7. この春を、あなたと重ねて
あれから2年と数ヶ月――また桜の季節がやって来た。
春の風が街を包み、青空の下で花びらがふわりと舞う。
あの日から弦くんと少しずつ歩幅をそろえて過ごした日々が、まるでこの桜の色のように重なって思い出される。
私たちは水曜日のランチタイムに会って、週末は奈々美が出かける時だけ一緒に出かけていた。
はっきりとはわからないけど、奈々美も恋をしているのかな。家に帰ってきた時のふわふわとした雰囲気が、どこか自分に似ているような気がする。
季節は巡っても、守りたいと思えるものが確かに増えていった。
これからもきっと――ふたりで同じ時間を積み重ねていけるのだろう。
公園のベンチに座ると思わず笑みがこぼれた。
「フフ……どうしたんだ?」
「思い出してたの、あなたと再会した日のこと」
「ああ、あの日か」
あの時、小さな奈々美を連れて公園にいた時に彼が来てくれた。今思えば、それは偶然ではなかったのかもしれない。
穏やかな風が彼の髪を揺らす。こちらを見て微笑んでくれるだけで幸せを感じる。
目の前を高校生の男女が歩いてゆく。その姿にあの頃の自分を重ねることは――もうする必要はない。
隣にあなたがいてくれるから。
「俺も……思い出してた。凛々子さんに再会した日のこと」
「あの時、ボロボロだったよね……私」
「……でも、頑張っているんだなって思ってた」
優しいな……弦くんは。
私は彼にゆっくりと寄り添う。
「そんな凛々子さんを、この手で守りたかった」
穏やかな声。その言葉を聞くだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
「弦くん……」
親子の笑い声が遠くで聞こえてくる。
自転車に乗った小学生たちも、春の風と一緒に通り過ぎて行った。
「……ありがとう」
その時、スマートフォンが鳴る。
画面には奈々美からのメッセージ。
『無事に着きました。こっちも桜が綺麗だよ!』
マンション前にある、大きな桜の木の写真が添付されている。
ここの桜に負けないぐらい綺麗だ。
「奈々美さんか?」
「うん、向こうのマンションに着いたみたい」
奈々美はこの春から大学生になる。
新生活の始まり――あの子ならきっと楽しんでくれるだろう。
「奈々美さんがいなくて寂しい?」
「ちょっとはね。だけど平気……あなたがいるから」
そう……そろそろ弦くんがいることを、伝えてもいいのかもしれない。
「今度帰ってきた時……紹介しようかな」
「誰を?」
「もちろん……あなたのことを。ちゃんと、奈々美に。私の大切な人として」
弦くんがひと呼吸だけ驚いた顔をして、すぐに柔らかく笑った。
「……よろしくお願いします、って言わないとな」
「ふふ。言ってね」
これからもあなたと一緒に、季節を重ねていきたい。
だから……そばにいてね、弦くん。
桜の花びらが、ふたりの肩にそっと降り注いだ。
――そして、桜の下ではもうひとつの春が始まろうとしていた。
(to be continued ― 「君の隣で、未来も揺れている」へ)




