第53話 本陣へと
巨大兵器の1つ、クラーケンはヘラルト達によって撃破された後、軍によって曳航、回収されている。
作戦自体は成功したといえる。
しかし犠牲は凄まじいものだった。ムステル共和国中央部に向かった軍はルベルと戦闘し派遣された兵士の実に4割に及ぶ兵力を失った。北部も3割が死亡あるいは負傷している。加えて未だ半分はルベルによって占領されたままだ。
この戦いを終わらせるには、ルベルの本拠地であるメラント島、そこを叩く必要があった。
「前祝いに飲もうや。カスみたいな酒だけどよ」
床にそのまま座ったヘラルトに酒を持ってきたダミアンだが、その表情は珍しく暗い。
「……まずい」
「外はどうなってる?」
瓶から器に注ぐことなく呷るダミアンに、ヘラルトは外の様子を聞いた。
「逃げ遅れた少数の奴らが抵抗してきた。だがまぁ相手が悪いわな。マンネスがレウで突っ込んでいって潜伏してた建物もろとも吹き飛ばしたよ。街は……そうだな、ひどい有り様だ」
ダミアンが伏せ目がちになりながらこんな顔をして言うのだ。相当にひどいのだろう。
「そういやアントンはどうした? 姿が見えんが」
「次の作戦を立ててるよ。恐らくだが俺はメラント島に単騎で潜入することになる」
「敵の本拠地に1人か。相変わらず無茶苦茶だな」
笑いながらヘラルトに酒瓶を手渡した。
「それで、お前はどうする?」
「あん? 決まってるだろ。メラント島に勇ましく乗り込んでいってエーリクにきついおしおきをくれてやるのさ。ハイヒールで踏みつけてケツを鞭で打てばいい」
相変わらずだ下品だなと言いつつ、ヘラルトも酒瓶を呷る。水で薄められたワイン、家で飲むようないつもの酒だ。
「ダミアン。お前はルベルの仲間なんだろ?」
「今はヴォスの仲間だ。ルベルじゃない」
「言葉を変えよう。お前は人狩り隊の一員だったんだろ?」
ダミアンから表情が消えた。
「アントンから聞いたか。そうだ。俺は人狩り隊の末席にいた。一番弱かったがな」
ポツリポツリとダミアンは話し始めた。
「今の今まで諜報活動をしてたってわけか」
「勘違いするなよ? 諜報活動してたのは国家維持局にいた頃だけだ。そのあと一時的にルベルに戻ったが……相変わらずのクソさ加減でな」
ヘラルトから酒瓶をぶんどると、口をつけてラッパ飲みし始めた。
「ルベル結成から暫くの間は、エーリクのおつむもまともだった。だが暫くしたらアイツは女子供でも容赦なく殺し始めた。俺はアイツとは反りが合わなくてな。何度も何度も変わってくれと頼んだ」
飲み干した酒瓶を後ろに投げ捨てた。硬質の床に当たったそれは砕け散り、ワインの残りが床を濡らす。
「気がついたときにはやかましく反抗する俺は他所に出されて、本隊には帰れなかった。シェフィールに行ったときにようやく戻れたが、何言ってもアイツら聞きゃしねぇんだ。『国を俺たちのものにする』だの『今まで受けてきた屈辱を晴らす』だのエーリク以外も復讐しか頭にない。後ろしか見えてねぇんだ」
うつむくダミアンに、ヘラルトは何も言わない。
「だから裏切って、ヴォスについた。せめて最悪な展開にならないように俺が持ってる情報は全部マンネスにぶちまけた。だが結果は……このザマだ」
「……お前はヴォスについて、何がしたかった?」
「アイツらを止める。それだけだ。欲を言うなら真っ当な道を歩めるようにしてほしいがな……さて、この話を聞いてお前はどうする? 俺を殺すか?」
ヘラルトは腰の拳銃を抜き、床に置いた。
「エーリクを殺す。ヤツを生かしておけば平和が脅かされる。そして、その邪魔をするならダミアン。俺はお前も殺すからな」
ヘラルトはまっすぐにダミアンを見据え、そう言った。ダミアンもこれに対しふざけた態度などとらなかった。
「それでいい。次の作戦で俺がどこに配置されるのか知らんが、一緒になったらまぁ……よろしくやろうや」
そう言った直後、ヘラルト達のもとにアントンがやってきた。
「ヘラルト、仕事だ」




