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『婚約破棄されたので腹いせに国を支配します!5』

作者: 山太郎
掲載日:2025/12/17

【第5話 月夜の戴冠】


地下聖堂。

炎の女神が天井を突きぬけ、溶岩の雨が降る。

石床が焼け、柱が崩れ、空気そのものが息をできなくなっている。


私は駆け込んだ。

祭壇の手前で〈アプレイザル〉を起動させる。

瞳孔が細くなり、世界の濃淡が切り替わる。


女神像の胸。

ドレスの隙間に浮かぶ小指大の光の玉。

呪核だ。

表面はヒビだらけ。

魔力が暴走している。


「セシリア」

私は暗闇へ叫んだ。

「あなたの光は偽りよ。

 華やかさの裏に、歪んだ魂がたった一つ」


像の向こうで、セシリアの体が動く。

彼女は光の鎖に絡みつかれ、動けない。

呪いに操られているのだ。


「やめて……やめてください……」

かすれた声。

かつての同級生の声。

だが私は止まらない。


祭壇へ手を置く。

国じゅうの者が朝の祈りをささげる時間だ。

その祈りの魔力が、伝播陣を通じて私の体へ流れ込む。


血管が焼けるように熱い。

心臓が高鳴り、呼吸が火になる。

だがそれを制御する。


紅蓮こうれんステップ」


私の足が光速に近い速度で動く。

炎の羽根をすり抜け、女神像の胸へ跳び込む。

杖が槍に変形し、呪核へ向かう。


音もなく。

槍先が核を貫いた。

かたい。

光のような音。


呪核は砕ける。

ひび割れから光が噴き出し、女神像全体がかき消えた。

溶岩の雨がやむ。

地下聖堂は静寂に包まれる。


セシリアは床に崩れ落ちた。

目は虚ろで、呼吸も浅い。

魔力の反動で、脳が焼かれたのだ。

生きてはいるが、もう意識は戻らない。


 


外へ出ると、王都は火に包まれていた。

禁呪による炎は、もう街を半分も焼いていた。


ガウェインが駆け寄る。

「妹! 生きてるか」


「ええ。でも聖炎はまだだ」


私は火の壁を見つめる。

呪核は破壊したが、既に現界した炎のエネルギーは独立している。

消すには、全体の魔力を逆流させるしかない。


「水を。大量に」


工兵が水路をぶち破る。

王都郊外の川が、街へ向かって流れ込む。

だが炎は水を飲み込み、さらに激しく燃える。


「違う。物理では消えない」


私は息を整え、もう一度祭壇へ。

今度は逆。

私自身の魔力を全放出させて、炎の流れを反転させる。

火は外へ追い出され、空へ散ってゆく。


最後の炎柱が天を焼き、消えた。


 


王宮屋上へ駆け上がると、皇太子が暗殺隊を率いていた。

十人の影。

全員が魔導銃を構える。


「レティシア! お前が全部をぶち壊しやがった!」


皇太子の声は涙で震えている。

セシリアを失ったショック。

王国を失った恐怖。

愛する者も、権力も、何もかも。


「やっぱり来たね」

私は杖を立てた。

「もう終わりよ。あなたのゲーム」


「言うな! 貴様が全部盗んだんだ!」

皇太子が銃を向ける。


ガウェインが前へ出た。

「妹の邪魔はさせない」


兄は剣を抜き、銃口の前で回転させる。

銃弾は刀身に当たり、火花を散らして逸れた。

次の三発も。

四発目が兄の肩を裂く。


ガウェインが片膝をついた。

「よし、妹。今だ」


私は背後から魔導銃を抜き、皇太子の膝へ射撃。

一撃。

皇太子は悲鳴をあげて倒れた。

足が吹き飛び、血が屋上を赤く塗る。


「ひざまずきなさい──王冠ごと、私に服従を!

 恋人を捨てた罰?

 いいえ、大陸をかけたゲームの始まりよ」


皇太子は意識を失った。

暗殺隊は武器を落とし、逃げていく。


 


翌朝。

正式な会議が王宮で開かれた。

参加者は父公爵、反王制派の貴族たち、そして私。


「皇太子アルバートは爵位を剥奪し、国外追放とする。

 セシリア・バルデスは禁呪の使用者として逮捕。

 身柄はとなり国フェルデラへ身柄保護のため移管する」


国王は文書に署名した。

もう王ではなく、ただの老人だった。


「だが、お前がなるわけにはいかん。

 帝国法では、二十歳未満は王位を継承できん」


「わかります」

私は敬礼した。

「なので、私は『女王代理』となります。

 正式な戴冠は二十を超えてからでいい」


父公爵が微かに笑う。

「やるな」


 


その晩。

王宮のテラスで、私は月を見上げていた。

マリアンヌが極秘電報を持ってきた。

顔色は悪い。


「フェルデラが『聖女救出戦争』を宣言した。

 公式には聖女保護のため、軍を動かすそうよ」


「セシリアを傀儡かいらいにするつもりね」


「ああ。そしてもう一つ。

 東の大帝国がオリエン鉱石に目をつけた。

 艦隊を派遣中。二週間で到着」


私は笑った。

月の光が笑顔を照らす。


「敵が増えただけね」


「増えた、じゃなくて『三倍になった』よ。

 王国、隣国、大帝国。

 同時に相手できるのか」


「できるわ」


私は宝石のような瞳で、大陸を指した。

マリアンヌは息をのむ。


 


ガウェインが肩を包帯で巻いたまま、テラスへ来た。

医者に「一月は剣が握れん」と言われたのに、

すでに左手で練習を始めている。


「次の計画は?」


「防戦一辺倒から転じて、攻勢に出ます。

 まずは王国の再建。

 次に隣国フェルデラの経済的な圧殺。

 最後に大帝国との取引交渉。

 三つ同時に進めるわ」


ガウェインは笑った。

「妹よ。お前の目は昔から、山ほどのリンゴより黄金のリンゴを選んだ。

 今度は何色を選ぶ?」


「全部。山も、金も、月も星も。

 一つ選ぶなんて退屈よ」


私は王冠を被った。

本来なら女王代理用の簡素な冠だが、

私は最高位のそれを勝手に被った。


「婚約破棄に泣く暇なんてない。

 王冠を奪う方がずっと建設的でしょ?」


マリアンヌが帝都商会の旗を立てた。

ガウェインが剣を握った。

領民たちが広場で歓声をあげた。


 


戴冠式の最後。

私は国民へ向けて宣言した。


「国民よ、聞きなさい。

 これより我が国は新しい道を歩む。

 身分の上下はない。

 評価は血ではなく、行動と成果で決まる。

 働く者には報酬を。

 学ぶ者には学舎を。

 戦う者には栄誉を。

 ただし、裏切りには容赦はない」


拍手が轟いた。

子どもから老人まで、全員が手を打ち鳴らす。


夜空に新しい旗が揚がった。

白百合の紋から、金色の王冠へ変わった。

それはアルヴァロの新しい時代を示す。


 


終わりの夜。

私は城の塔から見下ろす。

王都の復興が始まっている。

街灯がともり、商人が荷車を動かし、歌声が聞こえる。


マリアンヌは海へ新しい港を建設中。

ガウェインは国防軍の改編を進めている。

父公爵は老いの身で、顧問として機能している。


全てが動いている。


でも、私の歯車はまだ加速している。

今は国内。

次は大陸。

その次は――。


私は月に手を届かせるつもりで腕を上げた。

王冠が月光を反射し、金色の光が大陸を照らした。


「腹いせはまだ終わらない。

 All kneel」


呟いたのは、宣言ではなく誓い。

そして誓いは、必ず成就する。


第一部の戦火は終わり、

第二部へ向けて、大陸が軋み始めた。


第5話 了


――――――――――――――――――

第一部 完

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