演出家は嘲笑う
「………我の名は『シアター』。この世界でエンターテイメントを追求する者。」
私はそう言って、パーティーを一瞥する。
[くぅ~、やっぱコレだよコレッ‼この優越感がたまらないんだよなぁ~]
私はハット帽で今の間抜け面が見えないように調整する。
こんなかっこいい雰囲気を出したのに、
今の表情を見られてしまってはゲームセットになってしまう。
私は落ち着くよう杖を胸に当て深呼吸をする。
ようやく興奮が収まると、私は自分の服装に視線を持ってくる。
[............はずっ。]
◆◆◆◆◆
「えっ、これ着て戦うの?………はずっ。」
私が目にしている衣類それは――
「なんでタキシードなんかで戦わないといけないわけ?」
暗い紺色の燕尾服のタキシードに、
どちらも薔薇のアクセントが際立つバラのハット帽や杖、
ご丁寧に高級感溢れる黒のブーツまであった。
明らかに『主演補正』だろう。
これを着て戦えという声がひしひしと聞こえてきそうだ。
「えぇ~、めっちゃ時間かかるじゃん。」
「速く着るむーびー。」
「そうだカット、このままじゃパーティー壊滅だカット!!」
「.........わかったけどさ.......ちょっと2人とも?」
「「⁇」」
「あっち向いてて?」
体を見られるということは女子の私にとって心の致命傷だ。
そんなことになったら、部屋の隅っこで泣きじゃくるしかない。
私は指をさし、2人の視線をなるべく私の体に向けられないように細心の注意を放つ.......
だが、
「いやいや、僕は向いちゃダメむーびー。」
シネマがそんな発言を口から漏らす。
「はぁ!?.........なにっ!?私の裸が見たいわけ?」
「いや、だからそういう意味じゃなく.......」
「もうダメだ、うわぁ~引くわ。ガチで引くわぁ~」
「........」
私が自分の体を守るようにシネマから距離を取って体の前で腕を組む。
あぁ、君がそんな奴だと思わなかったよシネマ君。
君はもう私の中では犯罪者予備軍だ。
こうして私はシネマという危険要因を脳のメモリに焼き付ける。
しかし、それと同時にシーンが私に話しかけてくる。
「いや、これに関してはシネマが正しいカット。」
「うわっ!?噓でしょ!?シーンも私の裸が見........」
「そんなこと一言も言ってねぇカット。話を最後まで聞けカット。」
「..........あっ、はい。すいませんでした......」
これに関しては私が悪いと思い、頭を深く下げる。
しかし、明らかにシネマは確黒だ。
いや、絶対そうだ。
「お前はなんか勘違いしてるカット。」
「えっ?いやいや、変態発言してきたのはシネマでしょ?
私は乙女の純潔を守ろうとしてるの。」
「......そもそも純潔カット?.........はぁ、もう嫌になるカット。」
シーンはそう言って、めんどくさそうにため息をつく。
「シネマが見てくれてたおかげで『主演補正』が入って、服が出てきたから、
シネマが見なかったらスキルで出たもの――
つまりその服は消えるカット。」
「...........んっ?」
はっ?え、えっ!?
――噓で..........しょう?
「「本気むーびー。」カット。」
◆◆◆◆◆
いや~、恥ずかしいよ。
うん、めっちゃ恥ずい。
やっぱ人に偽名を言うときは勇気が必要だと思う。※個人の感想
あまりの恥辱で私は体をよじらせる。
思わずばれてしまうんじゃないかと思ったが、
冷徹でクールな人物像を壊すまいとすんでのところで我慢する。
..........あっ、そうだ。
「絶対殺てやる.........」
小声でそう呟く私に、「えっ?」と言いながら聞き耳を立てるパーティーメンバー。
しかし、私はすんでのところで怒りを飲み込む。
しかもシネマあれだよ⁉
わ、私の体ガン見してたくせに、「魅力がない体むーびー。」とか抜かして.....
あー、まじで器が大きい私もプッツンしちゃったわー。
「..........一体誰だ?」
「ん?」
私がシネマのことを後でどうシバこうか考えていたところ、
パーティーのリーダーらしき人物から声をかけられた。
私が誰か?
なんだこいつ話聞いてないのか?
馬鹿なのか?
そう思いつつも、私は後ろで起き上がりつつあるベヒモスを背に、
高らかに自分の名を宣言する。
「........我の名はシアター、万物をエンターテイメントとする者。」
「し、しあたー?」
「そうだ、それがわた........我の名だ。」
あっっぶねぇぇ!!
私って言いかけた......
ガチであっぶねぇぇ!!
「ふっ.......まだ役作りが足りないようだな。」
「?」
「あぁ、すまない。こちら側の話だ。」
私を疑問視するような目を向けてくるパーティーリーダーに、私は軽くそう答える。
しかし、それでもその視線の意味は変わることはない。
まっすぐ向けられるその視線に少し戸惑う。
誰だってずっと見られていたら、気味が悪く感じてしまう。
「..........なんだ?」
「いや、それはおれが.......へ?....」
突如、パーティーリーダーはその口を結ぶ。
否、結ぶより驚きで声が出ないという表現の方があっているだろう。
彼は口をパクパクしながら私を指さす。
「...........!?」
何っ⁉なんか付いてるの?
えっ、顔?服?
どっち、どっち!?
「自意識過剰むーびー。」
「同意見だカット。」
「お”っまえ”ら........声が私以外に聞こえないからって調子乗りやがって.........」
私が後ろに浮遊している2人にムカついていると、
2人が私に諭すように語りかける。
その顔と声にはあきれを含む――
「後ろを見ろむーびー。」
「それに答えがあるカット。」
「はっ?..............ほう。」
「ヴォォォッ!!」
そこには私の拳を受けてもなお、立ち上がっているベヒモスの姿があった。
背中は自身の血で真っ赤に染まり、顔は怒りで満ちていた。
ほぉう。やるじゃない。
トップの高さがビルの七階くらいからでしょうに.......
「失礼したな、勇ましい猛獣よ。
お前はその雄姿をなめていた。自分より格上の相手に挑む――
それは並みのものにはできないことだ。」
そう話しながら私はゆっくりと杖を引き、先を腕の上に置く。
太陽によってその先は輝きを帯び、神聖さを醸し出す。
一点集中
私はもう一点しか見ていない。
......違うな。
その一点しか興味を持てない。
「ヴォォエアッ!!」
よほど私にイラついているのか、
それとも私のこの態勢に隙を見出しているのかは分からない。
だが、わかることはただ一つ。
「なるほど、まるで一騎打ちのようだな。」
ベヒモスは何とも言わずに私から距離を取ると、
前足を馬のように擦り付け、ザッザッと音を立てていた。
さっきからだったが、鼻から蒸気のような白い煙が溢れ出てきている。
刹那、ドッという音が鳴り響きベヒモスが私へ向けて突進を始める。
まるで、闘牛のような迫力と化す。
常人ならここで恐れおののき逃げているだろう。
しかし、私はエンターテイナーだ。
「来い、哀れな生物よ。」
「ヴォォオオ!!」
私が問いかけた言葉に反応するように、ベヒモスが反応する。
私からの距離が20メートル弱になった時、
私は軽く息を吸い、深呼吸を始める。
一点集中
終始それに尽きる。
狙うは.......
「.........心臓。」
杖先はきらりと輝き、ベヒモスを見据える。
迫るベヒモス、待つ私。
とんでもない対比の中、その瞬間は訪れる。
「.......さらば、マイ、エネミー……。」
スパッ!!という音がして大地が揺れる。
その上に立っているのは、私とベヒモス。
両者は交わり、そして.....
「ヴォエヘッ!!」
ベヒモスの体中央に小さく穴が開く。
その穴はだんだんと広がっていき――
「........deadover……」
自分が後で見直すと恥ずかしいと思うほどに、
指パッチンからのイントネーションを良くして喋った。
それに呼応するようにベヒモスの硬い体が、チーズのように割けていく。
ついに、ベキッという音が鳴りベヒモスが灰となり、宙へ舞っていく。
まるでそれは......
「ふっ、最後だけはきれいじゃないか。」
桜の花びらが舞い落ちるような幻想的な空間を作り出していた。
その光景に私も含め全員が動きを止めて見入る。
やがて、半分くらいが落ちた時、パーティーリーダーが私の問いかける。
「お、おまえ..........一体........」
まるで、化け物を見るような目つきで見られる私。
.........むっ、失礼な奴だ。
だが、まぁ、言いたいことは分からなくもない。
「なんで、そこまでの実力が.........」
知らん。
それを私に聞くな。
強いて聞くなら私の後ろの奴らに聞け。
「いや~、お疲れ様むーびー。」
「じゃあ、さっさとズラかろうカット。」
その2人は私にすぐさまこの場を離れるように呼び掛ける。
まぁ、最善策ですね。
じゃあ、離れるとしますか。
「..........」
「!!、おい、待てよ!」
「.......残念だが、エンディングの時間だ。」
私はそう言い残し、浮遊を開始する。
「おい!だからッ!」
「.........私はこの世界の調節者。」
「.........はっ?」
「お前が望まんと願うとき、我もまた同意である。」
「........何が言いたい?」
「我は世界と同義である。
汝が我を願うとき、我は深淵からこちらの世界へと誘われるだろう。」
「............ホントに何が言いたいんだ?」
いや、ノリだよ気づけよ。
ホントどいつもこいつも鈍感だなぁ。
君今やってることあれだよ......
グループLINEでみんなが話の最後にスタンプを押して、
話を終わらせようとしているのに、再度始める奴だよ。
嫌われるよ、止めな?
そんなことを考えていると、私の隣に雲が肩を並べるくらいの高度となっていた。
空とは地上とは違って、別の意味で美しい。
緑と青。
交わるようで交われないこの2つを比べられるのは、
雲にしかできない役目だ。
「.........ん?.......雲?」
私はいつの間にか右手を顎に持ってきてしまう。
その先は思考という沼地獄。
「?……どうしたむーびー?」
「そんな急に考え込んで........気の迷いってやつカット?」
いや、違うな。
そうじゃないだよ。
「ちょっ.......ちょっと。」
「お、おい。」
雲、雲..........雲。
なんか喉元まで来てるんだけど......
出てこないんだよなぁ~
「お、おい!このままだとぶっ飛んでいくカット!」
ぶっ飛ぶのか私。
ぶっ飛ぶ、ぶっ飛ぶ.........雲。
「..........!!......あぁ、たどり着いたわ。」
私は両手で顔を覆い、結論をはじき出す。
んっ?結論て何かって?
あぁ、それはね――
「な、なんかおかしいむーびー。
気が狂っちまったんじゃねぇむーびー?
さっさと目をさま.......」
これが..........結論だよ。
「ごめん2人とも.....納得できない。
Let's『テイク2』!!」
カチンッ!!
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