第46話 赤百合
飛来した敵爆撃機に対する対抗策を、ヘラルト達は持っていなかった。
「畜生め。卑怯だぞテメェ等! 降りてきやがれ!」
「それで降りてくるなら世話無いがな」
ヘラルト達は要塞の壁にぴたりと張り付いて爆弾から身を守っていた。
ダミアンは空に向かって叫ぶが、当然爆撃機は降りてくる様子はない。
しかし、降りてくる存在は爆撃機以外に存在する。
「そらダミアン。お待ちかねのおまけ達が来たぞ。相手してやれ」
「ふざけんな帰れ馬鹿野郎!」
爆撃機だけで爆撃に来ることは稀だ。先の大戦の初期であったならそれもあったが、現在では必ずと言っていいほどおまけの何かが付いてくる。
今回はそれが攻撃機と戦闘機だった。
「ぶんぶんうるせぇハエ共め! 俺の頭の上を飛ぶんじゃねぇよカス!」
「もうちょっとお上品な言葉を使え」
ヘラルトは言いながら重機関銃をダミアンの肩に乗せ、対地攻撃を始める戦闘機や攻撃機に対して射撃を開始した。
「ヘラルト! このクソ忌々しい機関銃を降ろせ!」
「少しは頭が冷えたか?」
耳元でがなりたてる機関銃をはね除け、ダミアンはキレた。
「ヘラルトどうする? 対空装備もなしにメーウゥ型戦闘機を落とすのは無理だ」
空を舞う無数の攻撃機は地上の軍人達に爆弾やロケット弾をたたきこんでいく。アダラも標的にされいくつか爆弾が直撃した。
対空砲はなく、ヘラルトの重機関銃は当たっても有効打に欠ける。
後ろからはモステルド、毒ガスが迫ってきている絶望的な状況だった。ヘラルトは周囲を見渡し、使えるものが無いか探したが……
「おいヘラルト。どうする?」
「雨に濡れたくないなら走るよな?」
「……おい」
「突っ走れ」
言いながらヘラルトは爆弾と敵の砲火がまるで雨のように降ってくる場所を全力疾走。逃げる味方の最後尾に追いついたかと思うと、先を走っていた味方は銃弾に倒れた。それを避けて走ればすぐ脇を銃弾が通り抜け、砲弾がヘラルトの足を掬う。
「おいどうした賞金稼ぎさんよ! このままくたばるか?」
後ろをついてきていたダミアンが茶々を入れるが、そう言ったダミアンも肩に弾を食らっている。
「おいアントン。一体いつになったら援軍が来るんだ?」
ヘラルトの問いに、アントンは答えた。
『来たぞ。来てくれたぞ。空を見ろ、最強の援軍だ!』
興奮したようなアントンの声に、ヘラルトとダミアンは走りながら空を見る。
『ご紹介いたします。彼はムステル空軍が誇る最強の撃墜王。『赤百合』の異名をとる素敵な戦場の王。バーレント・イセニア大尉殿です』
ヘッドホンから聞こえてくるアントンの声はまるで劇でも演じているかのよう。仰々しい言い方をしている。
空には南の方角から無数の爆撃機とそれに先んじて向かってくる1機の赤い複葉機が見えてきた。
「バーレント・イセニア……先の大戦の英雄殿か」
「見ろよ。ルベルの連中慌て始めたぞ」
それまで地上に向いていた機関銃はそのほとんどが向かってくる赤い複葉機へと向けられていた。敵の爆撃機と攻撃機は慌てて反転し、殿を務める戦闘機たちは遮二無二突っ込んでいく。
赤い複葉機の翼に描かれた白い百合、それがちらりと見えた直後、赤い複葉機の機関銃が火を噴いた。
「早速1機か」
「おいヘラルト、まだ要塞の連中は撃ってきてるんだから逃げるぞ」
「ああ……」
再び走り出したヘラルトとダミアン。後ろ目で見れば赤い複葉機は次々と戦闘機を叩き落し、反転し逃げようとした機体さえ追いかけ機関銃の弾を浴びせていく。
空戦は一方的な展開を迎えた。
あっという間だった。機関銃の音が響くたびに敵の戦闘機は翼が折れ、エンジンから黒煙を吐く。落とされる前に落下傘で逃げた敵もいた。
「美味しいところ全部持って行かれたな」
「ああ」
「だが、俺達の負けだな。この損害は予想以上だ」
要塞の奪還作戦に投入された戦力はこの時約2割を喪失していた。大損害である。
だが、ルベルへの反撃はまだ始まったばかり。犠牲はこれからも大勢出るだろう。




