土地神
昔、神は不可視の存在だったらしい。それがいつからか、人々の一生に一度の願いを叶えるため目に見える存在となって、この世界の各地域に存在するようになった。
不可視であった昔の、そのまた昔は可視の存在であったというのだから、前に進んだのか元に戻ったのか。どちらにしろ、不可視のままの方が、彼にとっては良かったに違いない。
記憶を保持するとはいえ、可視になることで生も死も感情もある、人間に極めて近い存在となってしまったのだから。
「それで、ここでお務めサボってていいのか?」
「構いやしないさ。持ってこられるのは、金持ちになりたいとか、どこそこの学校に受かるようにしてくださいとか、自分で叶えられるつまらぬ願いなんだから」
あぁ、そぅ。
相変わらず我らが不死鳥は手厳しい。
「穂村は願いを叶えたことあるのか?」
「当たり前だろう?」
僕と穂村が出会って3年になるが、一度も彼が人の願いを叶えるところを見たことがない。
「数十年昔、前回でのことだがな」
どおりで……。
僕が生まれる前、穂村が生まれ変わる前。いわゆる穂村の前世のことなんかわかるはずもない。
他の地方の神に比べて、これは相当手厳しい。
つまらない願い、か……。
僕はドクダミ茶を口の中で転がす。
何も願ったことのない、僕という薄っぺらい存在は、将来、この手厳しい神様に一体何を願うのだろうか。