27 暴走と技
前話のあらすじ
瀕死のミヤビの元にデイズ、そして激怒した女神田中が現れ、パナケアの謎めいた治癒によりミヤビは蘇る。
田中は「元騎士団長」としての顔を覗かせ、ケジメとしてテトとの再戦を提案。
ハンデとして田中の権能〔哀〕と〔怒〕、そして大量の《神気》がミヤビに解放された。
システムのエラーじみた警告を越え、力を受け入れたミヤビだが、その負荷は凄まじく……。
暴走寸前のミヤビと、デイズにより万全の状態へ戻されたテト。
異様な気配と絶叫が木霊する中、波乱の再戦がいま幕を開ける。
「アァァァァァアァァァァァ!」
大量の《神気》が流れ込み、その力が体内で暴れ出すミヤビ。
「あ、姉御、大丈夫なんスかあれ?」
「うん? ……ちょいと予想より反応が激しいけど大丈夫だろ……たぶん」
「こっち見て言ってもらえるッスか? 明らかに異常事態じゃないッスか! 戦う前にアイツ死んじゃうッスよ!」
その様子を見てテトは女神田中に確認するが、自分が想像した以上の反応を示すミヤビに、若干〝やり過ぎたかも〟と焦っていた。
女神田中の様子から、テトは彼女の想定していた状況を逸脱した事態になっている事を〝察し〟て、ミヤビの心配をする。
ミヤビへの誤解が解けたからなのだろうが、一度死の淵に追いやった相手を心配するテト。
「ア、アガ! あ、コレダメなやつかも……」
プツンッ……バタッ
その一言を残して、ミヤビは意識を失い倒れ込む。
「ミ、ミヤビ!」
「だから言ったじゃないッスか! やり過ぎなんスよ姉御……」
スッ……
「……《サッドパム》」
ドンッ!
「ふぐっ!」
倒れたミヤビを見て女神田中が焦って声をかけ、テトがすぐにミヤビの元へ駆け出そうとしたその瞬間……、目の前に倒れていたはずのミヤビはテトの背後に音も無く一瞬で現れ、テトの背中に解放された力を叩き込む。
ドサァッ……!
背後からの一撃を食らい、無様に地面へ転がるテト……だが、テトの身に走るのは背中の痛みだけではなかった。
「痛ってぇ……不意打ちかよ(やべぇ、なんだコレ? た、立てねぇ……、ってかなんで立たなきゃいけないんだっけ?)」
急速に冷えていく思考。戦意喪失。
まるで休日の終わりのような、あるいは黒歴史を思い出した時のような、強烈な〝虚無感〟と〝悲哀〟が全身を支配する……。
これが〔哀〕の権能による副次効果である精神汚染だ。
「クソッ、な……んで体が言うこと聞かねぇんだよ!(何もしたく無い……帰りたい……もうこのまま寝ていたい……)」
見習いだが神の力を持つテトが、ミヤビの一撃を喰らっただけでその場で膝を抱えながら小さくなっていく。
ザッ
そんなテトに近づく影……。
その影をテトは見上げると……。
「うぅっ……うぐっ……ぐすっ……」
ポロポロと大粒の涙をこぼしながら自分を見下ろすミヤビがそこにいた。
「な、なんで泣いてんだよ……」
「分かんない……、なんかすっげえ悲しくて……、でも……」
ドガァッ!!
「ガッ!?」
「すっげえ暴れたい……」
テトの質問に、ミヤビは自身でさえ分からない制御不能な感情に戸惑いながら、いまだ地面に寝転がったまま動けないテトの顔にボールでも蹴るかのごとく強烈な蹴りを放つ。
発動した〔哀〕の中に、以前からあった〔怒〕が混じるそのミヤビの顔は、テトを蹴った後に出た言葉の通り〝涙を流しながら怒った〟顔をしていた。
ガシッ!
「くっ……」
「あはは、なんだよこれ、悲しいのに腹立つんだけど? ねぇどういう事?」
バゴォッ!!
顔を蹴られて吹っ飛んだテトの元へゆっくりと歩み寄り、動けないテトの髪の毛を掴みながら転がった彼を無理矢理引き起こしたミヤビは、自分の中に渦巻く〔哀〕と〔怒〕の混じった感情の説明をテトに求める。
髪を掴みながらテトの腹に一撃を入れて。
「ふぐっ! ……し……らねぇよ、……ってか離してくんない? 俺様って結構髪型とか気にするタイプなんだよ」
「あ、そう」
パッ、ドゴォッ!
「おぐっ!?」
テトの言葉に、今の今まで〝悲しみ〟と〝怒り〟が入り混じった顔をしていたミヤビから一瞬感情が消え、一言そう呟いた瞬間にテトの髪を手放し彼の横腹に蹴りを入れる。
「ひぐっ、うぅ……ぐすっ、ごめんね……痛いよね……」
蹴られて吹っ飛んだテトを見ながら、ミヤビは〝怒りの形相〟で〝涙を流しながら〟彼を労る言葉を投げかける。
「言……ってる……事とやってる……事が違い過ぎんだろ(動け! もうやめたい……、立てよ! ……もう終わってよ)」
たった一撃……。
《神》であるはずの自分が、しかも限定的とはいえ《最高位の神》の力と《精霊》の力を借りた切り札中の切り札全開の自分が、不意打ちとはいえ、たった一発背中に喰らっただけで何故こうなるのか……。
テトは精神汚染に必死で抵抗しながら、ミヤビの力の〝異常〟さに恐怖が芽生えていた。
加えてミヤビのあの感情の異常さだ。
姉御と慕う女神田中の力を借り受けているはずなのだが、女神田中と何回も戦線を一緒に潜り抜けてきた過去を振り返っても、彼女がこんな異常な状態になったのを見た事が無い。
ザッ……
「……ぐすっ、もう……終わらせるから、……安心してね」
「全然……安心出来ねぇな……」
「……《シェイクブロー[付与:ウィンド]》、……吹き散れ!」
デバフに抵抗をしつつあるが、まだ身動きが出来ないテトに向かって、情緒異常なミヤビの拳が振り下ろされようとしていた。
「っ! そこで風を使うのかよ! 〝風〟で俺様に喧嘩売るとかやっぱまだお子ちゃまだな! 〝風の精霊よ、その渦巻く力を我が物に〟《ウィンド・ジャック》」
新たに属性を付与出来るようになった力で、ミヤビは〝風〟の属性を使いテトにトドメを刺そうとするが、その言葉を聞いたテトは自分が普段から得意としている属性をミヤビが使った事に、一筋の希望を見つけ出す。
パシュッ
「……あれ?」
「っだぁーー! やっっっとダリぃのから抜けれた! サンキューな、お前がアホで助かったわ」
ミヤビの拳が迫る寸前にしたテトの詠唱によって、ミヤビが纏っていた〝風〟は綺麗さっぱり余す事無くテトに吸収され、その力を受けた事でテトはデバフから立て直る。
「誰がアホだ! たまたま選んだ属性が吸収されるなんて分かるわけないだろ!」
「それがアホだっつってんだよ、どうせ対人経験なんてあのジジィぐらいなんだろ、そんな奴が制御も出来てねぇ〝力〟だけで勝てる程俺様は甘くねぇんだよ」
「くっ」
ただただ運が良かっただけなのだが、そんな事は華麗にスルーして煽るテト。
こういう言葉のやり取りも〝人〟に対して有効なのを経験から知っているテトは、使えるモノはなんでも使えとばかりに煽っていく。
「ってか姉御がもっかい勝負しろって言うからやってんのに、初っ端から不意打ちするか普通? まぁ普通にやっても勝てないと思ったから不意打ちしたんだろうが……ん? そんなスゲェ〝力〟姉御からもらったのに俺様が怖くてしょうがないんでしゅか?」
「ち、違う! 田中さんから貰った《神気》に耐えられなくて一瞬意識を失ったら、気付いたらアンタの後ろに立ってたんだよ!」
「はぁぁーー、全然貰った〝力〟扱えてねぇじゃん、めっちゃ振り回されてやんの、やーいやーい、〝力〟に溺れたザーコザーコ」
「う、うるさい! 今すぐその顔ボッコボコにしてやるからな!」
殊更に煽るテト、だがそれがただの時間稼ぎだとミヤビ以外は分かっていた。
「出来んのか? そんな力に振り回されてる状況で(……もうちょい、耐えろ俺様)」
煽るテトの身体の中で、先程吸収したミヤビの力が暴れ狂っていた。彼は煽る事で時間を稼ぎながら自身の内で暴れる力を何とか押さえつけようと必死だった。
「やってやるよ! ぶっ飛ばしてやるからそこ動くなよ!」
「アホか、殴られると分かってて動かねぇバカがいるかボケ! (うーん、コレ無理だな、抑えれねぇか、……だったら〝返す〟か)」
「動く暇なんか与えないんだよ!」
シュッ
「《サッドパ……」
「《リリース》」
ズズッ……、ドン!
セバスとの修行のおかげで移動速度だけは自信があるミヤビは、テトの前に一瞬で近付き、再度デバフをかけようと掌底を叩き込もうとした。
が、その瞬間にテトがミヤビから吸収した〝力〟を少しアレンジを加えて解き放ち返す。
「はぐっ!?」
「おぉー、綺麗に腹に決まったなぁ」
煽った事でミヤビの感情に〝怒り〟を浮き立たせ、行動を読み易くしたテトはミヤビが目の前に現れる事を予想し、吸収した力を掌底を叩き込もうとして開いたミヤビの腹部にそっと〝返した〟。
エグいのは、本来ならその衝撃で吹き飛ぶはずのミヤビの体を〝後ろから風で押さえ付けて〟いた事だ。
これにより、逃げ場が一切無い〝力〟がミヤビの中で暴発する。
「か、かはっ……うぐっ」
「どうだ? 自分が制御出来てねぇ〝力〟は」
「……《サッドパム》」
シュンッ
「うぉっぶねぇー、また不意打ちかよ」
「不意打ちだろうとなんでもやる! アンタに勝つならオレの全部を使って勝つ!」
「なんでコイツこんな〝折れ〟ねぇの!?」
まともに喰らって動けないはずのミヤビに、テトはもう終わりだろうと思い声をかけるが、その瞬間ミヤビの掌底が伸びてくる。
ギリギリ避けたテトだったが、あれだけ煽り倒して明らかに大ダメージを負ったはずなのに未だに心が折れないミヤビに焦りが出始める。
「ほっほっほ、それぐらいで折れるような鍛え方をワガハイがするとでも?」
「……そうだったわ、あのジジィに鍛えられてんだったわこのガキ」
テトの言葉に、様子を見守っていたセバスが自信満々にそう声に出し、テトはそれを聞いて面倒臭い表情で顔を顰める。
「余所見してる余裕なんてあるのかよ!」
「お前みたいなガキにはこれで十分なんだよ」
そんな言葉を交わしながら、ミヤビの攻撃を避け、テトのカウンターをギリギリで躱したりしながら、2人の攻防が続くその側では、それを〝肴〟にしながらプチ宴会が開かれていた……。
「まだ早かったかなぁ、今のミヤビなら俺の力使ってもイケると思ったんだけどなぁ」
「ほっほ、その内〝慣れる〟でしょう、そもそもそれが目的では?」
「どういう事だレブルナ?」
女神田中がミヤビの様子を見ながら、まだ〝力〟を与えるには早かったかと少し後悔していると、セバスは〝その力を慣れさせる〟事が女神田中の目的じゃないのかと言い、それを聞いたデイズはその言葉の意味を女神田中に問う。
「んな真面目な顔で迫んじゃねえよ暑苦しい、俺はただミヤビに強くなって欲しいだけだよ、〝仕事〟の事もあるしな」
「貴様もミヤビを〝あんな場所〟に放り込もうと言うのか!?」
「っだぁぁー鬱陶しい、だから顔近づけんなって! ……別に今すぐじゃねぇよ、アイツがもっと経験積んでからだ、おまえもそのつもりなんだろセバス?」
「えぇ、今の彼を連れて行ってもただの肉壁にさえなりえないでしょうから」
「そんな事したら殺すからなセバス?」
「その時は我も手を貸そう」
「2人揃って殺そうとしないでくれます?」
自分の知らないところで、その将来が少しづつ決まっている事に戦いの最中であるミヤビが気付くのはもうちょっと後の話。
そしてしばらくして、戦う2人の決着がつく。
明けましておめでとうございます。
だいぶ更新が遅れましたが、ここから再開です
(๑•̀ㅂ•́)و✧




