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「どーなの」
マサが真顔で問い詰めてくる。
「べっ、別に・・・」
声が裏返る。ポーカーフェイスを保てない。自然と顔が俯いてしまう。
「別に?」
・・・気持ち悪いとか思われんのとか、今までの関係でいられなくなるのは絶対嫌だ。気を遣われるのもゴメンだ。
「大事な・・・友達だよ。スゲー大事。それ以上でも以下でもねーの。当たり前だろ」
マサはふっと息を吐き出すようにそっと笑った。その微笑の意味が俺にはよくわからない。
「わかった。―――じゃあもう寝るか」
「へっ?!お前、泊まってくの?」
マサは当たり前の様に俺のベッドに潜り込む。
「お前は、その『大事な友達』をこの嵐の中、放り出すのか?」
今度はマサが勝ち誇った顔でニヤニヤと笑う。・・・クソ。振り回されるな、俺。幸い明日は休日だ。今夜は床で寝て、明日マサが帰った後でゆっくり寝たらいい。
「ホラ、ナル電気消して」
言ってマサは自分の入った布団を半分めくり、ポンポンと叩く。
「・・・まさか入れってことじゃねーよな」
「あれだけ雨に濡れたから寒いの。ナルのせいな。―――ホラっ」
熱いマサの手が、俺の腕を掴んで強く引っ張った。
「うわっ」
バランスを崩して、布団に倒れ込む。思った通り、マサの身体は先程のシャワーですっかり暖まっていた。・・・確信犯だろ、コイツ。
「オヤスミ」
マサはそう言って目を閉じると、程なく寝息を立てはじめた。俺はと言うと格好悪い話だが、横から聞こえる規則的な息遣いが気になり、ほとんど眠る事が出来なかった。浅い眠りが訪れても、マサの身じろぎ一つで起きてしまう。今までマサが泊まった事もマサん家に泊まった事も勿論何度もある。が、こんな至近距離はなかった筈だ。少なくとも俺が自分の気持ちに気付いてからは。
何の不安もなさそうなマサの寝顔を見て、溜息をつく。第一、俺も男だ。こんなに近くにいたら、違うイミでも正直ヤバい。
「―――お前は人の気も知らないで。口に出せる程の、生半可な『好き』じゃねーの」
額を軽く叩いてみた。熟睡中のマサは当然無反応だった。
翌朝目覚めると、もうマサの姿はなかった。ご丁寧に書き置きを残して。
『部活行くわ』
あのバカ、誘えよ。
結局、昨日の出来事もマサのあの問い掛けも、アイツの中では大した話じゃねーって事なのか。
「・・・もういい」
マサに顔を合わせるのも何となく気まずい。
「新しいバッシュでも買いに行くか」
今日は天気もいい。街に繰り出す事にした。
―――神様は意地悪か?
「先輩!こんにちは」
「・・・コンニチハ」
何も気にしてない風に、普段通りの挨拶をして来たのは、今俺の中の話題の中心人物。マサの元カノ。
「何してんだよ。太田先生とデート?」
「うわっ、何かヤな感じの言い方しますね。今日は一人で買い物ですよ」
別に他意はなかったのだが、本音が漏れ出てしまった様だ。だが、次に彼女の口から出た言葉は、俺が予想していないものだった。
「先輩、ちょっとお茶しません?」
・・・何で?




