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選定者による異世界革命  作者: P〜ちゃん
第一章 迷走編
20/29

19 大事な日

前話のあらすじ


 《天獄》の管理者デイズを煽った事によりミヤビと生命をリンクされてしまったセバスは悔しがりながらもさらにデイズを煽りまくる。

 その態度にデイズは知りたい情報を簡単には聞けないと悟り、権限を使い強制的に2人の頭の中を覗く事にした。

 その中に、デイズを楽しませるような情報があったのだが、それは2人には分からずじまいだった。

 彼の去り際、ミヤビに対して言った言葉の真意とは?



 そしてあれから五年、約束の日がすぐそばまで迫っていた……。

 「あ! ミヤビ! アンタもしかしてまた抜け出してきたんでしょ!」


 「へへ、これから面白い事があるってのにジッとしてられるかって、今日は1分1秒でも無駄にしたくないんだよ」


 「あ! 待ちなさい! ……もう」


 「オレを捕まえられたら待ってやるよアンナ!」


 そう言ってミヤビは城の出入り口に向かう長い廊下の先で、正面からこちらを捕まえようとしているメイドのアンナの横をすり抜け走っていく。


 「……言ったわね?」


 バキッ!


 「えっ?」


 ガシッ!


 「はっ? えっ?」


 「つーかーまーえーたー」


 「うわあぁぁぁ!」


 アンナの横をすり抜けて、ミヤビが捨て台詞を吐いた瞬間、地面が割れる様な音と共に視界の中に居たアンナが消え、ミヤビが気付いた時にはアンナは背後から彼の肩をガッシリ掴んでいた。

 そして少しホラーチックに告げられた〝捕まえた〟報告にビックリして叫び声を上げるミヤビ……。


 「なに化け物でも見たみたいに叫んでんのよ」

 

 「いや、誰だって怖えぇだろ今のは……、バカみてぇに力強えぇし……」


 背後から肩を掴まれ驚いているミヤビに呆れたように声をかけるアンナ、それに対してミヤビはそう返す、最後の方は聞かれると後が怖い為、小声で言っていた。


 「今なんて言った? ん?」


 まぁハーフとはいえ、身体能力に優れたこの世界の《獣》の血が入った獣人であるアンナには、たとえ小声だろうがこれだけ近ければ無意味であるのだが……。

 その小声で発言した内容に対して、圧のある笑顔でもっかい言ってみろ的に(うなが)すアンナ。


 「い、いえ……、今日もアンナさんは可愛くて惚れ惚れするなぁって……ハハハ……すんません」


 「ま、まぁ許してやらんでもない(今日も1可愛い頂きました!)」


 「んであの」


 「なぁに?」


 「〝当たってる〟んだけど……」


 「……〝当てて〟んのよ」


 「そ、そうですか」


 5年の月日が流れた今、ミヤビもアンナもお互い色々成長したのだが、とりわけアンナは周囲が驚くほどに成長していた。

 おそらく《人》が住む《セントラル》の街でもアンナとすれ違えば誰もがその容姿に振り向くレベルの美人になっていたのである。

 それはこの《精霊界》に住む、自身の種族以外には排他的(はいたてき)な《エルフ》でさえチラ見してしまう事からも(うかが)える。

 そのアンナの目立つ成長の〝おかげ〟で、周囲はミヤビの成長にそれほど関心を抱いていなかったのは彼にとっては(さいわ)いだった。


 「……(めっちゃ照れてる、耳真っ赤になってる! えっ? 可愛い過ぎるんだが!?)」


 5年が経ち、そんな誰もが認める容姿のアンナは、……ミヤビにベタ惚れであった。


 「えっ、ちょっ、なんか肩掴んでる力が強い! アンナさん? なんか鼻息荒いですよ!」


 「ハァハァ、ちょっとだけだからね? すぐ終わるから……」


 「えっ? あ、ヤバい! どん、だけ、力強いんだよ、振り、解けねぇ!」


 「大丈夫だから、ね?」


 「ヤバいヤバい! 目が怖えぇよ! アンナちょっとストップ!」


 至近距離にミヤビが居たせいか、急にアクセル全開で変なスイッチが入ったアンナは、獣人の身体能力をフルに使いミヤビを押し倒そうとするが、彼もこの5年で成長しているのだ、たとえ獣人だろうが15歳の女の子に負ける鍛え方はしていないとでも言うように全力で抵抗する。


 「ふぎぎぎ! なん、で(よだれ)垂れてんだよ! ねぇコレ食われんの? ムフフな状況じゃなくて物理的に食おうとしてない!?」


 全力で抵抗するミヤビの目の前には、目が()わり口の端から涎を垂らしながら、彼が振り解けないほどの力で押し倒そうとする若干化け物なアンナの顔があった。


 「怖がらなくて大丈夫だからねー」


 「今1番信用出来ない言葉だわ! ……ヤバ、スタミナ切れそう……」


 全力で抵抗しているミヤビだが、そんな状態を長く維持出来るスタミナは獣人のアンナほどは無く、徐々に押され始めていく。


 「もう、ダメ、だ」


 「……何してるんですこんな朝っぱらから」


 シュッ!

 シュタ!


 「ガルルッ!」


 「ガルルじゃないですよこの発情娘が……」


 「ガルル……、……、あ、あれ? ……もしかしてウチまたやっちゃった?」


 「た、助かったぁぁ! もーセバス来るの遅えよー」


 徐々にスタミナが無くなり諦めかけたその時、すぐそばまで来ていたセバスが声をかけ、〝何か〟を察して反射的に飛び退いたアンナは興奮状態のままセバスを威嚇するが、すぐに冷静になり自分の状況を把握した、〝また〟という事からも度々こんな状況になっているのだろう……。


 「遅いも何も、朝の勉強の時間なのにまたミヤビ殿が抜け出したとメイド長からクレームがあったので探していただけなのですが……」


 「げっ、……セバス!」


 「なんでしょう?」


 「見逃して?」


 「では〝負け〟で宜しいので?」


 「チッ、わぁーったよ! 戻ればいいんだろ」


 「素直で宜しい、……アンナも服装の乱れを直したら業務に戻りなさい、メイド長にはワテクシから言っておきますので」


 「は、はい! 失礼します!」


 セバスが来た事によって間一髪で貞操が守られたミヤビだが、彼が来た目的が自分だと分かると即座に見逃すように要求して回避を試みる。

 しかし、セバスに〝2人〟しか分からない内容の言葉を返され、ミヤビは嫌々ながらも承諾した。


 「さて……、なに朝っぱらから盛ってやがるんですかね? あれですか、ハーレムモノの主人公でも目指してるんですか?」


 「ちげぇよ、オレから(せま)ってるんじゃないし最近アンナの距離が近いんだよ」


 「ほっほっほ……、ハーレム主人公じゃねぇか! 色々〝もげろ〟リア充め! むしろワガハイが〝もいで〟やろうか!」


 「急に変なとこで嫉妬してんじゃねぇよ!」


 乱れた服を正し、恥ずかしそうに足早に去って行くアンナが見えなくなったのを見計らってセバスはミヤビに呆れた様子で言葉を投げかける。

 それに対しミヤビは、自分のせいじゃないと返すが逆にそれがセバスの嫉妬スイッチを押してしまい、最近(つか)えている(あるじ)に冷たくされている彼は変なテンションでミヤビにそう返す。


 「とまぁ冗談はそれくらいにして……、さぁキッチリ学んでいただきますよ」


 「うげ、覚えるの苦手なんだよなぁ……」


 「約束は守るんですよね?」


 「分かってるよ! そっちも約束破るんじゃねぇぞ!」


 ミヤビとセバスが〝勝負〟を開始してから5年、〝今日〟がその約束の日なのだが、あくまでセバスはいつも通りの日常を送っていた。


 その反対にミヤビは、今日を乗り切ればセバスとの勝負に勝てると朝から興奮してジッとしていられる心境ではなかった。


 だが、セバスはそれを良しとせず決めたルールをこなすようにミヤビを促す。


 「えぇ、もちろんですよ」


 「へへ、それならいいんだ、んじゃオレは今日のメインイベントの為にキッチリ勉強してこようかな」


 「しっかりと学んでいらして下さい」


 「あいよー、じゃぁまた夜になぁー」


 ミヤビの言葉に、セバスはにこやかにそう返し、授業を受ける為の部屋へ移動する彼を見送った。


 「約束は守りますよ、〝約束〟は……ね」


 その言葉は誰に聞かれるでもなく、朝の城内の慌ただしい喧騒(けんそう)に消えていく……。





 ところ変わって朝の慌ただしい時間が終わり、今はちょうどお腹が空いてくる時間のお昼手前、城にある厨房ではメイドのアンナが料理長となにやら話をしていた。


 「だーかーらー! もっとこう……食べたらすぐに()()()()になるようなえっぐい食材って無いの?」


 「いや、アンナちゃん、そんな食材合ったとしてもとても誰かに食べさせられねぇべ、そんなん食べたらヘタしたら死んじまうだよ」


 「だいじょーぶよ、ミヤビあぁ見えて最近打たれ強いから」


 「そう言う問題じゃねぇんだが……」


 こう、なんと言うか、こう言う事を平然と料理長に言ってしまうぐらいには、アンナのミヤビへの想いは色々と限界だった。


 「その食材でウチがミヤビにディナーをご馳走するでしょ? あ、もちろん2人きりで食事するのよ? そして食べ終わったらミヤビが言うの、『アンナ、オレ……もう』って! きゃぁーー、そうなったらもう後はこっちのモンてなもんよ!」


 「オラの予想じゃ、心臓押さえて倒れる未来しか見えねぇんだが……、仮に大丈夫だとしてもアンナちゃんに喰われる未来とか……、ミヤビも災難だわな……」


 最後の方の言葉だけ、ドスの効いた低い声で言う辺りにアンナの本性が現れている気がして、料理長はこれから訪れるかもしれないミヤビの未来にホロリと涙をこぼす。


 「なによ! こんな可愛いウチを好きに出来るんだから世界一の幸せモノでしょ? で! 食材あるの? 無いの? あるなら早く出してよね!」


 「わ、分かっただよ、有るにはあるけんど、ちゃんと分量守ってくれよ? 多すぎたらどんな事になるかオラも想像付かねえんだかんな?」


 自分で可愛いと言う辺り、外見の良さとは裏腹に意外と腹黒そうなアンナの圧に、料理長はしぶしぶ心当たりのある食材を貯蔵庫から取ってくる。


 「〝これ〟がそうなのね!」


 「あぁ、その〝千年樹の根〟を煮詰めて作った汁を料理に使えばたちまち〝元気〟になるだろうよ」


 「ウチとしてはありがたいし別にいいんだけど、なんでこんなモノこの城にあるの?」


 「それは普段は薬の材料として使ったり、体調を崩した者に出す料理にほんの、本当にほんのちょびっとだけ使ったりしてるんだよ、使用量を間違わなければこれは良質な薬の代わりになるからな、だから絶対入れ過ぎんじゃねぇぞ?」


 「ふーん、分かってるわよ」


 アンナがその汁が入った瓶を受け取る際、ふと疑問に思う事を聞いたのだが、返ってきたのは至極(しごく)真面目な言葉だった、ちょっと〝そっち〟方面の答えを予想してたアンナはつまんなさそうに料理長にそう返す。


 「くれぐれも使い過ぎんじゃねぇぞ? その瓶一つで《人》の街じゃ軽く豪邸が建てられる値段するんだからな! ちゃんと使ったら返せよ!」


 「へぇ、これで豪邸……聞いてた通り《人》の世界って欲が強いみたいねぇ……、大丈夫よ、使い終わったらちゃんと返すから」


 「んならいいんだけども、あんまり、その、なんだ、……お互い〝壊れ〟んように……な」


 「むしろそれが望みだが?」


 「ひぇっ!」


 「じゃぁねー、ありがとね!」


 《人》の世界での価値を聞いたアンナは、おそらく自分が想像するような使用法がされている事に納得する。

 そして料理長の注意に対して、妙に迫力がある艶っぽい顔でそう返し、その場を去って行く。


 「ちゃんと返さなきゃね、〝外側〟は」


 昔から《人》の世界は欲望だらけだと、自身の経験からも周りからの教えからも知識として合ったアンナはいつか使えるかもしれないと、完全に〝中身〟だけパクるつもりだった……。




 その夜、朝は勉強、昼からは自己鍛錬やたまにセバスとの素手での組手などを日課にしているミヤビは、今日も汗で汚れた体を城にある大浴場でキレイにした後、腹ペコな状態で食堂に向かう最中で普通にアンナに(さら)われてしまう……。


 〝また〟かとこの5年でいい加減慣れてきているミヤビは、抵抗するのも無駄だとされるがままで連れ去られていく、そして連れて来られたアンナの自室で、鼻をくすぐる大好物の匂いにテンションが上がる。


 「すげぇ! これアンナが作ったのか?」


 「ふふん、聞いても答えてくれないし良く分かんないけど、今日って大事な日だったんでしょ? だからミヤビにちょっとでもご褒美あげれたらなって」


 5年前に急に周りへの態度が180度変わったミヤビにアンナは理由を尋ねたが、返ってくるのは誤魔化したうやむやな言葉で、それが嘘だと分かるぐらいには彼女はミヤビの事を良く理解していた。


 いずれ言ってくれるだろうと、その事についてはそれ以上に聞かないようにしていたのだが、それがここ最近妙にソワソワしていたので、我慢出来なくなり問い詰めると、色々(にご)しながらも今日が大事な日なのだとミヤビが白状したのだ。


 「オレが〝シチュー〟好きなの知ってたんだな」


 「当たり前じゃない! シチューの時だけやたらと〝おかわり〟してたら誰でも気付くわよ」


 「へへっ、そらそうか」


 「さっ、冷めない内にどうぞ」


 「おう! いただきます!」


 今日が大事な日なのは聞き出したが、問題はその内容だ……、アンナはそれをもしかしたら自分への告白なのではないかと盛大に勘違いしていた。


 これだけ周りから見てもイチャイチャしてる2人だが、付き合うとかそう言う事は一切無いのだ。


 アンナはいつでもウェルカムなのだが、周りからの嫉妬や自身の年齢やヘタレ度合いもあり、ミヤビはアンナとある程度距離を取ろうとしていた。

 まぁアンナがその距離を全く無視しているおかげで、アンナを狙っているエルフの若者から物凄く嫉妬されていたのだが……。


 そして食事は進み、何回もおかわりするミヤビの皿にその度に少量では済まない一服を盛っていくアンナ……、それに全く気付かないミヤビもどうかと思うのだが、おかわりした時点で、というか最初の一皿目の時点で料理長から言われた分量を軽くぶっち切りで無視していたアンナは彼を思い過ぎて何本か頭のネジが飛んでいるのだろう……。


 「はぁー、もう食えねぇ、めっちゃ美味かった! アンナ料理上手くなったな!」


 「でしょ? いっぱい練習したんだから! 誰かさんの為にね?」


 「お、おう」


 「ねぇ?」


 「な、なんだよ」


 「なんか体に変化ない? こう、すっごい〝体の一部〟が元気になってきたとか」


 用意した鍋の中のシチューを全て平らげ、椅子の上で満足そうにお腹をさするミヤビにアンナは遠回しに聞く。


 「ん? いや、なんもねぇぞ?」


 「ホントに? 我慢してるとかじゃなくて?」


 「なんだよ? ホントになんもねえぞ?」


 「おっかしいなぁ……」


 「ってか、もしかして〝なんか〟入れた……のか?」


 「え? うん! ちょっとでも体に入れたらミヤビがウチを襲いたくなる秘薬! ったくあの料理長ビビって偽物渡しやがったわね」


 「何入れとんじゃぁ!!」


 「大丈夫よ、即効性あるって話だから〝今〟何も無いなら偽物だったのよ」


 「あぁ……ありがとう料理長」


 本当になんとも無さそうなミヤビの様子に、アンナは料理長が偽物を渡したのだろうと推測した。

 まぁそんな上手い話は無いと思ったアンナは即座に切り替え、料理長に対して感謝の祈りを捧げているミヤビをどう押さえ込むか考え始めた……。


 「ミヤビ! 鍛錬で体が疲れてるでしょう? ウチがマッサージしてあげるね」


 「いや! 大丈夫だ、これから大事な用があるんだ」


 「えっ」


 あくまで自然に見えるように取り繕ってアンナはそう提案するが、こちらの目をジッと見つめてそう言ってくるミヤビに内心『キタァー』とガッツポーズしてスッと目を閉じて彼のアクションを待つ事にした。


 ガチャ

 パタン


 「ん?」


 しばらくそうしていたアンナに聞こえてきたのは扉が開いて閉まる音だった。


 「はぁぁぁ、……逃すかぁ!」


 ガチャ!


 「あれ?」


 今日こそはと意気込んでまた朝のように捕まえてやろうと部屋を飛び出したアンナは、近くにミヤビの反応が無い事に気付く。


 獣人で感覚が鋭いアンナはある程度距離が離れても相手の居る場所が分かる、しかもそれが1番好意を向けている相手ならかなり離れても分かるはずなのに、彼女はミヤビの位置をこの一瞬で見失っていた。


 「もう! どこ行ったのよ! 覚えてなさい!」


 バン!


 今度あったらすぐにでも押し倒しそうな気迫でアンナは自室の扉を強く閉めた。







 【千年樹の根】


 メリウスの各地に点在する、樹齢千年を超えると言われる大木の根。

 その根を煮詰めて出てきた成分には、体を活性化させる効果がある。

 だが、使用する際は極少量に留めておかないと最悪の場合、死に(いた)る。

 過去、その効果を不老不死に利用出来ないかと研究した者が大量に体に取り込んだ際、〝1日程度〟遅れて効果が現れ、体中から血を流して死んだという。


 もし、死んでも復活出来る者が居たならばあるいは、その効果を最大限発揮出来るのかも……しれない。

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