監督はメガホンを握る。
「.........なにあれ?」
私は私の周りを浮遊するシネマとカットに問いかける。
........早速歩き出したというのに、私たちの前にそいつは現れた。
それは青く、柔らかく、そしてプルプルと体を揺らしている。
この世界ならいつも、いつでも、どこでも存在しているそいつは、
草原の緑のじゅうたんの上でたたずんでいる。
「プルプルン!」
「なにって........スライムむーびー。」
「そうだカット。」
いやいやいや⁉︎.......えっ?ス、スライム?
むりむりむり、えっ?モンスターには勝てないよ!
私の心は恐怖の一色に染まる。
体の節々は徐々に硬くなっていき、身体の自由を奪っていく。
そもそも、元の世界にいたときに、
アニメ映画の中でスライムが人を捕食するシーンがあったため、
そこからスライム=人殺しという考えが身についてしまった。
それでも、私の頭では戦うという最悪をシュミレーションをしていたが、
スライム自体が私に興味がないらしく、ただプルプルと揺れているばかり。
「........じゃっ、スルーしようか..........」
私がスライムから距離を取ろうとしたとき........
「何をしてるムービー?」
「早く戦えカット。」
「…………はっ?」
2人に服を掴まれて止められてしまった。
えっ、なんで?なんで掴むの?
ってか、なんでそんな目をしてるの?
二人の目は「えっ、どういうこと?」と言いたげな目をしていた。
その目線は的確に私の目を射抜いている。
「………自分で自分でって、言ってる割には臆病むーびーね。」
「しょうがないカット。女の子だからビビってしまうこともあるカット。」
気づいたら私は言いたい放題されている。
………果たしてこの世界には人権が存在しているのか?
そんなことをふと疑問に思ってしまう。
「……いや、だから勝てるはずないでしょ?
今の私は丸腰状態、そんなんで凸ってみな……すぐドロドロにされるよ。」
私はうんざりしながら二人に説明する。
………別にビビっているわけではないのだ。
うん。ビビっていない。
「あぁ、そういうことむーびーか?」
「それなら大丈夫だカット!」
「はっ?………話聞いてたの?」
「聞いてるから言ってるんだむーびー。」
……なるほど、道具だから壊れることはぐらいあるか。
そうだな……壊れているんだったら叩かないといけなくなる。
「エミちゃん……今君が持ってる力がどんなものかわかるむーびー?」
「ちから?……握力とかは強くなった感じはしないけど?」
「そういう力じゃないカット!
俺らが言いたいのは、君のスキル………『物語作成』についてカット!」
はびんぐめがほん?
意味のわからない単語に私は頭を抱え込んでしまう。
……しかも、なんか厨二臭いし…………
「その…なに?はびんぐめがほん?なんてものがあっても無理だから。」
私はそう言って再度スライムの5メートル横を通り過ぎようとする。
「人の話を最後まで聞くむーびー!」
「えぇ〜、だってさ……」
私は口を尖らせながら、不服気味に問う。
なんでそんな危険なことをしないといけないのか?
それがただただ疑問でしかない。
「…言いたいこともわかるむーびーが………それは関係のない話むーびー。」
「関係ないって………命かかってるんですけど?」
「だから、大丈夫って言ってるカット!君のその『物語作成』は……」
「ハビングメガホンがなんなの?」
「………勝つことが既定路線になっているカット。」
…………おっし、叩くか。
私は腕をブンブンと振り回し、シネマとシーンに近づく。
そのため、私が一歩一歩ゆっくりと踏みしめる場所にある草は潰れていた。
それを見て焦ったのか、2人はあわあわとし始めて早口で喋り出す。
「ちょっ、ちょっとほんとムービー!」
「おっ、おい!落ち着けカット!」
「........じゃあ、どう言うこと?……既定路線って。」
私は笑顔でポキポキと手の関節を鳴らす。
当たり前だ。一歩間違えたら死ぬのは私。
勝てるよって言われて、丸腰で簡単に走れるほど私は楽観的じゃない。
「えっ、えっと…まず俺らはエミにこの世界に来た時にスキルをあげたカット。それが、『物語作成』だカット。」
「そして、そのスキルは大きく分けて、
『主演補正』と『テイク』という二つがあるムービー。
まず『主演補正』は、僕の視界に入っている限り、『物語作成』のスキルの持ち主に身体的や精神的にバフをかけて、たまに色々有利になる状況を引き起こすむーびー。ちなみにさっき言った既定路線はこの能力があるから言えるムービー。」
「へ〜、主人公補正みたいなもんか……じゃあ、『テイク』って方は?」
私が二人に質問すると今度はシーンが説明するのか、シネマがシーンを見つめている。
しかし、当のシーンは辺りを見渡しているだけ。
「……ねぇ、何してるの?」
聞いてはいけなかったかもしれないが、私は思わず聞いてしまう。
すると、シーンは何かを見つけたかのように一点を見つめている。
「……見ろカット。」
そうシーンに促され、私の視界に入ってきたものは、
風に流されたヒラヒラと私たちの前に来た一枚の葉だった。
「よ〜く見てるカット。」
シーンはそう言うと―――
「『テイク2』」
カチンっ!
不意にシーンからカチンコの音が聞こえたと思っていたら
視界が一瞬だけ暗転して、元通りになる。
しかし、全てが元どうりというわけではないらしい。
「……⁉︎あれ⁉︎…ない、ない!さっきの葉っぱがない!」
私たちの前をヒラヒラ舞い落ちるはずだった葉っぱは、いつの間にか姿を消していた。
突然の出来事なので、私は混乱してしまう。
そして、私が葉っぱがどこにあるか確認しようとしたところ……
「……ひゃっ!」
突然、頬から柔らかい感触が伝わる。
最初は虫かと思い払い除けようとしたら、それは――
「……う、嘘でしょ?」
払い除けた手についていたのは、今まさに探していた葉っぱだった。
「これがエミ兼俺の能力である、指定の時間を何度でも繰り返して、
未来を改変できる能力……『テイク』の真骨頂カット!」
「……へっ、へ〜………す、すごいね……。」
凄すぎてまさにぐぅの音も出ない。
逆にここまで行き過ぎた能力が存在するのだろうか?
自分で自分の表情は見えないためわからないが、
おそらく瞳がグルグルと回っていることだろう。
「けど、強いぶん使いがってが悪いところがあるカット。
まず、俺が使ったら関係ないけど、エミが使うと戻せる時間に限りでてくるカット。
そして、どちらとも一度使ったら10秒間使えないし、
『テイク』を使ってから1時間の間にまた『テイク』を使わないと、未来が固定されるカット。」
「じゃあつまり、私が使うと戻せる時間に限界があってこと、
一度使ったら10秒の間を開けないと再使用できないこと、
最後に、変えた未来は1時間経つと過去に戻って変えられなくなるってことね。」
私は一つ一つ指でカウントしながら、噛み砕いてしゃべる。
私のその説明を聞いて安心したのか、シネマとシーンがホッと息を吐く。
「そうカット!いや〜、理解が早くて助かるカット。
因みに今は、未来を何も変えていないから安心して欲しいカット。」
そして、二人は私の後ろにいるスライムへと目を向ける。
その目はやる気に満ちているが、それに対して私は消極的。
ぶつぶつと文句を言いながら、武器になりそうな足元の枝を手にとる。
………… ん?
「えっ!?………いつのまにこんな枝が……?」
よく見るとその枝は握りやすいように持ち手が丸っこく、
両端は研がれたかのように鋭くとがっていた。
「あっ、それが『主演補正』むーびー。早速出たむーびーか。」
「早速って、えっ!?こういう事!?」
「………なんだと思ってたんだカット?」
二人は私が変人かのような目でジトっと見つめる。
………何か悪いの?
「まぁ、とりあえずスライムさんも待ってくれてるから早く倒すむーびー。」
シネマはそう言って、『主演補正』のせいなのか動けずにいたスライムを見る。
まるでその姿は主から餌を待つペットのような感じだったので、
私はスライムに近づくのを少しためらう。
それでも私は後ろからのプレッシャーに負けて―――
「………ゴメンっ!」
枝をスライムに突き刺した。
するとスライムはプルプルと震えだし、ジュワっと溶けてしまった。
青い液体が草を汚し、土の中に浸透してシミを残す。
「………あれ?…あっけなくない?」
刺されてもスライムが何も反撃しなかったのを、
おかしいと思い思わず二人に聞く。
「そうむーびー?……だいたい思考能力がないモンスターはあんな感じむーびー。」
「そうカット。普通に動いてくるのはゴブリンぐらいからカット。
まぁ、つまらない相手だったカット。」
コレも、『主演補正』と言うもののおかげだろうか………
安心しきった私は腰から崩れ落ちる。
しかし、何かを殺めるという行動は絶対的なメンタルを要する。
現に私の手は細かく震え、足はがくがくと震えていた。
よかった助かった、そう思えた。
だが、
――私は目の前の青いシミを見て、
何か心にぽっかり穴が空いたような気持ちになった。
助かったことは良かったものの、あと一つ何かが足りない。
何かが、何かが足りない。
...........何か―――
「.............そうか。」
私は理解する。
足りないものは何なのか、それは―――
「『テイク3』。」
私は両隣で驚くシネマとシーンを横目で見ながらそう宣言する。
そう、この世界はまだまだ完璧じゃない。
ちなみに『物語作成』は自分の物語のメガホンを取るところから名前がきています。
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