04 田中
段々1話のボリュームが増えてる気が……。
「チート過ぎどころか俺らみたいな生半可な神ですら勝てるか怪しいぐらいなんだよ」
「…(あ、やっぱり神だったんだ)」
目の前に居る存在がレティのような女神なんじゃないかと薄々感じてはいたのだが、女性の言った言葉でそれは確信に変わった。
「あ? 言ってなかったか? …ったくレティのやつ何も説明してねぇのかよ」
ほとんど何の説明も無く転生させられたミヤビは女神レティとの会話を思い出し女性に聞いてみる。
「…(もしかして加護の田中さん? なんか偏頭痛持ちで怒ってるって)」
「アイツどんな説明してんだよ…、正解だ、俺が【死と再生の神 《ベルセポネ》の系譜に連なる1柱《レブルナ•田中•アブルグ》】だ」
まさかのミドルネームが田中だった。
凄い神の系譜にあるのだが、ミヤビはそれ以上にそこが気になった。
「…(ってか神ってミドルネームあったんだ)」
「んなこたどうでもいいんだよ! 俺は女神田中だ! 分かったな?」
「…(あ、はい)」
普通名乗るなら女神レブルナじゃないのか? とミヤビは思ったが、それ以上突っ込んでほしくないのか、田中と名乗る女神はミヤビにそう言い聞かせた。
「とりあえず、アイツがアルバに近づいたって事はこの呪いもオマエが勝手に産まれたのも奴の仕業とみていいだろう」
「…(何の目的で?)」
ミヤビはなんとなく分かってはいるが、一応違う可能性にかけて聞いてみる。
「は? オマエに用があるに決まってんだろ、しかも無抵抗状態の赤ん坊を狙ってんだぞ? 最悪の事考えたら死ぬよりひでぇ目に合うぞ」
頭に描いたその最悪な事態が余程酷い事だったのか、女神田中はブルッと震えた自身の体を手でさすり、心を落ち着かせる。
「…(どんなやべぇ事想像してんだよ! こちとらまともに動けねぇんだぞ! いきなりビビらせんじゃねぇよ! 漏らすぞ!)」
女神田中の様子を見たミヤビは、女神が想像する自分では想定出来ない最悪に恐怖し、彼女に向かってキレる、…漏らしながら。
「漏らしてんじゃねぇか!」
「(この身体我慢とか出来ないんだよ…)」
テヘッとでも聞こえてきそうな顔でミヤビはお漏らしを誤魔化す、産まれたばかりなので舌が上手いこと出ていないのだが…。
「おいオマエら、コイツ漏らしてるから綺麗にしてやれ」
「「は、はい!」」
女神田中はミヤビの粗相を夫婦に任せ、話を続ける。
「そのままでいいから聞いてろ、アイツがオマエを狙ってるのはもう確定として、これからどうするかって話だ」
「(どうするもなにも今のオレじゃなんにも出来ねぇよ?)」
ミヤビは下半身をメルカに綺麗にされながら、真剣な表情で彼女にそう返す。
「んなこた分かってんだよ、…安心しろ、俺がこっちに来る時にこの世界で頼れそうな奴に声かけといたからよ、急いで来い! つったからしばらくしたら来るだろ、それまでは俺が居てやる」
「(でもその狙ってる人? がその前に来たら田中さんでも勝てるか怪しいんじゃないの?)」
「んなすぐ来たりしねぇだろ、呪いまでかけてくる用意周到さだ、来たとしても明日とかじゃねぇか?」
女神田中はそう言ってミヤビを安心させようとするが、実は結構焦っていた。
夫婦に呪いまでかけて赤ん坊を奪おうとする用意周到さを持つ相手がのんびり明日とかに来るはずはないのだ、確実に呪いがかかってるかの確認をしに今日中に来るだろうと確信していた。
この場所に顕現した瞬間からこの家には女神の持てるチカラを使って出来る限りの侵入禁止の結界を張っているが、相手にどれだけ通用するか分からない、なにせここに送り込んだほぼ全ての人間のチートを所持しているのだ、唯一の救いがあるとすれば相手が人間である事か、最悪の場合【死と再生】の女神としてのチカラを使い、相打ちも覚悟していた。
コンコンコン!
女神田中がそんな事を考えていたその時、家の扉に付けられているノッカーを叩く音がミヤビ達のいる部屋に聞こえてきた。
「(あ、田中さんが言ってた助っ人? の人が来たんじゃない?)」
ミヤビは彼女が呼んだ人が来たかと思い、女神田中の方を向きながら話すが、話しかけられた田中は安心した表情ではなく、焦りが混じった表情で顔を強張らせていた。
「…やべぇな」
「(…もしかしてヤバい方?)」
「そのようだな…、オマエらここから動くんじゃねぇぞ、俺に任せ」
ガチャ!
「こんにちは、留守かと思って入ってきちゃいました」
俺に任せとけ、と言い終わる前に部屋の入り口の扉が開き、全員がそちらを向くと先程まで話題に上がっていた男がそこに立っていた。
バ!
「どうやって入ってきた! 俺が許可した奴しか入れねぇ結界張ってんだぞ!」
女神田中はミヤビと夫婦を守るように前に立ち、男と対峙する。
「どうやってと言われましても…普通に?」
「(なんだコイツ…)」
コテンと首を傾げながらそう答える男をミヤビは目を薄くして注意深く観察する。
年齢は二十代ぐらいだろうか、背丈は周りの家具と比較してだが180cmぐらいはありそうな、身長の割にヒョロっとした印象の男だ。
それだけならどこにでも居そうな人なのだが、ミヤビはその男から感じる妙な気配に、身体の奥底から震えた。
《恐怖》
一言で表現するならその言葉が正しいだろう、先程女神田中の圧で死にそうになった時よりも、より純粋な死の恐怖が身体から溢れて止まらないのだ。
まるでその男に命の手綱を握られているように。
「(ふ、震えが止まらない、な、なんだよコレ? こんなんどうしようもないだろ…)」
全身が恐怖でまともに呼吸も出来ない中、チラッと夫婦の方を見ると、男の死をバラ撒くような圧に気絶していた。
夫婦からすれば、こんな経験した事の無いような死の気配に、気絶していて良かったのかもしれない、ミヤビも出来れば意識を手放したかったが転生の影響なのか女神の加護のおかげなのか、ギリギリで意識を保っていた。
なんとなく本能で、意識を手放しては駄目なのだとミヤビの中でそんな確信があった。
「おっとすみません、普段は完全に抑えているのですが少し興奮していたもので」
そう言って男はそれだけで人を殺せそうな死の圧を抑える。
「(…抑えてもこれかよ)」
先程よりはマシになった程度の死の気配に、ミヤビは男がこちらを絶対に逃す気は無いのだと考える。
「興奮して人の家に入ってくるなんてとんだ変態じゃねぇか、そんな奴に用は無いからおかえりいただきたいんだがねぇ」
女神田中は男が何かしようとしてもすぐに動けるように全身で警戒し、話しかける。
男の目的が後ろにいる転生者なのは分かっているが、もし転生者を殺すのが目的ならば最初の段階で夫婦諸共殺していただろう、相手の強さからいえばこの部屋に入ってくる時にも出来ただろう、それをしないと言う事はこの転生者自身にこの男はなにがしかの価値を見出し、こうして相対しているのだ。
「これはこれは失礼を致しました、ですが私も、はいそうですかと帰れませんので、そのお願い承服しかねます、大丈夫ですよ、貴方もそこの夫婦にも危害は加えるつもりはありませんので」
「(そこにオレが入ってないのが大丈夫じゃないんですが!?)」
「あ、安心してください、その赤子…いや、転生者さんにももちろん危害は加えませんよ、ちょっと一緒に来てもらうだけなので、ね?」
前世も含めて今までで1番安心出来ないその発言にミヤビは呼吸が荒くなる。
本人の意思の強さと女神田中の加護のおかげで保っていた精神が徐々に削れてパニックを起こしかけていた。
「そういえば初対面なのに自己紹介を忘れていました、私、とある目的で転生者の《天前 雅》君を攫いに来ました名を《ハブリシン》と申します。」
「ご丁寧にどうも、俺は女神田中だ、ちょっと縁があってコイツに加護を与えていてね、…だからコイツの攫わせるわけにはいかねぇんだよ!」
丁寧に話すハブリシンと名乗る男に彼女も返すが、言葉を言い終わる瞬間に自身が家に張っていた結界を自分と夫婦、ミヤビをギリギリ囲む範囲まで狭め、侵入禁止の結界強度を限界まで強めた。
「ふむ、恐ろしく堅そうな結界ですねぇ」
バチッ!!
ハブリシンがそう言いながらその結界に右手を触れさせた瞬間に、まるで拒絶されたように跳ね返される、跳ね返されたその手はただ一瞬触れただけでズタズタになっていた。
「ふふ、さすが護りの女神とも呼ばれた方の結界だ! 欲しいですねぇ!!」
自身の右手に赤い血がダラダラと流れるのも気にせず、ニタリとした笑みをその顔に貼り付かせながらハブリシンは傷だらけの右手を再び結界に触れさせる。
バチ!!
バチバチッ!!
ハブリシンは何度も結界に触れようとするが、最初と同じように拒絶される。
「何で俺の事まで知ってんのか聞きたいところだが、それどころじゃねぇんでな、諦めて帰ってくれるとありがたいんだがねぇ!」
話し方からいつも誤解されがちだが、彼女は自分の周りの女神よりも守りに特化した女神だった。
いつもそれでツンデレとか言われてイジられていた記憶をハブリシンの言葉で思い出したのにイラつき、さらに結界の強度を強める、あまり長くは持たないがこの世界に来る時に声をかけた奴が来るまで持たせられればそれで良いと、限界を超えて堅くする。
ッパン!!
その瞬間、結界に触れたハブリシンの手が弾け飛ぶ。
「ほほぅ、素晴らしい! こんな結界見た事が無い! 良いですねぇ! こんなに拒絶を強く込めた結界を造るなんて貴方の生きてきた歴史を垣間見てるようですよ! …ねぇ護りの女神、いえ、《虐殺の女神》と呼んだ方が良いですかねぇ?」
「ッ!? うるせぇ!」
何かを知っているハブリシンの口ぶりに彼女の感情が揺さぶられる、限界を超えて結界を維持しているせいか、目や口、鼻から血が滲み出て、こちらに来たばかりの清楚さは薄れ、怒りの形相で相手を睨み返す。
「おぉー怖い、綺麗な顔が台無しじゃないですか、…まぁどんなに強力な結界だろうと私には無意味なんですけどね」
女神田中の必死の気迫を、まるで涼しげな風でも浴びたかのような爽やかさで、ハブリシンは再び結界に触れる、今度は左手で。
パリンッ!
ハブリシンが左手で結界に触れた瞬間、彼女が限界を超えて張った結界がガラスが割れるような音を響かせながら崩れていく。
「は? なんで?」
ガッ!
「うっ! はな、せ!」
簡単に結界を破られ混乱する彼女の一瞬の隙を突き、ハブリシンは女神田中の首を右手で掴み、持ち上げる。
「良く頑張りまちたねぇ、まぁ全く意味無かったんすけどね? ちょっと面白いんで遊んじゃいました、…じゃぁその結界貰いますね?」
まるで頑張った小さい子を褒めるような口調でハブリシンは女神田中に話しかけ、最初から抵抗すること等、意味は無かったのだという事実を突きつける、所詮はお遊びだったと言うふうに…。
「ふざ、ける、な、離、せよ」
自分を掴む相手の右手を、両手を使って離そうとするが、チカラを限界まで行使した影響でほとんど力が入らずに、ただ両手で相手の右手を掴むだけしか抵抗を示せない彼女にハブリシンは静かに口を開く。
「では、さようなら、また逢えたらいいですね」
ゴキッ!
誰もがあまり聞き馴染みの無い音が、部屋に響き渡った……。
主人公途中から影薄い疑惑……。