第64話 銃と拳
「残念だ。おまえは最後には分かってくれるものと思っていたが……」
エーリクは血の付いた銃剣を散弾銃に装着、悲しそうな目で倒れていくダミアンを見ていた。
「貴様……貴様を想ってくれていた部下を殺すのか。貴様に戻ってほしいと願った部下を殺すのか」
「戻る、か……それは不可能だ。この国がこの国である以上はな」
ヘラルトを真っ直ぐに見据えながら、エーリクは散弾銃を構える。
「俺は1度の裏切りは水に流す。たとえ敵でもいずれは俺達の仲間になると思ってそうする。だが2度目はない。さて、お前はどうだ?」
「お前達は平和の邪魔だ。だから殺す」
ヘラルトの返答に、エーリクは笑顔で返す。
「最初から交渉などするつもりはなかったが、こうなれば1対1の決闘だ。散々俺達の邪魔をしてきたお前だ。お前だけは俺がこの手で殺してやる」
残った片目を細め、顎を引くエーリク。先の大戦を生き残った古強者。一国の軍隊に匹敵する組織を作り出した男……
ヘラルトに躊躇いはない、恐れもない。あるのはただ目の前の敵に向ける殺意だけだ。
「かかってこい新兵。古参の実力を教えてやる」
先に飛び出したのはヘラルトだった。短機関銃を撃ちながら、ひたすら前へ前へと突撃する。
「阿呆が」
向かい来るヘラルトに対し、エーリクは散弾銃を撃つ。一斉に放たれる9発の弾丸はヘラルトの息の根を確実に止めるはずだった。
しかしヘラルトは散弾銃を向けられた瞬間、両腕を顔の前で立て守りの動作を見せた。
「ほう……」
エーリクが目を細めながら睨む。弾丸はヘラルトに直撃、着ていた軍服は千切れて飛ぶ。
しかしヘラルトは負傷していない。
「なるほど鉄板を仕込んできたか。いい判断だ」
ヘラルトの着ている古い軍服の下には腕、腹、足に黒々とした鉄板が仕込まれていた。散弾銃を防ぐために用意した即席の鎧である。
「エーリク! 死ね!!」
エーリクは引き金を引いたまま、素早く銃の下部にあるグリップを操作、連続してヘラルトに弾を浴びせかける。
──懐に飛び込めば体格で勝る俺が有利だ。拳で決めてやる。
ヘラルトは他にも目算があった。エーリクの使う散弾銃、銃の下から弾を入れるそれは5発しか弾が入らず、普通にやれば1発ずつしか入れられず装填に時間がかかる。
つまり撃ちきらせれば、エーリクは僅かな時間ではあるがほぼ丸腰になる。
「……随分俺を舐めているな」
5発撃ちきりヘラルトが防御を解いた瞬間、エーリクは存在しないはずの6発目の弾を撃ってきた。
「ぐぅっ!!」
なんとかヘラルトは回避しようと横に飛んだが。その結果弾で左肩を負傷した。
「予備の弾を手に持っておくのは基本だ新兵」
「ご高説どうも」
ヘラルトが立ち上がると、エーリクは弾帯から弾を抜き取り、まとめて3発装填していた。
そんな姿を見てヘラルトは考えの甘さを悟る。
──なるほど前線で得たのは予知能力だけじゃないか。
エーリクの装填速度は熟練した銃手のそれをはるかに上回る。凄まじい速度で装填し、意図的に暴発させて連射する。
散弾銃の使い手としては指折りだろう。
「その程度で平和がなんだの嘯くとはな」
「うるさいやつだなお前は」
「そもそも平和など守る必要があるのか?」
「少し黙ったらどうだ?」
言いながらヘラルトは再びエーリクに向かって突進、今度は手榴弾を投げながら突っ込んだ。
「先の大戦で政治家共は戦争を拡大した。国民もそれを黙って見ていた」
投げられた手榴弾をエーリクは散弾銃を構えたまま片手で振り払った。
「徴兵もやった。その結果大勢の若い奴らが死んでいった」
ヘラルトは両腕で銃弾を防ぎつつさらに接近していく。
「帰ってきたとき、戦争に駆り出した政治家どもは俺達を見捨てた。兵士は軍から放り出されて、戦争特需がなくなって仕事もない」
「愚痴なら聞かんぞ」
接近していくヘラルト、腕に仕込んだ鉄板も歪んで使い物にならなくなってきていた。手に持っていた短機関銃は被弾していてまともに動かない。
「放り出された兵士達は酷いもんだ。路傍でドブネズミに齧られて腐っていくやつがいた。戦争中は英雄だなんだのと言っておいて、いざ戦争が終われば誰も助けてはくれなかったぞ」
「…………」
「俺達が守ってきた国民は俺達が守るほどの価値もなかった。あんなゴミ共の為に平和だと? 豚に真珠だ。そんなものを享受する資格はゴミ共にはない」
接近したヘラルトの頭に、エーリクは散弾銃をおもいっきり振りかぶって銃床で殴り付ける。
「ヴォスも救済同盟も似たような寝言をほざいているが心底理解できん。なぜ許せる? 共に歩もうなどと吐ける?」
何度も何度も銃床で殴打し続けるエーリク、一切の容赦なく繰り出されるそれをヘラルトはなんとか掴んだ。
そして掴んだまま、血塗れの顔に満面の笑みを張り付けてこう言った。
「お前、ガキだろ?」




