや、桂ちゃん雛御先輩なら大丈夫だよ」
雛御先輩と依音はかなり仲が良い。だから大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
「分かった、俺たちは左から調べるか」
「ああ、いこっか」
俺たちは左の通路に向かった。
*********
結果からいうと一階の通路の部屋は五つあり、そのどれもが使用人の部屋だった。そして左の奥の建物だがどうやら奥さんの部屋だったらしく女物のベッドや家具があった。それに子供と写ってる写真もあったのでそうだろう。使用人が使うには広いな。奥の建物からは二階に行けないらしく、仕方なく戻りホールの階段を使い上に行った。
上も似たような作りで通路には扉が五つあった。だが奥の部屋に入ろうとしたらガッガッと押しても押しても何かが引っかかってドアが開かない。う~ん、これは内鍵式か?
「流石に壊すのはダメだよなぁ」
「そうだね~、どうしようか」
と話していたら、後ろから声を掛けられた。
「君達、私の家で何をしているんだ」
見ると後ろには二十後半ぐらいの金髪の青年がいた。スーツ姿からして仕事帰りだろう。やばいな。この家の持ち主がいてしかも住んでるのか? 情報とは違い分からないが、俺は依音に目で何とかしてくれと合図する。
「いや~すいません、この家は廃屋かと思い廃屋マニアの自分たちはつい入ってしまったんです。」
誤魔化せるのか、それで。
「なるほど、確かにだいぶ経つから古いな。廃屋と思われても仕方ないか」
青年は少し寂しげに笑いながらそう言った。しかし、依音の言い訳、よく通じたな。
「だが、それで人の家に入るのは良くない。今回は見逃すから女の子と男を連れて出て行きなさい」
どっかで雛御先輩を見たのか? それに男って俺たちしか男はいないはずだが、
「男って一体だ――」
その時だった。
「きゃああああ!」
何だ! もしかして幽霊か? 悲鳴は右の建物ら聞こえた。今のは雛御先輩か!
俺が混乱しているうちに依音は走っていた。良からぬ事が起きたのだろうが、考えてみたらあのゴリラ死んでくれた方が俺のこれからの生存率上がるんだが衣音は行ってしまったし、仕方ない、俺も行くか。
もし俺たちと同じペースで調べているとしたらたぶん二階だろう。同じように依音も思ったのか階段を降りずそのまま右に行く。走っていくと右の建物の奥の部屋が開いていて中に入った。
見ると倒れている雛御先輩と黒い箱らしきものを持った四十前半の髭がぼうぼうのおっさんがいた。気絶してるところから見てあの黒いのはスタンガンか?
俺たちはゆっくり近づこうとした。
「く、来るなあ!」
と言いナイフを懐から出そうと。出す前に依音が瞬時に動いた。
「ふっ!」
と言いながら足を回し、おっさんの手に蹴りを命中させナイフを落とされた。だが依音は止まらなかった。蹴りを放った後に両足が着いた瞬間手を蹴られて怯んでるおっさんの顎に右アッパーをお見舞いした。やべえ、カッコイイ。見事に決まったらしく、おっさんは気絶した。
「コイツ何だったんだろうな」
と俺は言い、すると依音が言った。
「とりあえず和月に危害を加えたのは間違いない」
と良い眼鏡をクイッとした。あ、ここまで格好つけるとウザいな。
「んんっ……あれ? 俺は何で寝てるんだ?」
雛御先輩が気が付いたようだ。
「この男に気絶させられたんですよ」
「ああ~そういや首のとこでばちって音がなったと同時に痛みがきて意識失ったんだ」
「……そのまま沈んで浮かんでこなければ良かったのに」
「何か言ったか?」
「いや別に。でコイツどうします?」
俺が足でおっさんをつつく。
「まあそうだな」
と言ったかと思うと思いっきりおっさんの玉を潰した。
「俺の痛みの倍くらいは苦しんでもらわないとな!」
楽しく玉を踏み始めた雛御先輩を放置し、さっきから黙っている依音に声を掛けた。
「何考えてるんだ?」
「いやこのおっさんどこかで……あっ!」
「コイツ指名手配犯だ、持ってったらお金貰えるぜ」
「「まじかよ!」」
俺と雛御先輩は同時に叫んだ。雛御先輩はおっさんを担ぎあげた時にヤンキー座りになったのでスカートの中が見えてしまった。
「ちょっ雛御先輩! パンツ見え……。」
アレ? 女の子ってボクサーみたいなパンツ履くのか? いやていうか、なんか女に無いはずのものが股間部にあるような……。
「じゃ、俺コイツ警察に持っていくから! 依音気を付けて帰れよ!」
「あ、ちょ」
言うや否や走っていってしまった。残された俺と依音はぼーっと雛御先輩を見送っていたが俺はさっき見たのがアレなのか依音に聞いた。
「なあ、さっき雛御先輩の股間がもっこりしてたんだが、もしかして男?」
「あれ? 桂ちゃん知らなかったんだ。和月は男だよ」
「はあああ! じゃなんで女の格好してんだよ!」
「んー確か『俺ってさぁ、女子の制服の方が似合ってね?』て言って女装というか女子の制服着てるぜ」
「……」
女だとさっきまで間違えてたし似合ってはいるがだからって普通は着ないだろ。俺はため息をつきながら言った。
「はあーとりあえず、帰るか」
「そうだな、ここに居ても意味無いしな」
そして玄関まで降りていった。
*********
洋館を出て庭に出ると日が沈みかけていて辺りは真っ暗になりつつあった。歩きながら俺は依音に話しかけた。
「結局幽霊居なかったな」
「まあ、居たら居たで怖いでしょ」
「そう、だな」
俺は依音の後についていきながら庭を出た。
その時、ふと最後に洋館を見てみようと思った。別に深い意味はない。もう来ることはないだろうから一目見ようと振り返った。
するとさっきの青年が窓からこちらを見ている。見送ってくれてるのかなと思った。依音にも声を掛けた。
「なあ依音見ろよ、あの人見送ってくれ……!」
言いかけて俺は固まってしまった。青年がいる部屋は俺たちが最後に調べられなかった部屋だった。
「本当だ、って桂ちゃん? どうしたの? 」
調べられなかった部屋、それだけならいい。あそこの青年がいる部屋は内側から鍵掛ける式だった。何故分かったか? 回したノブに鍵を差し込む場所がなかったからだ。あのドアは開けられない。じゃあ。
あの人は、どうやってあの部屋に入った?
その時俺の思考が分かったのかのように青年は、ニヤァと笑った。俺は戦慄し猛ダッシュで逃げた。ハテナを浮かべながら俺に付いてきた依音は、聞いた。
「どうしたの桂ちゃん? さっきから頭おかしい人にしか見えないよ?」
俺は走りながらすぐに追いついてきた依音に叫び声に近い声で言った。
「お前は分からなかったかもしれないけどなぁ、あの部屋は内鍵式で外側からは開けられなくて内側からしか開けられないんだよ!」
「だから?」
チッ! まだ分かんねえのかよ!
「つまり、入れないはずの部屋から青年が見えたってことはあいつが幽霊だったんだよ!」
ようやく分かったようだ。キョトンとしていた顔が崩れ顔を強張らせるかと思いきや突然笑い始めた。
「あっはははは!」
こっちが怖がってるのに笑ってるのでキレてしまった。
「何が可笑しいんだよ!」
「いや、幽霊が本当に居たことが面白くてさ、あっはははは!」
俺は呆れてしまった。
「勉強ばかりで頭可笑しくなったか?」
「違いないな、あっははは!」
しばらくして笑いが収まったようで依音が話しかけてきた。
「桂ちゃん」
「ん?」
「またこのぐらい面白いことしような!」
「お前一人でやれクソが!」
また笑い始めた依音の笑い声を聞きながら俺はもうこんな幽霊探しをしないと決めた。
「なあ桂ちゃん」
「今度は何だよ」
「またこういう不良みたいな遊び――そうだ、不良遊戯! 不良遊戯しようぜ」
遊戯ねえ、また格好つけやがって。でも、悪くないな。
「依音にしちゃ良い名前だな」
「んだよ、依音にしてはって。ちゃんと褒めていいんだぜ?」
俺は恥かしいので無視した。
「ふん、またな」
「うん、またな」
別れを告げ、俺は駅の改札に入って行った。明日は先輩にお金のこと自慢されるんだろうな、なんて考えているともうあの青年のことは怖くはなくなった。怖くはなくなったが、なぜあそこに青年の霊がいたのだろうという謎は未解決のままであった。
*******翌日〜
「ねぇ、桂ちゃん」
昼頃、屋上で焼きそばパンを食っていると隣の桂が話しかけてきた。
「ん? 何だ?」
「考えてみたんだけど、あの青年が死んでる人ならあの建物に未練があったわけだろうから、追いかけてこなかったんじゃない?」
確かに言われてみればそうだ。
「……まあ、そうかもな」
「何で走ったの?」
頭が混乱していてと言っても、正直に怖かったからと言っても、こいつはゲラゲラ笑うつもりだろう。顔に出てやがる。
「おい、顔がニヤついてるぞ。分かってるのに聞くなよ、カス」
「え〜俺は全く分からないよ〜?」
「クソがぁ!」
頭に来た俺はあいつを蹴ろうとしたが避けられる。
「あはは、そうカッカするなって」
「させたのはお前だろうがぁぁあ!」
言いながら校舎に走っていく衣音を俺は追いかけた。
クソみたいだが、やはり非日常よりはだいぶマシだ。ああいう体験は人生で一度きりで良い。ふと、そう思いながらドアを抜けようとした時後ろから声がした。
「おーい、あそこに忘れ物しちゃってさ〜。気絶した時かな? 一緒に取りに行こうぜ」
……フラグ立てちまったか。だが、もうあそこには行きたくねぇ!
逃げようとして跳び蹴りを喰らった俺の哀れな悲鳴が屋上に行く階段に鳴り響いたのだった。
―終わり―
もうひとつの終わり「end of pain」をもしかしたら書く予定です。何で次のは英語なのか?かっこいいからです!ではでは、読んでいただきありがとうございました。感想、評価お待ちしております。