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08 セバス

 「まぁ怖い! これだから野蛮なゴリラは扱いに困りますの、頑丈な(おり)を用意しますからそこでウガウガ言ってなさいな」


 「よーし! オマエが来ねぇなら俺が行ってやろう、そのデカいケツに蹴り入れて倍のデカさにしてやるよ」


 「貴方(あなた)の蹴りなんて何発食らっても痛くも(かゆ)くもないですの、私からその凶悪な顔に華麗な右ストレートをぶっ込んであげましてよ!」


 ミヤビの半泣きをよそに、女神田中と精霊女王と思わしき女性の言い争いが白熱し、ついに闘いの火蓋が切られるのかとミヤビ達含め周囲の者達が息を呑んだその瞬間、


 バッ!

 ギュッ!


 「久しぶりですの! 元気にしてたんですの? 全然会いに来てくれないから心配してたんですのよ!」


 「悪りぃ悪りぃ、色々忙しくて中々機会が無くてよ、……元気そうで安心したよ《ティバニア》」


 両者がぶつかり合うと見ていた全員が思っていた次の瞬間、女神田中とティバニアと呼ばれた女性が遠距離恋愛中の恋人のようなハグをしていた……空中で。

 ミヤビを抱っこしながら女神田中が空中に飛んだ事で、女性2人のハグの間に挟まれるというテトがまた嫉妬しそうな状況なのだが、ミヤビはそれどころではなかった。


 「(い、息が苦しい……)」


 「おっと危ねぇ、コイツが居んの忘れてた」


 「なんですのこの子? ……はっ! まさか貴方の隠し子なんですの!? 相手は誰ですの!? ま、まさかロキですの!?」


 「んなわけねぇだろ! 事情があって今一緒にいるんだよ、俺の子なわけねぇだろ」


 両者のハグの間に挟まれた羨まけしからんミヤビを女神田中は少しハグの感覚を空ける事で救出し、そのミヤビに気付いたティバニアが矢継ぎ早に女神田中に質問を投げかける。


 「なんですの事情って! ま、まさかロキが他の女との間に産まれた子を貴方に(たく)したんですの!? ねぇどうなのよ!?」


 「うるせぇ! 相変わらず人の話聞きやがらねぇなこの女は! とりあえず一旦離れろ!」


 ティバニアの質問攻めに女神田中が返すが、ちゃんとした説明をする前に、また次々と質問をしてくる状況に女神田中は抱きついてきていたティバニアを無理矢理引き()がす。


 「(……あのお姉さん目が座ってるけど大丈夫なの?)」


 「あぁ、普段はこうじゃないんだがな……、ロキが絡むとあんな感じになるんだ」


 「はっ! そうよ! ロキはどこにいるの!? いつもは無遠慮(ぶえんりょ)に人の居る場所に勝手に入ってくるあの男が正規の手段で会いにくるなんて……、コレはもしかしてもう結婚秒読みでは?」


 「(あ、うん、なんかヤバそうなのは分かった……)」


 「だからアイツの名前出すの嫌だったんだよ……、はぁ、とりあえず落ち着かせるか……フンッ!」


 「うぐぉっ!」


 ミヤビがティバニアの目を見た感想に、女神田中がロキの名前を出して答えた瞬間、ティバニアはロキの名前に反応し1人の世界にトリップしていく。

 それを見たミヤビは正しく相手のヤバさを実感し、女神田中はティバニアの前でロキの名前を出す事の面倒くささを改めて実感する。


 おそらく彼女の様子からすでに分かっているとは思うが、後でテトにもキッチリ痛みを(ともな)う会話で解らせてやろうと決意し、女神田中は目の前の彼女を落ち着かせる為に一旦キレイなボディーブローを腹にぶち込み意識を奪う事にした。

 その衝撃で、およそ女性が出さないような野太いうめき声をあげながらティバニアは気絶した。


 「女王様! おのれこの(ぞく)めが! 我が(あるじ)を傷つけた事を後悔するがいい! 行くぞ《モンガイ》!」


 「おぅ! 我等の女王様をお助けするぞ《ドミバン》!」


 自分が仕えている女王に腹パンをぶち込む女神田中に対し、主を助ける為に立ち上がる門番2人だが、女神田中が放つ次の言葉でその勢いを止められる。


 「我が名は【死と再生の神 《ベルセポネ》の系譜に連なる1柱《レブルナ•田中•アブルグ》】だ、そこのクソエルフ共、主を守るその意気は認めるが誰にその槍を向けているか、もう一度考えよ」


 おそらく女神としてのチカラを解放する時にそうなるのだろう、女神田中は自身の神としての名乗りを、淡い金色のオーラともいうべきモノに包まれながら上げる。


 「「へっ?」」


 目の前の神々しいオーラを(まと)った女性と、その彼女に言われた言葉を頭の中で整理し、その情報を理解した瞬間に、門番2人の思考は停止した。


 「ったくいちいち面倒くせぇ、……おいセバス!! いるのは分かってんだから出て来い!」


 「おや、気付いていましたか、お久しぶりでございますレブルナ様」


 思考停止した門番を気にもせず、女神田中はまた誰かの名を叫ぶ、すると女神田中の後ろに今まで居なかった男が一瞬で現れた。

 短く切り揃えられたロマンスグレーのヘアスタイルに綺麗に整えられたヒゲ、加えて完璧なまでの執事服を着こなした初老の男性が、見惚れるような所作で女神田中の名前を呼び、挨拶をする。


 「その名前で呼ぶんじゃねぇよ、……ほら、さっさと中で茶でも出してくれ」


 名前も姿も執事そのもののセバスが女神田中のファーストネームを呼ぶと、彼女は左手にミヤビ、右手に気絶したティバニアを抱え、嫌そうな顔でそう返しながら城の中に入れろと催促(さいそく)をする。


 「かしこまりました、すぐにご用意を……、お嬢様をお預かりしても?」


 「あ? 意識無いコイツをオマエに預けたらナニするか分かったもんじゃねぇから絶対ヤダ」


 女神田中の嫌そうな顔を特に気にした様子もなく、セバスは言われた通りに行動しようとし仕えている気絶した主人を預かろうとするが、女神田中はさらに嫌そうな顔で拒否する。


 「それは(ひど)い、ちょっとベッドに寝かすときにスンスンするだけですが?」


 「真顔でそれ言うのやめてくんね?」


 「(このおっさんもヤバそうな感じが……、まともな人いないの?)」


 拒否された事に悲しそうな顔をしたセバスは女神田中に抗議するが、真顔で変態的な事を言ってくるセバスに女神田中は本気でドン引きする。

 それを見たミヤビはこの世界に来てから出会った人に、まだまともな人が居ない事を別のベクトルで恐怖していた。


 「まぁいつでもチャンスは有りますから今はいいでしょう、……それではコチラへどうぞ」


 「オマエマジで一線超えたらブチ殺すからな?」


 そんな女神田中とミヤビの内心を気にする事もなくセバスはアウト寄りの発言をしながら城へ案内する。


 ちなみにこの一連の会話の中で、女神田中、ティバニア、セバスの3者は全員空中に留まって会話していた事をご報告致します。


 セバスに案内され、バルコニーから入城するという門番が賊と言うのもあながち間違ってはいない入り方をした女神田中は、通された来客用の部屋に入り近くに(ひか)えていたメイドにティバニアを預け、部屋のソファに腰かける。

 しばらくして別のメイドが紅茶とお菓子をテーブルに持ってきたタイミングで、思考停止した門番の横をすり抜け、歩いてここまでやってきたテトと合流する。


 「よぉ、遅かったじゃねぇか」


 「よぉ、じゃないッスよ、せっかく穏便に城に入れてもらおうとしてたのに、俺様のスマートな計画がパーじゃないッスか」


 「……ロキの名を出して穏便に済むわけねぇだろが!」


 ゴンッ!


 「痛てっ!」


 自分の用意した計画を潰された事に抗議するテトだが、その計画の杜撰(ずさん)さに逆に(しか)られる。


 「ったくオマエそんなんでよく今まであの化け物相手にしてたな? オマエがすげぇのか、あの化け物がそんなにすごくないのか分かんねぇな」


 「(確かに……)」


 「俺様だって必死にやってんッスよ」


 「だいたいオマエは計画ってもんの大事さを分かって」


 「あぁー、聴こえないー」


 テトの杜撰(ずさん)な行動に女神田中の説教が始まりそうな予感を察知し、テトは耳を(ふさ)いで子供みたいな態度を取る。


 「おやおや、レブルナさ……田中様、そこら辺で許してやってはどうですか? 今日は説教をする為に来たのではないはずとお見受けするのですが……」


 そんなテトに、メイドに預けたティバニアの様子を一応確認しに行っていたセバスが、ミヤビ達がいる部屋にきて助けに入る。

 途中、女神田中のファーストネームで呼びそうになるが、その瞬間に彼女の眉間に皺が寄ったのをセバスは見逃さず、すぐさま言い換える。


 「確かにそうだな、ティバニアが起きてくるまで待とうかと思ったが、先に話とこうか……オマエなら信頼出来そうだしな」


 「ナイスだセバス! この借りはいつか返す」


 「ふふ、お礼は田中様の私物で良いですよ」


 「信頼……、していいんだよな?」


 セバスに言われ、ティバニアより先に事情を説明しようとするが、その後のテトとセバスの会話に女神田中は拳を握り込み質問を投げかける。


 「はっはっは、イッツ執事ジョークですよ、……で? 一体何用でお嬢様の所にいらしたんですか?」


 女神田中のキレそうな雰囲気に、セバスは背中に冷や汗をかきながら、内心の焦りを隠して真面目に聞き返す。


 「ハブリシンにコイツが狙われた、しばらくここで保護して欲しい」


 「っ! それは……、お嬢様が居ない時に話して頂いて良かったですね」


 女神田中の口にした言葉に、セバスは驚きを隠さず、この場に仕える主人が居ない事を安堵する。


 「(……スゥー)」


 「コイツまた姉御に抱きついて……」


 そんな女神田中とセバスの真剣な雰囲気の中、ミヤビはいつの間にか眠り、彼女の胸に抱きついて眠るミヤビを見たテトがまた嫉妬していた。

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