第63話 空の上の子守唄
視界が明るくなった。
よろよろと燃える機体からヘラルトとダミアンは身を乗り出す。
「げっほげっほ……ひでぇもんだクソッたれ首と胴体は繋がってるか?」
「ああ問題ない。行くぞダミアン。ワルフィスを撃墜して、エーリクを殺すんだ」
「イセニア大尉殿はどうした?」
周囲を見渡すヘラルト。しかしヘラルトの視界にはあの赤い複葉機の前部は見えない。地上で見えたエーリクの姿も。
「……行くぞ」
「ああ……」
短く空に向かって敬礼をするとヘラルトとダミアンは銃座の近くにあるハッチから内部へと侵入した。
「侵入者だ! 撃て撃て!」
「馬鹿やろう! 撃ったら気嚢が吹っ飛ぶぞ!!」
「ワルフィスが簡単に沈むかボケ!!」
敵のわめき声など異にも介さず、木造の不安定な足場を抜け、向かい来る敵に銃弾を浴びせながらヘラルト達は進む。
「賞金稼ぎ風情に俺達の野望を壊されてたまるか! 一斉にかかれ! 仕留めれば勲章ものだ!」
短機関銃や拳銃を手に、ヘラルト達へと向かってくる敵。
ここが最後の砦と弁えているのだろう。彼等は必死に抵抗してきた。
「ヘラルト、人狩りが居ないぞ」
「地上に割かれてるのかもしれん。だが油断するなよ」
ヘラルトとダミアンは銃弾をありったけ撃ち込み、手榴弾を投げ、ダイナマイトを炸裂させる。
眼に付いた構造物は気嚢だろうが足場だろうが全てが攻撃目標。
木造の足場は防火用の塗料で覆われていて火こそつかないが、それでも破損はしていく。
『ヘラルト。ワルフィスは気嚢を25個備えている。半数以上破壊すればワルフィスは高度を保てん。できる限り気嚢を破壊しろ』
「了解だ」
『脱出方法だが、乗員用のパラシュートがあるはずだ。それを使え。死ぬなよ?』
「死なないさ。おまえはいつも通り、レモネードでも飲んで待ってろ」
『……地上で待ってるぞ』
通信は途切れた。ヘラルトはダイナマイトを手にダミアンを見る。
「おいダミアン。今いくつ気嚢をやった?」
手当たり次第に銃を乱射するダミアンに大声で聞くが、帰ってきた答えは……
「知るかそんなもん!! いちいち数えちゃいねぇよ! あるだけ全部吹っ飛ばせ!」
こめかみに血管を浮かせながら、ダミアンはそう答えた。
「頼もしい限りだ」
ヘラルトもまた、気嚢の破壊に勤めた。
ダイナマイトに火をつけ、気嚢へと投げ込む。
ダミアンから僅かに視線を逸らした。その時だ。
「あっ...…」
間抜けな声がヘラルトの背後で聞こえ、ヘラルトは再びダミアンの方へと振り向く。
何のことはない、ただダミアンが突っ立っているだけだ。
胸から銃剣の先を生やして。
「は?」
ダミアンの背後に人影がある。白い長髪に眼帯をした男。エーリク・マイヤーの姿がある。
「エーリク・マイヤー!」
ヘラルトはエーリクへと銃を向けるが撃てない。ダミアンがまだ生きているのだから。
「ワルフィスに乗り込んでくるとは流石に予想していなかったぞ。対空砲火を掻い潜りよくぞここまでたどり着いたな」
銃剣を引き抜きダミアンが倒れていくのを見ながら、エーリクは散弾銃を構える。
「ここまで派手にやられれば墜落まで間もない。構えろヘラルト・ファン・デン・ベルク。ルベル頭領、エーリク・マイヤーが相手になる」




