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「彼女」
「ところで、」
博士は、灰色がかった凛々しい瞳をサッと境界に向けた。
君はいつまでそこに隠れておくつもりだ?
まるで野良猫に話しかけるかように声を掛けて、博士はクスクス笑う。その人は、出るにも出られず、立ち去るにも立ち去れず、どうやらずっといたらしい。
おいで、という博士の優しい呼び掛けに対して、躊躇の気配の後に恐る恐る境界から降りてきたのは、青みがかった白いワンピースを着て、緩やかなウェーブがかった香色の髪を背中まで伸ばした、同い年くらいの少女だった。桜の幹のような深く引き込まれる色をした瞳を、不安げに僕らに向けている。
あ……
彼女だ。
僕はすぐにわかった。
僕の中でグルグル回っていたピースが、収まるべきところに収まっていく。
思考が今朝の記憶に収束していく中で、目の前にいる彼女の香色の髪が、微かに揺れた。