第57話 海の上の戦車
時間は少し前に遡る。
「裏切者というのは確実に1人は殺せるものだ」
メラント島にあるルベルの本部で頭領エーリク・マイヤーは部下を前に語っていた。
「なんの警戒もしていない人間は脆弱だ。さて、あとは裏切った時どう動くかだ。銃や刃物じゃせいぜい数人が限界だ。だがもし持っている武器が毒ガスならどうか? 爆弾ならどうか? それが国を代表する兵器ならどうだ? たった1人でも大勢の人間を殺すことができるんじゃないか?」
エーリクの前に報告の兵士が現れた。
「戦艦エムレ、予定通り動きました。北部の戦力も行動を開始しています」
「よろしい。実によろしい。こちらも動くとしよう」
「それともう一つ。赤百合の撃墜と随伴していた輸送艇一機の撃墜に失敗しました」
嬉しそうだったエーリクの表情が曇った。
「赤百合は反転し撤退、輸送艇は恐らく島の西部に着陸したかと。現在捜索中です」
「こんなところに単騎で突っ込んでくるような奴は相当な馬鹿か腕利きだろう。そしてそんなことをしてくるような奴を俺は1人しか知らない」
エーリクは散弾銃を手に立ち上がる。
「ヘラルト。賞金稼ぎのヘラルトだ。気をつけろ。悪運と頑丈さは俺達を上回るぞ」
「……車長、どうやら僕の勘は当たったらしい」
海上の輸送船の上、シームは一点を見ながらそう言った。
「みたいだな」
マンネスは懐から出した煙草に火を付ける。
「どうする車長?」
マンネス達の視線の先には巨大な戦艦、エムレが速度を落とし恐ろしい駆動音と共に砲塔を動かし始めていた。
そして砲が狙う先には、味方の駆逐艦や輸送艦の姿がある。
『貴艦は何故──』
駆逐艦が信号灯を上げようとした瞬間。
突如として戦艦エムレはその砲声も高らかに、味方を攻撃し始めた。
「撃った!!」
凄まじい轟音と共にエムレは次々と砲を味方に叩き込み、あっという間に4隻を撃沈してしまった。
そしてエムレは次なる獲物を求めその巨大な砲を動かし始める。
「やれやれ。軍が普通に動いてたから本当に裏切者が居ないんじゃないかと思ってたが、よりにもよってここで裏切るとはな。まぁ俺でもそうするが」
「楽観視してる場合かい? このままだと僕達も危ないよ」
「その通りだ。だからこうしよう」
マンネスは甲板に設置された伝声管にすたすたと歩いていくと、大声で叫んだ。
「聞こえているか艦長! この船をあのエムレに向かって突っ込ませろ!! 全速力でだ!」
『貴様正気か!?』
「大真面目だ! エムレが他のやつらに気を取られている隙に突撃、その後俺達が戦車で乗り込んで派手に暴れてやる!」
伝声管から聞こえてくる艦長の声は動揺が隠しきれず震えていた。
『ふざけるな! 主砲の他に副砲だってあるんだぞ!? 一方的に撃ち込まれて死ぬ!』
「どのみちあの戦艦に狙われたらこんなボロ船じゃ逃げ切れん! さっさと舵をきれ! それとも運転講習受け忘れたか!?」
しばしの沈黙が流れる。
『……いいだろう。陸軍風情がどこまでやれるか見せてみろ』
「感謝するぞ。海兵風情にしてはなかなかの肝っ玉だ」
伝声管から『死ね』とだけ返されたあと、輸送艦は方向を戦艦エムレに向け始めた。
『これより我が艦は戦艦エムレに向け突撃する! 全員生きて帰ることはできないと思え! 責任は甲板にいる陸軍野郎にある!』
伝声管から勇ましい声と共に舵をきるギギギという音が聞こえる。
「お前らレウに乗り込め、海軍野郎が俺達を送ってくれる! 楽しい楽しい突撃だ! いつものように俺のケツについてこい!」
声を張り上げながら、マンネスは戦車の後ろに回ってエンジンをかけ始めた。クランクを回し、エンジンは猛々しい駆動音を響かせながら起動する。
「退屈しないね。車長と一緒にいると」
「楽しいだろう? うっかり心臓落とさないように気をつけろ。よし、出撃だ!!」
「まだ接触してないよ」




