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選定者による異世界革命  作者: P〜ちゃん
第一章 迷走編
22/29

21 報酬

前話のあらすじ


 ついにセバスとの約束の日。

 ミヤビは城の誰にも気付かれ事なくセバスの自室に向かう。

 そこで嫉妬に駆られたセバスから執拗に股間を狙われながらも、この5年で築き上げたスキルや身のこなしで一度も死ぬ事無く1日程を戦い抜く。

 2人にとっては準備運動とも言えるその戦いが終わり、少し休憩している時ミヤビが悩みを切り出す。

 セバスにとっては、その悩みは笑いが込み上げるほど小さくミヤビを馬鹿にしてしまうが、不貞腐れたミヤビに彼はアドバイスを贈る。

 そのアドバイスにミヤビは納得しつつも、どうやればイイのか分からない状況に、セバスがワザとこの《天獄》に招き入れた存在を利用して克服させるように仕向けるが……。

 「な、なんでここにアイツがいるんだよ!?」


 ミヤビが視線を向けた先には、おそらく自身の姿を隠す隠蔽系(いんぺいけい)のスキルを使って隠れていた《テト》がいた。

 テトはセバスが指で弾いた小石とは思えない威力により、自身に(ほどこ)していた〝認識阻害(にんしきそがい)〟の結界が簡単に破壊された事に焦っていた。


 「なんでいるんでしょうかねぇ」


 「セバス、もしかして……」


 ミヤビの驚きに、セバスは言葉こそ不思議そうだが顔はニヤついていた。

 それを見たミヤビは〝絶対コイツやったな〟と瞬時に悟り、セバスによってこの《天獄》に招き入れられたテトに対し、若干(あわ)れむ気持ちになっていた。


 「どうしたんですか? まるでワガハイがこの事態を招いたみたいな顔をして」


 ミヤビにアドバイスをしていた先程までぶっきらぼうな喋り方ではなく、いつもの執事っぽい丁寧な話し方に戻ったセバスは、あくまでシラを切るつもりであった。


 「いや、絶対セバスだろ……、ここに来る《ゲート》ってオレの知る中じゃセバスしか使えるやついねぇんだけど……」


 「そうやってすぐ決めつけるのは良くないですぞ! 世の中に〝絶対〟なんてモノは〝絶対〟に無いんですからねぇ」


 「絶対無いんならその絶対も無いんじゃ……」


 シラを切るセバスにミヤビは言葉で詰め寄るが、逆にイタチごっこみたいな言葉遊びで返される。


 「で、どうするんです?」


 「どうするって?」


 「〝知らない〟事を〝知れる〟機会が目の前にありますけど?」


 「……」


 セバスに問われたミヤビは唐突に現れたこの〝機会〟に戸惑い、考え込む。




 分かってはいるのだ。




 セバスがくれたアドバイスを聞いた今は、目の前にいるテトと戦う事でこの5年ずっと頭の片隅にあった悩みに1つ区切りが出来るのだと。


 しかも相手のテトは知ってるのかは分からないが、この《天獄》では《死》が無い。

 だからたぶんこの戦いに〝勝敗〟は関係無く、ミヤビ自身の〝不安〟やテトに対する〝恐怖〟という物を、〝死なない〟というハンデを貰った上で挑戦出来るのだ。


 そこまでの考えに至った上で、ミヤビはふと疑問に思う。




 セバスがこんなミヤビ自身にとって都合の良い事をするだろうか?




 おそらくこの事態は狙ってやったモノなのだろう、自分の知る中では〝ここ〟に来るゲートはセバスしか使えない、それを使ってテトがこの場所に足を踏み入れたのだとしたら、もうそれはセバスの罠としか考えられない。




 じゃぁ何故セバスはテトを招き入れたのか?




 ミヤビ自身の成長の為?

 いや、この5年で嫌というほど分からされたのは、セバスは自分が楽しむ為ならばなんだってやる生き物だという事だ。

 楽しむ為ならば、どんな面倒くさい事だろうが嬉々(きき)として取り組むのだ。


 少し前の事だが、夕食の給仕をセバスがしていた事があり、その日のミヤビの夕食は全てセバスが用意していた事があった。


 いつもは城の一階にある、そこで働く者達が利用する食堂で、自分で食事を取りに行くのが普通なのだが、その日は強くなる為の特別メニューだと言われ、セバスにミヤビが鍛えてもらってた事は周囲も分かっていたために、ミヤビも他の者達も特に違和感を感じる事もなく食事を楽しんでいた。


 だがその日の《天獄》での戦いで異変が起こる。

 いつもの戦いが始まってからしばらくして、ミヤビの体調が急に悪くなったのだ。

 めまい、吐き気、頭痛、腹痛など、体験した事がない身体の変化にその時のミヤビは混乱した。

 後で知らされたのは夕食に出したその食事の中に、遅効性の毒が盛られていたらしかった。


 「(絶対なんか企んでるだろこのジジィ……)」


 その出来事を思い出したミヤビは、そこまで考えた上である事に気付き、(はた)からみても分かるぐらいに顔を青ざめさせた。


 「せ、セバスさん? 料理長のおっちゃんにさ、なんか変な薬とか渡してない?」


 「……フフ、急にどうしたんですかそんなに顔を青ざめさせて、まるでいつかの時みたいに〝毒〟でも盛られた様なお顔ですよ?」


 「セバスぅぅぅぅ!!」


 その気付いた事の真偽を確かめようと、ミヤビはセバスに質問するが、彼から返ってきた言葉に疑惑が確証に変わり、ミヤビはセバスに向かって叫ぶ。


 「ハハハ、そんな怖い顔して一体全体どうしたと言うんですか?」


 「お、おま、オマエ、アンナがオレの料理に入れた〝秘薬〟、アレ絶対オマエが用意して仕組んだんだろ!?」


 「フフフ、チョットナニイッテルカワカリマセン」


 「カタコトで返すなぁ!!」


 もはや白状していると言ってもいいセバスの返答を聞いて、ミヤビは焦りだす。


 前回と同じような〝毒〟だとしたら、目の前のテトと戦うどころではない……。

 自分の結界が壊れた事が余程ショックだったのか、こちらを警戒しながら傷の手当てをしているテトを見ながらミヤビは高速で思考を巡らせる。


 今のところ身体に異変は無いが、セバスが自分に〝何か〟を盛ったとしたら確実にとんでもない事になる……。

 前回はまるで、ゲームで例えるとするならば、こちらに不利になる〝デバフ〟と呼ばれる様々な状態異常を全て受けた上で、普段でもついて行くのがやっとであるセバスとの戦いを強制されたのだ。

 まぁそのおかげで各種状態異常に対する耐性を取得出来たのだが、【メリウス】にいる〝冒険者〟と呼ばれる者達でさえ、そんな事はしないと聞かされた時は『そらそうでしょうねぇ!!』とブチ切れた。


 「何、〝()った〟んだよ」


 「……極少量だと良薬になる〝千年樹の根〟を煮詰めて作った液体を1瓶、アンナの手に渡るように細工をしました」


 バチコーンと効果音が聞こえそうなウインクをミヤビにしながらドヤ顔でそう言うセバスは、もはや隠す気が無かった。


 「〝それ〟大量に使ったらどうなるんだ?」


 「さぁ? 過去に不老不死の研究で使った者がいるとかいないとか、その者は摂取した翌日に体中から血を流して死んだみたいですが、本当かどうかはワカリマセン」


 「……」


 「おや、どうしました?」


 「……」


 「あぁ、あまりの恐怖に立ったまま気絶しましたか……」


 セバスから過去に〝千年樹の根〟から出来た薬を大量に摂取した者の話を聞かされ、これから自身に起こりえるかもしれない事態を想像したミヤビの脳は、恐怖を回避する為に一旦思考回路をシャットダウンし、身体を守る行動を本能的におこなった。


 「まぁ、まだ〝効果〟が現れるまでしばらくかかるでしょうから、それまでは〝あっち〟を揶揄(からか)って遊びましょうか」


 そう言ってセバスは、立ったまま気絶するという器用な状態のミヤビを放置して、傷を癒やし終えこちらを警戒しているテトの元へと歩み寄る。


 「止まれ! それ以上近づくんじゃねぇッスよ」


 テトとの距離までおよそ10メートルぐらいまでセバスが近づいたところで、テトがそう叫ぶ。


 「おやおや、ずいぶんと警戒なさっていますねぇ、いや、警戒と言うよりはビビッているんですかね?」


 「誰がビビッてるんスか! こちとら見習いとはいえ〝神〟ッスよ!」


 丁寧に、あえて煽るように吐かれたセバスの言葉に、テトは自身の焦りを隠す様に〝神〟の名を使い虚勢を張る。


 「〝神〟……ねぇ、その神様がワガハイになんの御用でしょうか?」


 あくまで執事の姿勢を崩さず、手を後ろ手に組んだ状態で丁寧にテトにこちらに来た目的を(たず)ねるセバス。


 「女王さんの護衛であるアンタには用はねぇッスよ、俺様は向こうで突っ立ってるガキに用があるんスよ」


 「まぁそうでしょうねぇ、アナタ《精霊界》に来た時からワガハイを程良く避けていらしてましたもんねぇ、ビビッてるんですか?」


 「だからビビッてねぇっつってんだろ!」


 自分には用は無いと言われたセバスは、息を吐くぐらいの軽さでテトを煽る。


 「はいはい、本人が言うならビビッてないんでしょうね、それで? ビビットさんはミヤビ殿になんの御用で?」


 「変なあだ名付けてんじゃないッスよ! ……アイツが5年前から急に人が変わったみたいに真面目になったから時々後をつけてその理由を探ってたんだよ」


 「つまりビビットさんはミヤビ殿のストーカーということですか? ワガハイそういう男同士の〝それ〟は否定しませんが……その……相手のお気持ちも()んだ方がイイかと……」


 「なにサラッと〝そういう〟扱いしてんスか! んでそのあだ名定着させようとしてんじゃねぇ!」


 久々に反応が面白いオモチャを見つけてセバスは、あのいつも偉そうな《天獄》の〝管理者〟《デイズ》と並ぶぐらい揶揄い甲斐があるテトに、普段の1.5倍は煽る口が回っていた。


 「これはこれは申し訳ありません、久方ぶりにこんな面白い方に出会えたのでテンション上がっちゃって」


 「スゲェ嬉しそうな顔が腹立つッスね……」


 セバスはこの目の前のオモチャをどうおちょくってやろうかと考えるだけで、ニヤついた顔が抑えられなかった。


 「まぁ、アナタがミヤビ殿を探っている事は分かっていたんですけどね、アナタが真相に近付きそうになる度にワガハイが邪魔してたんで」


 「やっぱりアンタか! 毎回毎回タイミング良く邪魔ばっか入るな? って不思議だったんだよ!」


 「ハハハ、そう簡単には探らせませんよ」


 「へっ、だが今回は油断したようだな、最近やっと夜な夜な謎の空間に入って行くのを見つけて、毎回入るのに邪魔されてたが、今日はアンタが油断したのかその空間に繋がる扉が開きっぱなしだったぜ」


 「えぇ、そうなるようにワガハイがしたので」


 「は?」


 毎度毎度ミヤビの事を探る度に完璧なタイミングで邪魔が入っていたが、その原因が予想通りセバスだと分かったテトは、今日こそはシッポを掴んでやったぞとばかりに言葉にするが、セバスはキョトンとした顔でそう返した。


 「えっ? 気付いてなかったんですか? 〝神〟ともあろうお方が? こんなただの執事が(たくら)んだ事に全く気付いて無いなんて、そんな事ありませんよねぇ?」


 「ば、バカにしてんッスか!」


 「えぇ、すっごい上から目線で馬鹿にしてます」


 「ハハ……、こうまで喧嘩売られたらキッチリ買ってやらねぇと失礼ッスね……」


 テトの反応にもう煽る口調が止まらないセバスは思うままに言葉を吐くが、ついにそれがテトの怒りを引き起こす。


 「あ、そういうんじゃないので結構です」


 「は?」


 「いや、アナタみたいなのと戦ってもただの弱い者いじめになるだけなので、やるだけ時間の無駄です」


 「おいおい、それが喧嘩売ってんじゃねぇのかよ!!」


 「ただの老後の楽しみですが?」


 「見習いだからって舐めてんじゃねぇぞ!!」


 バキッ!


 怒りが頂点に達したテトに素の表情でサラリと返すセバスに、テトは肩透かしを食らった様に感じるが、さらに言われたその言葉に抑えていた怒りを爆発させる。


 「……やめといた方がいいですよ?」


 「……っ! 痛っっってぇぇぇ!」


 爆発させた怒りを乗せ、瞬間的に移動して繰り出されたテトの拳は、綺麗にセバス顔面にヒットするが、〝見えない〟何かに(はば)まれ、逆に殴ったテトの拳がダメージを受けた。


 「どんっだけ堅い結界使ってんだよ! 姉御でも防御するぐらいの威力はあんだぞ!」


 「はぁ……、ただ生物としての〝格〟が違うだけでしょうに、そんなに驚いて(わめ)かないで下さい」


 「クソッ、見下しやがって!」


 自分の戦いの師匠でもある、女神田中でも防御を余儀(よぎ)なくされる威力を持った攻撃を簡単に防がれ、さらに見下した態度を取られた事にテトの怒りが増していく。


 「いや、ほんと時間の無駄ですよ?」


 「うるせぇ! 〝騒げ騒げ、ここは嵐の只中だ! その風を、雨を、(いかづち)を持って無数の(やいば)と成せ〟」


 「かなり高位の精霊魔法ですねぇ、ってかこの場所にも精霊って居たんですね……、まぁさすが〝神〟の名は伊達ではないと言う事ですかね」


 時間の無駄と切り捨てるセバスに、テトは自身が持つ威力の高い精霊魔法を詠唱する、それをただ感心しながら何もせず見ているセバス。


 「なに余裕ぶっこいてんだよ! さすがにこれは防げないだろ、喰らえ! 《テンペスト》」


 「防ぐのすら無駄ですよねぇ、まぁ後ろにミヤビ殿がいますので、影響が無いようにちょっと消しましょうか、《デリート》」


 パチン!


 「えっ?」


 詠唱によってテトの頭上に現れた真っ黒な稲光(いなびか)りを放つ雲は、セバスが指を鳴らして使ったスキルによって一瞬で跡形もなく消された。


 「少々邪魔でしたので、消させていただきました」


 「はっ? どうやって……?」


 「あれぐらい消せなければ執事ではありません」


 「執事関係ねぇだろ!」


 ちょっと邪魔だから消したよみたいに言われ、さらに執事の(たしな)みのように言われ混乱するテト。


 「大事なんですけどねぇ、まぁこれで時間の無駄だと分かってもらえましたか?」


 「クソッ! なんなんだ一体アンタは!?」


 セバスの一連の今の行動で、自分が相手にならないと悟ったテトは先程までの怒りを抑え、戦うのを諦めたようにセバスに質問する。


 「ただの執事ですよ」


 「絶対違うッスよ……」


 「まぁ半分冗談はこれぐらいにして、アナタに提案があるのですが聞きます?」


 「な、なんだよ」


 急に親切そうな笑みで自分にそう話かけてくるセバスに、テトは少し後退(あとずさ)りながら返事をする。


 「いやね、これからミヤビ殿と戦ってもらいたくてですね」


 「アンタとの今のやり取りで言うのもなんだけど、見習いとは言え〝神〟の俺様とあのガキじゃそれこそ戦うだけ時間の無駄ってもんッスよ」


 「まぁ、確かにそうなんですけどねぇ……、一応、このワガハイが5年をかけて鍛えてみた〝作品〟がどこまで〝神〟に通用するのか知りたいんですよ」


 「フッ、自分の弟子とも言える奴を〝作品〟扱いって何気に酷い言い方ッスね」


 「そうですか? 完成まで自分で時間をかけて強くなるようにじっくり時間を掛けて教え込んだと言う意味では、そこらの画家とやっている行動は〝時間をかけた〟と言う意味では同じでしょう」


 その提案にテトは〝神〟とミヤビの実力差を出して断るが、セバスはこれまで弟子として教えてきたミヤビをまるで〝物〟の様に言い、それを聞いたテトはミヤビの事を少し可哀想に感じていた。


 「アンタの言葉遊びには付き合ってらんないッスよ、アイツが急に真面目になった原因もだいたいアンタって事が分かったし、俺様はここらで帰らせてもらうよ」


 「あ、提案受けてもらえるまで《ゲート》出しませんよ?」


 「選択肢()ぇじゃねぇッスか!」


 「断らせるつもりなんて最初から無いので」


 「クソッ!」


 セバスの提案を断り帰ろうとするテトだが、肝心の帰る手段がセバスが使える《ゲート》のみという事実に気付き、最初から選択肢など無かった事に苛立ちを隠せないでいた。


 「まぁまぁそう不貞腐(ふてくさ)れないで下さい、アナタのヤル気の為にも報酬をご用意しましょう」


 「なんスか? 勝つのが分かりきってる戦いに報酬なんか出せるんスか?」


 「えぇ、一応勝負なので〝勝ったら〟報酬を差し上げます」


 「〝勝ったら〟……ね、なーんか含みがある言い方が気になるッスけど、まぁ報酬次第じゃヤル気にならなくもないッスよ」


 どうせやるならその報酬とやらのグレードをより上げてやろうと思い、そう言葉を返すテト。


 「きっとヤル気になりますよ」


 「おっ、自信アリな顔してるッスね」


 「えぇ、何せ〝勝ったら〟ワガハイが〝アナタ方〟の〝計画〟に全面的に協力してあげるんですから」


 「ハハ……、このジジィとんでもねぇ事口走ってるじゃねぇッスか」


 先程の戦いで知った自分より遥かに強いセバスから告げられたその報酬の価値を、テトは瞬時に理解した……。

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