第8話 腕利き二人
横転したトラックを捨て、ヘラルトは防御陣地へと一人走っていく。
「おい賞金稼ぎ! 仲間を助けようとは思わないのかよ!?」
「この腐れ外道!!」
横転したトラックの中に閉じ込められた仲間がいた。荷台に体が挟まって動けなくなった味方がいた。
しかしヘラルトは助けない。そんなことをしている間に撃たれるからだ。
『ヘラルト。砲兵がもたついてる。そこから先の支援はかなり遅くなるぞ』
「少しはいい報告を聞かせてくれアントン。泣きたくなるだろ?」
ヘッドホンに向かって言い返すがアントンにどうこうできるはずもない。
ヘラルトは小銃のボルトを引いて弾を込め、砲撃で抉られた地面に飛び込む。そこから狙撃して、機関銃を黙らせるのだ。
「助けてくれ! ひぃぃっ! ギャッ」
「ああクソ! 神様!」
チラと後ろを見ればそこには敵の機関銃に撃たれて倒れる仲間や砲撃を受けて破壊されたトラックや馬車が見える。
血を含んだ土が赤く染まり、夜風吹く平原はあっという間に地獄へと変貌した。
暗い夜空にはいくつもの照明弾が打ち上げられ、月よりも明るい光を放つ。お陰でヘラルトも狙いをつけやすくなったが、それは敵も同じだ。
「腕がいいな。流石は戦地帰りのマフィア共だ」
伏せたまま少しだけ顔を上げ、機関銃を撃ってくるルベルの兵士に攻撃を加えていく。
1発ごとに敵兵を撃ち殺しているが、次から次へと交代し、獣の咆哮にも似た銃声を消すことは出来なかった。
「よう! テメェが例の賞金稼ぎか!? 手を貸せ!」
「ああいいぞ。後ろはどうなってる? ピクニック中か?」
1人で射撃していたときだった。ヘラルトのいるクレーターに、1人の男が入ってきた。
泥まみれの金髪を払いながら青い瞳で敵のいる方角を睨んでいる他の兵士と違って彼は特に動じていないようだ。淡々と、それでいて敵の砲声にも負けないくらいの声でヘラルトに伝えてくれる。
「俺たちと一緒に突っ込んだ連中はほとんどくたばった! 第1陣は壊滅だ! 追加で援軍はあるがそれだってここを突破できるかはわからん!」
「お前のとこの仲間は?」
「んなもんとっくに吹っ飛んだ! 多分まともに指揮能力がある小隊はない! 砲兵ももたついてるからこのまんまじゃ俺達もそうなるだろうな! どうにかしやがれ!」
小銃を撃ちながら、男はそう答えた。おおよそ予測はしていたが、最悪なのは間違いない。
ヘラルトは決断しなければならない、進むか、退くか。
「急がんといかんな。お前名前は?」
「ダミアンだ! 賞金稼ぎさんよ!」
ヘラルトから見てこの男はそれなりに腕はいい。弾はしっかりと敵に当てられている。おまけに度胸もある。
「よし、ならダミアン。俺と一緒に来い。目の前の防御陣地を突破して、後ろが来れるようにしてやるぞ」
「ああ、ケツを舐めるつもりで付いていくよ賞金稼ぎ!」
泥まみれになりながらヘラルトとダミアンは互いの死角を補いながら突撃していく。
唸る機関銃に、撃とうとしてくる敵に銃弾を浴びせ、クレーターから抜け出して走る。
「ダミアン。手榴弾はあるか?」
「たぁんとあるぜ!」
銃弾の嵐を掻い潜り、ヘラルトとダミアンは敵に手榴弾が届く程の位置までたどり着いた。
そこは無数の鉄条網が張られていて、来るものを拒んでいる。ヘラルトとダミアンはそこにできたわずかなへこみに飛び込み、手榴弾から安全ピンを抜き一気に投げ込んだ。
「ムステルの花火大会だ! 笑えよ可愛子ちゃん!」
「黙って投げろ」
投げて一呼吸ほど間を置くと炸裂する音が響き渡る。
「よし、行くぞ」
「行くっつってもこの鉄条網どうするんだよ。小便かけて腐るのを待つか?」
ダミアンが苦言を呈すると、ヘラルトはおもむろに目の前の有刺鉄線を掴み……
「これでいいだろ? 行くぞ」
ヘラルトはこともなげに有刺鉄線を引きちぎった。
「やるじゃねぇか。見かけだけじゃねぇんだな」
ゆっくりと匍匐前進しながら有刺鉄線を引きちぎり投げ捨てる、その後ヘラルトとダミアンは再び突撃を開始した。
目指すのは防御陣地の手前に掘られた塹壕だ。銃弾と砲弾が飛んでくる中、たった2人だけでの突撃。
通常なら無謀にも程があるだろう。
「おはようさん! クソマフィア共!」
「黙って撃てダミアン」
敵の塹壕内に飛び込んだ2人は機関銃を撃つ敵に小銃をお見舞いする。
いきなり現れた2人の侵入者に、敵は少しだけ驚いていたが、すぐさま銃を向け反撃をしてきた。
味方もなんとか追いすがってはきていた。しかし未だ鉄条網を突破できずにいる。しばらくは2人で戦うしかなかった。
「いいもん持ってるじゃねぇか。今からそいつは俺のもんだ! 寄越せこのウスノロ!」
ダミアンはそう言いながら曲がり角に隠れていた敵に銃剣を突き刺し、持っていた短機関銃を奪い取る。
「ここがテメェらの眠るクソ溜めだ! とっととくたばりやがれ! いい夢見ろよ!」
「なにもそんなに口汚く罵らなくてもいいだろ」
互いに背中合わせになりながら、ヘラルトとダミアンは塹壕内の敵を掃討していった。




