第9話 巨大飛行船ワルフィス
ヘラルトとダミアンの後から、国家維持局の実行部隊が追い付いてきた。しかしその数は悲惨なもので、とてもではないが2つ目の防御陣地を突破することは不可能であった。
「……どうにもおかしいな」
「なんだ? ボソッとぬかしてんじゃねえ賞金稼ぎ! 一体なにがあった? 糞でも漏らしたか?」
ヘラルトは一旦塹壕の壁に背中を預け周囲を見渡してみた。周囲は続けて上げられる照明弾のお陰で昼間のように明るかったが、見える光景には違和感があった。
「どうして戦車が出てこない? ルベルは戦車を千両以上保有しているはずだ」
ここにきてヘラルトは戦車が一切出てきていないことに違和感を覚えていた。アントンの店で見た写真にも確かに戦車が写っていた筈なのに。
「なんだ? 賞金稼ぎ殿は戦車を相手にしたいのか? なにかしらぶっ壊さねぇと金にならねぇからか? いいからとっとと殺しまくれ!」
「……そうだな考えるのは後だ。塹壕戦はもう飽きた、早く出るぞ」
短機関銃を撃つダミアンにキレられながら、ヘラルトも武器を手に周囲の敵を掃討していく。
ジグザグと蛇行する塹壕の中、曲がり角から急に現れる敵に対して、短機関銃と銃剣は良く働いた。
「キィエアアアアアアアアアッ!!」
「やかましいぞ」
銃剣を腰だめに構えて突っ込んっでくる敵に対しヘラルトの小銃が火を噴いた。
うめき声を上げて倒れる敵。どうやら彼で最後のようだった。
「後続が増えてきた! 賞金稼ぎ、早く先に行くぞ!」
「慌てるな」
「お前が出たいって言ったんだろうが!」
後続が追い付き、砲兵たちもようやく仕事をし始めた。防御陣地に砲撃を加え、制圧することが出来るようになったのだ。ヘラルト達は次の目標、2つ目の防御陣地と対空砲を落としにかかる。
『おいヘラルト。今の状況を伝えるぞ。第一陣が壊滅したことを受けて実行部隊は全兵力を投入した。それから2つ目の陣地だが……なぜかわからんがスカスカだ。戦車も居ない』
「やっぱりか」
ヘッドホンからアントンの声が聞こえてきた。そしてヘラルトの懸念通り、戦車は無い。
『ここから先は楽ができるかも……いやまて! 上だヘラルト!』
目の前の敵に銃弾を叩き込んで黙らせた後、ヘラルトは上を、夜空に目を向けた。そしてそこで見えてきたものを見て、ヘラルトはその青い瞳を見開いた。
「こいつは──」
呆気にとられるヘラルト、つられて空を見上げたダミアンがその名を叫んだ。
「飛行船……ワルフィスだと!?」
月を覆い隠し戦場と化した平原にゆっくりと空を飛び向かってくるのは全長600mに迫る巨大な飛行船。下部に30cm砲1門、合計4tの爆弾を搭載可能な武装飛行船、空の怪物、ムステルが誇る巨大兵器のうちの一つである。
『ヘラルト、更にまずい状況になったぞ! 後方から奇襲、レウ型戦車が……10……いや20以上! 歩兵を乗せてきやがった!』
「ダミアン。後ろからも敵が来ているみたいだ。それも戦車が大量に」
「マジかよ。後ろは腰抜けの豚野郎ばっかりだぞ。いよいよ死に時か。それか白旗でもつくるか?」
「白旗は相手に上げさせるもので俺たちが上げるものじゃない」
冗談めかして言うダミアンの声をかき消すように、雷のような凄まじい大音量の砲声が響き渡った。眼前に見える巨砲、モーレンによるものと、空に浮かぶ飛行船、ワルフィスによる30cm砲の砲撃音である。
放たれた砲弾は進軍する国家維持局の実行部隊第3陣から4陣までもが甚大な被害を被った。
もはや反撃する能力を失いつつある国家維持局に向かって、ワルフィスは悠々と飛び、維持局の砲弾が当てられる距離まで近づいた。反撃できる能力は無かったが。
そして……
『この地を侵略する全ての兵士に告げる。私はルベル首領、エーリク・マイヤーである。直ちに武装解除し、降伏せよ。我々は一度裏切った者であろうとも受け入れる用意がある。諸君らは未来のムステルに必要な勇士、無駄死にはするな。降伏しない場合は容赦しない。以上だ』




