第62話 空へ
本部の攻略に掛かったヘラルトの前に、巨大な影が姿を現した。
下部に巨大な砲を搭載した飛行船ワルフィスである。
それと同時に、アントンからの通信が入る。
『ヘラルト! 奴は……エーリク・マイヤーは本部に居ない!』
「どういうことだ?」
『そいつの上だ。ワルフィスの上に乗ってる!』
言われヘラルトはワルフィスの上に目を向けた。
機関銃手が各所に配置されていて、ゴンドラにも人影は無数に存在するが……
「居た。背中に乗っている。アントン、あれを叩き落す兵器を今すぐ持ってこい」
『出来るか! あれには特殊な装甲が積まれてる。普通の対空兵器じゃ無理だ』
「ならどうするんだ?」
暫くの沈黙の後、アントンは口を開いた。
『乗り込む。それしかない。だがそこに行くまでの足がない……俺のメーウゥじゃ遅すぎる』
ワルフィスはぐんぐんと高度を上げ、砲で上陸した軍やヴォスに向かって攻撃している。このままでは敗北は必至だろう。このまま指を咥えてみているしかないのか。
そう考えていた時だった。ヘッドホンから、アントンとは別の人物の声が入った。
『話は聞かせてもらった。私が君を空まで送ろうじゃないか』
声の主はバーレントであった。そしてその声とほぼ同時、ヘラルトの後ろから声が聞こえた。
「おいヘラルト! なんとかしないとまずいぞ! あのクソ忌々しいクジラを叩き落さねぇと!」
空爆と本人の力で乗り切ったのだろう。ダミアンが追い付いてきてそう吠えた。
「……イセニア大尉、2人いけるか?」
『詰めればなんとかなるかもしれない。さて、君はそこから離れた方がいいぞ』
「何だって?」
プロペラ音が急に近くに聞こえてくるようになった。思わずヘラルトはそちらへと視線を向けると……
「うぉっ!?」
ヘラルトを轢くような軌道で降りて来る戦闘機の姿があった。
「やぁヘラルト君。それとダミアン君だったか? 早く乗りたまえ」
「その前に轢かれかけたことへの謝罪を要求したいがな。ダミアン乗れ! 後部だ!」
「あいよ」
赤い機体の後部に取り付けられていた座席、蓋を蹴り飛ばして2人は中に飛び込んでいく。
「……少しは気をつかってくれないかな?」
空へと舞い上がったバーレントの機体だったが、上空は激しい空中戦が勃発している。
「右だ右! 避けろ避けろって!! 目ェついてるのかこのアホンダラ!!」
ぎゅうぎゅう詰めの後部座席でダミアンは喚き散らす。
「ダミアン五月蠅いぞ」
「今は一刻を争う。敵は無視して飛ぶよ」
涼しい顔のヘラルトとバーレントに対し、ダミアンはやや恐怖していた。
この反応こそが一般的な反応だろう。なぜなら今現在、メラント島の上空はムステル空軍とルベル側の航空部隊が混ざりあらゆる方向から銃弾やロケット弾が飛んでくる地獄の領域と化していたのだ。
「畜生蚊柱みたいにわらわらと! 虫けら共が!!」
「だから五月蠅いぞダミアン」
ヘラルトやダミアンのすぐ目の前を銃弾が通り過ぎたことすらあった。
「おいイセニア大尉! 被弾してるぞ!」
「流石にこれだけの空中戦ともなると流れ弾も当たるようになるさ」
バーレントの機体にも徐々に被弾した跡が目立つようになってきた。尾翼に、主翼に、そして尾部にも被弾していく。人間だけが無事な状態になりつつある。
しかし飛ぶ、ひたすらに高度を上げ続ける。ボロボロになった翼で巨大な飛行船ワルフィスへと向かっていく。
「エンジンに被弾! このままじゃ落ちるぞ!」
「まだだ。まだ落ちない。私の翼は脆くはない」
黒煙をまき散らし、プロペラが時折動きを止め、満身創痍のボロボロになりながらもついにワルフィスの背中の高さに至った。
だがワルフィスは武装している。下部の砲だけではなく銃座も存在する。
「機関銃だ!」
「うぉおおおおおッ!!」
ワルフィスの尾部にある銃座から機関銃の弾が吐き出され、ヘラルト達の乗る機体に次々と被弾。
赤い機体は無残に2つに折れ、ワルフィスの背中へと墜落していく。
「私は役目を果たしたぞ。次は君たちの番だ。幸運を祈る」
親指を立てるバーレントを見た直後。ヘラルト達は激しい衝撃を受け、視界が黒く染まった。




