表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

7. この春を、あなたと重ねて

 あれから2年と数ヶ月――また桜の季節がやって来た。

 春の風が街を包み、青空の下で花びらがふわりと舞う。

 あの日から弦くんと少しずつ歩幅をそろえて過ごした日々が、まるでこの桜の色のように重なって思い出される。


 私たちは水曜日のランチタイムに会って、週末は奈々美が出かける時だけ一緒に出かけていた。

 はっきりとはわからないけど、奈々美も恋をしているのかな。家に帰ってきた時のふわふわとした雰囲気が、どこか自分に似ているような気がする。

 

 季節は巡っても、守りたいと思えるものが確かに増えていった。

 これからもきっと――ふたりで同じ時間を積み重ねていけるのだろう。


 公園のベンチに座ると思わず笑みがこぼれた。

「フフ……どうしたんだ?」

「思い出してたの、あなたと再会した日のこと」

「ああ、あの日か」


 あの時、小さな奈々美を連れて公園にいた時に彼が来てくれた。今思えば、それは偶然ではなかったのかもしれない。

 穏やかな風が彼の髪を揺らす。こちらを見て微笑んでくれるだけで幸せを感じる。


 目の前を高校生の男女が歩いてゆく。その姿にあの頃の自分を重ねることは――もうする必要はない。

 

 隣にあなたがいてくれるから。


「俺も……思い出してた。凛々子さんに再会した日のこと」

「あの時、ボロボロだったよね……私」

「……でも、頑張っているんだなって思ってた」


 優しいな……弦くんは。

 私は彼にゆっくりと寄り添う。


「そんな凛々子さんを、この手で守りたかった」

 穏やかな声。その言葉を聞くだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。

「弦くん……」


 親子の笑い声が遠くで聞こえてくる。

 自転車に乗った小学生たちも、春の風と一緒に通り過ぎて行った。


「……ありがとう」


 その時、スマートフォンが鳴る。

 画面には奈々美からのメッセージ。


『無事に着きました。こっちも桜が綺麗だよ!』


 マンション前にある、大きな桜の木の写真が添付されている。

 ここの桜に負けないぐらい綺麗だ。

 

「奈々美さんか?」

「うん、向こうのマンションに着いたみたい」


 奈々美はこの春から大学生になる。

 新生活の始まり――あの子ならきっと楽しんでくれるだろう。


「奈々美さんがいなくて寂しい?」

「ちょっとはね。だけど平気……あなたがいるから」


 そう……そろそろ弦くんがいることを、伝えてもいいのかもしれない。

「今度帰ってきた時……紹介しようかな」

「誰を?」

「もちろん……あなたのことを。ちゃんと、奈々美に。私の大切な人として」


 弦くんがひと呼吸だけ驚いた顔をして、すぐに柔らかく笑った。


「……よろしくお願いします、って言わないとな」

「ふふ。言ってね」

 

 これからもあなたと一緒に、季節を重ねていきたい。

 だから……そばにいてね、弦くん。

 

 桜の花びらが、ふたりの肩にそっと降り注いだ。


 ――そして、桜の下ではもうひとつの春が始まろうとしていた。

 

 (to be continued ― 「君の隣で、未来も揺れている」へ)

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ