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乞食に恵む

「人間は常として、何かにすがって生きています。助けがないと生きてゆけません。助け合わないと、生きてゆけません」

 前の席の女子が喋りだした。が、俺に向かって喋っているわけではない。見た限り独り言である。

 昼休み。高1-2。俺が自分の席で購買のパンを開封した、突如のこと。

「そう、助け合いの精神、隣人愛。イエスキリストはそれにいち早く気づき、この当たり前のこと……当然ゆえに考えず、気づかないけれど、とても重要なことを、大勢に説きました」

 女子は机に向きあったままうつむき、何かを必死に作業している。手を動かしているから、手芸か何かだろうか。長い黒髪と背中で手元が隠れ、よく見えない。

「たとえば、漢字を見ると、人という字は、誰かに支えられるように作られています。誰かの助けで成り立っているのです。たとえば、クマノミとイソギンチャクは、外敵から守られつつ住処を提供しつつという助け合いの関係で、海を生きています」

 まぁずいぶんと饒舌。

「人間だけではないでしょう。すべての生きるものは、相互関係によって生きてゆくのです。そして北郷さん、あなたも何かの助けを借りて、今ここに座っているはずです」

 ……俺に話しかけていたらしい。

 まぁ、今の休み時間、彼女の周囲には俺しかいない。うすうす察してはいたが。

 とくに言うこともない。耳は傾けつつ、コッペパンをかじる。

「家族の助け、塾の助け、国の助け……。そして何より、友人の助け。一番わかりやすい、助け合いの典型的な構図。それが友人との助け合いだと私は思います」

 どうでもいいがこれ、宗教勧誘じゃないだろうな。北郷家は知らないが俺は無宗教だ。

「話は変わりますが言葉を交わせば友達っていうじゃないですか? いいますよね? つまり私たち友達ですよね? だからっ!」

 突然、女子は勢いよく振り向いた。

 そしてにっこり。

「パンをわけてくださいますか?」

「のーあいきゃんと」

「なぜですかぁ!!」

 出席番号9番喜瀬嘉望は、俺の机に打ちひしがれた。

「俺の机をバンバン叩くな。突っ伏すな」

「ぜったいどきませんすとらいきです」

「あーあーわかったよ。バンバンじゃなかったなバンって一回だったなすまんねさぁどけ」

「そーこーじゃなーいー…」

「じゃん、けん」

「ぽん」

 グー対パー。喜瀬の勝ち。

 どうでもいいが、長い黒髪が放射状に広がり机の上が真っ黒だ。若干うっとおしい。

「ほいよ。やるからとっとと退きなさい」

 顔を上げた喜瀬の目が鈍く光った。獲物を狩る目だ。

 んな目はせずともコッペパンは逃げない。

 がばぁと喜瀬がパンに飛びつくのに0.3秒、袋がすでにあいていることを確認しパンにかぶりつくのに0.2秒、むしゃむしゃごくりが11秒。喋れるようになって一言。

「……男に二言はないですね?」

「二言を継がせる余地がないな」

「ならよろしい」

「よろしくないよ」

喜瀬は再び食べ始めた。かぶりつくような早食い。

 パンは二袋あるが、喜瀬がこっちにかぶりついてしまったのだから仕方がない。

 黙って捕食活動を眺める。

 ……だからあせらなくてもパンは逃げないって。



こんばんは。

短い話の連続にするつもりなので、これは次話には続きません。

続きます。


コッペパンよりメロンパンが好きです。



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