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ヘラルト  作者: 田上 祐司
第1章 巨大砲を破壊せよ

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第7話 一掃

 国家維持局の砲兵は突撃する歩兵の為に準備砲撃を開始した。


 70mm野砲20門に加え、140mm榴弾砲3門が砲撃を加える。堡塁を破壊し、塹壕を吹き飛ばすそれはただのマフィア相手ならなす術もなく一掃されるだろう。


 ただのマフィアならば。


『ヘラルト。確認してるが……ルベル側はさして損害が無さそうだ。下手くそ共が』


 ヘッドホンからはアントンが忌々しそうに舌打ちをしながらそう言ってくる。


 ルベルは戦場帰りの元兵士が大量にいるマフィア、対して維持局は新設されたばかりで素人、もしくは軍学校を卒業したばかりの若い者ばかりだった。


 そんな彼等が狙いをつけ攻撃したのは木や板で作った偽物の野戦砲だ。


 いや、それらに当てられただけまだましと言える。そもそも届いていない、あるいは飛び越えてしまった砲弾すらある。


『いくつかそれらしいものも破壊はしてるが...…ありゃ駄目だ。反撃で全部……ああ言わんこっちゃない』


 アントンの言葉の後、前方にいる砲兵達の所から凄まじい轟音が響き渡った。


 弾薬庫がまとめて吹き飛んだのかと思うほどの大きな大きな爆発音……


 モーレンの76cm砲による攻撃である。


「モーレンが狙いを完了したか。いよいよこれはまずいな」


 暗闇の中、僅かに雲間から顔を見せる月を頼りに目を凝らすと、砲兵が居た場所は巨大な穴が形成されていた。


 穴の周囲には吹き飛ばされた野戦砲の残骸が転がり、兵士の死体がトマトソースをぶちまけたようになっている。そもそもそれすら残らないものも多かった。


「そ、総員突撃!! 突撃ィッ!!」


 野戦砲部隊を失った指揮官は突撃を指示した。


 合図の笛と共に、ヘラルト達は軍用トラックに乗り込み、ルベルの防御陣地に向かって一挙に駆け抜ける。


 不十分な支援と、敵からの砲撃に怯える仲間達に囲まれながらの突撃。ルベルの防御陣地を含めこの平原は高低差などほぼ存在しない、まさに砲兵の楽園である。


 同じ条件である以上、数が物を言う。つまり現在有利なのは敵であるルベル側だった。


「ひぃ!? 隣のトラックが吹っ飛んだぞ!?」


「クレーターを回避しろ! 動けなくなったら終わりだぞ!」


 ヘラルトと同じトラックに乗った兵士達は口々に騒ぎ立てる。神様に祈るものもいた。


 突撃の最中、ルベル側からの砲声が鳴りやむことはない。通常の野戦砲はもちろん、後方に存在する巨大な要塞砲、モーレンからも砲弾が飛んでくる。


 維持局の実行部隊は前に進むことさえ困難だった。


「……馬車が多いな」


 ヘラルトは開放的なトラックの荷台にいた。揺られながら呑気に煙草を吸い呟いた。が、周りの兵士は激昂する。


「こんなときに煙草なんざ吸ってんじゃねぇよ!! 死ぬかもしれないんだぞ!?」


「少しは状況を考えろ! 敵が出てきたらどうすんだ!」


 煙を吐き出しながら、ヘラルトは答える。


「銃弾も砲弾も、当たるときは当たる。当たったらその時は思い切り泣き叫べ。味方が慈悲の一撃をくれる」


「貴様!!」


 慈悲の一撃とは介錯のことである。


「そもそも今さら喚いたところで手遅れだ。俺達は敵を殺して前に進むしかないんだよ」


「……お前、一体なんでそんなに落ち着いている?」


「俺はあの大戦の生き残りだ。説明はそれで充分だろ?」


 ヘラルトが煙草を投げ捨てると肩にかけていたヘッドホンから声が聞こえ始めた。


『ヘラルト、お前は既に敵の機関銃の射程圏内にいる。死ぬなよ』


「嬉しくない報告だな」


 そうヘラルトが呟いた瞬間、ヘラルトの乗るトラックの近くに砲弾が飛んできた。運転手はクレーターを回避しようとしたのだろう。ハンドルを急に動かしたせいでトラックが横転した。


「歓迎してくれるのは嬉しいが、火薬じゃなくて酒でも持ってきてもらいたいもんだ」


 

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