22 ちょっと待て
前話のあらすじ
セバスの罠だとは知らずに《天獄》に招き入れられたテト。
そして判明するセバスによる、ミヤビへの〝毒〟の摂取。
この《天獄》に対して無知なテトに、セバスは報酬に自身が協力する事を条件に、ミヤビとの戦いを迫る。
セバスが言うテトの計画とは?
そしてセバスは何故テトをミヤビと戦わせたいのか?
それぞれの思惑が交錯する……。
「それがどういう意味か分かって言ってんスか?」
テトは、セバスから提示された勝負に勝った時の報酬の意味を再度、確認するように彼に聞いた。
『〝勝ったら〟ワガハイが〝アナタ方〟の〝計画〟に全面的に協力してあげるんですから〟』
セバスはテトに報酬をそう提示したのだ。
その少ない言葉だけでは、この目の前にいる執事に〝こちら〟の事がどれだけ知られているかはまだ分からないが、〝何か〟を知られている事は確かだとテトは悟る。
だからこそ再確認したのだ、どれだけ〝こちら側〟の事を知っているのか。
いったい何を知っている?
どれだけ〝我々〟の事を知っている?
その情報はどこから知り得たのか?
これが自分より格下ならば、軽く痛めつけて吐かせるなり出来たのだが相手は明らかな格上、〝力〟で解決出来ないならばと思考をフル回転してテトはセバスに質問した。
「えぇもちろん、〝アナタ方〟にはまだまだ協力者の数が足りていないでしょう? それに〝力〟を持つ者も少ないご様子で……、そんなアナタ方にワガハイが入るとなれば多少は状況がマシになるのでは?」
「ハハ……アンタ何者だよ、なんでそこまで知ってんだよ……」
おそらくほとんど知られている。
セバスの返答にテトはそう思わずにはいられなかった。
〝こちら〟の仲間達が情報を漏らすとは到底思えない、まさか仲間内に裏切り者や潜入者がいるのかとも思ったが、〝それ〟はあり得ない事なのはテトが1番良く分かっていた。
ならばどこから情報が?
「いつまで考えているんですか? ワガハイ楽しみの為ならばいくらでも待てるんですが、こういう返事を待つ時は余り気が長いほうでは無いので早くしていただけるとありがたいですねぇ」
「悪りぃ悪りぃ、……その提案乗るッスよ、アンタが何をどれだけ知ってようとも〝勝つ〟と分かってる勝負だからな、乗らなきゃ勿体無いってもんッスよ」
考え込んでいるとセバスからそう声をかけられ、テトは自分の中の焦りを隠しながら返事をする。
今自分が言った通り、どれだけ知られていようが要は勝てばいいのだ。
しかも相手は格下のガキ、女神の加護で手を出せないでいたが、それはこの《精霊界》に来た10年の間に対処法を編み出した。
「快い返事、感謝致します」
「……おう」
こちらの返答に丁寧なお辞儀で感謝を述べるセバスを見て、テトは考える。
おそらくこの空間であのガキは目の前にいる執事に鍛えてもらっていたんだろう。
女神の加護は簡単には破れない、それはこの執事でも厳しいかもしれない。
或いは破れたとしても、これだけ自分より強い執事が〝殺さないよう〟に丁寧に教えてきたのだろう。
だとすれば見習いとはいえ〝神〟である自分が〝少々〟鍛えただけの《転生者》とはいえ、まだ10歳の子供に負ける道理があるわけがない。
しかも《転生者》に付与されるはずのチートさえ持っていないただのガキに何か出来るはずもない。
ここまでの条件が揃っているのだ、テトにはもはやこの勝負がボーナスゲームに思えてきていた。
そこまで考えて、テトはセバスに1つだけ確認する事にした。
「ルールは〝勝てば〟いいんだよな?」
「えぇ、〝勝つ〟事が条件です」
「そのルールだと〝殺して〟しまっても〝勝てば〟いいんだよな?」
「左様でございます、この程度で〝死ぬ〟ようならそれまでの者だったという事、負けたうえ、無様に〝生〟に固執して足掻くようならワガハイから引導を渡してあげましょう」
「ずいぶん……あっさりしてんスね、弟子が死ぬかもしれないってのに」
「言ったでしょう? ワガハイが作った〝作品〟がどれだけ〝神〟に通用するか知りたいだけだと、……〝死ぬ〟と言うならまた〝代わり〟を〝出せ〟ばいいだけですので」
「ならいいんスよ……、で? どこで戦えばいいんスか?」
セバスの言い方に何か引っ掛かるモノをテトは感じたが、さほど問題は無いだろうとミヤビとの勝負の開始を促す。
「少々お待ちを、少しミヤビ殿にも勝負の説明をしてきますので」
「まだ言って無かったのかよ!」
テトのツッコミを後ろに受けながら、セバスはミヤビの所へと歩いて行く。
ミヤビの所へ近づくとこちらに視線を送ってきたので、どうやら気絶から復帰したのだとセバスは少し残念に思った。
まだ気絶していたのなら少しイタズラでもしてやろうかと思っていたのだ。
「いつからお気付きで?」
「……ちょっと前だよ」
「もしかしてテトとの会話、聞こえてらっしゃいました?」
ミヤビの反応に、セバスは自分とテトとの会話を聞いていたのでは? と思いそう質問する。
この5年の彼にとっては修行とも言える期間で、身体能力を強化出来るスキルの他に、〝視覚〟〝聴覚〟〝触覚〟〝味覚〟〝嗅覚〟の五感を個別で強化出来るスキルも教え込んでいたからだ。
「……聞こえてたよ」
「どうしたんです? そんな拗ねたような顔をして」
「オマエ、味方じゃなかったのかよ」
「味方……ですか、まぁあっちのテトよりかはアナタ寄りですよ? 《生命》も共有している事ですしね」
「じゃぁなんであんな約束するんだよ!」
「アナタとの勝負中とはいえ、ワガハイが鍛えたと言っても過言では無い〝ミヤビ〟が負けるとお思いで?」
「っ……」
〝また〟だ、とミヤビは、自信満々にそう言ったセバスのその表情を、雰囲気を、何処かで〝見た〟ような、そんな不思議な感覚を覚えた。
度々こんな事があったのだが、前世でも彼に会ったとかそんな記憶は一切無い……、だが何処かで〝見た〟ような気がするのだ。
「どうしました?」
「なんでもねぇよ! やりゃぁいいんだろ? セバスがそうやって言うからやるんじゃねぇぞ? オレはオレが成長する為に、アンタとの勝負に勝つ為にやるんだからな!?」
その感覚は決して嫌なモノでは無く、むしろ温かく懐かしいような感覚で、ミヤビは自信満々に自分の事を褒めてくるセバスに対して、少し気恥ずかしくなり、そう言って背を向けた。
「それでいいんですよ、……まぁアチラには悪いですが、〝負ける〟事は〝ここ〟では有り得ませんからね」
「ハハ……確かに、ホント……〝知らない〟って怖いよね」
「〝無知〟は恥ずべき事では無いですが、戦いにおいての〝無知〟は時に本人を苦しめる〝毒〟のように、徐々に、或いは一気に、命を蝕んでいくのですよ」
「……そういえばオレも今違う〝毒〟に蝕まれているんですが?」
「ハーハッハ! 確かにそうですな、同じ〝毒〟に蝕まれた者同士の戦い、見応えがありそうですなぁ」
「楽しそうにしやがって……」
セバスの言葉に自分も効果が謎の〝毒〟のようなモノを摂取している事を思い出したミヤビはそう言って抗議するが、それを聞いたセバスは楽しそうにこれから始まる2人の戦いに胸を躍らせていた。
そしてセバスとの話が終わったミヤビは1人でテトの元へ歩いていき、《転生》してきてからこの10年で初めて、戦う相手としてテトと対峙する。
「……よう」
「……おう」
「こんな所で鍛えてたんだな、……《転生者》の修行編ってとこか?」
対峙した2人は、今まで特に会話という会話をしてこなかったのもあり、少し気まずい空気もあったが、テトが揶揄い混じりにそう言って、とりあえずは戦う前に少し話す空気に持っていく。
「……今聞くことじゃないかもしんないんだけどさ」
「なんだよ?」
「セバスもアンタも、なんでオレの前世の〝地球〟でしか知り得ない言葉を知ってんだ?」
テトの言葉に、ミヤビはセバスとの会話で時折不思議に思っていた同じ事を感じて、そう質問した。
前から思っていたが特に気にしてはいなかった、だが、テトの〝修行編〟などの言葉の言い回しを聞いて、ミヤビはより疑問を持ってしまった。
「俺様はともかく、あのジィさんもか……」
「〝も〟って事は、アンタもセバスも〝地球〟についての知識があるんだな?」
「……さぁな、知りたきゃ俺様に勝ってみな」
「アンタも、セバスも、何考えてんのか分かんないけど、そういうシンプルなルールで勝負してくれんのは助かるわ」
「おうおう、ガキが一丁前に良いツラしてんじゃねぇか、もうオハナシは大丈夫かい? 緊張して負けましたなんて言うなよ?」
「あぁ、気を遣ってくれてどう……も!!」
ビュン!
ザザザッ!
言葉の終わり際に、ミヤビはテトに近づく前から事前に発動させていた《アクセル》を使い、最初から全力で戦おうとしていた。
ミヤビからすれば明らかな格上、戦うと決めた上でテトと対峙したミヤビは、相手の強者の雰囲気をビリビリと感じていた。
だからこそ、その雰囲気に押されないように戦いとは関係ない質問をしたのだ。
まぁ、本当に気になったのは確かなのだが……。
「へへ……、不意打ち狙ってくるなんざ、どうやら躾がなってねぇみてぇだな」
「戦いに躾とかあるって初めて知ったけど?」
だが、その不意打ちは軽く避けられテトに嫌味を言われるが、セバスとの戦いで煽り耐性も付いていたミヤビは冷静に答える。
「あぁそうかい、なら俺様が初めてついでに躾てやるよ、〝その身、鋼のごとく、その身、疾く風のごとく、集いてカタチを成せ〟《フェアリーソード》」
「ハハ、それがアンタの本気ってわけか」
ミヤビの不意打ちと返事に、テトは最初は様子見で手を抜こうとしていたが、先程のセバスとの戦いで痛い目を見た事もあり、本気で迎え撃つ事にした。
そして詠唱が終わったテトの右手には、淡い光を放つ透き通るような半透明の剣が握られていた。
「卑怯だなんて言うなよ? 勝負はな、要は〝勝て〟ばいいんだよ!」
シュン!
「っ!」
ミヤビにされた不意打ちの仕返しとばかりに、テトは言葉の終わりと共に瞬時にミヤビに近づいてその剣を斜めに振り下ろす。
だがその攻撃はミヤビの髪の端を少し切る程度で躱されてしまう。
「へぇ、ちゃんと避けれるんじゃねぇか、修行の成果はあるみたいだな」
「避けるのだけは〝死ぬ〟ほどやってきたんだよ」
「なるほど、戦って死んだら終わりだもんなぁ、あのジィさんもなかなか優しいじゃねぇか、攻撃が当たらなければ死なないもんな」
「うん……まぁ……ホントにそう」
テトはミヤビがセバスとの修行で身に付けたであろう、その避ける技術を素直に称賛するが、言われたミヤビは複雑そうな顔でそう返事をする。
「あぁそうそう、姉御がオマエに施した別の女神から借りたその護りの力、もう俺様には無意味になったから」
ミヤビの複雑な思いなど知らないテトは、ミヤビに施された護りの結界を無効化出来る事を告げる。
本気で戦うと決めたが、無駄に時間を取りたくないテトは、ミヤビの戦意を削ぐ事で早く決着を付けようとしていた。
「あ、そう」
「ん? いやいや、もうちょっとこう、『なにぃ!?』的なリアクションとかないのかよ」
「えっ、いや、もうそんな護りの力があったなんてすっかり忘れてたから」
「は? 忘れてた?」
「うん、だってセバスそんなの関係無しにぶっ飛ばしてくるし、こっちがどれだけ疲れようが平気で手足とか切り刻んでくるし、首とか何回撥ね飛ばされたか覚えてないくらいだし」
ちょっと待て。
ミヤビの言葉を聞いたテトは、そこから先程考えていた自身の考えを思い出す。
ミヤビに施された結界をセバスが破った事までは想定内だ。
だが
手足を刻む?
首を撥ねる?
テトはミヤビの発した言葉の意味をすぐには理解出来なかった。
それはそうだ、この《天獄》のシステムを知らなければその言葉の意味などすぐに理解出来るはずもない。
「えっと、オマエ〝ここ〟でどんな修行してたんだ?」
「〝死ぬ〟ほど死んだ」
「っ!?」
言葉の意味は分からないが、テトは即座に自身の考えを修正した。
良く考えたら、いや、良く考えなくても、あんなバカみたいな〝力〟を持ったセバスが鍛えた奴が目の前にいるミヤビなのだ。
〝普通〟なわけがない……。
「不意打ちは無理っぽいし、今度は正面から正々堂々と〝打ち込む〟ね」
「ちょ、ちょっと待て」
考えを修正したいが、目の前の相手はヤル気満々で何故か楽しそうにそんな事を言う。
「えっ、いや、もう《起動》したから止めれないって!」
「止めれないって何!? ってかなんだよその魔力の高まりは!?」
テトの静止に、何故かミヤビは素直に応じようとするが、一度《発動》したスキルを止めるやり方を知らず焦り出す。
そんな焦るミヤビを見たテトは、ミヤビの体内から発せられる魔力が《人》としては有り得ない程膨らんでいる事に対して焦っていた。
「えっ、ど、ど、ど、どうしよう、とりあえず死にたくなかったら避けて!! 《シェイクブロー》!!」
「っ! 〝この身は夢か幻か、其れ看破る事叶わず〟《スケープゴート》!!」
ドォォォン!!
ミヤビが放った特大に膨れ上がった魔力によって形造られた拳は一直線にテトに向かっていく。
テトは慌てて詠唱したようだが、詠唱が終わると同時にミヤビの放ったスキルがテトにぶつかった……。




