第49話 バカの力
ムステル共和国が最も量産した戦車、レウは装甲こそ薄いもののかなりの速度が出る。
具体的に言うと55kmである。しかもそれを維持したまま走れる。
だがそんな速度で舗装もされていない道を走れば……
「あばばばばっばばばばばばばばばば」
「うんんんんぐふいえんんんん」
ヘラルトとダミアン、両名は戦車の外で揺れに耐えていた。
「あばばばばば行き掛けの駄賃だ受けとれクソ野郎共!」
「ままままて。弾は目標につくまで温存しておけ」
通りすがりに短機関銃を乱射しようとしたダミアンを制止し、ヘラルトは前を向く。
潮の匂いが濃くなってきた。
「そろそろ出るぞ! 装填手! ダミアン! 楽しい走り込みの時間だ! 勲章がもらえるくらい走れ!」
車内からマンネスが叫んだ、次の瞬間。
「ぐぅおおおおおおお!?」
「チッ……」
道路脇にあった建物が突如として爆発、爆風と一緒に瓦礫が降ってきた。
「あのクソ野郎共! 爆弾まで仕掛けてやがったのか!」
「いや違う。あれは──クラーケンからの砲撃だ」
「なに?」
言っている間に次は戦車の目の前が轟音と共に爆発した。ヘラルト達の頭上に大量の瓦礫が降り注いでくる。
間近でダイナマイトが爆発したとしてもこうはなるまい。爆風で吹き飛ばされた土砂はそれら一つ一つがまるで弾丸のようにダミアンとヘラルトを襲った。
ヘラルトは腹や腕に石が当たり骨を折り、ダミアンは左腕に尖った石が突き刺さった。
「クソったれめ! 潜水艦なんだから大人しく潜って魚雷でも撃ってろ!!」
「どっかの馬鹿が潜水艦に戦艦の主砲まで搭載したのが運の尽きだ。おいマンネス、早く先に行け」
天板をガンガンと叩きながらそう言うと、中からわめき声が聞こえてきた。
「履帯がやられた! ここから先は歩きだぞ!」
「ふざけんなちゃんと送れこの出来損ないの運送屋!」
見れば左側の履帯が砲撃の影響で破損していた。このままでは走れない。
「ダミアン! 敵だ!」
「ああ畜生……」
戦車が動けなくなったのを見計らい、隠れ潜んでいた敵が姿を見せ始めた。
「ダミアン、早く撃て」
「うるせぇ! 上から物抜かしてんじゃねぇクソ野郎!」
痛みに顔をしかめながら、ダミアンは敵に向けて短機関銃を撃ち始めた。
「装填手! 転輪は無事だ! なんとかして片側の履帯を外せ! そうすればまた走れる!」
「外せったってどうすりゃいいんだ! のんびりクソでもしながらやりゃいいのか!?」
「援護しろダミアン。俺がやる」
言うが早いか、ヘラルトは戦車の上から飛び降りて、まだ無事な履帯に手をかけ始めた。
「素手でやれるわけないだろ馬鹿か!?」
言いながらダミアンは短機関銃を迫りくる敵に向かって撃ち続けた。
ヘラルトも考えなしに飛び降りたわけではない、目をつけたのは先ほどの砲撃でピンが一本外れかけている部位だ。とはいってもたかがそれだけの損傷では素手で履帯を外すことなど出来るはずもない。
「うおおあああああああああああああああ!!」
獣じみた方向を上げながら、ヘラルトは履帯の下に入り両の足に力を込めて履帯を上に持ち上げ始めた。
それを見た敵は嘲笑った、その程度で戦車の履帯が外れるものかと。せいぜい無駄な骨折りを見せてくれ。と……
「おいヘラルト! いい加減諦めて機関銃……を?」
短機関銃を撃ちながら、ダミアンがヘラルトの方に目をやると、思わず呆けたような顔になった。
浮いているのだ、履帯が、ヘラルトの力によって。
「は、ははは。馬鹿は馬鹿でも馬鹿力ってか。おいマンネス! ヘラルトの馬鹿が本当にやりやがったぞ!」
ヘラルトは力でもって履帯を破壊し道端に投げた。
「よしいけるな! さっさと乗れ装填手! 行くぞ!」
慌てた敵がロケット弾を持ち出した頃には既に遅かった。戦車は既に全速力で走り去って行ってしまったのだ。




