第48話 出撃
作戦内容は以下の通りだった。
「今回は二方面作戦を展開する」
マンネスは煙草の吸殻や酒瓶、パンの欠片などが散乱する机を蹴り上げゴミをどけると地図を広げた。そこにはムステル共和国全土が記載され、いくつか記号などが描かれていた。
「まず現状、ルベルはムステル中部を制圧しきれていない。奴等はここを今も落とそうと躍起になっている。救済同盟、そして軍は共同でここを叩いてもらう」
「そしてヴォスは北部の奴等を攻撃、混乱に乗じて俺の戦車でホルウェ港に侵入、ヘラルトとダミアンはクラーケンを破壊しろ」
簡単に言うが、アーメルスは今や敵の根城である。いくら大量の兵士がついていたとしても危険地帯であることに間違いはない。加えて報酬も無い。
だが、ヘラルトに断るなどという選択肢はない。
「請け負った。その仕事、きっちりこなしてやろう。……もう戦場なんて見たくも無いからな」
「決まりだな。ならさっさと準備しろ装填手! すぐに出撃だ!」
翌日の夜、ヘラルトはマンネスの戦車の上に座り揺れに耐えながら、目的地であるホルウェ港まで向かっていた。新しい煙草に火をつけつつ、戦車の行く先を真っすぐに見つめている。
ヘラルトの乗っている戦車を先頭に、後ろからはヴォスの構成員の駆る戦車が大量に付いてきていた。
「ヘラルト、飯だ。今のうちに食っとけ」
ハッチを開けたダミアンがなにやら紙で包んだ物を寄越したあと車内に戻っていった。手元に残ったのは油まみれのアントンが作ったサンドイッチだ。硬いパンとオレンジ色の溶けて固まったチーズ、炒めた牛肉と玉葱が挟んである。
冷えていて味も糞も無いが。
『ようヘラルト。飯は食ったか?』
「ああ、美味い飯だったよ」
ヘラルトは包み紙を放り投げるとヘッドホンから聞こえてくるアントンの声に返答した。
『……しかしアレだな。ヘラルト』
「なんだよ」
『ちょっと、な……俺達は稼いでるから食えてるが、当然食えない奴だっている。そのサンドイッチの切れ端すら食えない奴がな』
「……」
アントンの哀愁を感じるような声に、ヘラルトは黙った。
『ルベルは少なくとも雇用を生んだ。食えない奴を助けた。軍から追い出された奴等を拾って、尊厳を守った。勿論やり方はカスだがな。だがだからと言って奴等だけを消して、それで話が丸く収まるのかとも思うんだ』
「お前が求める答えが何なのか、それは知らん」
『ほう?』
「俺はただ、目の前に俺の目標を邪魔する奴がいたら、全部ぶっ殺すだけだ」
ヘッドホンの向こうで、アントンが声を上げて笑っていた。恐らく向こうではアントンが大きい腹を抱えて目に涙さえ浮かべて笑っているに違いない。
『はっはっは……あー、お前らしい。後先なんぞ知ったことじゃないってことか。分かったよ。これまで通り俺はお前を後ろから支援してやる。稼がせてくれよ、相棒』
「……ああ」
そうこうしているうちに目的地までたどり着いた。
目の前には荒れ果てたアーメルスの街と、遠くには海が見える。
「装填手! 着いたらアントンから受け取った金のかかったおもちゃを忘れるな! ダミアンも外に出ろ! 楽しすぎて手を放すなよ!」
車内からマンネスが叫んだ。そしてそれと同時にヘラルトの乗る先頭の戦車は車列を外れ違う方向へと走り出した。




