14 発露
前話のあらすじ
セバスに致命傷を負わされ引きずられて来た場所は、どこか女神レティと出会った場所に似ていた。
痛みでまともに考える事も動く事もできないミヤビにセバスはさらなる苦痛を与える。
しばらく繰り返される暴力に体が慣れて来た頃、その場所に新たな人物が現れる。
デイズと呼ばれたその男はセバスを圧倒するチカラを持っていた。
化け物じみた存在が去った後、矢継ぎ早に質問するミヤビにセバスは自分の左胸を見るように言ってくる。
自分の左胸を見たミヤビはその場所がポッカリ穴が空いてる事に気付く……。
「オレなんで生きてるの?」
自分の身に起きている現実を頭が受け入れようとしない。
「ここがそういう場所だからですね」
「いや、そんな場所おかしいだろ!」
「あまり自分の物差しでばかり考えるのはよろしくないかと」
「……ってかオレの《心臓》は?」
「ありますよ? ……ほらここに」
そう言ってセバスは軽い口調で何も無い空間から、学校の教科書で見たような心臓を手にしてオレに見せてくる。
「か、返せよ!」
「いや、だから聞いてました? この場所は《心臓》があったら死ぬんですって!」
「《それ》が無かったらどのみち死ぬじゃねぇか」
セバスの手にある自分のと思われる心臓を目にした瞬間、反射的に手を伸ばして取り返そうとしてみたけど簡単に避けられてしまう。
「ここでは大丈夫ですから安心しなさい」
「どうやって安心できるんだよこんな胸が空洞になったカラダで! 安心しようにも《安らぐ心》が無いんだぞ!?」
「おー、上手いこと言いますね!」
何が上手い事だ! こっちは大喜利してんじゃねぇんだよ!
「そもそも返したらその瞬間にアナタ死んじゃいますよ?」
「くっ」
セバスの言葉にオレは心臓に伸ばしていた手を引っ込める。
「聞き分けが良くて宜しい、……まぁアナタの体の事は別にどうでもいいんで後で話すとして、まずはワガハイの事を話しましょうか」
「どうでもいいってなんだよ!? 心臓奪われてんだぞこっちは!」
「心臓の1個2個無くたって別に問題無いでしょう」
「問題大有りだよ!」
心底オレの体の事なんてどうでもいいと言う態度でセバスはそう言ってきた。
心臓って1個無くなっただけでヤバいよな?
あまりにもセバスが当然のように言ってくるので、自分の認識がおかしいのかと変な思考になってくる。
「まぁ《凡人》はそうなのでしょうな」
「凡人じゃなくてもそうだろ……」
「だから凡人なんですよ……、ご自分の知識の範囲だけで世界を解った気でいる……、これではこれからお話しする事も理解出来るか怪しいですね」
「凡人凡人うるせぇんだよ!! ぜってぇ理解してやるから話やがれ」
この場所に来てから何回も聞かされるその言葉に、もういい加減我慢の限界が来たオレはそう言ってブチ切れてセバスに話の先を促した。
「ほう、なら話ましょうか……、ワガハイが何者かを……」
「お、おぅ……聞いてやるぜ」
オレの言葉にセバスは急に纏っている雰囲気を真面目なモノに変え、オレの目を真っ直ぐに見ながら口を開いた。
「ワガハイは……」
「……うん」
「実はワガハイは……」
「……おう」
「……自分でもよく分かりませんな!」
「は?」
「いやー、改めて自分が何者か考えたんですが、考えれば考える程、ワガハイって何だろう? ってなりまして……何なんですかね?」
「オレに聞くなよ!」
すげぇ真剣な雰囲気出しといてそんな事を言うセバスにオレは張り詰めていた緊張が無駄になった気がして思わずツッコんでしまった。
「《星喰い》って呼ばれてただろ? アレはなんなんだよ?」
「あぁー……アレですか、なんかムシャクシャしてた時期がありまして、気に入らない星を適当に破壊してたらそう呼ばれるようになったんですよ、それで数えるのも面倒くさくなってきたぐらいで《天界》の奴らがワガハイを捕えようと追ってきましてね、ウザいんで追手を全部殺してたらさっきの看守がやってきて一瞬でやられたんですよねぇ」
「ちょっと待て……、いきなり情報量が多すぎて何からツッコんでいいか分からないから一旦待って」
「ワガハイなんかおかしい事言いました?」
「おかしい事だらけだよ!」
いきなり早口でセバスから出た情報に、言ってる意味は分かるのにその行動の意味が解らない……。
とりあえずオレは1番気になる事をセバスに聞いてる事にした。
「……気に入らない星を破壊する程強いの?」
「強いかどうかは分かりませんが、星ぐらいは軽く壊せますよ? まぁ執事の嗜みみたいなモノですな」
「それは絶対ちげぇよ……」
どこの世界の執事が軽く星破壊出来るんだよ!
「アナタが強くなったらやり方教えましょか? こう……コツがあるんですよ、星の核を一気にゴンって感じでやるとパァンって感じで弾けてクセになりますよ?」
「そんな癖は持ちたくねぇよ……、ってかオレも鍛えたらそれぐらい強くなれんのか?」
「まぁ……アナタ次第ですねぇ」
「ふと思ったんだけど……セバスってハブリシンより強いんじゃね?」
星の破壊方法を軽い感じで話すセバスに若干呆れつつ、それぐらい強くなれるのかと希望を抱いたオレはふと気になった事を聞いてみた。
「どうでしょうな、実際に戦ってみない事にはなんともいえませんな、……まぁワガハイに戦う理由がありませんが」
「セバスがアイツより強かったら倒したらいいじゃん」
「何故です?」
「何故って、みんな困ってんじゃないの? アイツがいなくなったら【メリウス】が平和になるんじゃないの?」
「それってワガハイに関係あります?」
「えっ……、いや、関係あるかとかじゃないんじゃ……」
オレが質問すると、星の破壊方法を話してる時のような楽しそうなセバスの顔が、スッと無表情に変わり、感情の読めない声でそう聞き返された。
セバスの言葉に、何もされていないはずなのに誰かに叱られているような緊張が走る。
「弱者の愚かな思考……ですな、チカラがあるから正しい事に使え、弱いモノを守れ、我々は弱いから守ってもらって当然……、実に愚かしい……」
「な、なんだよ……、強いならやればいいじゃんか」
「ならアナタがやればいいでしょう?」
「さっきの化け物見た後だからハブリシンはそれより弱く見えるけど……、それでもオレからしたらアイツは化け物だろ? 今のオレじゃ勝てないよ……」
「《今》は……ですよね? 強くなればいいだけでしょう、ただそれだけの簡単な事なのに、目の前にいる自分より強い存在にすぐ頼ろうとするような《人間風情》が誰に向かって何を言ってるかご理解してますか?」
オレの言葉にセバスの纏う雰囲気がピリピリとした、空気が質量を持ったかのようなモノに変わっていく……。
「か、簡単に強くなれたらオレだって好きな子守れないようなあんな惨めな思いしてねぇよ! それにオマエが何者かなんて知らねぇよ!」
圧力を持ったセバスの雰囲気に負けまいと、オレは思った事を強く言い返す。
「……はぁ、ホントにアナタは頭も心も弱者ですね」
「さっきからどれだけ馬鹿にすれば気が済むんだよ! オレだってな! アンタみたいに強かったら、もっとチートを貰って強かったら、こんな思いもしてねぇんだよ!」
この場所に来てから散々馬鹿にされてきた怒りが、セバスの言葉でついに我慢出来なくなる。
ただ強くなりたくて、その方法を教えてもらいたかっただけなのに、なんでこんなに言われなきゃならないんだ!
「ハハハ、ワガハイが最初から強かったとお思いですか? チートがあれば? 無理無理、どんな優秀な能力を与えられようが、どんな強いチカラを与えられようが、オマエみたいな底辺を這いずるクソ雑魚ナメクジはどんなに頑張っても強くなんかなれねぇよ」
「うるせぇ! 馬鹿にすんなって言ってんだろ! オレだってチートがなくても強くなれるように努力してたんだよ! でも全然強くなれねぇんだよ!」
こっちに来てからの5年間、どれだけ努力したと思ってんだ!
「ただの小さいガキが、ヨチヨチとおままごとみたいな事して何が努力か! 低能な凡人がその頭で必死に考えたって所詮はその程度だって事なんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい! オマエにオレの何が分かんだよ! 上から馬鹿にして見下して! そんなんで何が楽しいんだよ!」
クソ!
「あぁ楽しいねぇ、低能な凡人が足掻く姿は見てるだけで滑稽で笑えましたよ? 無駄な事してるんなコイツってこの5年間ずっと笑いを堪えるのに必死だったねぇ」
「無駄って分かってるんなら教えろよ!」
クソクソ!
「聞かれてないしねぇ、いやぁでも、森の中での一件はこの5年の無駄の集大成みたいで傑作だったよ、舐め腐った態度からの必死で土下座して謝る姿……クソ雑魚じゃねぇか! ハハハハハ」
クソクソクソ!
「それでちょっと女に元気付けられたから勇気を貰いましたって? そんでワガハイに強くして欲しいって? クソ雑魚の極みじゃねぇか!」
「黙れぇぇぇ!!!」
ピロン!
[感情のオーバーフローを確認……女神レブルスの意向により、これよりチカラの一時的な譲渡を開始します]
田中の加護〔怒〕
女神田中の権能を選出•••、
〔喜〕〔怒〕〔哀〕〔楽〕の4つを検出。
現在の状況から〔怒〕が選択されました
これより一時的に女神田中の〔怒〕が
〔天前 雅〕に譲渡されます。
•••対象の脆弱性により譲渡された権能を制限します。
現在使用可能スキル
〔シェイクブロー《振る打撃》〕
使用しますか?
YES/NO
今まで感じた事の無い、体の奥底から湧き上がる抑えようのない怒りを言葉に乗せて吐き出した瞬間、頭に機械音声のような言葉が流れ出した。
オレは即座に頭の中でYESと答え、そのスキルをセバスに向けて発動した。
「シェイクブロー!」
ブワッ!
「えっ?」
「ふぶっ!」
スキルを発動した瞬間、頭の中に浮かぶ軌跡の通りに右拳を振り抜いた。
その後すぐに目にした光景は、セバスが吹っ飛ぶ姿だった。




