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アヴァリ の一族 悪役令嬢と聖堂騎士  作者: 時任雪緒
1 邂逅と侵略―おままごと
7/31

7 ポルカ



 元舞台女優アンジェラ・インザーギ。本名カテリーナ・クヴァント。享年37歳。死因は重度の肺結核。かねてより元老院議員の愛人であると噂されていたが、突然女優職を辞して芸能界を引退。議員がヴァチカンの別荘を貸し与え、日中は医師を付き添わせ療養していた。が、容体は悪化の一途をたどり、彼女の希望により故郷であるトリノの病院に入院、その後容体が急変し重度の発作を起こし死亡。

 2年前の晩秋、芸能欄に大きく載った彼女の写真は、生き生きと躍動する女優としての顔で、年増だったが美しい人だった。この訃報がもたらされた時、新聞もテレビも、街中でも彼女の演技が流されていただろう。それを見て、アドルフは自分を責めただろうか。

 カテリーナの手紙からヒントを得て、更に新聞をさかのぼる。21年前の記事。

 x月x日、ミラノ郊外の一軒家で2名の遺体を発見。この家に住むドイツ系移民アダム・フルトヴェングラーと、その妻カタリーナと思われる。二人の遺体には複数の銃創があり、強盗殺人事件とした。尚、一人息子が行方不明となっている。

 x月x日、ボーデン湖より3人の遺体が乗った車を発見。腐敗していたが所持品等により、行方不明とされていたビューロウ一家と判明。が、もう一人の息子フランツの遺体発見されておらず、依然行方不明。

 ある程度予想はしていた。イタリアのみならず、フランス、ドイツ、スイス、4国間で発生した事件。昔からイタリアにはマフィアの問題が根強く、今も尚フランスなどで人が突然失踪する事件が発生している。アドルフの目的の一つは確実に、そのマフィアを見つけだし復讐を果たすこと。

 ヴァチカンの情報力を使えば、恐らく仇の目星はついている。それでも未だに動き出さないのは――――。

 ――――状況や時期が悪いのかしら。それとも?

 考えたが、余りにも退屈な考察になってしまいそうで打ち消し、ミュンヘンの図書館の隅っこから静かに姿を消した。

 その調査内容を携えてサイラスの部屋に行った。

「――――と言う訳なんですお父様。私も話したんだから、そろそろ叔父様の目的を話してください」

 この城で同居する事情、アマデウスの目的にサイラスも協力するという形で同居を許可している。それが何なのかシャルロッテには内緒にされていたのだ。

 しつこく強請ると、ようやくサイラスは教えてくれた。

 アマデウスはノスフェラートの一族。ノスフェラートには2種類の種族があり、アマデウスたちは「地上の者」で、もう一種は「地下の者」と呼ばれる。「地上の者」は「地下の者」から抱擁を受け吸血鬼化した者で、その姿を認識できるのは霊力や魔力を持つ者に限られ、また繁殖する事も出来ない。そして「地下の者」は、この世の物とは思えない醜い相貌をしており、その為に地下に住むことが昔からの倣いだが、彼らは抱擁によっても性交渉によっても繁殖することが出来、また、常に追われる身である。

 ノスフェラートの一族「地上の者」は常に「地下の者」、自分を吸血鬼にした者を憎み、打ち倒そうとその執念に駆られ、「地下の者」は「地上の者」から逃げ続けなければならない。それはノスフェラートが誕生した時に、ノスフェラートをノスフェラートたらしめた者を殺害したことにより受けた、解ける事のない呪いなのだ。

 アマデウスは幸か不幸か、ヴァチカンと言う後ろ盾を得た。それはどこにいるよりも確実にノスフェラートの足取りを掴める。その為には余計な仕事もしなければならなかったが、アマデウスの悲願を達成するために一番の近道であったことは間違いない。

「なるほど。では叔父様の目標はあくまでも、「地下の者」達の抹殺なのですね」

「そうだ。その目標を達成できぬうちに、私達に攻撃を仕掛ける事はあり得ない。下手に戦力を削いでしまっては元も子もないからな」

「確かにそうですね。少なくとも現時点で、叔父様が私達に攻撃を仕掛ける事は、デメリット以外の何物でもありませんね。それに叔父様から攻撃を受ける義理もありませんし」

「そうだ。まぁ殺した云々ではお互い様だがな」

 意味が分からず首を傾げると、昔を思い出したらしいサイラスが苦笑した。

 サイラスが吸血鬼の真祖になった時、彼は断頭台に固定されていた。アマデウスの所業と、何度祈っても助けてくれなかった神、この世界を呪い魔に身を窶した。処刑された瞬間に吸血鬼として覚醒し、真っ先に殺害したのが処刑した本人であるアマデウスだった。皮肉にもその為にアマデウスは、吸血鬼としての蘇生を果たしたのだ。その点においては多少の恨みはあるだろう、との事だ。

 なるほどお互い様だ、と納得した。ついでに尋ねてみた。

「お父様は叔父様を殺したいですか?」

 その質問にサイラスは溜息を吐いた。

「別に、どうでもいい」

 本当にどうでも良さそうにそう言うので、思わず失笑した。

 もう一つ耳に入れたいことがあると、ドアの方にチラリと視線をやってサイラスに耳打ちをした。それを聞いたサイラスは愉悦に顔を歪める。

「お前は嫌な女に育ったな?」

 サイラスの嫌味に笑った。

「仕方がありませんよ、お父様に似たんですもの」

 サイラスはその返答に苦笑していたが、ふと顎を撫でて憂いのある顔を浮かべた。

「私に拒否する権利があるかはわからないし、言えた義理ではないのだが、父親としてはいい気分ではないな。お前は本当に、それでいいのか? クララが悲しむぞ?」

 サイラスの無駄演技に笑いを堪えて言った。

「ええ勿論。だって私、アディを愛してますから」

 そう言って笑うと、サイラスも堪らず大笑いした。

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