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穂村

「よ」

外よりも薄暗く陰気な雰囲気のする大部屋。奥の片隅に置かれたソファーの上に陣取った先客が、軽く手を挙げて言った。

「不死鳥……。来てたのか」

やや高いところに位置する窓から、透明で静かな夕暮れ色が差し込む。

「なんだ、つれないなぁ」

しれっと彼の呼び掛けを無視して、適当な隅に通学鞄を置く。

「というか、不死鳥って呼び方やめろ」

「不死鳥だろ?」

「俺は鳥じゃねぇし、死にもする。ただ……」

そこで言葉を詰まらせた彼の表情に苦笑した。

彼は、どうしたって誰とも代わりようのないものを抱えて、育った環境からも周囲の視線からも、自分の立場と使命を自覚せざるをえない場所にいた。そこから頻繁に抜け出してこの屋敷に入り浸っているのは、そこにいると、自分は他の人と絶対的に違うと分かってしまうからで、それがまた気に食わないからだと、初めてここで会ったときに言っていたのを覚えている。

気持ちは分からないでもない。

僕だって、あんな終わりのわからない場所になんかいたくはない。

だからこいつは、自分が他の人と同じであること、すなわち人間であることに固執する。

「そうやって、何百年駄々こねてんだ?」

お茶でも飲もうと、試験管畑を縫ってポットの方へ足を向ける。ここの家主が、ふらりと立ち寄るいつもの客たちのために、淹れたままにしている得体の知れない、しかし外れはない薬草茶を側の棚から出したマグカップに注ぐ。

その間も、彼は不満そうに沈黙していた。

お前もいるか?と、ひょいとカップを持ち上げると首を横に振る。

その様子に苦笑して、僕は一口薬草茶を飲んだ。珍しくメジャーなドクダミである。

彼は僕と同じ年に生まれ、それなりに成長し、見た目ももちろん僕と同じ16歳だ。ただひとつ違い、そして彼自身が嫌っているのは、

彼は、生まれて死ぬまでのサイクルを逸脱し、前世の記憶を保持していることだった。

している、ではない。正確には、し続ける。

まるで、命を燃やしてなお、灰の中から生まれ変わる不死鳥のように。

永久を生きる自由な魂を、「穂村ほむら」という名の刹那な器に留めて、永遠という鳥籠の中で、彼は生きていた。

「仕方ないだろう?穂村。おまえは、」


神、なんだから……


穂村が穂村である大前提であるのにも関わらず、彼は不満げに目を細めた。

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