第47話 足掛かりの一手
要塞の奪還は成功した。しかし、それはあくまでルベルによって奪われた拠点の1つを奪い返したにすぎなかった。
軍とヴォス、救済同盟は依然として苦境に立たされていることに違いはない。軍からは正式にルベルに対し宣戦布告が成された。
『我々は国家を脅かす存在と化したルベルを討伐する! 一人たりとも逃さない! 数多の血が流れることになるだろう。しかしそれは我々の未来のために必要な犠牲で──』
ラジオからは連日このような言葉が流れていた。
ムステル共和国軍は陸、海、空から兵器の生産工場、基地、果ては食料生産するための畑、ムステルに存在するありとあらゆるルベルの拠点を破壊することを決定した。
しかし、これを達成するためには少なくない犠牲を払うことになる。ルベルの戦力は軍に匹敵する規模であるからだ。
ヘラルト達はアーメルスの家を捨てヴォスの拠点に身を寄せていた。そんなヘラルトの元へ、軍からの依頼が舞い込んでくる。
「今回の仕事は……デカすぎる仕事だ。正直死ぬかもしれん」
「その時は墓にジュネヴァとチューリップを備えてくれ。赤いのがいいな」
「無駄口叩いてないで説明を聞け」
アントンは地図を広げながら語る。
「今回の仕事はルベル殲滅の下準備だ。某日、軍は北部にあるルベルの拠点を一斉に叩く、俺達はその1つ、ホルウェ港を襲撃する」
アントンは地図とは別に写真も出した。そこに写っていたのは巨大な潜水艦。
「ムステルの巨大兵器の1つ、潜水艦クラーケンだ。全長200m、両弦に28の魚雷、潜水艦の癖に上部に30cm2連装砲を備えた化け物だ。こいつを破壊する」
「モーレンの後はこの化物か」
「ぼやくな。こいつを破壊しない限り、ルベルの最大拠点である島、メラント島に船で近づくことはできん。奴らを殲滅するためには、こいつの攻略が不可欠だ」
写真にはこれ以外にも多数の軍船が存在している。駆逐艦、軽巡洋艦、機関砲を備えた小型挺、果ては水上機まで。
「こいつを攻略するにあたって、まず怖いのが空だ。ホルウェ港の近くにはルベルに奪取された飛行場が存在する」
「そっちも俺がやるのか?」
「いや、こっちにはムステル空軍きってのエースパイロット、先日もご活躍の『赤百合』のイセニア大尉が出撃なされる」
そう言ってアントンは懐から額に入れたプロマイドを取り出した。直筆サイン付きの。
「……」
「イセニア大尉ならこのルベルの航空戦力もどうにかできるだろう。俺達はホルウェの……おい聞いてるか?」
わざわざプロマイドを出してきたアントンに呆れていると、アントンは顔を覗き込んできた。
「おーい、聞こえてるかー?」
「……ファンなのか? イセニア大尉の」
「せがまれてもこいつはやらんぞ。話を戻そう、作戦は──」
「俺と装填手、そして新入りのダミアン、そしてこいつらでやる。先日エーリクに土をつけられたそうだな。それの意趣返しができるぞ装填手」
部屋の中に無遠慮に入ってくる大男が居た。ヴォスの頭領、いや車長のマンネスである。2人の男を引き連れてきていた。
片方は飛行服を着た髭面の男。そしてもう片方はいつぞやの調印式で見たことのある初老の男、こちらは恐らく救済同盟の人間だろう。
「紹介しよう。飛行服のがバーレント・イセニア、そしてこっちの男が新たに救済同盟の頭領となったモーゼス・ボスマンだ」
「赤百合のイセニアか。お噂はかねがね」
「後でサインを頂けますか?」
ヘラルトは右手を出してイセニアと握手し、アントンはサインをせがんでいる。
握手するヘラルトときゃっきゃしているアントンによって救済同盟の頭領モーゼスはしばし捨て置かれた。
「すまんな。流石にバーレントは名が売れすぎてた。こんな反応にもなるのを予想しておけばよかった」
「気にしていません。マンネス殿」
モーゼスは少し震えながら下唇を噛んでいた。
「さて作戦会議の続きと行こうか。アントン。この場は俺が仕切らせてもらうぞ」
マンネスの一言で、その場に居た全員が席に着いた。




