12 想定外
前話のあらすじ
女神田中が《天界》に帰ってから5年、ミヤビは5歳になり城を走り回る。
テトがハブリシンと繋がっていると唯一知っているミヤビは周りにそれを伝えるが、《精霊界》の為に日々働くテトを見てきた周囲は逆にミヤビの事を疎ましく思っていく。
そんな中、森でいつものようにトレーニングしていたミヤビは世話係のアンナと青春タイムを繰り広げる。
そこを邪魔するようにやってきたエルフの子供達にアンナをサンドバッグにされ、一切の抵抗が出来ないまま土下座して謝るミヤビ。
そこに助けに来たテトによって難を逃れるが、去り際に放たれたテトの言葉に強い劣等感を覚えたミヤビ。
「ミヤビ! 何かこの私に言う事はないんですの?」
森に置き去りにされたミヤビが、城に帰ってきたのはあれから数時間後だった。
城の正門からではなく、メイド達使用人が使う裏口から入り、ミヤビの自室として当てがわれた部屋に向かう途中、土でドロドロに汚れた彼は自分の部屋の前で待っていたティバニアにそう声をかけられる。
「……なんもねぇよ」
「何も無くはないですの! テトから聞きましたわよ、アナタとアンナがエルフ達に襲われたって」
「っ!」
「だから1人で出歩くなといつも言っているんですの! 幸いテトがすぐ気付いたから良かったものの、あのまま誰も気付かなければアンナがどうなってたか分かってるんですの?」
テトはアンナを城に連れ帰った際、ミヤビ達に何が起こったかの詳細をティバニアに報告していた。
それを知った彼女はミヤビの自室の前で彼が帰ってくるのを待っていたのだ。
もちろん心配の気持ちが強いのだが、起こった事が事だけに今後の注意も含めて話をしようとしていた。
「じゃぁアンナをオレの世話係から外せよ、アンナもオレと居たらまたあんな目に会うって分かったら側に居たくねぇだろうしな……」
「そう言う事を言ってるんじゃないんですの! 私は《レーちゃん》……じゃなくて女神田中からアナタの事を任されてるんですの、アンナだけじゃなくアナタの事も大事なんですの」
「知らねぇよ! オレが頼んだわけじゃねぇのに勝手に保護者面してんじゃねぇよ!」
「あっ」
ガチャ!
バン!
「待ちなさい! まだ話は終わってないんですの」
ティバニアの言葉を聞いたミヤビは、殴られて顔が腫れまくったアンナの事を思い出し、もう自分に関わらせないように彼女にそう言った。
だがそれを聞いたティバニアは言いたい事はそうではないと女神田中の名前を出して伝えるが、それが逆にミヤビの自尊心に傷を付けてしまい、彼は部屋の扉に素早く近づきティバニアが止める間もなく部屋に閉じこもる。
「オレは話す事なんかねぇよ!」
部屋の中に入り、扉越しにミヤビが彼女にそう言い返す。
だが
「アナタに」
ガッ
ここは現代日本のよくある引きこもりが出て来るドラマでは無く
「話が無くても」
ギギギィ
異世界で、しかも相手は母親ではなく《豪滅》の二つ名を持つこの【メリウス】で上位に位置する強者なわけで
「私があるんですの!」
バキバキバキ!
バーン!
扉など意図も容易く破壊できるヤンデレ女王である……。
引きこもりなんて言葉はこの女王の辞書には存在しない。
「うわぁぁぁ! てめぇ扉破壊してんじゃねぇよ! 自分の城だろココ!?」
「んなもん後でセバスに修理させればいいんですの! さぁ話を続けますの、そこに座りなさい」
木製だが城にある部屋だけあって、かなり質が良い結構な重量があるそれを、扉の枠ごと引き剥がされ、ミヤビは驚きと恐怖で彼女に注意するが、ティバニアは慣れた様子でセバスに修理を押し付け、話を強引に再開しようとする。
「話す事なんか無いって言ってるだろ」
「正座あぁぁ!!」
「はい!」
「人の話を、ましてや今から説教されようとしてるのに何普通に椅子に座ろうとしてるんですの」
彼女に座るのを促され、文句を言いつつも側にあった椅子に座ろうとするミヤビに、いつかの女神田中が言っていたようなセリフをティバニアが叫ぶ。
その叫びを聞いたミヤビは脊髄反射で床に正座する、というのもこの5年の間で彼がティバニアに怒られるのは何も今日が初めてではないのだ。
そんな経験から、ミヤビはこの女王が怒っている時は逆らわないような習性が染み付いていた。
「説教っつっても、どうせまたいつもみたく勉強しろだの1人で出歩くなだの子供に言い聞かせるような話だろ……」
「そうですの」
「オレは子供じゃねぇ! 前世から合わせたらもう20歳なんだよ!」
「……私からしたら見た目も中身も十分子供ですの」
いつものお説教に少し反抗してかミヤビはそうボヤくが、その辺にいるエルフの老人連中でさえ子供扱いしているティバニアにとってミヤビの通算年齢などほぼ赤子に等しかった。
伊達に長い間を生きているわけでは無いのだ。
「……ババァじゃねぇか」
「今何か言いましたですの?」
「い、言ってねぇよ!」
ぼそっと言ったミヤビの一言に目が笑ってない笑顔で聞き返すティバニアに彼は焦って誤魔化す。
どの世界でも女性に年齢の事を言うのはタブーらしい……。
「まぁいいですの、……テトから大体の事のあらましは聞きましたが、何があったかアナタから聞きたいんですの」
「アイツから聞いてんならそれでいいじゃねぇか」
「良くないから聞いてるんですの、ほら、早く話すんですの」
「……、アイツらから突っかかってきたからムカついて言い返しただけだよ」
ティバニアはテトからほとんどを聞いて知っていたが、何か行き違いがあってはいけないとミヤビからも話を聞く。
そしてミヤビは話し辛そうに起こった出来事をティバニアに伝えた。
「なるほどですの……、まぁほとんどあの子達が悪いですわね(後であちら側にも説教ですの)」
「だろ? いっつもオレを目の敵にしてウザいんだよアイツら」
「でーすーが! アナタにも非はあるんですの!」
「はぁ? アイツらが何もしてこなきゃオレも何もしねぇっつの」
「そう言う事じゃないっつってんだろこのボケが! 中身20歳ならもっと頭使えですの」
ミヤビから聞いたティバニアは、テトから聞いた話とほとんど同じ内容に、エルフ地区の代表を後でシバきに行く事を心の中で決定し、ほぼエルフの子供達が悪いと言い、それを聞いたミヤビは少し上から目線で返すが、彼女はミヤビに普段はあまり人前では使わない言葉で叱る。
「お嬢様、言葉使いはお気をつけてもらいませんと……」
「あら、いけないですの、ついつい出ちゃいましたの、……ってセバスいつからいたんですの?」
「あれほど大きな音を立てられては気にならない方が変かと……、というかまたですか?」
口調が強くなったティバニアの後ろから、音も無くセバスが現れ、壊れた扉に視線を向け彼女に注意する。
「ミヤビがいけないんですの、私を部屋に入れようとしないから」
「だからって壊すなよ怪力ババァが……」
「ミヤビ、私今耳が少し遠くなったんですけど、何か言いましたですの?」
「ついに老化が始まったんじゃねぇの?」
セバスに言い訳をするティバニアにミヤビはわざと聞こえるように悪態をつくが、それを聞いた彼女は額に青筋を浮かべながら聞き返す、だが、ミヤビはさらに煽る一言を放り込む。
「よーし、その喧嘩買いますの! 今日こそは干からびるほど泣かしてあげますの」
「ハッ、やれるもんならやってみろっての!」
「ほんとに生意気ですわね! もう少し周りの言う事を聞いたらどうなんですの!」
「オレの話信じねぇ奴らの言う事なんかどうやって信じられんだよ!?」
「っ! ミヤビそれはね? きちんと話し……」
「うぉ! なんッすかコレ? 扉バッキバキじゃないッスか」
ミヤビの煽りにぶち切れるティバニアは彼に鉄拳制裁を加えようとするが、彼が放つ一言に急に困った表情になった。
ティバニアはミヤビに何かを言おうとしたが、そこに別の人物が現れた。
「お嬢様が説教をする時の副産物ですな」
「説教するたび扉破壊してるとかエグすぎッスよ……」
「別に毎回じゃないんですの、それで? テトは何しに来たんですの?」
「何しに来たも、あんなスゲェ音したら見に来るッスよ、一応俺様も女王にお世話になってるんだし」
「それは殊勝な心掛けですの、ですけどただのお説教だから気にしないでいいんですの」
テトの驚きにセバスが簡単に説明するが、テトはそれを聞いて若干引き気味に返す、その言葉にティバニアは軽く流し、彼に要件を尋ねるもテトの野次馬的な返答に少し冷たく返す。
「相変わらず冷たいッスねぇ女王さんは、まぁイイッスけど……、あ、そういえばアンナちゃん気がついたみたいッスよ」
バッ!
「あっ、待ちなさいミヤビ!」
「待たねぇ!」
テトの言葉を聞いた瞬間、ミヤビはティバニアの静止を振り切りアンナのいる部屋に走っていく。
一瞬、壊れた扉の前に居たテトに止められるかと思ったが、彼はミヤビに視線すら向けていなかった。
その態度にミヤビは森の中での悔しさを思い出すが、それよりもアンナの部屋へ急ぐ事を優先した。
「はぁ、ったく……、相変わらずタイミングがよろしいんですのね」
「なんの事ッスか?」
「ふんっ、まぁ役に立ってる間は私も特に何も言いませんの」
「それはどうも、お役に立ててるようで安心ッスね」
「ふふふ」
「ハハハ」
ミヤビが走り去った部屋で、ティバニアとテトは一見普通の上辺だけの会話を交わし、お互い笑い合う。
「楽しそうでなによりですが、お二人共片付けの邪魔ですのでそろそろ自室に戻られてはと……、もう夜も遅いですから」
「そうしますの、後は頼みましたよセバス」
「俺様も戻るッスかねぇ」
「えぇ、そうなさるとよろしいでしょう」
顔が笑っていないのに笑い声だけ聞こえる特殊な状況に、セバスは両者に自室に戻るよう促す。
メイド達を呼んで片付けをするにも、こんな2人が側に居ては彼女達が怖がって仕事を出来ないと考えた上での提案だった。
セバスの言葉に、2人は別々の方向に向かって歩いて行く。
「コレ今日ワテクシ徹夜かもしれませんねぇ……」
ティバニアとテトが去り、1人だけ残った部屋でセバスの言葉が少しだけ響いた……。
急いでアンナの部屋の前まで来たものの、入るかどうか迷っているミヤビ。
ガチャ
「うわ!」
しばらく悩んだ後、意を決してノックをしようとした瞬間、部屋の内側から扉が開かれ、ノックの勢いのまま扉に前のめりになるミヤビ。
「キャッ! ……どうしたのミヤビ?」
「えっ? あっ、いや、……大丈夫か?」
「うん……、ミヤビこそ大丈夫? 怪我とかしてない?」
「オレは、鍛えてるから大丈夫」
扉を開けたアンナとぶつかりそうになり、なんとか踏ん張る彼に彼女は聞くが、ミヤビは急に現れたアンナに頭が真っ白になり、最初に謝罪しようとしてた事を忘れ、心配の声をかける。
その返答にアンナは逆に心配そうにミヤビに聞くが、彼はおどけながら明るく振る舞う。
「そっか、筋トレ効果あったんだね」
「おぅ! 続ける事が大事だからな」
「うん……」
「あ、その……さ、なんだ」
「うん?」
「いや、その……」
「どしたの?」
アンナの笑う顔を見て少しホッとしたミヤビは言い辛そうに視線をキョロキョロさせながら言い淀む。
「……ごめん!! アンナが止めてくれてたのにオレがアイツらに変に絡まなきゃこんな事にならなかった……だから……ごめん!」
「……うん」
「……」
再び意を決して彼女の目を見ながらミヤビは森での事を謝罪する。
あれだけの事があったのだ、どれだけ罵倒されようとも受け入れるつもりだったミヤビは、俯きながら一言だけ発したアンナの返事に次の言葉が出ず沈黙してしまう。
「……」
「……」
しばらくお互い沈黙が続いたあと、アンナがポツポツと口を開き始める。
「……怖かった」
「ごめん」
「ううん……違う……、殴られるのもだけど、それ以上に……ミヤビがまたウチのせいで傷付いていくのが怖かった……」
「何言ってんだよ、オレなんかよりアンナの方がよっぽど傷付いてんだろ」
アンナの言葉にミヤビは謝るが、彼女はあれだけ殴られて傷付いても尚、ミヤビの心配をする。
それを聞いたミヤビは、森での赤く腫れ上がった彼女の顔を思い出し否定する。
「……なんて……わないで」
「え?」
小声で掠れたアンナの言葉が聞きとれずミヤビは聞き返す。
「オレなんかなんて言わないで! ミヤビはいっつもそう! 人と獣のハーフでみんなから良く思われてないウチを庇って、わざと悪ぶって周りの目を自分に向けて、なんでなんでも1人で背負うの?」
目から大粒の涙をポロポロと流し、その小さな拳を握りしめながら、彼女はミヤビに怒る。
ミヤビの世話係を任された彼女も、周りから良く思われてはいなかった。
それは、本来交わる事が無いはずの、アンナの父である獣と母である人が愛し合った結果出来た彼女を、忌み嫌う者達からの遠慮の無い言動を思い返してのものだった。
「……べ、別にアンナの為とかじゃねぇよ、オレはオレの話を全然信じねぇ奴らが気に入らねぇだけなんだよ」
アンナの言葉の勢いに、ミヤビはたじろぎながら彼女にそう返す。
「そんなの分かってるよ! でもウチの事も庇ってるじゃん」
「け、結果的にそうなってるだけだし」
涙目でそう言い返すアンナの顔を見て、顔を赤くしながら視線を外しミヤビは言葉を返す。
「なんでこっち見ないの? 嘘ついたらダメなんだよ?」
「う、嘘じゃねぇし」
「じゃぁこっち見て言って」
「うっ……、っだぁー! そうだよ! そんな事も考えてたよ!」
「ふふん、素直でよろしい」
自分の嘘を見破り責めるアンナの言葉に、ミヤビは否定して視線を合わせるが、ドストライクな彼女の顔を至近距離で見た瞬間、耐えられず白状する。
するとアンナは、先程までの泣き顔をパッと満面の笑みに変え、少しだけドヤ顔でそう言った。
「お、オマエ、嘘泣きかよ! 嘘ついてんのはどっちだよ!」
「へへーんだ、騙される方が悪いんだもんね」
ミヤビの追求に、彼女はイタズラっ子みたいに舌を出し、そう彼に言い返す。
「ったく、……ありがとな」
「うん……、あんな事ぐらいで、落ち込んでちゃミヤビらしくないよ」
そんな笑顔の彼女に、ミヤビは礼を言う。
ミヤビも分かっているのだ、アンナが無理に強がって必要以上に自分を責めないようにと明るく振る舞ってくれている事は……。
その証拠に、彼女の先程から握りしめた小さな拳はずっと震えていた。
「まだ夜だしアンナも疲れてるだろうからさ、オレ部屋に戻るわ」
「うん、ミヤビまた」
「おっ、ちみっ子同士がちちくりあってる現場発見ッス」
まだ精神的にも疲労しているであろうアンナを気遣い、ミヤビはその場を去ろうとするが、そこにテトがからかい混じりの言葉を吐きながら近付いてくる。
「チッ、何しに来てんだよ」
ミヤビは先程までにアンナに見せていた柔らかい目を鋭い眼光に変え、そう言いながらテトを睨みつける。
「何しに来たもなにも、俺様が治した女の子を心配して来たんスよ、なんか変ッスか?」
「あぁそうかよ」
「ミヤビ! ダメだよ?」
テトの軽い感じの言葉に、ミヤビは不機嫌を隠しもしない態度でそう返すが、それを見たアンナはミヤビを叱るような口調で注意する。
「なんだよ、コイツにはこれでいいんだよ」
「ダメ!」
「うっ」
「テトさん、今日は助けていただきありがとうございました、おかげ様で明日からも人前に立てる可愛い顔になってます」
言い返したミヤビに再度アンナは注意し、テトの前でお辞儀をしながら明るく感謝を伝える。
「ほら! ミヤビも」
「は? なんでオレが!」
「ありがとうも言えない男ってカッコ悪いよ?」
そう言って促すアンナに抵抗するが、彼女の真顔で言うその一言にミヤビは渋々従う。
「その……助かった、アンナの事もありがとう」
「さすがウチが見込んだミヤビ」
「ハハッ、オマエめっちゃ尻に敷かれてんじゃねぇか、流石にウケるわ」
「くっ」
敵だと認識しているものの、助けられた事実に対してミヤビは言い辛そうに感謝の言葉を伝える。
それに対しアンナは満足そうにし、テトに至っては腹を抱えて笑い出す。
「でも!」
「ハハハッ、……え?」
「ミヤビをいじめたらウチが怒ります」
「おーこれは怖い、別に俺様はいじめてなんかないッスよ……、勝手にコイツが自滅してるだけッス」
ツボに入ったのか、笑いが止まらないテトに向かい、キッとした瞳でそう言うアンナにテトは笑いを止め、わざと怖そうなフリをしてそう言い返す。
「それはそう、……だけどダメなものはダメですからね!?」
「アンナ……」
「はいはい分っかりましたよ、アンナちゃんももう大丈夫そうだし、お邪魔虫はお先に退散させてもらうッス」
テトの言葉の一部に同意するアンナにショックを受けるミヤビをスルーして、テトは2人の前から去っていく。
「何落ち込んでるのミヤビ?」
「……いや、なんでも無い」
「それより!」
「負けちゃダメだよ? 自分にも、あの人にも」
「……分かってるよ」
「ウチも側にいるんだから、一緒に頑張ろ?」
自分の発した言葉に少し落ち込むミヤビに、彼女は気合いを入れる、身体は治っていても未だ精神的なダメージを残す自分を奮い立たせ、自分と同じく周りから嫌われている彼を励ますように。
「おぅ」
その言葉は小さく、だが先程までとは違い、何かを決意した瞳でミヤビはアンナに一言だけ返し、彼女の部屋から離れた。
「セバスのじいちゃん!」
「おや? ミヤビ殿、申し訳ありませんがまだ部屋が片付いておりませんので今日の所はワテクシの部屋でお休みになられるといいでしょう」
自室へと走って戻ったミヤビは、部屋でメイド達と片付けをしているセバスを見つけ呼びかける。
そんなミヤビにセバスは未だ片付かない部屋を見ながら、彼の今日の寝床を提案する。
「そんなのどうだっていいよ、別にその辺の床でもいいし、ってか片付け手伝うよ」
「ほっほ、先程とは顔付きが変わりましたなぁ、何か心境の変化でもありましたかな?」
「……うん、このままじゃダメだって分かった」
「ほう、何か決意した目をしていますねぇ、……は! まさかあの短時間でアンナに手を!?」
「「「っ!?」」」
「ちげぇよ! 違うからな!?」
そんなセバスの言葉を遮るように、ミヤビは少し興奮しながら、いつもは距離を置いているメイド達にも気遣い、片付けを手伝う。
そのミヤビを見て、何かあったと察したセバスは彼にあらぬ誤解を投げかけ、それを聞いたメイド達はドン引き、ミヤビはそれを必死で否定する。
「ほっほ、なんとまだ手を出していませんか、案外奥手ですなぁミヤビ殿は」
「5歳に何を期待してんだこのエロジジイは……」
「ただの執事ジョークですよ、それで? 何かワテクシに用がある雰囲気ですが何かあるのですかな?」
「どうやったらアンタみたいに強くなれる?」
「ほっほ、こんなただの老いぼれに聞くのは見当違いでは?」
さらに揶揄うセバスの言葉に呆れた目を向けるミヤビに、セバスはここに来た要件を尋ねるが、返ってきた言葉に笑いながら受け流す。
「ただの老いぼれが女王の護衛なんかするかよ、この城のメンツを見る限りテトに勝てそうなのって女王かアンタぐらいしか居ないだろ」
ミヤビはこの5年で見てきた事を思い出し、先程自分が決意した想いを叶えるのに相応しい相手の名前を出す。
そう、ミヤビは森での事や、アンナに言われた言葉で、ずっと迷っていた心に一筋の道を決意した。
〈誰も信じないなら、力づくでもテトの事を周りに分からせる〉
そう決意したミヤビは、強いのは分かっているがいつも説教ばかりのティバニアではなく、その女王の護衛であるセバスに声をかけたのだ。
「ほう、テトに勝ちたいのですかな?」
「最終的には勝つ、でもその前に強くなってアイツの今の仕事を奪ってやるんだ、そうすればオレの周りからの信用も上がるだろ?」
「はぁ……、そう上手く行くのですかな?」
セバスの問いにミヤビは自分の考えを話すが、その内容にセバスは、思っていた返答ではない言葉に少し落胆の色をみせ、溜め息混じりの空返事をし、疑問を投げかける。
「なんでもやってみなきゃ分かんねぇだろ? なぁ? どうやったら強くなれんだ?」
「そうですなぁ……」
「教えてくれ!」
自分の心の中で決意した内容に興奮し冷静な状態でないミヤビに、セバスは少し言い淀む。
「では一回死んでみましょうか」
ザシュ!
「えっ? ……ごぷっ」
少し考え込んだセバスはそう言いながら、ミヤビの左胸に手刀を差し込んだ。
その言葉の意味と自分の体に突き刺さったセバスの手の意味が理解出来ないミヤビは、体内から漏れ出た血を吐き出す。
「ほっほ、ミヤビ殿の熱意に久しぶりにワテクシも熱く沸るモノが湧いてきました」
ガシッ!
「っ?」
「では少し移動しましょうか、貴方達、後は任せましたよ」
「「「かしこまりました」」」
突き刺した手をゆっくり引き抜いたセバスは、普段温厚な顔が今まで見た事もない凶悪な顔になり、興奮した様子で話しだす。
そのセバスを飛びそうな意識の状態で見たミヤビは未だ起こった事に理解が追いつかず混乱する。
セバスの言葉も、女神に護りの力を授かっているはずの自分に何故傷が付くのかも分からぬまま、初めて知覚する激痛に意識を手放しかける。
そんなミヤビの襟首を掴み、メイド達に後を任せたセバスは、ミヤビを引きづりながら城の正門に向かって歩いて行く。
「ガハッ」
「大丈夫ですよ、ちゃんとこの後に死にますから」
服の襟を掴まれ、絞まる首元に胸の痛みを堪えなんとか両手で気道を確保しながらミヤビは、全身を使いその場に留まろうとするが、セバスの有無を言わさない強すぎる力になすすべもなく引きづられていく。
この後、ミヤビはセバスに頼った事を心底後悔する……。




