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(消えてしまいたい・・・)
彼女にフラれたと報告するマサの前で俺は号泣してしまい、いたたまれなくなり走って逃げ出した。驚いたマサは追っかけて来たが、振り切って原付飛ばして家まで帰って来てしまった。
(俺、キモいだろ・・・キモ過ぎる。絶対ドン引されてる)
ポケットの中で携帯が振動している。わかっている、さっきから続いているマサからの着信だ。
(会わす顔ねーって・・・電話とか、何しゃべりゃいーんだ)
押し込めてきた自分の気持ちが露呈する事だけは避けたい。友達でいられなくなるのは一番ツライ。だから今だけはそっとしておいて欲しい。落ち着いたら言い訳を考えるから。
降り出した豪雨が追い打ちをかける様だ。原付で雨は辛い、せめて家に帰るまで天気がもってくれたのがせめてもの救いか。
「はー・・・」
とめどない溜息の、何回目だろうか。溜息にあわせて玄関のチャイムが鳴った。そういえば実家から荷物を送ったと連絡があった気がする。こんな雨の中、ご苦労様ってハナシだ。
「はーい・・・」
目元が腫れぼったいのが気になるけど、何の気無しにドアを開ける。
「・・・ナル。お前、電話出ろよ」
立っていたのは配達のお兄さん―――ではなく、頭からずぶ濡れのマサであった。
「何で―――」
何でだ。マサはチャリ通だ。こんな土砂降りの中、自転車でこんなに遠くまで来たのか?というか顔が少し怒っている。いや、当たり前か。繋ぐ言葉が見つからない。
「何でじゃねーって。あれだけ泣かれて逃げられたらフツー心配するだろ」
「・・・ゴメン」
マサは優しい。誰に対してもとことん優しい。マサの顔が直視出来いない。
「風呂、借りていい?」
「え、ああ・・・」
シャツからもズボンからも水が滴る程のマサは、そのまま玄関横の風呂場へと直行した。そうしてシャワーの音が響く室内には、混乱した頭の俺が一人取り残された。
とりあえず、タオルと着替えを用意しよう。そして何食わぬ顔をして、シラを切り通そう。今後の関係に何も歪が入らないように。とにかく、冷静に・・・。
「ナル。風呂サンキュ」
頭を拭きながら、俺が用意したTシャツとハーフパンツで風呂場から出て来た。何でフラれたマサがこんなに冷静で、俺がこんなにテンパってるんだよ。
「ああ・・・」
「ナル」
「・・・」
「ナル!お前、今日どうしたんだよ」
「え・・・」
「心配すんだろが。あんな泣いて、急に帰られたら」
そう言ってマサはベッドに座る俺の頭をクシャクシャと掻きまわす。そんなんされたら、ますます泣きたくなるだろ。
「―――お前は、フラれてショックじゃねーの?」
「え?まあ、免許の差ってデカイのなーとか思ったりしたけどな。不思議とそこまで。ちょっと予想はついてたしな」
「え、そうなの?」
「まーなー。それより、何でナルは泣いてたんだよ」
「う・・・それは・・・」
言葉に詰まる俺を見て、マサが噴き出す。
「ホンっと、どんだけ友達思いなんだよ!―――ナルの彼女だったら、医者だからって乗り換えたりしねーんだろな」
苦笑しながらぼやくマサに思わず声を荒げていた。
「何言ってんだよ!俺が!俺がマサの彼女だったら―――」
「え?」
・・・ん?俺、今、何て言った?