第6話 始まりの時
翌日、起きたヘラルトはアントンの店にいた。
「昨日の話だがどうだった?」
地下室に入ったヘラルトはランタンで煙草に火をつけながら聞いた。
「話はした。だが遅かったよ」
「なに?」
聞き返そうとしたヘラルトに、アントンは珈琲を飲みながら新聞を投げて寄越した。
見出しに書かれていた内容を見て、ヘラルトはため息をつく。
『マフィア、ルベル。国家維持局を襲撃』
見出しにはそう書かれていた。下の写真には吹き飛ばされた建物を調べる警官の姿が写っていた。
「やられたのはおまえの電話の前だ。で、仕事だがやる日が早まった。明後日だ」
「早すぎないか?」
「もうなりふり構ってられんのだろうな。当日までに集められるだけの戦力をかき集めて襲撃するらしい。それで勝てるなら苦労はしないがな」
やれやれと、アントンは肩を竦ませながら煙草に火をつけた。
「さて、当日の作戦を今伝えとこう」
「ああ」
そういってアントンは地図を広げた。
「まずはこの巨砲『モーレン』までの道を切り開く。モーレンにたどり着く為には、二重の防御陣地を突破しなければならん」
アントンはそこで写真を何枚か地図に並べた。写っているのはいずれも防御陣地の写真、重機関銃や野戦砲、堡塁で固められている。
「まず国家維持局の連中が準備砲撃をぶちかましここを平らにする。その後国家維持局の実行部隊とお前を投入し制圧、そのまま直進」
「簡単に言ってくれるな」
「全くだ。その後、更に後方にある対空砲陣地を破壊、ムステル空軍を投入し爆撃、一挙に砲まで接近、破壊する」
アントンは太い指で砲のある位置をとんとんと叩く。しかし問題点があった。
「連中がモーレンを……砲をぶっぱなしてくる可能性は?」
「あるに決まってるだろう? そもそもこの防御陣地は砲の射程圏内だ。下手すれば全員挽き肉にされる。どれだけ連中が甘ちゃんでもこの防御陣地が突破されたあとは確実に撃ってくるだろうな。いや、決行する時間が分かってるなら準備砲撃の準備中にぶち込んでくるかもしれん。というかそっちの方が可能性として高いな」
ヘラルトは眉間に皺を寄せてアントンの口から煙草を奪った。
気晴らしで吸わないとやっていられない。
「お前の役目は局員と一緒に突撃することだ。多分、いや間違いなく目障りな賞金稼ぎをついでに始末しようとしてるんだろうよ」
「買い被ってくれるな」
「ああ、俺もその買いかぶってる人間の1人だ。さぁグラスを持て。前祝に一杯飲んどこう」
ヘラルトとアントンはグラスに並々注がれたジュネヴァを飲み干した。
これから2日後、ヘラルトは地獄の巨砲攻略に参加するのだ。
そして、作戦決行日午前1時。平原は冷たい夜風に吹かれ、まばらに生えた草が揺れていた。
「少ないな。これっぱかしで突破できるのか?」
「できなきゃ死ぬだけだ。だがまぁ……確かにこれは酷いな」
ヘラルトとアントンはムステルの東にある平原にいた。ヘッドホンを肩にかけ、古い軍服を着込み、短機関銃に小銃、ダイナマイトや手榴弾で完全武装したヘラルト。
彼等の周囲には大勢の兵士が居た。装備は人によってまちまちではあるが。問題はそこではなく、兵士の数だった。
「見たところ突っ込む兵士は500人ぽっちしか居ないぞ。防御陣地を1つ破るので精一杯じゃないのか?」
「かもしれんな。今回の仕事は成功しなくても半額は貰える。気楽にやれ。じゃあな。俺は遠くでお前のお手並みを見てる」
そう言ってアントンは去っていった。いつも通り、アントンは遠距離からヘラルトに指示を出すのだろう。
自軍の戦力は後方に展開中の兵力も含めて約2000、ヘラルトが含まれているのは第1陣である。
最も死亡率が高いのが、この第1陣だ。
「気楽に……か」
煙草に火をつけるのとほぼ同時。野戦砲の轟音が鳴り響いた。




