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アヴァリ の一族 悪役令嬢と聖堂騎士  作者: 時任雪緒
2 ヴァチカンテロ事件
29/31

29 から騒ぎ



 千鳥足のシャルロッテ。

 頭がくらくらして、なんだか夢を見ているようで。

 いろんな声が色んな所から聞こえる。

 色とりどりのドレスを着た女たちがシャルロッテに語りかける。

「ロッテ本当はファウストを吸血鬼にしたいんでしょう? 言えばいいじゃない」

「そうよ、彼だってきっとロッテを愛してるんだから、わかってくれるわよ」

「ていうか、いつまで引きずってるのよ。さっさと忘れて他の男探せばいいじゃない」

「アンタたちはごちゃごちゃうるさいのよ。それでファウストに嫌われたらどうするのよ」

「その時はその程度だったって事でしょ。大体ファウストは自分の身可愛さにロッテを裏切ってるんじゃない。許せないわ。私は認めないわよ」

「イラ! あなたロッテの気持ちも考えたらどうなの!?」

「私はロッテの為に言ってるのよ!」

 喧騒の中、ひたすらにシャルロッテは耳を塞いで、今にも泣きそうになるのを堪えていた。彼女達がシャルロッテの為に喧嘩を始めて、どの言葉も耳が痛かった。

 そりゃ傍にいたいと言えたらいい。

 他の人を見つける気になれたらいい。

 女々しい自分に彼女達が苛立って、それでもシャルロッテの為に口論になる。

 そこに白いドレスの女が割り込んだ。

「黙りなさい。ロッテが泣いてしまうわ」

 その人の言葉で彼女達は静まり返る。シャルロッテを優しく抱き締めて、その人曰く。

「誇りを忘れてはならないわ。怒ってはダメ、妬んではダメ、欲張りなのも我が儘なのもいけないわ。本当は私もファウストにはロッテの傍にいて欲しいけど、その為に発生する不都合が全てロッテの責任になるのよ。それを理解してくれる人は、いないでしょう。サイラスすらも」

 わかっているわと返事をして、滲んだ涙をぬぐった。

 彼女の隣でもう1人気怠そうにした青いドレスの女が言った。

「たまに起きるとこれだものね。暫くは私とスペルヴィアに任せて」

「ええ」

「でもアドルフはロッテの役に立つわ。彼には会いたい?」

「会いたいわ。ファウストには? 反対?」

「時と場合によるわね。私とアセディアで考えるわ。あなたが泣いているのを見るのは嫌なの」

 白いドレスを着た女――――スペルヴィアがシャルロッテの頭を撫でて微笑んだ。

「アドルフの前で泣いても良かったのよ。それで気が晴れるならそれでもいい。でも泣くのが嫌なら、もう眠っておしまいなさい」

「……そうするわ」

「お休みなさいシャルロッテ」

「お休みロッテ」

「お休みなさい」

 眠るシャルロッテを見て彼女達は息を吐く。

「私随分と久しぶりにステージに上がったわ」

 紫色のドレスの女が言った。

「彼、アディはロッテを抱きたいみたいよ。時々視線が絡み付くもの」

 だめよ、と突然黄色のドレスを着た女が彼女の手を引いてステージから下ろした。

「アディを誘惑しちゃダメ! ロッテが傷つくじゃない!」

「あら、でも彼イイ男じゃない。私は結構好きよ。彼もロッテに気があるようだし?」

「ダメよ! ロッテはファウストを想ってなきゃダメなの!」

 緑色のドレスを着た女が言った。

「インヴィディアがそんなことを言うから、ロッテはいつまでもファウストに囚われているのよ? もう少し大人になったら?」

「そうよ! インヴィディアはいつもそうよね! ロッテは今までだって幸せになれるチャンスはあったのに! アンタがファウスト以外信用できないなんて言うからロッテは怯えてるんじゃない!」

 赤いドレスの女も反論に加勢して、黄色ドレスの女は眉を寄せた。

「うるっさいわね。私にキレないでちょうだい。本当にイラは短気ね。あなたそんなんだから姉様たちに鬱陶しがられるのよ」

「アンタだってそうじゃない! 私はいざという時は必要だけど、インヴィディアの嫉妬はみっともなくて見てられないわ!」

「なんですって!」

「やめなさい」

 スペルヴィアが言って、黒いドレスを着た女が傍に寄った。

「スペルヴィア、ロッテはスペルヴィアとアセディアに任せるけど、いざという時はみんなステージに立ちたがるわよ、当然私も。その時。ロッテは?」

「いざという時ロッテをステージに上げるわけにはいかないわ。必要に応じて私が采配するから」

「私の出番は?」

 紫色のドレスを着た女が笑いかけると、スペルヴィアが「ないわ」と素気無く言った。

「娼婦の出番はまだ先よ。ロッテが次に恋をした時に、後押ししてあげて」

「いいわよ」

「それまでルクスリアは寝ていなさい」

「しょうがないわねぇ」

 白いドレスを着たスペルヴィアは孤高の女王。

 青いドレスを着たアセディアは面倒くさがり屋。

 黒いドレスを着たアヴァリツィアは我儘なお嬢様。

 緑色のドレスを着たグラは食べ物に目がない。

 赤いドレスを着たイラはヒステリー女。

 黄色のドレスを着たインヴィディアは嫉妬深い粘着女。

 紫色のドレスを着たルクスリアは高級娼婦。

 そう言う役付けをされた女優たちが話し合って、大概ステージに立つのはスペルヴィアとアセディア。スペルヴィアは溜息を吐いて、最近出番が減って来た事を喜ばしくも残念にも思っていたが、最近になって急激に登場回数が増えたことに不安を覚えずにはいられない。

 女優たちが願う事はただ一つだけ。

 寝ているシャルロッテが、泣く事のないように。

 シャルロッテを傷付ける全てから守るために、彼女たちは存在する。

 シャルロッテを守る為であれば、彼女たちはどんな演技でもこなし、何でもする。

 眠りに就いたシャルロッテはただぼんやりと夢を見るように。

 彼女たちの演技を貴賓席から見ている。

 これは演技。

 そこは舞台。

 作り出されたシナリオだから、現実ではないのだと。

 フィクションはシャルロッテを傷付けない。

 それがただの夢であれば、その夢が例え――――悪夢でも。





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