第66話 ワルフィス撃墜
ワルフィスの上に出たヘラルトだったが、脱出の手だてはない。
「いよいよ終わりか。最後に一服するか」
徐々に降下していくワルフィス。眼下には上陸を果たした軍が本部を強襲、制圧していく光景が見える。戦艦エムレも撃沈、空を舞っていた無数の戦闘機は徐々に数を減らしていく。
勝利は目前だった。
ヘラルトはそんな光景を見ながら煙草に火をつける。口から紫煙を吐きながらその場に座り込む。
そうこうしているとアントンから通信が入った。
『ヘラルト聞こえるか? 地上の対空砲が大人しくなった。今迎えに行ってるところだ。縄ばしごを降ろしてやるから、掴まれ』
やっと座ったところだったが、ヘラルトは再び腰を上げる。周囲を見渡すと下から上がってくる輸送挺の姿がある。
「ちょうど迎えの馬車が欲しかったところだ。今日は祝いだ。エフェリーネと一緒に好き放題飲もう」
『無駄口叩いてないで梯子に掴まれ。おいてけぼりになりたくなかったらな』
輸送挺がワルフィスの上を飛ぶ、梯子も降ろされた。
「じゃあなワルフィス。長い間よく勤めを果たした、ゆっくり休め」
ヘラルトは落ちていくワルフィスに敬礼すると輸送挺に向かって走った。
そして垂らされた縄ばしごに飛び移る。
『言い忘れてたが収容はできない。しっかり掴まってろよ?』
「構わん。今日は外の景色を見たい気分だったんだ」
梯子に掴まったまま、新しい煙草に火をつけようとしたが風で付かない。
仕方なくそのまま服の中に煙草を仕舞った。
輸送挺はワルフィスの近くを降下していく。このまま海面スレスレまで降りたらあとは飛び下りればいい。たまには水浴びだって悪くない。
そう思っていた、その時だ。
「なんだ?」
落ちていくワルフィスの上から何かが縄ばしごへと飛び移ってきたのである。
その正体を知ったとき、ヘラルトの青い瞳は驚愕した。
「エーリク!?」
『なんだと!? まだ生きてやがったのか!』
ヘラルトのすぐ下に、赤黒い血で汚れた白い髪が見える。眼帯で片目を覆い、顔に血が付着しまるで地獄の悪鬼のような出で立ちをしている。
「まだだ、おれがいるかぎりおわらん……ふくしゅうしてやる。くにも、ぐんも、てきはぜんぶころしてやる」
「しつこいクソ餓鬼だ。お前は、いやお前らはもう負けたんだ」
ヘラルトは拳銃を抜くために懐に手をいれた。
しかしエーリクがそれを許さなかった。死にかけとは思えないほどの素早さで縄ばしごを上がるとエーリクはヘラルトの腕に噛みついた。
「ぐぅぅっ! このクソ餓鬼がッ!」
振り払おうと腕を動かそうとしたが、エーリクの頭は小揺るぎもしない。
満身の力で噛みついている。
「離せ! このクソ餓鬼!」
足で蹴り落とそうと振り上げれば今度は素手で止められた。
血塗れの顔で、エーリクはヘラルトをにらむ。
「かたないといけない。かたないとおれたちはどこにもいばしょはない」
エーリクはヘラルトの腕を食いちぎると両手でヘラルトの両腕を掴み、首に食らいつく。
「へいしたちの……みらいを……」
『ヘラルト! クソッたれどうすりゃいいんだ!?』
もうすぐ首を噛みちぎられる。ここでヘラルトが落ちれば今度はアントンも殺される。
何か利用できそうなものはないか?周囲にヘラルトは目を向ける。
上を向いた時だ、煙を上げ落ちてくる戦闘機が見える。
「アントン! そのままの進路でいけ!」
アントンに聞こえているかは分からない。成功するかも分からない。しかしやるしかない。
落ちてくる戦闘機に合わせ、ヘラルトは縄ばしごを振り子のように揺らし、そして……
「ぐがぁあああああああッ!!」
エーリクが咆哮をあげる。
落ちる戦闘機にエーリクをぶつけて、無理やり叩き落としたのだ。
「今度こそ終わりだ。エーリク・マイヤー。復讐を忘れ、安らかに眠れ」
徐々に小さくなっていく絶叫と海へと落ちていくエーリクを見届け、ヘラルトは懐から煙草を出す。
「デカい仕事だったな」
『終わったなヘラルト。それと……よくやった』
眼下では軍とヴォスの混成舞台がルベルの本部へと向かっている。空からも輸送機が次々と落下傘部隊を降ろし始めた。
「もう痛いのはごめんだ。少し休暇をとろう。南の島にバカンスに行くんだ」
『そいつはいいな。付いてくぜ』
プロペラの音も高らかに、アントンとヘラルトは陸地へと飛んでいった。




