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選定者による異世界革命  作者: P〜ちゃん
第一章 迷走編
21/29

20 簡単

前話のあらすじ


 約束の日が直前まで迫ってる中、いつもの日常を過ごすミヤビ。

 いつものようにアンナから逃げようとしては、この5年で色々成長した彼女に簡単に押し倒されてしまう。

 そんな日の夜、いつものようにアンナに連れ去られたミヤビは、彼女が城の料理長から無理矢理奪ってきた〝媚薬〟と思われる液体を大量に盛られた料理を知らずに食べてしまう。

 だが効果は無く、彼に自分を襲わせる作戦が失敗した彼女を放って、ミヤビはセバスとの約束を果たしに向かう。

 「さて、この5年の集大成ってやつをセバスにぶつけるか、……《ミラージュ》《アクセル》」


 アンナの部屋から出て来たミヤビはそう言って、この5年のセバスとの戦いで会得したいくつかのスキルの内の2つを使う。


 1つは〝光の屈折(くっせつ)を利用して自身を周りの景色と同化させる《ミラージュ》〟

 もう1つは〝自身の魔力を消費して移動速度を上げる《アクセル》〟


 その2つを使い、その場から誰に気付かれる事無く離れていった。


 いや、〝ミヤビは〟誰にも気付かれていないと思っていた……。


 「もう! どこ行ったのよ! 覚えてなさい!」


 バン!


 「……」


 アンナがミヤビを見失い、怒りながら自室の扉を強く閉めた誰も居ない廊下の絨毯(じゅうたん)に、〝何故か〟(くつ)(あと)だけがミヤビを追うようにして進んで行った……。





 「遅いですよ! 約束の日に遅刻とは(たる)んでますねぇ」


 「悪りぃ悪りぃ、アンナに捕まってたんだよ」


 「イチャコラしてたら時間を忘れてたと……、ヨシ! 今日は最後という事ですし延々と股間(こかん)ばかり狙ってあげましょう」


 いつもの待ち合わせ場所であるセバスの自室、そこに言い訳をしながら遅れてきたミヤビにセバスはそう宣言し、彼の股間の〝モノ〟を不能にすべく変な闘志を燃やしだす。


 「なんでだよ! 最近女王さんに相手されないからってオレに〝当たる〟んじゃねぇよ!」


 「ミヤビ殿……これだけは覚えておきなさい」


 「な、なんだよ」


 それに返したミヤビにセバスは右手の人差し指を立て、そう言いながら真剣な表情で彼をジッと見る。


 「世の全ての大人はね……、誰かに八つ当たりする事でストレス発散するんですよ!」


 「ぜってぇ違えぇよ! なに真面目な顔して言ってんだよ!」


 「とまぁ、半分冗談は置いといて……準備は宜しいですか?」


 「半分本気なのかよ……、おう! いつでもこい!」


 真剣な顔で八つ当たりを正当化しようとするセバスにミヤビは全力で否定するが、その言葉をスルーして彼は《天獄》へ通じるゲートを開きながらミヤビに(たず)ねる。


 「では行きますか……、なんだか今日は最後という事もあって〝何か〟ありそうでワクワクしますねぇ」


 「なんだよ〝何か〟って、いつも通りオレが耐え切って、この長かった5年かけた勝負に勝つだけだろ」


 「フフ、そう……ですね、そうだと良いですねぇ」


 何か含みを持たせたセバスの言葉を特に気にする様子もなく、ミヤビはセバスより先にゲートを(くぐ)る。

 それを見送って1人になったセバスはチラリと自室の扉の方に目を向け、楽しそうな顔をしながら誰も居ない自室で笑いそう言ってゲートを潜って行った。

 〝何故か〟いつもすぐ閉じるはずのゲートをしばらく残して……。


 「……ッ!」


 しばらく残っていたゲートが閉じようとしたその瞬間、誰も居ないのに勝手にセバスの部屋の扉が開き、何かが高速で移動するような風音(かざおと)()き散らし閉じる寸前のゲートに〝人型のナニか〟が入っていった。


 慌ててゲートに飛び込んだその〝存在〟は知らない……、それはただセバスが、自身が楽しむ為に用意した罠だという事に……。




 そして場所はミヤビとセバスにとっては、もはや日常の一部になっている《天獄》。

 そこに立つ2人は交わす言葉もそこそこに、これもまた日常の一部になっているセバスによる一方的な虐殺が始まった。


 先程の宣言通り、セバスが執拗(しつよう)にミヤビの股間を狙ってくる以外は、この5年繰り返されてきたいつもの光景である。


 セバスが繰り出す攻撃を、一発喰らえば〝死〟の文字通り〝命懸け〟で避けて避けて避けまくる一方的な虐殺。


 ただミヤビも逃げ回ってるだけではないが、ちょっとした隙を見つけて反撃しようものなら、それすらも予想された動きでカウンターを喰らい〝即死〟するという超ハードモードの鬼畜仕様である。


 最初は本当に死に物狂いで避けまくっていたミヤビだが、ここが《天獄》という場所で、無限に生き返る事が出来る場所だからこそ、ここ最近ミヤビは半分〝死にゲー〟をしているような遊び気分でいた。


 どう動けば良いのか?

 次はこうしてみるか。

 こう動いたらどうなるだろう?


 そんなような事をこの5年間で1つずつ積み上げていったミヤビは〝今〟のセバスの動きを完全に読み切っていた。


 「ふぅー、さすがにこれだけやってるとワガハイの動きに着いて来れるようですね」


 「ハァハァハァ、……まぁな、ただ一つだけ納得いかねーけどな」


 知らない人が見たら恐ろしいくらいの戦闘も、もはや2人にとっては準備運動と言ってもいい激しい戦いを〝1日〟程続けた後、少し休憩とばかりにセバスが攻撃の手を止めミヤビに話しかける。


 「どうしたんです?」


 「なんっでいつもいつも汗一つかかずに()ました顔できんだよ! スタミナ無限かよ……」


 「まぁこれぐらいはねぇ、たかが5年……いや? この《天獄》ではもう何千年分にもなるんですっけ? ……まぁたとえ1万年だとしても〝たった〟それぐらいでワガハイに近づけるなんて思い上がらない事です」


 「べ、別に調子に乗ってるとかじゃないけどよぉ」


 「まぁ仕方ないですよ、この《天獄》に居る間は身体の成長は止まってしまうのですから、むしろそれだけスタミナが付いたのは大したモノですよ」


 セバスに聞かれたミヤビは、これだけ長く激しい戦闘をした直後だというのに汗の一粒もかいていないセバスに文句を言う。

 まぁそれだけ生物としての〝格〟が違うと言えばそれだけなのだが、ミヤビの文句を聞いたセバスはむしろ〝たった5年〟鍛えただけで自分の動きに〝1日〟も着いてこれている彼の成長を素直に称賛する。


 「それなんだよなぁ、〝ここでも〟成長できたらなぁ……、それこそゲームとかマンガみたいにさ、こういう修行する空間で得た成長ボーナスを〝筋力〟とか〝体力〟とかのパラメーターに割り振れたりとか出来たら最高なんだけどなぁ……」


 「まぁ、そんな上手い話はどの世界のいつの世でもそうそう無いものですよ……、まぁ神の気まぐれなんかがあればそんな事も可能なんでしょうけどね……」


 セバスの称賛を素直に受け取れないミヤビは、前世での記憶から、ゲームみたいに都合良く成長出来たらとさらに文句を言うが、セバスはその言葉に少し何かを考えながらそう返す。


 「〝神〟ね……、なぁセバス?」


 「なんです?」


 「〝アイツ〟も……、神なんだよな?」


 「アイツって、テトの事ですか?」


 「あぁ……」


 「見習いらしいですが〝神〟には違いないですね」


 セバスの言葉にミヤビは、強くなる為に《天獄》でも【メリウス】でも鍛えてきたこの5年であまり考えないようにしていた事をポツポツと彼に質問しだした。


 鍛えれば鍛えるほど、昨日より今日、今日より明日、強くなったと実感するほど、自分が〝何〟に挑もうとしているかを考えると意味が分からな過ぎて不安を通り越してむしろ笑えてくるのだ。



 神は倒せるものなのか?



 前世の世界なら、それこそゲームやマンガならいくらでも倒した例はあるが、リアルには聞いた事も見た事もない。

 神話と呼ばれる昔からある真実なのか創作なのか今となっては確かめようがない史実などもあるが、この目で実際に見ていない以上そんなのは信じるに(あたい)しないのだ。


 「前の世界じゃさ、神なんて居るかも分からない存在なんだよ、見た事もないのになんで大人達は信じて祈ってるのか不思議でさ、祈っても助けてもらえるわけでもないのにって馬鹿にしてたんだよ」


 「確かに、その存在を見た事もなく、実際に助けてもらったわけでもないならそうなるのが《人》としては普通でしょうな」


 「でもさ? こっちの世界に転生して、女神田中に色々助けてもらったじゃん? オレには想像も出来ないような前の世界じゃ有り得ないチカラで、……見習いとはいってもそんな存在にさ、ほとんど何も持たないオレが勝てるのかな?」


 「……」


 「セバス?」


 「……ぶはっ! ハハハハハ!」


 「な、なに笑ってんだよ!」


 ずっと1人で考えないようにしながらきた悩みをセバスに打ち明けるミヤビだが、それを聞いたセバスは我慢が出来なかったとばかりに吹き出し腹を抱えて笑い出す。


 「これが笑わずにいられるかって言うんですよ! なんだその小せぇ悩み……ふはっ、ハハハハハ、ダメだ〝ツボ〟に入り過ぎてまともに話せねぇ」


 よほど笑いのツボにどストライクだったのか、セバスはいつもの丁寧な話し方も崩れるほどに笑い転げていた。


 「な、なんだよ! こっちは真剣に悩んでるっていうのに、……言うんじゃなかったよ」


 「ハハ……ハ……はぁーおもしれぇ、悪かった、オマエみたいな〝凡人〟にはピッタリの悩みだったな」


 「もういいよ! ……続き、やろうぜ」


 「まぁ待てよ、オマエのその悩み解消させてやろうか?」


 悩みを打ち明けて笑われたミヤビは、恥ずかしさと怒りから顔を真っ赤にして戦いの続きを促す、だが、セバスはそこに待ったをかけミヤビにそう提案する。


 「えっ? そんな事出来んの?」


 「はぁ……、久々に〝凡人〟のオマエにアドバイスしてやるよ」


 「お、おう」


 完全に丁寧な話し方を忘れたセバスは、人生の先輩面した偉そうな態度でそうミヤビに話しかける。

 それを聞いたミヤビは素直に聞く体勢になり耳を傾ける。

 この5年で、たまにこうしてぶっきらぼうな喋り方になったセバスがミヤビにアドバイスをする事が度々あったのだが、そのどれもがミヤビにとっては為になっていた。

 そのおかげで、上手くいかなかったスキルを使えたりして、物理的にも精神的にも〝視野〟が広がっていた。

 その事もあり、ミヤビはこういう時のセバスの話はちゃんと聞くようにしていた。


 「オマエが感じてる《不安》の〝大元(おおもと)〟ってどこから来てると思う?」


 「大元って、原因って事か? ……それはテトに対する恐怖とか?」


 「恐怖ね……、その〝恐怖〟ってどこから来るんだ?」


 「どこって……、……分かんねぇよ」


 「それだよ!」


 「どれだよ!」


 何故かもったいぶった言い方で質問してくるセバスにミヤビは考えながら答えるが、考えても分からない事を素直に伝えると、それが答えだと言われ混乱する。


 「だから〝分かんねぇ〟から不安になんだよ、《人》に限らず意識を持った生物ってな、〝知らないモノ〟に勝手に恐怖するんだよ、しかもよく確かめもせず自分の頭の中だけでグルグル考えて、考えまくった結果その〝知らないモノ〟に対して不安を抱くんだよ」


 「……言われてみれば、そう……か」


 「だろ? んでその〝知らないモノ〟を知った後に大概(たいがい)の奴はなんて考えると思う?」


 「分からない」


 「〝あぁ、こんなもんか〟ってなるんだよ、直前までめっちゃビビッて縮こまってた奴が〝知った〟後だとそんな不安なんか無かったみたいに晴れ晴れしやがる、《凡人》って言われる奴に特に見られる特徴だな、これだから《弱者》や《凡人》ってのは面白くてムカつくんだよ」


 「セバスは強いからそう言えるんだよ……」


 セバスの言葉に一応納得はするものの、元々持っているモノが違うからそう言えるんだと、ミヤビは少しだけセバスの言葉に反抗する。


 「最初っから強えぇヤツなんていねぇんだよ」


 「えっ?」


 「強えぇヤツとか凄えぇヤツってのはな、〝知らない〟事をビビってたとしてもそれを乗り越えて知って知って知ってそれでも自分は〝まだまだ〟だってさらに色んな事に挑戦出来るヤツなんだよ」


 「……」


 そのミヤビの言葉に少しだけ怒気混じりにそう返すセバスの顔は、どこか懐かしさを覚える表情だった。


 「んで? 悩み解消する気あんのか?」


 「出来るならしたいけど……、どうしたらいいか分かんねぇよ」


 「簡単じゃねぇか〝知〟ればいいんだよ」


 「それが簡単に出来ないから悩んでるんじゃん」


 「いや、マジで簡単だって」


 「えっ?」


 「えっ、じゃねぇよ……、まさかオマエ気付いてなかったのか?」


 「なにがだよ、なんかあんのかよ」


 セバスの言葉に、前へ進みたいけどやり方が分からないと言うように返すミヤビだが、セバスはそんな彼の後方に視線を向けながらそう返す。

 それを聞いたミヤビはセバスの視線を追って後ろを振り返ってみるが近くには何もなかった。


 「あぁー、まだアレには気付けねぇか、……ちょっと待ってろ」


 ビュン!


 ミヤビの言葉にセバスは面倒くさそうに返し、近くにある小石を拾って、それを指だけで弾き、ミヤビの後方に向かって飛ばす。


 バチッ!


 「痛ってぇ! うわ! 姉御直伝の結界だぞ! どうなってんだ!」


 「えっ?」


 「ほら、簡単だろ? アレと戦えば不安なんか簡単に解消出来んだろ?」


 「そういう事じゃねぇ気がするけど!?」


 小石が弾かれた方向に視線を向けたミヤビは、そこに居るはずのない存在に対して混乱し、セバスの言葉に全力で突っ込んだ。

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