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アヴァリ の一族 悪役令嬢と聖堂騎士  作者: 時任雪緒
2 ヴァチカンテロ事件
17/31

17 ポリフォニー

「ところで、エルンストとレオはテロリストたちに遭遇したかしら?」

 シャルロッテが寝たのは日が昇り始めた6時過ぎだったが、それまで待っても連絡はなかった。夕方になってようやく目覚めることができたので、シャルロッテは状況が分からない。

 アドルフが難しい顔をして腕組みをした。

「それがよぉ」

「どうしたの?」

「高速降りたらしくて、一般道に入っちまった」

 あまり栄えていない都市の高速道路なら、朝になっても結構空いていたりする。しかし一般道となれば話は違う。大きな通りは通勤ラッシュで車が多く、そんな中で攻撃する許可を与えるわけにもいかない。仕方がなくそのまま追跡していたのだが、更なる問題。

「長時間飛行してたわけだし仕方ねぇんだけどよ」

「もしかして燃料切れ?」

「そ」

 借り物のヘリコプターは小型の物で、そもそも合流するであろう地点を計算すると片道分くらいしかなかった。それでも目的が達成されれば構わなかったのだが、予想外に時間を食ってしまった為に、その間に燃料が尽きてしまった。

 エルンストとレオナートはとりあえず適当な場所に降りて、今は迎えに行ってやる暇も手間もないので、ステイを言いつけている。

 やむなし、とシャルロッテも息を吐いた。

「明らかにこっちの動きがバレてるわね」

「やっぱお前もそう思う?」

「思うわ」

 言って、顔を上げてぐるりと部屋を見渡した。

「盗聴器でも仕掛けられてるんじゃないの?」

 顔をアドルフに戻すと、「御名答」と、デスクの上に小さな黒いプラスチックの箱をいくつも乗せた。

「コンセント、照明、電話、机の下。他にも何か所か」

 同じことを考えて、シャルロッテが寝ている間に探し出していたらしい。

「これで全部だといいんだけどね」

「わかんねーもんな。どっか場所移すか」

「そうしましょ」

 内通者は教皇庁の人間だ。アドルフたちがいない隙を突けば、誰だっていつでも仕掛けることは可能だった。彼らは他の職員と違って外に出ることが多いし、アドルフとクリストフもほとんどの仕事を城で片付けていた。ここ1か月は不在の事の方が多かったのだ。

 一応アドルフは“検事”や“聖堂騎士”にもその連絡をしたようだ。が、そちらは“死刑執行人”と違い、大概人がいるので盗聴器は発見されなかったらしい。

 それを聞いて階段を下りながら首を捻った。

「なんっか不自然よね」

「だよな。俺らのオフィスに仕掛ける意味が分からん」

 ヴァチカン防衛を阻止したいのであれば、真っ先に邪魔すべきは“聖堂騎士”だ。内通者が特定されても困るだろうし、“検事”の動きにも注視しておくべきだ。少なくともシャルロッテなら、この2部署を要チェックする。“死刑執行人”の仕事は原則が暗殺であるから、仕事の計画を立てる事はあっても、普段調査などをしたりはしないのだ。

 内通者は“死刑執行人”の動向を気にしてる? なぜ?

 今現在の“死刑執行人”の動きは、テロ別働隊の追跡と、シャルロッテとアドルフが犯人探しをしているにすぎない。テロリストを攻撃されては困るから、その為だというのはわかるのだが――――。

 少し考えて足を止めた。

「叔父様のオフィスにも行ってみない?」

 アドルフも足を止めた。

「なんで? 猊下捕まっちまってんだから、仕掛ける必要がねぇだろ」

「そうなんだけど、なんか気になるのよー」 

「うーん……そうだな」

 アドルフも賛同して、教皇庁を出ようとしていたのをやめて階段を上った。

 アマデウスのオフィスに辿り着くと、早速二人で家探しを始めた。アドルフは主に電子機器周辺を捜し、シャルロッテは正直どこをどう探せばいいかわからないので、部屋をぐるりと見渡してみる。

 濃いボルドーの絨毯に、バルコニーへ通じる真っ白な窓枠にかかる暗幕の様な真っ黒のカーテン、ウォルナットの壁の下半分は白の花模様でモールディングされた、凝った装飾の板壁、天井にまで作りつけられた膨大な量の本棚と、年季の入ったどっしりとしたデスク。オフィスには相応しくない、ダークグレーのマントルピースの上には、写真が飾られている。8人の子供達――――面影が残っていてわかる、それはアドルフたちの子供の頃の写真だった。見たところ8歳くらいだ。年齢を考えると、この頃はまだイザイアは誕生していなくてヴァチカンにも来ていないようだった。

「可愛いわね」

 思わず感想を漏らした。子供のアドルフたちは屈託なく笑っていて、無邪気に肩を組んだりピースしたりして、楽しそうに映っている。

 イテテ、お前脚踏んだろ! と、クラウディオがレオナートの首根っこを掴んで、

 ホラ映らないだろ、こっち来いって! と、アレクサンドルがフレデリックの肩を組んで引き寄せて、

 アマデウス様、早く早く! と、急かす様にエルンストが何かを語りかけていて、

 やめろってお前ウザい! と、後ろから満面笑顔でおぶさるクリストフにアドルフが鬱陶しそうにして、アドルフと手を繋いだ、一番小さいオリヴァーが見上げて笑っている。

 そんな、20年近くも前の写真。

「今でもあんまり変わってない?」

「……お前の目にはそうかもな」

「どうして叔父様は、これ見よがしにこんな写真を飾っているのかしら?」

「この頃までは良かったとか何とか」

「あぁ、この頃までしか可愛くなかったという事ね」

「どうもそう言う事らしい」

 一番可愛かった頃の写真をいつまでも飾って、可愛げがなくなった部下たちへの嫌がらせだ。嫌がらせで子供の頃の写真を飾っているのも、何とも微笑ましいものだ。嫌がらせとはいっても、アマデウスにとっては殺伐とした教皇庁の中、この写真を見て一人癒されていたのだろうと思う。

「叔父様は、あなた達を大事に思ってるのね」

 照れているのか、アドルフからは返事はない。

「あなたは叔父様を愛してる?」

「あぁ、俺に限らず、みんな」

「そう」

 育ての親だ。逮捕されたと聞いた時の、アドルフやみんなの反応を見ればわかる。今必死になって冤罪を晴らそうとするアドルフを見ればわかる。上司であり、師であり、父親だ――――例えアマデウスが吸血鬼でも。

「家族なのね」

「少なくとも俺達はそう思ってるけど」

「叔父様だって、そう思ってるわ。でなきゃ」写真に視線を戻した。「あなた達がこんな顔で笑えるはずないもの」

 シャルロッテの言葉を聞いて、アドルフは少しだけ嬉しそうに「そうだな」と言った。


 再びアドルフは家探しを再開して、シャルロッテは一つの本棚の一角の前に立った。そこは板壁の中に本棚を埋め込んだようになっていて、見れば見るほど怪しい。しばらく考え込んで、板壁を指で軽くたたいていく。


 コン。


 コン。


 コン。


 カン。


 ――――あった。やっぱり。

 軽い音がした壁の前にしゃがんで、押したり持ち上げたりしていると、壁が外れて隠し戸棚が出てきた。丁度デスクに隠れてドアからは見えないようになっていた。

 隠し戸棚の中からは、いくつかの箱とファイルが出てきた。ファイルをパラパラとめくり、いくつかの書類を抜き取って服の中に隠した。

 アドルフに気付かれないよう、戸棚に再び壁をはめ込んでいると、幾人もの足音と話し声が近づいてくるのが聞こえて、慌ててアドルフが駆けてきた。

「ヤベ、人が来た!」

「そうね」

「隠れるぞ!」

「えっなんで」

 別にいいじゃない、と思ったシャルロッテに反して、アドルフはあたふたしながらシャルロッテの腕を掴み、大きな窓にかかるカーテンの中にシャルロッテを引きずりこんだ。

「そう言えば盗聴器見つけたの?」

「黙れ!」

「むぐ」

 アドルフに口を塞がれた瞬間に、人が入ってきた。足音の感じでは10名いるかいないか。入ってきてすぐに本棚やデスク、キャビネットの中を漁り始めた。

「全部ひっくり返しちゃいなサイ。生半可な所には隠してないワヨ」

「はい」

 あら、このオカマ口調。

 どうやらカンナヴァ―ロ率いる“検事”が捜索にやってきたようだった。と言う事はやはり、内通者の嫌疑が濃厚なのはアマデウスと言う事になる。若しくは、徹底的に捜索をして証拠が見つからなければシロだと、そう判断を付けるためにやって来たのか。

 二人でそうっとカーテンの中から様子を窺っていると、捜査員の一人が隠し扉を開けようとしている。隠し扉の仕組みは他の部屋にもあるのか、難なく見つけて開けてしまった。角度からして、デスクに隠れてその様子は良く見えない。デスク周辺を捜しているカンナヴァーロが、背後の捜査員に話しかけた。

「どう?」

「過去の報告書ばかりですね、今の所それ以外にはなにも」

「そう、続けて頂戴」

「はい」

 カンナヴァーロも引き出しを開けて中を探っている。周囲の捜査員の様子を見渡して、背後の捜査員に頷き、しばらくガサゴソしていた。少しするとカンナヴァーロが「これだワ」と、紙切れを取り出した。

 それを聞いて捜査員たちがカンナヴァーロの元に集まるのを見て、すかさずカンナヴァーロのオフィスにいた捜査員の一人に変身し、シャルロッテもカーテンの影から出てカンナヴァーロの元へ行った。

「コレに間違いないワ」

 それはメモのようで走り書きだった。どうもこのメモがテロリストとの打ち合わせをした証拠のようだった。

「やっぱり、ザイン・ヴィトゲンシュタイン枢機卿が内通者だったのネ、行くワヨ」

「はい」

 そう言うと捜査員は引き上げて、カンナヴァーロと共に部屋から出て行った。すぐにアドルフもカーテンから出てきて、ドアを開けて捜査員を送り出していたシャルロッテは、ドアを閉めて変身を解いた。

「なに、なんだよ」

「打ち合わせメモよ」

 書いてあるのは文章と言うよりもほとんど単語だ。15個、3/25、教皇、広場、3/15、と言うようなことが書いてあった。

 アドルフは信じられないと言った顔をした。

「猊下が、そんなわけ!」

「ええ、あれは擬装よ。私ならあんなメモ残すような真似はしないわ。誰かが」

 誰かが、アマデウスに罪を被せようとしている。

「盗聴器は?」

 アドルフは動揺していたが、ポケットに手を突っ込んで差し出した。

「1個見つけた。でも」

「なに?」

 見上げると難しい顔をしていた。

「俺らのオフィスに仕掛けてた奴と型が違う。コレ市販品だ」

「え?」

 見てもシャルロッテには違いがよくわからない。ここ、とアドルフが線を指した。細いエナメル線は少しだけ錆が来ている。

「俺らのオフィスの奴はここまで劣化してなかった」

「ずっと前から仕掛けられていた、違う盗聴器……別物と言う事は、仕掛けた犯人は違うという事かしら?」

「わかんねぇ、でも、前から仕掛けてたって、何の為に?」

 一体何の目的で? 叔父様を監視する必要があって、死刑執行人の動向を注視する必要がある?

 誰かがアマデウスに罪をなすりつけようとしている、それは間違いなさそうだ。盗聴器は状態を見る限り別件と考えてよさそうだ。以前からアマデウスを監視していたのは、アマデウスが吸血鬼だという事を考えれば、自然な流れと言ってもいい。

「仕掛けた人と、叔父様を陥れようとする人は同一人物かしら?」

 だとしたら。死刑執行人の活動を邪魔して、アマデウスを陥れようとする人。

「カメルレンゴ、か?」

 アドルフがそう言ったので、見上げて言った。

「ねぇ、カメルレンゴに会いたいわ。どこかで会えないかしら」

 アドルフは少し悩んでいたが、「行ってみるか」と頷いた。



 カメルレンゴと言うのは、通常の行政に置き換えるとかなりの高官になる。日本の内閣で言うところの、官房長官の様な立ち位置だ。いくら官僚とはいえ、課長クラスのアドルフでは滅多に会えるような人ではないし、会いたいと言って会わせてもらえる相手でもない。

 一応秘書室に行ってカメルレンゴとの面会を希望したが、案の定忙しいとの理由で断られてしまった。そこで二人が上げた提案は次の三つだ。

 1・アマデウス逮捕を不服と訴えて、無理やり押し入る。

 2・シャルロッテが隠れて侵入。

 3・二人で窓から襲撃。

 あーでもないこーでもないと議論して三を採択し、今現在二人は窓から様子を窺うべく、別の部屋のバルコニーから壁伝いに移動中――――厳密にはそんな行動をとっているのはアドルフだけで、シャルロッテはバルコニーから隣へ簡単に飛び移り、アドルフがやってくるのをぼやきながら待っているところだ。先にシャルロッテの方がカメルレンゴの部屋に辿り着き、アドルフを待ちながら中の様子を窺っていた。

 ようやく辿り着き、疲れたと息を乱すアドルフにシャルロッテが笑って言った。

「カメルレンゴらしき人がね」

「なに」

「今部屋から出て行ってしまったわ」

「えー……俺の労力返せ」

 アドルフがえっちらおっちらやってきている間に、人が呼びに来てカメルレンゴは出て行ってしまっていた。仕方がないので、疲労とショックで著しく落ち込むアドルフの手を引いて、一緒にバルコニーからジャンプして別の部屋から室内に戻った。

 再び教皇秘書室に面会を希望すると、カメルレンゴは現在会議中との事だった。

「何の会議ですか?」

 尋ねると、受付をしてくれた神父は「お教えすることが出来ません」と至って事務的に言った。それでもめげずに質問を重ねた。

「いつ終わりますか?」

「わかりかねます」

「誰が出席してるんですか?」

「お教えすることが出来ません」

「どこの会議室ですか?」

 事務的な対応に終始していた神父だったが、その質問でようやくアドルフと視線を合わせたが、相変わらず冷めた口調で言った。

「お教えできません。乗り込まれても困りますので」

 会議室の場所を聞いた時点で、そこに向かう気満々なのが丸出しだ。神父は疲れたと言わんばかりに溜息を吐き、メモ紙を丸めてごみ箱に捨てた。

「何もお教えすることはございませんので、お引き取り下さい」

 お前が息を引き取れ、と思ったが、シャルロッテも引っ張るのでその場から渋々引き下がった。溜息を吐くアドルフを見上げた。

「枢機卿たちと会議中ですって。何の会議かまではわからないけど、第4会議室よ。連れてって」

 引っ張り出した勢いで袖を引いて案内を強請ると、アドルフはキョトン顔だ。

「えっ何、なんで知ってんのお前」

「秘書達が内緒話してたのが聞こえたのよー。それに受付の人が捨てたメモ紙に書いてあったわー」

 秘書たちが、やってきたシャルロッテとアドルフをチラチラ覗き見ながら、小声で話していた会話の中にそう言った情報が盛り込まれていた。受付が捨てたメモも、他の枢機卿からカメルレンゴを呼んでくるように連絡を受けた電話対応メモだったので、簡潔に記されていたのを垣間見た。

 いつもながら抜け目がなく地獄耳のシャルロッテに、アドルフは溜息を吐いて、「こっち」と第4会議室まで歩き出したので、後を着いて行った。





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