異世界転移とは映画でいうただの場面変化に過ぎない。
私、紫宮画観は異世界に来ています。
と、唐突な話に困惑した方もいるかもしれませんが、
正真正銘まぎれもない事実です。
だって、目が覚めたら目の前には草が生い茂った草原。
それと空には雲と共演する竜の姿がはっきりと見えます。
そして、今一番私を驚かせているのが...........
「エミちゃん!準備はできたむーびーか?」
「では、さっそく行くぞカット!」
これらのシネマカメラとカチンコの形をした、
二人のキャラクターの存在であった。
◆◆◆◆◆
まだ異世界に来る前の話だ。
誇れるほどではないが、私はある放送系の専門学校を首席で卒業した。
元々私は完璧を求める主義であったため、努力や工夫などが評価され、
学校内では私の映画が一番だとみんなが認めてくれた。
私がやっていたことは主に映画監督。
ふつうは役者や動画編集のほうが人気があるが、
私はみんなとの差別化を目指して、あえて監督の道を志した。
その判断は案外正解だったらしく、私の性格とマッチしていた。
そのこともあって、私はぐんぐんと力を伸ばしていけたわけだ。
卒業して一か月後のある日。
私の実家のポストに、手紙が入っていた。
その内容は、急病で倒れた監督のために代理でメガホンを持ってみないか、
というお願いの内容だった。
この手紙を見た私は即日に「やらせてください!」と連絡をした。
本当にうれしかった。
自分の努力が実った気がした。
そう思っていたが...........
「.........はっ?」
私が現場に行ったとき、そのような思いは消し飛んだ。
今この目の前の惨状を皆さんにも感じていただきたい。
そして、私に同情をしてほしい。
なぜ私はそう考えるのか、それは.........
「ダカラッテイッテンダロ!」
「ダケドワタシハキミヲシンジル。」
大事なシーンでさえもこの酷さ。
明らかに役者の演技不足が白日の下にさらされている。
これなら前の監督が病気になってもおかしくはないだろう。
「皆さんっ!ちょっとよろしいですか!」
私が全員に大声で呼びかける。
一部の人は真面目に聞こうと私と目を合わせようとしているが、
大部分の人は新米の私を舐めているらしく、
指いじりや食べ物を食べたり、他の役者と会話などを始めてしまって、
まるで私の話時間が休み時間だと思われていると錯覚してしまうぐらいだった。
「...........いいですかっ?今の皆さんは圧倒的に稽古不足です。
登場人物たちそのものになりきれていません。
......この脚本、読ませていただきましたが、とても素晴らしい。
登場人物の様子や行動、言動から気持ちが漏れ出ているように感じました。」
私はこれだけは言っておかないといけないと深く息を吸い込む。
「.......皆さんの今の演技じゃ、この映画は完璧にはなれない。
名作になる運命が駄作になってしまう.......それでもいいんですか⁉」
言うべきことは言った、後はこの人たちが本気になるのを待つだけ........
「.......あぁ~、えっと、エミちゃんだっけ?」
そう言って、私の前に現れたのはこの映画の主演俳優。
彼は駄々をこねる子供に対して母親が向ける表情をしていた。
「........何ですか?」
「いや~、エミちゃんの言いたいことはものすごく分かった。」
理解から入った男だったが、次の言葉はそれをも書き換える衝撃を画観に与える。
「.........俺らって、金がすべてなんだわ。」
「........それは......冗談ですか?」
自分ではわからないが、今の私はとても険しい顔をしているのだろう。
主演の男が私をなだめるように両手を向ける。
「ううん、俺らにとってこれは飯を食ってくための道具だ。
ぶっちゃけ適当に出て、それ相応のギャラをもらえれば俺はいい。
..........大事なのは、どうやって楽に稼ぐか.......なんだよ。」
「.......ギャラ?......適当?.......楽に稼ぐ?」
あぁ、これはまずい、何か来る。
その瞬間、私の心の奥底にある柱のようなものがポキッと折れた。
「............ふ、ふざけん”なっ!!......何が飯を食っていく道具だ⁉
何がどうやって楽に稼ぐだ⁉.....いい加減なこと言うなっ!!」
場が凍りつき、全員が私と主演の男を交互に見る。
私はその状況を横目で見つつ、男に言い続ける。
「そんなことを考えているならどこかでアルバイトでもしててくださいっ!!
.......分かりますか?......ここはプロの世界なんですよ?」
最後の最後に冷静さを取り戻した私は、男に疑問を投げかける。
男自身も少し申し訳なさそうな顔をしているが、
どうせ表面だけだろう。
昔から映画を見入り浸っていたおかげか、そういうのには人一倍敏感。
この男を漂うオーラがすべてを物語っている。
「.........お、俺は.......」
「もういいです、分かりました。」
私はそれだけを告げる。
椅子から立ち、男にメガホンを投げつける。
「......役者ですよね?.......私になりきったらわかりますよ。」
極寒の場の中、私は自分の荷物を手に持って早々と去っていった。
◆◆◆◆◆
あの後、私は担当者の人にお詫びのメールを送った。
担当者の人も私に謝ってきたが、この返信を見て理解する。
「.......あぁ~、もう仕事来ないな私。」
当たり前だ。
初仕事であるひよっこが役者とトラブルを起こすなんてあってはならない。
あの時は衝動的に動いていたが、もう少し冷静になれば結末は変わったのだろうか?
そんな考えが頭を無限にループする。
「......もういいや、考えただけ無駄だ。」
私は体の力を抜いて、隣にあったソファーに倒れこむ。
フカフカな肌触り。
全てが私の身も心も溶かしていく。
それにしても、自分があの時、あの場所で演技をしていたら、
一体どのような映画になったのだろうか?
「.......完璧、かな?」
私は自分で言った言葉に、くすくすと笑いだす。
生まれて初めて、自分自身への皮肉をしたと思う。
それもまた面白おかしく、愉快だった。
ひとしきり笑い終わった後、私は深い眠気に襲われる。
「......あぁ~、待ってタオル干さない、と........」
私の体は眠気に支配されていく。
そして、私は夢を見るのだろう。
自分が自分で自分の物語を作る夢.........
そうだ私は.........
「............演出家.........」
「...................」
私は完全に眠った。
髪の毛をも乾かさないで、そして.......
「..............寝たむーびー?....」
目の前のある存在にも気づかないで.....
◆◆◆◆◆
で、今現在。
「早くするむーびー!」
「そうカット。」
右にはカメラのちっこいのが、左にはカチンコのちっこいのが、
私の服を両方から引っ張ていた。
「.........行くも何も.......どこへ?なぜ?......そもそもあなたたちは誰?」
私が目の前の二人に質問を投げかけると、二人の動きが止まる。
「しゃ、しゃべった?」
「あぁ、こいつ今しゃべったカット。」
二人は目を合わせると、頷き合って私に再び顔を向ける。
「初めましてむーびー。僕はシネマ。そして.......」
「俺が、シーンだ。よろしくな!」
「よ、よろしくお願いします.......」
私は目の前に現れたシネマとシーンに反射的に挨拶をする。
「やめるむーびー。じれったいむーびー。」
「その通りカット。敬語じゃなくていいカット。」
「........はぁ。」
だんだんこの空気感にも慣れてきたため、私は二人に聞く。
「あの~、さっきまで私部屋に.......」
「あぁ!僕らがあの場所から連れ出したむーびー。
今ここは異世界むーびー。君のいたところとは違うむーびーよ。」
「では⁉なんで⁉なんで、私は異世界に?」
「........?.......お前が願ったカットよな?」
「えっ?」
いやいや願ってない!ないない!
「嘘をつくのがうまいむーびーね。ちゃんと聞こえたむーびーよ。
『自分が自分で自分の物語を作る夢』があるむーびーって。」
「だからってなんで⁉」
「だから、叶えてやったんだカット。」
叶えた?いったい何を........
「おまえ自身の物語を作れる場所を用意したのさ、見ろカット。」
そう言って、シーンは周りを見るように促す。
「.......うわぁぁ~。」
再びこの広大な土地に目を向ける私に今度はシネマが声をかける。
「ここではエミちゃんが好きなことし放題むーびー。
自分で自分の物語を本当に作っていいむーびーよ。」
自分で........自分の.........
そんな夢みたいなことって.......
「さぁ、俺らもサポートしてやるからさ........」
「そう、だから........」
「「上演しようむーびー!」カット!」
その瞬間、三人の上空を暖かい風が通り過ぎた。




