17 煽り
前話のあらすじ
なんどもセバスの攻撃を避けてはやられるを時間を忘れて繰り返すミヤビ。
そんな中少しだけセバスの攻撃に対応しつつも追加の攻撃に呆気なくやられてしまう。
限界を感じたミヤビは〝切り札〟として一旦帰る事を提案し、さらに勝負のルールに自分が強くなる為の無茶な要求を追加する。
少しは成長を見せたミヤビにセバスはさらにルールを追加して了承する。
そんな中またもやデイズが現れ、彼の能力なのかミヤビはデイズに〝魅了〟されてしまう。
それを強引にミヤビを殺す事で解決したセバスだったが、その事でセバスが行ったミヤビの《天獄》への適応を知られてしまい、罰としてミヤビとセバスの《生命》が繋がれてしまった……。
「ワガハイの命とミヤビ殿の命……、その2つが1つとして扱われるようになったんですよ」
「えっ……、それってオレじゃなくてセバスがヤバくない?」
オレから見れば遥かに強いセバスがそう簡単に死ぬ事はないと思うから全然危機感が無い、けどセバスからしたらオレと言う爆弾を抱えたようなものなんじゃないか?
「そうですよ、だからペナルティなんでしょうね……、まったく……やってくれますねぇ」
「フッ、むしろこれぐらいで済んで良かったと感謝してほしいものだな」
「えぇ、感謝致しますよ……、ワガハイの《空間収納》にも限度があったのでね、ミヤビ殿の《心臓》の1つ分収納量が戻ったのでそこは感謝しますよ」
「えっ? オレの《心臓》どっか行ったの?」
余りにその会話の内容に驚き過ぎて、思った事が声に出てしまった……。
……ちょっと人の《心臓》軽く扱わないでもらえます?
「《リンク》したということはこの《空間》に組み込まれたんですよ」
「……組み……込まれる? って?」
「フッ、どうやら知能も虫ケラのようだな、……こういう事だよ」
ゴンッ!
「うぐっ!? 痛っっってぇぇ! なんだこの痛み!?」
セバスの言葉の意味によく分からないでいると、それを見ていたデイズが馬鹿にしながら地面を蹴り抜く。
その瞬間、身体の何処か1箇所が痛いとかでは無く、脳に直接《痛み》と言う指令が送られたのか、逃れようの無い痛みが全身に駆け巡る。
「うっ……、それが……この空間に組み込まれると言う事です……、今まではワガハイがミヤビ殿の《心臓》を預かっていた事で、システムの穴を突いて擬似的に《不死》を得ていましたが、この瞬間からはアナタも立派な《天獄》の収監者ですね、……おめでとうございます」
「嬉しくねぇよ! 何がおめでとうだよ!」
「クハハッ、恨むならそこの《星喰い》を恨むんだな! この我を虚仮にしたんだからな」
「……(うるせぇこのドSイケメンが! 完全に冤罪じゃねぇか! いつか仕返ししてやるから覚えてろよ! ぜってぇその顔ボコボコにしてやるからな!)」
口には出さなかったがドヤ顔でそう言うデイズに内心で文句を言いまくった、……口に出すとまたなんかされかねないからね……。
「何か言いたげな目つきだがまぁいいだろう、……で? 《星喰い》よ、何故その虫ケラから女神の波動を感じるか、教えてくれるか?」
「えっ? そんな事も分かんないんですか? えっ? 確かそちら様は《管理者》とか言う無駄に偉そうな肩書きを持ったお偉い方だったとワガハイは記憶しているんですが?」
「セバス!?」
オレが不用意にデイズを刺激しないようにしてたのに、デイズの質問にセバスはこれでもかと煽る言葉の羅列を吐き出す……。
このジジィどんだけデイズって言う存在を嫌ってるんだよ……。
「フッ、フフフッ、ハハハハハ!」
「あら? なんか面白い事ありました? それとも顔に似合わず小心者のアナタの事だから、もしかしてこれぐらいの煽りで怒りの沸点超えちゃいました? だとしたら申し訳ありません……ワガハイ、《この場所》に囚われてからアナタの神経を逆撫でする事しか考えていませんでしたので」
いや、もうホントにやめてください……。
見てよあのデイズの顔! 笑ってる顔の中にどんだけ怒りの青スジ浮き出てんだよ!
あの人? ……人でいいのか分かんないけど、確かにセバスの言う通りあの人煽り耐性無さ過ぎな気もするけど、それ以上やるとホントにヤバい感じがするのでマジでやめてください……。
「確かに! この我が貴様の様な格下に聞くのが間違いだったか! ちょっとした我の優しさのつもりだったのだが、こうも格下から言われてしまえば我もそれ相応の態度で向き合うとしようか」
「おっと、もしかしてやり過ぎましたかね?」
「……もしかしなくてもやり過ぎだろセバス」
「いやはや、つい目の前の存在が居ると煽らないと失礼かな? って」
ブチ切れの雰囲気なデイズを見て、少し焦った様子のセバスに注意するが、全然反省してない感じで返事をされたのでなんとなく、いつもこんなやり取りしてるのかな? と2人の関係性を予測する。
ってかジジィの見た目で舌出しながら〝テヘッ〟みたいな顔しないでほしい……。
「最初からこうすれば良かったのだな……、〝投獄者による《管理者》への《反抗》を確認、通常の対応では業務の進行が不可能と判断し、管理者権限による対応へ移行、これより《罰則》を含む強制執行を行う、以下の機能を痛みと共に実行する《拘束》《心理スキャン》《看破》《気絶無効》〟《システム起動》」
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐっ! こ……れは……少々……キツい……ですね……」
デイズがまた長ったらしい文言を吐いた瞬間、全身に稲妻が走った様な衝撃に襲われ、痛みで身動きどころでは無くなった。
それに加え、言いたく無い事を無理矢理問いただされた時の何倍も嫌な気持ちが身体の中に広がり、隠していたモノを無理矢理探されるような焦りをこれでもかと凝縮した逃げようの無い焦燥感に襲われた。
「……フム、なるほど……、下級の女神が転生者に加護を与えていたか……、この者の名前は……レブルナか、ん? 何処かで目にしたような……、あぁ、あの《ベルセポネ》の〝欠陥品〟か、……ククク、虫ケラには相応しいではないか! しかもこれはなんというか〝偶然〟か! ハハハッ、これほど面白い事が起こり得るのか!?」
全身を灼かれるような衝撃の中、興奮して声が大きくなったデイズから聞こえてきた言葉の内容が気になるが、何故か手放せない意識の中で身体を貫く痛みにそれどころでは無くなり、ただただこの地獄の様な時間が過ぎ去るのを待つしかなかった……。
「はぁはぁはぁ……」
「……」
しばらくした後、地獄の様な時間からやっと解放されたオレとセバスは、デイズに向き合う気力も無く、地面に座り込んで衝撃と痛みですり減った身体と精神を回復させていた。
この時ばかりは、本当にこの場所で《不死》の状態で良かったと心から思う……。
「おや? さっきまでの威勢はどうした《星喰い》よ」
「ハハ……、いやなに、久々に全身マッサージを受けてすこーしだけ疲労してしまいましてね……、ワガハイ意外かもしれませんがマッサージとか苦手なんでね……」
「……」
アレの後で、まだこれだけの軽口を叩けるセバスは普通にすげぇと思った……。
オレなんかもう、あとちょっと解放されるタイミングが遅かったら廃人になっていたかもしれない。
むしろその方がまだマシだったりもしれないな……、そうしたらこんな経験した事も無いような脱力感に苛まれる事もなかったのに……。
「クハハッ、確かにその見た目では意外だな! どれ、もう一度〝マッサージ〟をしてやってもいいんだがどうする?」
「ご遠慮願いたいですねぇ……、なんせ苦手なもんで」
「フッ、さすがのオマエも我の本気に怖気付く……か」
地面にへたり込みながらそう言うデイズの顔を見ると、若干物足りなさそうな表情をしていた。
なんとなく、この人はやり方こそオレみたいな常人には非常識だが、セバスとのやり取りを楽しんでいるのかな? とその表情を見ながら考える。
どれだけこんなやり取りを繰り返しているかは分からないけど、もしかしたら長い間2人が関わって来た事で、ある種の腐れ縁みたいな感情があるのかもしれない……。
「まぁワガハイだけならもう少しお付き合いしたいんですがね、……今は《生命》を共有した運命共同体が側に居るもので、今回はこれ以上ご遠慮しようかと」
「あぁ……そうだったな、まぁその《リンク》した状態は〝ここ〟では無意味なんだがな、精々オマエの〝遊び場〟では気をつける事だ」
「えぇ、ご忠告……感謝致します、よ!」
ゴッ!
「えっ?」
ようやく少しだけ身体のダルさが抜けて来たところで、衝撃音が聞こえた方に目をやると、セバスが言葉の終わりと共に一瞬でデイズの場所に移動し、顔面に拳を打ち込んでいた。
いや、何してんの!?
「ハハハハ」
「フフフ」
おそらくセバスの本気の一撃を、微動だにせず顔で受け切ったデイズは、そのまま動きもせず目だけをセバスに向けて笑い声を上げ、殴ったまま動かないセバスはその笑いに呼応するかのように静かに笑っていた。
……それ、バトル漫画のライバル的な2人がやるヤツだよね? 間違っても囚人と看守の立場でやるヤツじゃないよね……?
「それでこそ《星喰い》だ、今の我は新たな〝発見〟に胸が踊っているのでな! この無礼は見逃しておいてやろう!」
「その〝発見〟とやらの内容を教えてはくれないんですかね? 楽しそうな事は共有しないと友達出来ませんよ?」
「ハハッ、いずれ分かるのだから我がわざわざ丁寧に教えてやる必要も無い! 後から知った貴様らの反応を見るのもまた楽しみだからな!」
すっげぇ楽しそうに会話している2人なんだけど、一方は顔に拳がめり込んだ状態で、一方はその拳を顔にめり込ませた状態で、にこやかにする会話では無いとは思う……。
一旦離れるとかしようよ……。
「まぁいいでしょう……、それで? まだ何か御用がおありなんでしょうか? 無いようでしたらこちらはアナタと違って暇を持て余していませんので、即座にお帰り頂けると幸いなんですがいかがでしょうか?」
「ホント息する様に煽るよねあのジジィ……」
拳をめり込ませた状態から離れた2人の会話を、少し離れた所で聞いていたオレは、セバスの口から流れるように出る言葉に呆れていた。
ここまで徹底すると逆に気持ちいいわ……。
「言われずとも我も少々確認したい事が出来たのでな、オマエとの〝遊び〟も楽しいが今回はこれで帰るとしよう」
「えぇそうして貰えるとありがたいですねぇ、暇を持て余した偉そうな権力者って側に居るだけでウザいので、出来れば足早にお帰りください」
「ハハハッ!」
ドォン!
「ごふぅ!?」
「ふぅ、では用も済んだ事だし我は戻るとするか」
セバスの煽りに高笑いで返したデイズを見た瞬間、デイズの目の前から一瞬でセバスが消えた。
少しの間の後、かなり離れた所で何かが地面に落ちる音が聞こえた事で、オレには知覚出来ない速度でセバスがデイズに吹っ飛ばされたと分かった。
全然、無礼見逃して無いじゃん……。
ゴゴゴ!
ガチャ!
「あぁ、少しだけ言っておこうか、オマエに加護を与えた女神は、もうオマエと会う事は出来ないだろうな」
「えっ? どういう……」
「ではな、精々その生を楽しみたまえ転生者よ」
どういう事? と聞こうとするオレをスルーして言いたいことだけ言ってデイズは扉の奥へ消えていった……。
「どういう意味だ?」
分からない……、デイズの言葉の意味を考えるが、なんの情報もないオレに分かるはずも無く、心にモヤモヤしたモノを感じながら、セバスが吹っ飛ばされた方向にとりあえず歩いていく。
「おーい、大丈夫かセバスー」
「これが大丈夫に見えるならアナタの目はガラス玉か何かですねぇ」
「うわ! エグいな……」
かなりの距離を吹っ飛んだセバスの付近にやっとの事で辿り着いたオレはそう声をかけて呼びかける。
返事がした方を向くと、全部の手足が曲がってはいけない方向に曲がって、おそらく腹を殴られたのか、腹にでっかい穴が空いた状態の、口から出てはイケナイモノを出したセバスの様な物体がそこに〝あった〟。
「もう少ししたら治りますので少々お待ちを……」
「その状態で丁寧に喋れるのはすげぇわ……」
その話し方が癖付いているのか、オレなら即死だろう状態のセバスは丁寧少し待つように言ってくる。
「さて、では戻りますか」
しばらく時間を置いた後、回復したセバスは軽く動きながら自分の身体の状態を確かめた後そう言ってきた。
「もう大丈夫なのか?」
「久々に本気で殴られましたねぇ、流石にワガハイの煽りに笑いながらも内心ブチ切れだったみたいですね……、いやぁ中々に面白かったですな! ハハハハ!」
笑えないんだが……。
「大丈夫そうなら良かったよ、このままセバスが死んだら勝負どころじゃなくなるからな」
「〝ここ〟ではそんな心配は無用ですが、まぁ素直に心配してくれた事に感謝しましょうか」
どこか、今までとは違い少しだけ優しそうな顔をしたセバスは、そう言って目の前におそらく【メリウス】に通じるゲートを出現させる。
「これを抜けたら帰れるの?」
「えぇ、ですが先に注意を……」
「……何?」
「アナタも晴れてこの《天獄》の一員になった事で、アナタの《核》である《心臓》を失ったわけですが、【メリウス】に移動すると天獄のシステムにより《擬似的な心臓》の役割を持つ臓器が生成されます、これによりこの《天獄》から出ても身体の生命システムが滞りなく循環するのです」
「おぉ! なんか分かんないけどすげぇな! 快く囚人になったつもりは無いんだけどな! とりあえずなんの心配も無く〝向こう〟に行けるって事でオッケー?」
「まぁそうなんですが、一つだけ」
「じゃぁ、おっ先ぃー」
「あっ! ……まぁいいでしょう、〝向こう〟に行けば分かるでしょうから……」
結論から言うと、セバスが出現させたゲートを潜り抜けて【メリウス】に着いた瞬間、心臓があった部分に強烈な激痛が走った……。
オレがその痛みに悶絶していると、後からゲートを抜けてきたセバスにやれやれみたいな顔で溜め息を吐かれたが、オレは痛みでそれどころではなくジタバタしながらセバスが追加でした説明を聞き流していた。
後で分かった事だけど、どうやら《天獄》から〝他の世界〟に移動する際、最初だけその者の《核》を擬似的に生成する為に、今ある身体の細胞組織を使ってかなり強引にコピーを造り出すらしかった……、その際に死ぬほどの激痛を伴うんだと、痛みが引いた頃に教えられた。
聞かずに先に行動したオレも悪いけど、もったいぶった言い方のセバスも悪いと思う……。
うん! いつか強くなったら本気でセバスを殴ろう!
帰って来たオレたちはまず時間を確認すると、まだ【メリウス】内の時間が《天獄》に移動してから6時間程しか経っていない事を知り、城の皆んなが起きて来る前に足早に自室に戻った。
それからは、セバスと決めた約束通り真面目に過ごす事にして、【メリウス】での昨日とかなり変わった態度に周りに驚かれたり、テトに怪しまれないか少しだけヒヤヒヤしながら、決めたルール通りに毎日を過ごしていった……。
そしてあれから……、5年が経った。
やっとちょっとだけ主人公を大きく出来る(〃´o`)




